軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

795 クマさん、帰る

リーゼさんたちと別れ、屋敷を出たわたしたちは街の中を歩く。

「リーゼさん、大丈夫かな?」

「あやつの顔を見たじゃろう。心構えができているとできていないのとでは違う。困難が待ち構えていても、あの家族がいれば大丈夫じゃろう。あやつは1人ではない」

家族。

確かに、1人ではない。優しい両親に、年下の姉もいる。

そして、共に頑張ってきたベンデさんたちもいる。

「こればかりは妾たちが心配してもしかたがない。リーゼ本人の問題じゃ。そして、支えるのは周りにいる人間じゃ」

ここを立ち去るわたしたちにしてあげられることはない。

「そんなに心配なら、いつでも会いに来ればいい。会いに来ると約束をしたんじゃ。そのときに聞けばいい。今、心配してもしかたない」

「そうだね」

リーゼさんのことは、今度会うときに気にかけてあげればいい。

今はリーゼさんを信じてあげるだけだ。

リーゼさんたちと別れたわたしたちは、街の現状を確認しながら歩く。

わたしのことをチラチラ見てくる人や、たまに「クマ」って声も聞こえてくるけど、声をかけてくる人はいない。

あの静かで凍り付いてた街も、氷は溶け、人が溢れるように動き回っている。

本当にみんな生きていた。

何度か歩いた場所でも、氷漬けだった時の街の風景とは全然違う。

そして、氷竜が現れた噴水があった場所にやってくる。

壊れた建物は立ち入り禁止のロープが張られており、その近くには花が置かれ、泣いている人がいる。

「亡くなった者がいたようじゃな」

被害は0とはいかなかった。

氷竜が現れ、これだけの被害だったなら、良かったと言うべきなのかもしれない。

もし、あの巨体が街の中を動き回っていたら、被害は大きかったはずだ。

だからと言って、泣いている人に、被害が少なかったから、よかったねとは言えない。

「救える命もあれば、救えない命もある。お主が気にすることはない」

「別に気にしていないよ」

わたしだって、全ての命を救えるとは思っていない。

氷竜が現れたのは、わたしが来る前に起きたできごとだ。どうすることもできない。

そもそも、3年前だと、わたしはこの世界にいない。

わたしたちは氷竜に壊された建物の横を通り、先に進む。

ボラードさんの言うとおり、住民たちは氷竜に凍らされていた事実すら知らないように働いている。

子供も元気に走り回っている。

「みんな、3年間凍っていたことに気づいていないのかな」

「リーゼの母親や、家の使用人たちを見れば、気づいておらんじゃろう」

もし、気づいていたら大騒ぎになっているはずだ。

誰も、リーゼさんたちの苦労を知らない。

「なんか、リーゼさんたちが可哀想だね」

リーゼさんたちは氷竜がいる中、3年間、街を見守ってきた。

無人島に6人。助けも来ずに、最強生物のドラゴンと一緒。考えただけでも、恐ろしい。

クマ装備がなかったら、わたしは何もできずに、死んでいたと思う。

あの6人は、お互いに助け合い、生きてきた。

それを考えると、なんとも言えない気持ちになる。

「可哀想か。この世にはもっと不幸な人間はおる。お金持ちの家、貧乏の家。両親がいる者、両親がいない者。健康な体を持つ者、病気の体を持つ者。魔法が使える者、使えない者。同じ人間なんて1人もいない。生まれた環境が違う。その者の運命じゃ」

