軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

740 クマさん、絵を描く

「それで、どうしますか?」

「すぐに着替えるのはもったいないですよね」

ノアとミサが自分たちの格好を見ながら言う。

確かに、せっかく和の国の着物を着せてもらったのにすぐに着替えるというのはもったいない。しかも、髪まで結ってくれたのに……

「それならユナ様、お願いがあるのですが……」

サクラが遠慮がちに口を開く。

「その、……絵を描いていただけないでしょうか。ノアに貸してもらった服を思い出に残したいので」

写真があるわけじゃない。

まあ、わたしが知らないだけで、そんな魔道具があるかもしれないけど。

でも、今、ここに無いことだけは事実としてある。

サクラの気持ちも分かるので、わたしは「いいよ」と返事をする。

その言葉にサクラは満面の笑みになる。

「それなら、わたしも描いてください!」

「……わたしも描いてほしいです」

ノアが手を大きく挙げ、ミサも少し遠慮がちにお願いしてくる。

「うん、わたしの絵でいいなら、描いてあげるよ」

「ユナお姉様の絵がいいです」

そう言ってもらえると嬉しい。

「ユナ姉ちゃん、わたしも!」

「シュリも描いてあげるよ」

「やった!」

「もちろん、フィナもね」

わたしの言葉にフィナも嬉しそうにする。

「でも、流石に全員を描くことになったら時間がかかるから、出掛けられなくなるけど」

ノアとミサの二人に目を向ける。

今回は二人のための旅行だ。

今は、休むためにサクラの屋敷に寄っただけだ。まだ、外出する時間は残っている。

「これも、思い出の一つです」

「後で、描いてもらえればよかったと後悔はしたくありません」

まあ、そういうことなら。

「思い出なら、全員一緒に描けばいいんじゃないんっすか」

話を聞いていたシノブがそんなことを言い出す。

「全員ですか?」

確かに全員一緒だと、集合写真みたいでいいかもしれない。

「でも、みんなに渡すことができないよ。同じ絵を5枚描く?」

「複写すればいいっすよ」

絵本みたいな感じ?

