軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

745 クマさん、ジュウベイさんと戦う

「ユナの強さはそれだけじゃない」

「どういうことっすか?」

「ユナの動きは体に染みついた動きだった」

「考えるよりも先に体が動くってことっすか?」

「いや、ちゃんと考えて動いているよ」

わたしはジュウベイさんの言葉を否定する。わたしはちゃんと考えて動いている。

「確かに考えてもいるのだろう。それはシノブの複数ある行動範囲内を先読みして動いているのでわかる。しかし、予想外の攻撃も防いでいた。それは体が考えるよりも先に動いている証拠だ」

確かに、予想外の攻撃に関しては咄嗟に体を動かして、シノブの攻撃を防いでいる。

「そこまで行くのに、血が滲むほどの努力と時間を要したのだろう」

血が滲んだかは別として、学校も行っていなかったわたしはゲーム三昧だった。

ゲームをする時間は人よりはあったと思う。

でも、わたしより、もっとゲーム廃人はいたよ。

わたしはちゃんと睡眠はとっていたからね。

なにより、パーティーに呼ばれることが、ほとんどなかったから、自分のペースでゲームをすることができた。

さらに言えば、現実と違って、傷ついても回復アイテムや宿屋で休めば体力も魔力も回復するので、すぐに戦いに戻ることができた。

死んでも、マイホームに戻されるだけだ。

でも、この世界はゲームとは違うので、わたしと同じ方法で強くなることはできない。

「血が滲むほどの……」

シノブがジュウベイさんの言葉をかみ締めている。

いや、していないからね。

そんな、真剣な顔をしないでね。

「シノブ、ユナは天才とかではない。才能はあったかもしれぬ。でも、その才能もなにもしなければ開花することはない」

「ユナさんも強くなるために、頑張ってきたのですね」

ノアがしみじみと言う。

ゲームの中のことだけど。

睡眠と食事とトイレ以外はやっていたけど……。

「シノブ、おまえが誰よりも鍛錬していることは知っている。だが、ユナはそれを上回ることをしてきた」

「つまり、ユナ以上のことをしないとダメってことっすか?」

ジュウベイさんは首を横に振る。

「おまえは、強さの先に何を求める。本当にその強さは必要か?」

「強ければ、ワイバーンに怪我を負うことはなかったっす。そうすれば、気を失うこともなかったっす。気を失っていなければ、サクラ様に無理をさせることもなかったっす」

「シノブ。そんなことを考えていたんですか? わたしはシノブのせいだと思ったことはないですよ」

「サクラ様は優しいから……」

「人にはできることと、できないことがあります。わたしにはワイバーンと戦うことはできません。でも、魔力を流すことはできました」

「でも、わたしがワイバーンに怪我を負わされていなければ。簡単に倒していれば、サクラ様を危険な目に合わせることはなかったっす」

「それは、理想論だ。それを言ったら、俺がその場にいればと何度も思った。でも、俺はその場にいなかった」

「…………」

「誰だって後悔をしながら生きている。だからと言って、いつまでもそれに囚われていれば、先に進むことはできない。おまえは強い。自信を持て」

「……師匠」

なんとなく、口を挟める雰囲気ではなかったが、丸く収まりそうだ。

ともかく、シノブとの試合は終わった。

シノブの 糧(かて) になってくれれば、試合したかいがあった。

「それじゃ、今度はどこに行こうか」

「それじゃ、今度は俺と戦おうか」

わたしとジュウベイさんの言葉が重なる。途中まで同じだったけど、最後の言葉が異なった。

「えっと、ジュウベイさん。今、なんて? 戦おうって聞こえたんだけど、聞き間違いだよね」

「いや、聞き間違いじゃない。すまないが、俺とも頼む。双剣の戦いは見させてもらった。剣を持ったユナの戦いをシノブに見せてやりたい。そして、なにより、先ほどの試合を見て、もう一度、戦いたいと思った」

この人、戦闘狂だよ。

わたし?

