軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

788 クマさん、話を聞く

翌朝、わたしとカガリさんはクマハウスの回収と氷竜の様子を見に行くため山頂に向かう。

くまゆるとくまきゅうに乗ったわたしとカガリさんは、周囲を見る。

「酷い有様じゃのう」

氷竜と戦っている最中は気にもしなかったし、戦いが終わったあとは日が沈み、暗くなっていたから、気づかなかった。

でも、一夜明けて明るくなると、戦いの惨状が見えてくる。山の一部は崩れ、木は倒れ、冷気が放たれた場所は酷い有様だ。

「街に被害が出なくてよかったね」

「あのクマのおかげじゃろう」

下を見る。

大きなクマが3体立っている。

氷竜の冷気から守ったクマたちだ。

「それもあると思うけど。カガリさんも守ったんだよ」

「妾が?」

「冷気から身を守るために、体を熱くさせたでしょう。そのおかげでもあるよ」

カガリさんが冷気を弱めたと思う。

二回目の冷気を浴びたクマがどうなっていたか分からない。

だから、街を守ったのは、決してわたし1人の力ではない。

わたしたちは周囲の惨状の確認をしながら山頂までやってくる。

もし、街の人がいたら、この惨状を見たら大騒ぎになっていたね。

リーゼさんの街も守れたし、粉々になった人は見たくないし、守れてよかった。

「キタカ」(※来たか)

氷竜の前にやってくると、目を閉じていた氷竜が目を開き、わたしたちに話しかけてくる。

「確認だけど、本当にもうあの氷竜はやってこないよね」

「コヌ」(※来ぬ)

なら、安心かな。

「ソレトツタエテオク。ワレハヤクソクドオリニ、ココヲタチサル」(※それと伝えておく。我は約束どおりに、ここを立ち去る)

「どうやら、産まれたようじゃな」

カガリさんは氷竜の下のほうへ目を向ける。

氷竜が体を少し動かすと、お腹から小さい氷竜が顔を出す。

可愛い。

氷竜の赤ちゃんだ。

「産まれたんだ」

よかった。

当たり前だけど、まだ小さい。小さいと言っても、通常サイズのくまゆるとくまきゅうぐらいある。

赤ちゃん氷竜は母親の氷竜に擦り寄っている。

ときおり、わたしたちのことを興味深そうに見たりする。

「可愛い」

わたしが口にすると、左右からくまゆるとくまきゅうが擦り寄ってくる。

「くまゆるとくまきゅうも可愛いよ」

わたしは両手でくまゆるとくまきゅうの頭を撫でる。

「ヒトノコヨ。メイワクヲカケタ。ワガコヲマモッテクレタコトニカンシャスル」(※人の子よ。迷惑をかけた。我が子を守ってくれたことに感謝する)

守らなかったら、あなたを敵に回したかもしれないからね。

「それで、いつ出ていくのじゃ。その赤ん坊はいつ飛べるようになるのじゃ?」

カガリさんの言葉に我に返る。

そうだよね。

産まれたからといって、すぐに出て行けるわけじゃない。

氷竜の立ち去るって言葉も、赤ちゃんが飛べるようになってからかもしれない。

十分にあり得る。氷竜は長寿だ。わたしにとっての1日が、氷竜にとっては一ヶ月、一年とか、近々って言葉が数年とか、あり得そうだ。

でも、氷竜からは予想外の言葉が出る。

「アス、デル」(※明日、出る)

「そんなに早く? まだ赤ちゃんは飛べないんじゃ」

わたしは氷竜の赤ちゃんを見る。

まだ、飛べそうもない。

わたしの質問に氷竜は首を伸ばし、足下にいる赤ちゃんの首辺りを咥えて、持ち上げる。

つまり、咥えて飛んで行くってことらしい。

わたしが理解すると氷竜は咥えた氷竜の赤ちゃんを離す。

氷竜の赤ちゃんは、すぐに氷竜のお腹の下に入っていく。

「それじゃ、離れる前に聞きたいことがあるんだけど。わたしとカガリさんの魔力が懐かしいと言っていたでしょう。あれって、どういう意味か教えてほしいんだけど」

友好的になったんだから、尋ねることにする。

二度と会えない可能性も高いし、尋ねるだけならタダだしね。

氷竜はカガリさんを見る。

「ソノオサナキコノマリョクハソラヲトンデイルトキニカンジタ。マブシク、キレイナマリョクダッタ。セイノタンジョウダッタカモシレヌ。(※その幼き子の魔力は空を飛んでいるときに感じた。眩しく、綺麗な魔力だった。生の誕生だったかも知れぬ)」

「それっていつのこと?」

「ハルカムカシノコトダ(※遥か昔のことだ)」

まあ、カガリさんは数百年、生きているんだし、そうなるよね。

まして、氷竜に人が使っている年って概念もなさそうだし。

「場所は、どこじゃ」

「オボエテオラヌ(※覚えておらぬ)」

カガリさんは残念そうにする。それに人間の街の名前なんて知らないと思うし、しかたない。

「お主が気にすることでない」

どうやら顔に出ていたらしい。

ポーカーフェイスの達人のわたしが、最近、顔に出てしまうことが多い。

「それじゃ、わたしのことは?」

氷竜はわたしを見る。

「ヒトノコガクルニハコンナンナバショニ、ワレニアイニキタヒトノコガイタ」(※人の子が来るには困難な場所に、我に会いに来た人の子がいた)

「その人の魔力が、わたしの魔力に似ているってこと?」

「ソウダ」(※そうだ)

「その人は、どうして、あなたに会いに?」

「ヒトノコハワレノカラダノイチブガホシイトイッタ」(※人の子は我の体の一部が欲しいと言った)

一部って、それって氷竜の素材が欲しいってこと?