「ああ、でも、一人だけがユナが描いた原本になるっすね。取り合いになるっすね」

「わたしは複写したものでも構いませんので、みんな一緒がいいです」

「わたしも、みんな一緒がいいです」

サクラとノアがそう言うと、ミサとフィナたちも頷く。シュリは、首を傾げている。

「みんなが、それでいいなら」

わたしは全員をまとめて描くことになった。

「それじゃ、ユナが絵を描いている間に、わたしはお城に行って、国王様からみんなの入城の許可を貰ってくるっす」

シノブがそんなことを言い出す。

「みんなの楽しい時間を無駄にしてほしくないっすからね」

「忘れていました。それなら、わたしも行ったほうが……」

「サクラ様はユナに絵を描いてもらってくださいっす」

「ですが……」

「わたしだけで大丈夫っすよ。それにユナの頼みと言えば、国王様も断らないっすよ」

その言い方だと、わたしが頼めばなんでも言うことを聞いてくれるように聞こえるんだけど。

「シノブだけじゃ心配なら、妾も一緒に行こう」

「カガリ様?」

いままで静かに座って、わたしたちを見ていたカガリさんが、そんなことを言い出す。

「よろしいのですか?」

「久しぶりにあやつに顔を見せないとイジケルからのう。そのついでじゃ」

「それでは、わたしもお供します」

「いや、スズラン、お主はサクラたちの世話を頼む。妾のことなら、シノブがいるから大丈夫じゃ。誰も居なくなっては、サクラも困るじゃろう」

スズランさんはサクラを見て、それからノアたちを見てから、最後にカガリさんを見る。

「わかりました。シノブさん、カガリ様をよろしくお願いします」

「任せてくださいっす」

シノブとカガリさんは部屋から出ていく。

部屋に残ったわたしたちは絵を描く準備をする。

「サクラは真ん中で」

「よろしいのですか?」

「はい、もちろんです」

そして、どの立ち位置にするか決めていく。

スズランさんが椅子を持ってきてくれ、全員が椅子に座る。

わたしから見て、左からシュリ、フィナ、サクラ、ノア、ミサと座る。

わたしは紙を横にして、描く準備をする。

「ユナさんがいないのは残念ですが、仕方ないですね」

「まあ、わたしが描くからね。それじゃ描くから、あまり動かないでね」

みんな、ジッとわたしのほうを見ながら、座っている。

なにか、見られているようで、少し落ち着かない。

「もし、疲れたなら、言ってね。休憩を挟むから」

ただ、座っているだけのポーズなので、休憩で動くくらいなら問題はない。わたしは描き始める。

「ユナさんでしたよね。絵を描くのがお上手ですね」

後ろから見ていたスズランさんが、わたしの絵の感想を漏らす。

「ありがとう」

「凄い」「どんどん、描かれていく」「サクラ様、そっくりです」「他の女の子たちも」

スズランさんがわたしがペンを動かすたびに、実況報告みたいなことをする。

「スズラン、ユナ様の邪魔をしてはいけませんよ」

「申し訳ありません」

スズランさんは一歩下がる。

そして、途中経過を見たいというサクラたちに絵を見せたりしながら、絵を描いていると、シノブとカガリさんが戻ってきた。

「戻ったっす」

「疲れたのじゃ」

「お帰りなさい」

サクラが労う。

「カガリ様はお疲れのようですね」

「スオウの奴が、なかなか帰らせてくれなかった」

「そのせいで、わたしも帰れなかったっすよ」

お城に入る許可は、すぐにもらえたらしい。

シノブ曰く「ユナが友達を連れてきたっす。城の中の見学の許可がほしいっす」「分かった」と一言で終わったらしい。

あとは、わたしたちのことや、カガリさんのことを少しばかり話して、戻ってきたとのことだ。

「カガリ様に久しぶりに会えて、嬉しかったのでしょう」

「会いたければ、家まで来ればよかろう」

「いや、仕事や立場上、簡単に会いに行けないっすよ」

「昔はよくサボっていたのにのう。真面目になりおって」

まあ、国王陛下だし、仕事を放り出して簡単に行くなんてことはできないと思う。

人はその立場になれば、その立場の振る舞いをしないといけない。

だから、いつも思う。

偉い立場になるものじゃない。

責任や仕事が増え、自由が減って面倒なだけだと。

小説や漫画で異世界に飛ばされて、立派な国王を目指したり、貴族の領主を目指す主人公たちは偉いと思う。わたしだったら、異世界に飛ばされても絶対に目指さないと思う。

お姫様や貴族令嬢になって、パーティに参加したりドレスを着たりなんて、逃げ出したくなる。

そんな貴族社会にノアたちはいるんだよね。

わたしが知らないだけで苦労しているのかもしれない。

でも、権力を使って、経済を回して、裏の支配者になって、のんびりするのはいいかもしれない。

「ユナさん、悪い顔になっています」

おっと、考えていることが顔に出ていたみたいだ。

わたしは頬をつまんで顔をほぐす。

面倒くさいことは嫌だけど、少しだけ楽しいかもと思ってしまった。

それから、しばらくして絵が完成する。

「できた〜」

「やっと終わったか」

カガリさんはあくびをして、サクラたちはわたしのところに集まってくる。

「ユナさん、画家になれますね」

「本物の絵描きさんっぽいです」

「本物には勝てないよ」

褒めすぎだ。

プロは毎日のように描いて、ウデが落ちないようにしている。たまにしか描かない、わたしとでは雲泥の差だ。

「あとで、複写を頼んでおくっす」

シノブはわたしが描いた絵を丁寧に木箱に入れ、アイテムボックスに入れる。

「あのう、ユナさん」

わたしが背伸びをしているとスズランさんが声をかけてくる。

「なに?」

「もし、ご迷惑でなければ、絵をもう一枚描いていただくことはできないでしょうか」

「絵を? スズランさんを描いてほしいの?」

「いえ、わたしではなく、カガリ様の」

「妾じゃと」

「できるかぎりのお礼をしますので」

わたしはスズランさんを見てから、カガリさんを見る。

スズランさんは昔からカガリさんのお世話をしている。そんなカガリさんの絵がほしいんだと思う。

「わたしの絵でよければ」

「まだ、妾は許可をだしておらぬぞ」

「どうせなら、スズランさんと一緒に描いてあげるよ」

「あ、ありがとうございます!」

「だから、妾は許可をだしておらぬと」

カガリさんの言葉は誰も聞いていなかった。

「なんで妾が……」

カガリさんは文句を言いつつも、モデルになってくれる。

椅子を二つ並べ、カガリさんとスズランさんが座る。

「カガリさん、そんな仏頂面をしてないで」

「カガリ様、申し訳ありません。わたしの我が儘で」

「お主には普段から世話になっているからのう」

「それなら、笑顔で」

「妾の顔は、いつもこんな顔じゃ」

確かに、カガリさんが笑っているところは見た記憶がない。

いつも、お酒を飲んでだらけている。

「カガリ様、笑ったら可愛いのに」

それには同意だけど、カガリさんはどちらかと言うと、神秘的なイメージだ。

妖狐ってこともあるけど、元が大人ってこともあり、子供なのに大人の雰囲気も出ている。

なので、わたしは神秘的な感じにカガリさんを描く。

スズランさんは、そんなカガリさんを見守る母性って感じに描く。

「ユナ様、本当に上手です」

「カガリ様を拝みたくなってくるっす」

そして、カガリさんとスズランさんの絵も完成する。