「……運命」

「だから人は努力し、少しでも良い方へ、進もうとする」

剣を練習し、剣士や冒険者になる者。

勉強し、商人になる者。

孤児院の子供たちにだって、パン職人を目指す子もいる。

「もちろん、妾だって、努力をすれば全員が幸せになれるとは思っておらん。ただ、何もしない者には、その機会すらやってこない」

なにもせずに待っていても、幸せは来ない。

前に進み、頑張る者だけが、掴み取るチャンスがやってくる。

「だから、不幸に思うかどうかは、本人たち次第じゃ」

カガリさんは見た目と違って、本当に大人だ。

「そういえばお主、あのクマはどうするのじゃ?」

「あのクマ?」

「氷竜が吐いた冷気を防ぐために、大きなクマを出したじゃろう」

「……忘れてた」

片づけるつもりでいた。

でも、リーゼさんの家族が生きていて、街の住民も生きていた。

いろいろあって忘れていた。

カガリさんが教えてくれなかったら、そのまま帰るところだった。

わたしたちは土魔法で作り出した巨大なクマのところに向かうと、建物の後ろから見えてくる。

そのまま、巨大なクマの置物のところに向かうと人が集まっていた。

「このクマはなんだ?」

「昨日、起きたらあったんだ」

「それに、この地面の跡はなんだ?」

「なにか、凄いものが地面の上を通ったみたいだな」

地面は氷竜の吹雪によって、地面に跡が付いている。

「まるで、なにかから、このクマが守ったように見えるな」

氷竜の吹雪から、守りました。

わたしたちが見ている間も、どんどん人が集まってくる。

「これでは、回収はできぬのう」

いきなり回収すれば、問い詰められる。

「領主様に報告したほうがいいんじゃないか」

「そうだな。ギルドへの報告もしたほうがいいな」

どんどん、話が大きくなってくる。

わたしが、どうしようかと悩んでいると、ひとりの男性がわたしを見る。

「クマ?」

そして、クマの石像を見て、一言「クマ?」と呟く。

その男性の呟きが広がって行く。

この場にいる人たちの視線がわたしに集まってくる。

「これは、諦めるしかないのう」

つまり、クマの置物を、このまま放置するってこと?

「いきなり、撤去すれば騒ぎになるじゃろう。そうなれば、次回来るとき、面倒なことになるじゃろう」

カガリさんの言うとおりに、このまま説明もせずに撤去すれば、クマがクマを消したと、騒ぎになるかもしれない。

うぅ、昨日のうちに撤去しておけばよかった。

「あんた、このクマを知っているのか?」

「ううん、知らないよ」

とっさに無関係を装ってしまった。

「そうか」

男性は怪しむように、わたしを見る。

「そうだな。嬢ちゃんが一晩で、こんなクマを作れるわけがないか」

これ以上いると人が集まってきそうだったので、わたしとカガリさんは、早々にその場を離れる。

「あんなに人がいては、回収はできないのう」

無理矢理に回収して、逃げてもよかったけど、今後も来ることを考えると、騒ぎはおこしたくなかった。

わたしの格好が特徴のあるクマではなかったら、回収はできたけど。

わたしの格好は目立つ。

服装を変えれば、気付かれないと思うけど、この呪いのクマは脱げない。

わたしは逃げるように巨大なクマの置物、さらに街から離れる。

街は塀で囲まれていないので、どこからでも出ることができる。

街から離れたわたしはくまゆるとくまきゅうを召喚する。

「それで、あれはどこに置くのじゃ?」

くまゆるに乗ったカガリさんが尋ねてくる。

昨日は街から少し離れた場所で、リーゼさんたちが近づかない場所にクマの転移門を置こうと考えていた。

でも、今は気にするのはリーゼさんたちだけではない。

街の住民全員に気づかれない場所にクマの転移門を置かないといけない。

「どうしようか」

わたしは考えていたことをカガリさんに伝える。

「確かにそうじゃのう。6人に気づかれない場所と、街の住民、全員に気づかれない場所となれば、話は変わってくる」

カガリさんは、少し考える。

「あそこが良いかも知れぬ」

カガリさんが言うには、タールグイからこの場所に来るまでに、小さい島を見かけたそうだ。

「小島なら、船を持つ者以外、近寄らない。さらに言えば、船を持っているからといって、用もないのに小島にやってくる者もいないじゃろう」

確かに。

漁師なら、魚介類を獲るだけだ。小島に来ることはない。

大型船だって、街と街を行き来するだけで、小島に来ることはない。

そもそも、その小島に何もなければ、小島に上陸することもない。

「こやつたちは、海の上も走れるから、問題はなかろう」

わたしはカガリさんの案を採用することにした。

わたしとカガリさんを乗せた、くまゆるとくまきゅうは海に飛び出し、岸から見える小島に向かって海の上を走る。

3つほど、小島があり、小さい砂浜があった小島に上陸する。

少し、奥に進むと、木々が生い茂っており、人が入った様子はない。

わたしは風魔法で、生い茂っている草を刈り取り、道を作る。

そして、道を土魔法で、石畳になるように固めていく。

「お主、マメじゃのう」

「今度来るとき、生い茂っていたら、嫌でしょう」

マンション暮らしだったわたしには縁がなかったけど。

この世界に来て、雑草処理を何度もしている。

わたしの家のクマハウスを建てた場所にだって、雑草は生える。

面倒だからと言って、放置していたら、フィナとシュリがしてくれていた。

魔法でやろうとしたら、「根っこから取らないと、すぐに生えるからダメだよ」と怒られた。

でも、根っこから取るのは面倒なので、今回は石畳を敷いている。

これなら、雑草も生えないはずだ。

わたしは小島の中心にクマの転移門を設置する。

この位置なら、外からクマの転移門は見えない。

わたしはクマの転移門の扉を開ける。

扉が開いた先は畳が広がる和の国。

ようやく帰って来た。

心残りは、クマの置物の回収ができなかったことだ。

今度、夜中に来て、回収しようかな。