軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

781 クマさん、引き返す

「それで、あの門はどこに置くつもりなのじゃ?」

わたしが考え事をしていると、カガリさんが尋ねてくる。

「そうだね。目立たないところに置きたいけど」

「氷竜が立ち去り、街がどうなるか分からんことを考えると、街から離れた場所がいいじゃろうな」

それには同意だ。

それと漁師のベンデさんが魚を捕りに来たときに見られても面倒だから、ベンデさんが魚を捕りに行く海とは反対側に向かうことにした。

どこかにクマの転移門を設置するいい場所がないかなと周辺を見ていると、くまゆるとくまきゅうが「「くぅ~ん!」」と大きな声で鳴く。

「なんじゃ。魔物か!」

くまゆるとくまきゅうの鳴き方で判断したカガリさんが叫ぶ。

わたしはすぐに探知スキルを使う。

探知スキルに「氷竜」の反応。

でも、方向は山頂ではない。

海からやってきている。

わたしは反応がある海に目を向ける。

「カガリさん、あっちを見て」

わたしは海を見て空を指さす。

わたしの指の先には大きな翼を羽ばたかせて、移動してくる生物がいる。

「氷竜か?」

「カガリさん、戻るよ」

「戻ってどうするつもりじゃ」

「分からないよ。あの氷竜がなにもしなければいいけど。もしもの場合があるでしょう」

楽観的な考えでは、山頂にいる氷竜のパートナーの可能性。氷竜の赤ちゃんを迎えに来ただけ。赤ちゃんが産まれたら立ち去るのなら問題はない。

ただ、考えが変わって、2頭が棲みつくことになれば、どうなるかわからない。

「確認だけするよ。くまゆる、くまきゅう、急いで戻るよ」

「「くぅ~ん」」

「本当に、お人好しじゃのう」

自分でもそう思うけど「氷竜がもう一頭来たね。気にしないで帰ろう」なんてことはできない。

普通に気になって、のんびりなんてできないよ。

とりあえず、状況把握だけはしないと、帰ることもできない。

わたしとカガリさんを乗せたくまゆるとくまきゅうは、やってきた道を引き返す。

「のんびりはできぬみたいだぞ」

速い。

探知スキルの反応では真上だ。

「あれは、もう一頭の氷竜か」

カガリさんは山頂のほうを見ている。

山頂のほうから、氷竜が飛んで来る。

一直線に海からやってきた氷竜に向かっている。

挨拶?

迎えに行った?

