軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

760 クマさん、カリーナに会う

「どうぞ、お入りください」

わたしたちは屋敷の中に入り、客室に案内される。

「それでは、カリーナ様をお呼びしてきます」

ラサさんは急ぐように部屋から出ていく。

「とりあえず、ノアとミサは貴族ってことは内緒ね」

「どうしてですか?」

「カリーナはともかく、父親のバーリマさんに知られるとエレローラさんにまで情報が流れるかもしれないから」

エレローラさんは、王都で謎の仕事をしている。バーリマさんがエレローラさんの娘であるノアに会ったことを話してしまうかもしれない。

「分かりました。フィナとシュリのお友達ってことにすればいいですね」

服装も、この街で買った服を着ているので、貴族の令嬢とは見えない。ただ、どんな服を着ても体から滲み出る気品は隠せないけど。

「とりあえずは、それでお願い」

まあ、タイミングをみて、話すか話さないかを決めればいい。

話を終えると、扉の前まで足音が聞こえてくる。

扉が開き、褐色の肌をした女の子が部屋に入ってきた。

「ユナさん!」

「カリーナ、久しぶり」

部屋に入ってきたのはカリーナ。

この街の領主の娘であり、わたしが助けた女の子だ。

「来てくださったんですね」

カリーナは嬉しそうに駆け寄ってくる。

「フィナとシュリもいらっしゃい」

フィナとシュリにも会えて嬉しそうだ。

カリーナは初めて会うノアとミサのほうを見る。

「ノアールとミサーナ。フィナの友達だよ」

「ノアールです」

「ミサーナです」

「わたしはカリーナです。ノアール、ミサーナ、よろしくお願いします」

お互いの挨拶を終えると、わたしたちは椅子に座る。そこにラサさんがお茶を運んでくる。

「それで、ユナさんは、どうしてこちらに?」

「遊びにかな」

カレー粉になるスパイスを買って行こうかなと思ったりしている。

わたしはカモールに乗ったことやピラミッドを見に行ったことを話す。

「あれから、水は大丈夫?」

「はい、ユナさんが譲ってくださった水の魔石は正常に動いています」

「なら、よかったよ」

あのピラミッドにはクラーケンを倒したときの水の魔石が使われている。

動かないことになれば、湖は干上がり、砂漠になってしまう。

「今、わたし魔法陣の勉強をしているんです」

「魔法陣の?」

「あの、ご先祖様が残してくださったノートがあったんです」

「魔法使いだった?」

この街を作ったのは剣士と魔法使いの2人だったという話だ。

その2人はムムルートさんの昔の冒険者仲間だ。

「はい。弟のノーリスもいますので、わたしが婿を取って領主になることもありません」

家を男が受け継ぐことは、どこにでもある話だ。

「そんな顔はしないでください。ノーリスには悪いですが、未来を自由に決めることができるのは嬉しいと思っているわたしがいます」

「カリーナ……」

「将来は王都に行って、勉強したいと思っています」

「そうなんだね」

前向きに考えるのはいいことだ。

人によっては、家を継ぎたくないと思っている人だっている。

「いつかは、ムムルート様のところに行くことも考えています」

「まだ、子供なのに偉いね」

「もう、子供ではありません」

カリーナは子供扱いされて、少し頬を膨らませる。

「いや、子供だからね」

わたしが10歳の頃を思い浮かべると、カリーナのように将来のことなんて、微塵も考えていなかった。

あの時は、まだ学校には通っていたけど、家に帰ってくれば、ゲームばかりしていた。

でも、ゲームをするにはお金が必要だ。

両親がお金をくれるわけもなく、お爺ちゃんにお小遣いをもらってゲームを買っていたのは懐かしい思い出だ。

途中で、欲しいものが増え始め、お爺ちゃんに投資を教わり、自分でお金を稼ぎ始めた。

お金を稼ぎ始めた中学生になった頃、学校に行かなくなり、引きこもり生活が始まった。

そんな自分の子供時代と比べると、カリーナは偉過ぎる。

「ユナさん、どうかしたんですか?」

「カリーナが偉すぎで、自分が子供の時と比較して、ダメージを受けただけだよ」

「わたし、全然偉くないです。偉いのはユナさんです。魔物を討伐し、貴重な魔石を譲ってくれました」

それは子供時代と関係ないからね。

「あのう、ユナさん、この街でなにをしたのですか? 魔物を倒したお話は聞きましたが」

「別に、たいしたことはしていないよ」

「そんなことを思っているのはユナさんだけです」

カリーナは微笑むと、話し始める。

「少し前に湖の水が無くなりかけたことがありました。水を増やすには大きな水の魔石が必要でした。そのときに貴重な水の魔石を譲ってくれたのがユナさんです。さらに、わたしが代々受け継がれている魔道具を巨大な魔物がいる場所に落としてしまいました。その魔道具を取り戻すため、ユナさんは一人で巨大な魔物に立ち向かい、魔物を倒し、魔道具を取り戻してくださいました。ユナさんは、我が家の恩人であり、この街の恩人です」