「ワレトヒトノコハ、タタカイトナッタ」(※我と人の子は、戦いとなった)

それはそうだ。自分の体の一部が欲しいと言われても、簡単に差し上げられるものではない。

「それじゃ、その人は死んだの?」

氷竜が生き残っているってことは、そういうことだ。

「シンデハイナイ。カノモノハツヨカッタガ、ワレヲコロソウトハシナカッタ。ハナシヲキケバワレノツノノケズリコナ、ウロコノイチブ、ダエキヲホシイトイウ」(※死んでいない。かの者は強かったが、我を殺そうとはしなかった。話を聞けば我の角の削り粉、鱗の一部、唾液を欲しいと言う)

その程度なら、殺さなくても手に入る。

竜の心臓とか目とか欲しいと言い出したら、無理だけど。

「それで渡したの?」

「トリヒキヲモチカケテキタ」(※取り引きを持ちかけてきた)

「取り引き?」

「ヒトノコハオンガクガナガレルマドウグヲヨコシタ。ワレガスムバショハシズカナトコロ。ワレハオンガクヲキイテイルウチニショウダクヲシテシマッタ」(※人の子は音楽が流れる魔道具を寄越した。我が住む場所は静かなところ。我は音楽を聴いているうちに承諾をしてしまった)

音楽が流れる魔道具って、氷竜の素材と交換なら、安上がりだ。

商人が聞いたら、驚くかも知れない。

もっとも、氷竜と取り引きをしようと思う人はいないと思うけど。

「ダカラ、オヌシノマリョクヲカンジタトキ、ソノトキノコトヲオモイダシタ」(※だから、お主の魔力を感じたとき、そのときのことを思い出した)

だから、懐かしい魔力ってことになるわけか。

「それで、その人って何者なの?」

「……クリュナ゠ハルクトナノッタ」(※……クリュナ゠ハルクと名乗った)

「……!?」

予想外の名前が出てきた。

名前を聞いても分からないかと思っていた。

クリュナ゠ハルク。まさか、ここでその名前を聞くことになるとは思わなかった。

「ワレガハナセルノハ、ココマデダ」(※我が話せるのは、ここまでだ)

これ以上の情報は出てこないみたいだ。

「教えてくれて、ありがとう」

氷竜は我が子を包み込み、目を閉じる。

もしかして、昨日の戦いの疲れが残っているのかもしれない。

だから、出て行くのが今日ではなく、明日なのかもしれない。

わたしたちは、これ以上邪魔をしないようにして、クマハウスを回収して立ち去ることにした。

カガリさんはずっと黙っている。

「…………」

わたしは思い切って尋ねてみる。

「カガリさん。スライムの街のこと覚えている?」

「覚えておる」

「そのときに、クリュナ゠ハルクの名前が出たとき、知っている感じだったよね」

「……会ったことがある」

やっぱり、あるんだ。

あのときは、あまり興味がなかったから尋ねなかったけど、今は違う。

「どんな人だったの?」

「可愛い、女の子じゃった」

「……女の子!?」

名前からして、男だと思っていた。

「たぶん、偽名じゃ。一度、名前を言い直したことがある。妾も本当の名は知らん」

「そうなんだ」

「会ったのは、氷竜が言うとおりに昔のことじゃ」

「どんな女の子だったの?」

「不思議な女の子じゃった。世界を回っていると言っておった。妾に一緒に行かないかと誘われたが、断ってしまった」

「それって、大蛇が現れる前?」

「あとじゃ、封印の役目を放り出すことはできなかった」

カガリさんは大蛇の封印を守ってきた。

それを放り出すことはできなかったってことだ。

「差し伸べられた手を取りたかったが、その手を握ることはできなかった」

そんなことがあったんだ。

「その後にクリュナ゠ハルクの名を、聞くようになった。引きこもっていたこともあって、妾が知らなかっただけじゃがな。だから、妾もクリュナ゠ハルクについては詳しくは知らん」

聞けば聞くほど、クリュナ゠ハルクは謎の人物になっていく。

クリュナ゠ハルク。

前にシアから聞いた話ではクリュナ゠ハルクは冒険家と言っていた。氷竜とも恐れずに戦う人物。確かに、冒険者の憧れになるかもしれない。

さらに魔道具も作ったりしたか。

スライムの街で見た研究者の日記にもクリュナ゠ハルクの名前が書かれていた。

タールグイにも名前が残っていた。

もしかすると、わたしのようにタールグイに乗って世界中を旅をしていたかもしれない。

それで、和の国やスライムの街に寄ったのかもしれない。

ただ、予想外なのが女性だったってことだ。

カガリさんに会ったときは、女の子だったらしいから、まだ若かったのかな。

まあ、結局は昔の人物ってことだ。

魔力が似るって、よく分からないけど。偶然かもしれないし、会えることもないから、気にしてもしかたない。