氷竜が接触する。お互いに周りを旋回し始める。

「戦っておるのか?」

遠すぎて分からないけど、口から冷気みたいなものが吐き出されている。

足を相手に向けて、攻撃をしているようにも見える。

「なにが起きておるのじゃ!?」

その気持ちはわたしも同様だ。

なにが起きているのか、説明してほしい。

でも、説明してくれる人は誰もいない。

今、できることはリーゼさんたちのところに向かうことだけだ。

わたしとカガリさんは鉱山に戻ってくる。

リーゼさんと父親のボラードさんがいる。

「ユナさん、どうしたのですか?」

先ほど別れたばかりなのに、戻ってきたわたしたちに驚いている。

「なにか、忘れ物ですか?」

どうやら、気づいていないみたいだ。

「上を見て」

わたしは氷竜がいるほうへ指さす。

リーゼさんはわたしの指さすほうを見る。

「……あれは、氷竜が二体?」

「なにが起きているんだ?」

リーゼさんとボラードさんは上空の氷竜を見て驚いている。

「他のみんなは?」

「今日は仕事が休みなので、みんな小屋の中にいます」

よかった。

バランさんが魚を捕りに行っていなくて。

「みんなに知らせてくる」

ボラードさんが小屋に向かって駆け出す。

「ユナさん、なにが起きているのですか?」

「分からないよ。わたしたちが帰ろうとしたら、海から氷竜が現れて、山頂にいた氷竜と戦い始めたんだよ」

じゃれあっているわけじゃないよね。

氷を吐いたりするのが、氷竜が会ったときの挨拶じゃないよね。

小屋から、みんなが出てくる。

「本当に嬢ちゃんたちが、戻ってきている」

「新しい氷竜が現れたって本当か?」

みんなが集まってくると上を見る。

「氷竜が二体……」

「戦っているのか?」

やっぱり、そう見えるよね。

「今までに、他の氷竜が現れたことは?」

「ないと思います」

「俺も見たことがない」

「基本、氷竜が見えたら身を潜めているから、実際のところは分からない」

鉱山の中に身を潜めていたら、外のことは分からない。

実は過去にも現れていた可能性も十分にあるけど、リーゼさんたちは知らないみたいだ。

「それに、氷竜を一体しか見ていないが、それが別の氷竜だった可能性もあるからな」

今まで見ていたのが別個体の可能性。それも十分にあり得る。

でも、その判断は簡単にはできないと思う。

特徴があれば別だけど、ウルフを見てもどれも同じようにしか見えないのと同じだ。

「くそ、いったいなにが起きているんだ」

全員、焦燥感にかられる。

氷竜が近いうちに立ち去ると思っていたのに、新しい氷竜が現れ、もしその氷竜が縄張り争いに勝ちこの地に住み続けたら、なにも変わらなくなる。希望もない。

片方の氷竜が後ろに回り込まれて、翼を攻撃される。

遠すぎて、どっちが、どっちの氷竜か分からない。

翼を攻撃をされた氷竜は落ちるかと思ったら、立て直し、空を飛び、旋回を始める。

「カガリさん、どっちがどっちか分かる?」

「流石に、この距離じゃ分からんよ」

氷竜の戦いは続く。

「でも、どうして、氷竜同士が争っているの?」

「仲が悪い氷竜なのか?」

「それとも動物にはよくあるような縄張り争いか?」

「だけどそんなこと、ここでやらないでくれ」

その辺の動物だって、縄張り争いをする。

人だって、領地の奪い合いもあるし、戦いもする。

でも、言いたい。

「縄張り争いなら、よそでやってよ」

「お主の気持ちは分からんでもない。和の国で戦いが行われたら、たまったもんじゃない。リーゼたちには悪いが、妾の国でなくてよかったと思ってしまう」

それはしかたない。誰だって、自分が住んでいる国、街に魔物が来てほしいとは思わない。

「その代わりに和の国は大蛇って化け物を引き受けたんだから」

「好きで引き受けたわけじゃない」

カガリさんは不愉快そうに言うが、人災でなければ運が悪かったと思うしかない。

魔物の行動管理なんてできないんだから、諦めるしかない。

そして、できることをしないといけない。

互角に見えていた戦いも、片方が優勢に押し始める。

氷竜の尻尾が叩きつけられる。

叩きつけられた氷竜は地面に向かって落ちていく。

「あっちは街が!?」

氷竜が落ちて行く方には街がある。

でもどうにか街には落ちず、近くに落ちる。

でも、それを追撃するように氷竜が追いかける。

「このままじゃ街が」

あらゆる物が粉々になる。

建物、そして人も……。

「くまきゅう!」

「お主、まさか行くつもりか!」

わたしがくまきゅうの名前を叫ぶとカガリさんが止める。

「このまま戦いをさせていたら、街が壊されるかもしれないよ」

「氷竜が二体じゃぞ」

「最悪の場合は二体と戦うよ」

一体と言いたいところだけど、卵を守っている氷竜を味方とは思わない。

街やリーゼさんたちの家族を氷漬けにした氷竜だ。

でも、卵が孵化して、赤ちゃんが産まれれば出て行くと言っていた。

新しい氷竜の目的は分からない。

山頂に居た氷竜を倒し、このまま居座る可能性もある。

一番良いのが、新しい氷竜が山頂の氷竜を倒し、そのまま立ち去ること。

最悪なのが、卵を産んだ氷竜の代わりにここに住み着くこと。

それなら、新しく来た氷竜を倒し、山頂にいる氷竜が立ち去るのが最善だ。

一番最悪なのは、あの行動が縄張り争いではなく、氷竜の挨拶の仕方で、実は仲がよく、二体の氷竜が棲み着いてしまうパターンだと思っている。

氷竜流の挨拶じゃないよね?

戦っているよね。

「……分かった。妾も行こう」

「リーゼさんたちは、危険と思ったら、鉱山の中に隠れて」

「ユナさん。本当に行くのですか? 危険です」

「でも、このままじゃ街が大変なことになるかもしれないでしょう」

粉々になった人を見たくない。

悲しむリーゼさんたちを見たくない。

「でも、お二人に何かあったら」

「そうだ。俺たちのためにそこまですることはない」

「これも運命だと思って諦める」

「諦めちゃダメだよ」

「そうじゃな。諦めたらお終いじゃ。お主たちも、この変な格好したクマの嬢ちゃんに運命を預けたらいい。こんな変な格好をしておるが、人の運命を変える力を持っておる」

「……カガリちゃん」

「もし、失敗したとしても、最悪の状況が最悪になるだけじゃ。なにも変わらんじゃろう。それなら、少しでも良い方向へ変わることを祈って、待っててくれ」

カガリさんの言う通りだ。

なにもせずにいても好転することはない。

卵を守っている氷竜が勝てば、現状維持。負ければ、どうなるか分からない。

さらに、戦いが長引けば街がどうなるか分からない。

わたしたちが行くことで、好転する可能性もある。最悪三つ巴って可能性もあるけど。

まあ、結局のところ行ってみないと分からないってことだ。

わたしとカガリさんはくまゆるとくまきゅうに乗って、氷竜が落ちた場所に向かう。

「くまゆる、くまきゅう、急いで!」

「「くぅ~ん!!」」

くまゆるとくまきゅうは返事をすると、最高速度で走る。

戦うなら、他の場所でしてほしい。

人の迷惑を考えてほしい。

それだけじゃない。

卵だって、人がいない場所で産んでほしい。