軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

801 クマさん、エレローラさんと話をする

「気持ちいい」

わたしとシアは大きな湯船に浸かっている。

汗はかいていないけど、動いたあとのお風呂は気持ちいい。

そして湯加減もちょうどいい。

「あらためて手合わせすると、ユナさんの強さが分かります」

シアは自分の腕を、揉みほぐしながら言う。

剣を何度も振った。筋肉痛にならないためにもケアは大切だ。

わたしはクマ服のおかげで大丈夫だけど、もしクマ服がなかったら、明日は筋肉痛で動けなくなっていると思う。

「初めて会ったときのシアが懐かしいね」

「あのときのことは忘れてください」

シアは初めて会ったときのことを思いだしたのか、恥ずかしそうにする。

「あれは妹のノアのために怒ったことだから、恥ずかしがることはないよ」

クマの格好をしたわたしが護衛だと知り、シアは怒り、わたしと手合わせをすることになった。

大切な妹の護衛がクマの格好していたんだから、仕方ない。

もっとも、手合わせすることになったのはエレローラさんが仕向けたんだけど。

「わたし、強くなっているのかな」

「さっきも言ったけど、強くなっているよ」

「それなら、嬉しいです」

それから、お風呂の中で手合わせについて話し合った。

シアは、わたしの言葉に耳を傾けて、わたしのアドバイスを聞いて、いろいろと考えていた。

ちゃんと考えることができれば、もっと強くなれると思う。

「でも、貴族令嬢が、そこまで強くなることはないんじゃない?」

「貴族だからこそ、自分の身を守るために強くなるんですよ」

「護衛がいるでしょう」

「いつも護衛が一緒とはかぎりません。実際に学園内には護衛はいません」

確かにいない。

「……それに貴族は時に、恨まれることもあります」

シアは真っ直ぐな目で口を開く。

「お父様もお母様も恨まれることはしないと思っています。それでも、知らないところで人に恨まれ、いつ襲われるか分かりません。実際にお父様はクリモニアの孤児院で失敗をしています」