わたしは戦闘狂じゃないよ。

ただ、人に勝ちたいだけだ。

負けるのが悔しいって気持ちが大きい。

それに、徐々に強くなって強い相手を倒せるのが楽しかった。

だから、決して、戦闘狂ではない。

「シノブさん、ジュウベイさんって強いのですか?」

シノブがフィナたちがいる場所にやってくるとノアが尋ねる。

「強いっすよ。この国でも上位に入るっす」

「上位と言っても一番ではないのですね」

「それは得意、不得意な戦いがあるっすからね。師匠にも苦手な相手はいるっす」

ゲームでも属性の相性はあったね。

剣は弓に強く、弓は槍に強く、槍は剣に強いとか。

火属性は草属性に強く、草属性は水属性に強く、水属性は火属性に強いとか。

ジャンケンで言えば、グーチョキパーみたいなものだ。

他では雷属性、土属性、風属性、木属性、闇属性、光属性とかあったりして、多いと、混乱するんだよね。

さらに、他のゲームと違う場合があって、間違えることがある。

「ユナの剣の扱いが見たい」

ジュウベイさんは細身の剣。木刀をわたしに差し出してくる。

だから、試合するとは一言も言っていないよ。

「フィナ、ミサ、シュリ。ユナさんの邪魔をしてはいけません。離れましょう」

「はい」

ノアはフィナたちを連れて離れていく。

「サクラ様、危ないから、わたしたちも離れるっす」

「ジュウベイ、ユナさん、怪我はしないようにお願いしますね」

サクラとシノブもノアたちのところに行ってしまう。

中心には、わたしとジュウベイさんが残される。

だから、引き受けるとは言っていないんだけど。

でも、ノアたちのほうを見ると、すでに観戦ムードだ。

ノアとシュリは楽しそうにして、フィナとミサは不安そうに、シノブとサクラは真剣な目で見ている。

今更、「やらないよ」とも言えない。

それに、面倒くさいとも思うけど。戦うのは嫌いじゃない。

わたしは木刀を握り、ジュウベイさんと距離をとる。

「確認だけど、あの刀から出る風も禁止ってことでいいんだよね?」

「ああ、武器のみだ」

あの刀から出る風の刃は厄介だ。間合いが難しくなる。

でも、純粋な武器だけの戦いなら、気にしないで済む。

わたしとジュウベイさんは木刀を構える。

「行かせてもらう」

ジュウベイさんが先に仕掛けてくる。

木刀の速度が速い。

わたしは軌道を読み、体を捻って避ける。

でも、ジュウベイさんの攻撃は終わらない。木刀が跳ねるように、振り下ろした木刀が上にあがり、わたしに向かってくる。

とっさに木刀を割り込ませ、防ぐ。

木刀と木刀が当たり、カーンと音が響く。

お互いの木刀が二撃目に向かう。

何度か、ジュウベイさんとわたしの木刀が打ち合う。

全部の攻撃を防ぐと、ジュウベイさんは軽く後ろに跳ぶ。そして、着地と同時に木刀を水平に突き出すような構え。右腕は後ろに引いている。

突きだ。

ジュウベイさんの足に力が入る。

着地と同時に全てが整っていた。

構え、突き出す準備、足の踏ん張り。

ジュウベイさんの突きが襲いかかってくる。

三段突き!

一撃目、後方に下がり、躱す。

ジュウベイさんはさらに一歩踏み込む。

二撃目、木刀で弾く。

でも、すぐに弾かれた木刀を引き戻す。

三撃目、突き出してくる。

左に体を反らす。全てを防いだ。

そう思った瞬間、違和感を覚える。

ジュウベイさんの左手が脇差しに向かっていた。

四撃目を用意していた。

わたしはとっさに、土魔法を使っていた。

地面から土が盛り上がり、ジュウベイさんの抜かれた脇差しの攻撃を防いでいた。

わたしは追撃を防ぐため、逃げるように後ろに下がる。

「ご、ごめん。魔法、使っちゃった」

魔法は禁止だったのに、使ってしまったことに謝罪する。

「いや、かまわぬ。俺も脇差しを使った。それに、体に染み込んだ咄嗟の行動だろう。それもユナの強さの一つだ。頭より、体が動く。どうやって自分の身を守るか、体が理解している」

確かに、今のは咄嗟の行動だった。

「続きをやる?」

「いや、4段攻撃を防がれた。俺の負けだ。前にユナに3段突きを防がれたから、新しい攻撃を考えていたのだが。しかも、使うとは言っていなかった脇差しを使って、卑怯なことをした。それを防がれたのだから俺の負けだ」

「でも、魔法で防いだんだよ」

「それは関係ない。俺が脇差しを使った時点で、俺の負けが確定している。ただ、ユナに通じるか確かめたかったことと、ユナが対処できるか見たかった。完全に俺の負けだ」

わたしの魔法使用は反則だけど、ジュウベイさんはグレーゾーンだ。始めに武器のみの試合と言っていた。だから、脇差しは反則負けとは言い切れない。

でも、ジュウベイさんは負けを認めている。

そんなジュウベイさんはシノブを見る。

「これが、ユナの強さだ。ここまで強くなれとは言わない。目指すのも大変だろう」

「目指すなってことっすか?」

「それはおまえ自身が決めることだ。後悔しないように自分の心と相談しろ」

「師匠だったら、どうするっすか?」

「剣術しか能がない俺に聞くか。そんなの決まっているだろう。何度も挑戦するだけだ」

それって、わたしに何度も挑戦するってこと?

それは面倒くさいから嫌なんだけど。

でもジュウベイさんとの試合は楽しかった気持ちは少なからずはあるけど。

「でも、おまえの本分は俺とは違う。戦いも必要だが、おまえの役目はそれだけじゃないだろう」

シノブはジュウベイさんの言葉を聞いて、考え込む。

「よく考えて、決めればいい。おまえは、まだ若い」

「……師匠、ありがとうっす。考えてみるっす」

シノブが、どんな考えになるか分からないけど、初めの頃より、表情は晴れているように見えた。

「ユナさん、すごいです」

「どきどきしました」

「ユナお姉ちゃんお疲れ様」

「ユナ姉ちゃん、かっこうよかった」

ノアたちがやってくる。

「ユナ様とジュウベイの試合を初めて見ましたが、あれほど動きが速いものなのですね」

「お恥ずかしいところをお見せしました」

ジュウベイさんが謝る。

「いえ、素晴らしい試合でした」

まあ、なんだかんだ久しぶりに戦えたのは、わたしも楽しかった。あの妖精の件ではストレスが溜まったし、楽しい戦いではなかった。

たまには、こんなふうに楽しく戦うのもいいかもしれない。