「ほら、カリーナの言うとおりに、持っていた魔石を渡して、魔物を倒しただけで、たいしたことはしてないでしょう」

わたしは同意を求めるようにフィナたちを見る。

「ユナさん、それを一般的に凄いと言うのです」

「はい、ユナお姉様にとってはなんでもないことでも、凄いことなんです」

「ユナお姉ちゃん。わたし、何度も常識を持ってって言っているよね」

「お母さんが言っていたよ。ユナ姉ちゃんは非常識だから、真似をしちゃダメって」

ティルミナさん、酷い。

いや、分かっているよ。神様からもらったクマ装備のおかげで、普通より強いことは。

わたしが言いたいのは、泣いている子を助けただけで、凄くはないってことを言いたかっただけだよ。

「ノアたちだって、困っている人がいたら、助けるでしょう。それだけのことだよ」

もちろん、全ての人が手を差し伸べるとは思わない。

でも、ここにいる子たちなら、困っている人がいれば、わたしと同じように助けると思う。

その気持ちには変わりない。

それから、ラサさんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、ドアが開き、女性が入ってくる。

「お母様!?」

「あら、本当にユナちゃんが来ていたのね」

「リスティルさん、お久しぶりです」

カリーナの母親のリスティルさんが近くまでやってくる。

「よく、来てくれたわ。カリーナも寂しがっていたから。これからも来てくれると嬉しいわ」

「はい、伺わせてもらいます」

さらにはバーリマさんまでやってくる。

「お父様、仕事はいいのですか?」

「ユナさんが来ているんだ。挨拶ぐらいする時間はある。ユナさん、ゆっくりしていってください。泊まる場所が決まっていなければ、我が家に泊まっていってください」

「そうです。ぜひ、泊まっていってください」

「泊まる場所なら、家があるから」

「でも、長い間、使っていなかったんですよね」

一応、フィナと掃除はした。

「それに、みなさんで泊まるには狭いのでは?」

雑魚寝じゃないけど、5人ぐらいなら、寝られないことはない。

でも、貴族の令嬢であるノアとミサのことを考えると、カリーナの家に泊まったほうがいいと思う。

「それじゃ、一日だけお世話になるよ」

わたしの言葉にカリーナは嬉しそうにする。

「それで、そちらのお嬢さんとは、どこかで会ったことがあるかな。見覚えがあるのだが……」

バーリマさんはノアを見ながら尋ねる。

「い、いえ、お初にお目にかかります」

「そうか」

バーリマさんはノアの顔を見ながら、納得したのか、部屋から出ていく。

ノアは会ったことがないと言っていたから、もしかしたらノアにエレローラさんの面影を見たのかもしれない。

そして、しばらくの間、ラサさんが持って来てくれたお菓子を食べながら、わたしの話で盛り上がる。

「あの大きな魔物と一人で戦うと言い出したとき、泣いてしまいました」

「大丈夫って言ったでしょう」

「ですが、あんな大きな魔物相手に一人で戦えるとは普通は思いません」

「そんなに大きかったのですか?」

「はい、とっても大きかったです」

「大きい魔物と言えば、ユナさんは村を救うためにブラックバイパーを倒していますね」

そんなこともあったね。懐かしい思い出だ。

それから、カリーナの弟のノーリスが来たりもした。

そして、この家の新しい家族、赤ちゃんに会いに行った。

まだ、生まれたばかりだから、小さい。

名前はユシス。

名前に「ユ」が付いていると、わたしから取ったと思うのは自意識過剰かもしれない。

でも、過去にわたしの名前の「ユ」から取って「ユーク」と名付けられたことがあった。

「ふふ、可愛いです」

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみです」

ユシスの寝るベッドにはくまゆるとくまきゅうぬいぐるみが置いてある。

「気に入ったみたいで、このクマさんのぬいぐるみがあると泣かないです」

「それって、逆に無いと泣くってこと?」

「はい、ユシスが噛んだりして涎が付いたので、洗おうとしたとき泣いて大変でした」

カリーナは笑いながら言う。

「なので、次からクマさんのぬいぐるみを洗うときはユシスが寝ているときに洗うことにしました」

それなら、泣かれることもないらしい。

わたしたちは寝ているユシスを起こさないように部屋を出て、カリーナの部屋に行く。

「カリーナの部屋にもくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみがあるのですね」

ノアは目ざとく、棚の上に飾ってあるくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを見つける。

「はい、ユナさんにいただきました。わたしの大切な宝物です」

カリーナはくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみの頭を優しく撫でる。

宝物って、代々受け継がせないでね。

夕食にはカレーをいただき、食べ終わると、泊まる部屋にやってくる。

くまゆるとくまきゅうを召喚して、まったりする。

「うぅ、苦しいよ」

「だから、食べ過ぎだって」

フィナが止めていたが、シュリは大丈夫と言ってお代わりをしていた。

「ですが、美味しかったです」

「はい」

「それなら、よかったです」

カリーナは嬉しそうな顔をしたと思ったら、寂しそうな顔に変わる。

「明日には帰るんですよね」

「うん」

カレーになるスパイスを購入して、帰るつもりだ。

「また、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんともお別れなんですね」

カリーナはくまゆるとくまきゅうに抱きつく。

「また来るよ」

「約束ですよ」

わたしの言葉に少しだけ、明るくなる。