「あのことは、クリフが悪かったわけじゃないでしょう」

孤児院の管理をしていた部下が孤児院のお金を横領していた。

「そのことを住民は知りません。お父様がやったと思うはずです」

わたしも思った。

孤児院の院長先生も、そう思っていた。

「孤児院の関係者が恨みを持てば、お父様やノアが危険な目にあったかもしれません」

あのまま孤児院の子供たちが食べる物に困り、友達が死に、院長先生も死ぬことになれば、子供たちはクリフを恨んでいたかもしれない。

恨む者は、何をしでかすか分からない。

「確かにそうだね」

「貴族は住民のおかげで、いい暮らしをさせてもらっています。その代わりにわたしたちは住民が暮らしやすくなるために仕事をします」

経済、人を動かすのは難しい。

村の村長、小さい町、大きい街、小さい国、大きな国。人とお金が増えれば、難しくなる。村長に国を動かすことはできない。

それなりに勉強、環境が必要になる。

「その過程で、人に恨まれることを選ばないといけないときが来るかも知れません」

全ての人が幸せになる方法を選ぶのは難しい。

大を取って小を切り捨てることもある。

そうなれば、切り捨てられた小から恨みを買うこともある。

見捨てられた方は、捨てた領主を恨むと思う。

「そのときに恨まれて、危険な目に遭うかもしれません」

「だから、練習しているの?」

「それもありますが、剣を振ったり、魔法を使ったりするのが好きってこともありますよ」

シアは微笑む。

貴族って、大変そうだ。

そう考えると、シーリンの街のバカ領主はとんでもない貴族だった。その息子もバカだった。

あのような貴族が恨まれると思う。

ミサーナのお父さんが領主になってよかった。

ノアもちゃんと勉強しているし、ノアとシアの2人は良い貴族令嬢になると思う。

クリモニアも安泰だね。

それには婿を貰わないといけないけど。

ノアとシアに釣り合う男を探すのは大変そうだ。

お風呂に入って、さっぱりしたわたしとシアはエレローラさんが帰ってくるまでのんびりする。

シアは制服から白いドレス風の私服に着替え、楽な格好をしている。

わたし? わたしは黒クマのままだよ。

シアの部屋で会話をしていると、ドアがノックされる。シアが許可を出すと、スリリナさんが入ってくる。

「奥様がお帰りになりました。ユナさんがいらっしゃっていることをお伝えしますと、応接室にお連れするようにと」

どうやら、エレローラさんが仕事から帰ってきたみたいだ。

シアは押し花が入った額縁を持つと「行きましょう」と言う。わたしとシアはエレローラさんがいる応接室に向かう。

「お母様、ユナさんを連れてきました」

「入って」

わたしとシアはドアを開け、部屋の中に入る。

「ユナちゃん、来てくれてありがとうね。座ってちょうだい」

わたしとシアはエレローラさんの前の椅子に座る。

シアはわたしたちの前にあるテーブルの上に押し花を置く。

「ううん、それは大丈夫だけど。それで、貴重な花ってなんなの? シアから、この青い花って聞いたけど」

わたしは押し花をクマパペットで指す。

「その青い花は 魔蒼花(マソウカ) と言って、魔力が込められた貴重な花らしいわ」

「魔蒼花……」

そんな名前だったんだ。

押し花って、名前じゃなくてよかった。

「それで、どんな感じに貴重なの?」

「この手のことは管轄外だから、わたしも詳しくないのよね」

エレローラさんなら、なんでも知っているかと思ったんだけど。

「わたしだって、知らないことはたくさんあるわよ」

「人の心を読まないでよ」

「顔に書いてあったわよ」

最近、本当に顔にでる。

ポーカーフェイスは得意だったはずなのに。

「まあ、専門職の人じゃないと気付かないわよ」

「学園でも学びませんからね」

「魔法省に進もうとする人。しかも植物系となると、分かる人はかなり減るわね」

花だけではない。他の植物、鉱石、木材、食べ物、魔法、経済、この世にはたくさんの専門家がいる。

その人たちがいろいろなことを勉強しているから、その分野が発展する。

今回、この魔蒼花を気付いた人も勉強していたから、気付いたんだと思う。

「それで、わたしはどうしたらいいの?」

「そうね。詳しい話をわたしが聞いてもいいんだけど。明日、魔法省でも同じことを話すことになるから、詳しい話は魔法省で聞くことにしましょう」

「ちょっと待って、魔法省で話すって」

「ユナちゃんには魔法省に行ってもらうことになっているわよ」

「聞いていないんだけど」

「今話したからね」

エレローラさんが「わたし間違っている?」と言うような表情をする。

あっているけど。

エレローラさんには今日、今、会ったから、聞かされるタイミングはない。

「前もって、手紙で知らせるとか」

「手紙を書いたときは、とりあえず、ユナちゃんに王都に来てもらって、話を聞いてから、その後の話をするつもりだったのよ。でも、先日、マーネ様に会った時、ユナちゃんを魔法省に連れて行く話になったの」

「マーネ様?」

「今回、魔蒼花に気付いた魔法省の人よ。それで、どう?」

「ちなみに、わたしに拒否権は?」

「もちろん、あるわよ。無理強いはできないからね」

てっきり無理矢理に連れて行かれると思っていたけど。

「でも、きっとマーネ様は悲しむと思うわね。研究熱心で、お年を召しているし、ショックで死んだりしても、ユナちゃんのせいじゃないわ」

エレローラさんが少しだけ、悲しそうな顔をする。

なに、その脅迫。

「そのマーネ様って人、高齢の方なの?」

「かなりお年を取っているわね」

「シア、本当?」

エレローラさんが噓を言っている可能性もあるので、シアに確認する。

「はい。マーネ様は、かなりの高齢の方ですよ」

噓ではないらしい。

「マーネ様がユナちゃんに会って、話を聞きたいそうなのよ」

まあ、そうなるよね。

どこで採ってきたのか、いろいろと聞かれるのは予想はしていた。

でも、それはエレローラさんであって、別の人とは思わなかった。

「それで、どうする? 断ることもできるけど。その場合は、わたしがある程度、話を聞くことになるけど」

「行くよ。魔法省ってところに入れるんだよね?」

実はシアから魔法省のことを聞いて、魔法省って場所は異世界っぽくて、気になっていた。

だって、魔法省だよ。

元の世界にはないよ。

久しぶりに元ゲーマー心をくすぐられた。

「ええ、特別にね」

「いいな。なかなか入れないんですよ」

シアが羨ましそうに言う。

「重要な研究もしているから、基本的に関係者以外入れないからね」

まあ、それはどこも一緒だ。

会社に他の企業の人が勝手に入ってきたら大変だし、わたしの店の「くまさんの憩いの店」の厨房に知らない人が勝手に入られても困る。

会社で仕事をしたことがないわたしだって、そのぐらい分かる。

まして、重要な魔法や魔道具を扱う場所だ。

「それじゃ、明日、行くことにしましょう」

その日の夜は王都にあるクマハウスに帰ろうとしたけど、シアとエレローラさんからノアの話を聞きたいと言われて、引き止められた。

もしかしたら、妖精のことがクリフから手紙で聞かされているかと思ったけど、尋ねられなかった。

だから、わたしからも妖精の話はしなかった。