軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

726 デーガさん、クリモニアに行く その2

朝、起きると、すでにアンズたちは仕事をしていた。

「お父さん、おはよう。よく眠れた?」

「ああ、よく寝れたよ。アンズは店の準備か?」

「うん、材料の確認して、今日はどの料理が出せるか、みんなで確認しているところ。ミリーラのときみたいに、海の食材が無くなったからといって、すぐに買いに行けるわけじゃないからね」

ミリーラのときは食材が無くなれば、近くの店に買いに行ったり、息子の知り合いの漁師に余っている食材を譲ってもらっていた。

でも、クリモニアではそれができない。

一応、話によると、魚を販売している店もあるらしいが、ミリーラほど品揃えはよくないとのことだ。

「なにか、手伝うことはあるか?」

「今はないよ。お父さんは、クリモニアの街を見学でもしてきたら? いろいろと勉強になるよ」

「だが、俺はおまえのことを……」

「ここは、お父さんの店じゃないんだよ」

「そうだよ、デーガおじさん。アンズちゃんは一人前の料理人だよ」

「それにわたしたちがついているから、大丈夫だよ」

俺はアンズたちに押されるように店の外に追い出される。

その姿をクマの嬢ちゃんと、フィナの嬢ちゃんに見られていた。

俺の話を聞いたクマの嬢ちゃんは、クリモニアの街を案内してくれることになった。

昨日も思ったが、本当に大きな街だ。

いろいろな店が並び、多くの人が商売をしている。見たことがない店も多くある。

俺の希望で、食材や料理を中心に回ってもらうことになった。

いろいろな店がある。どれ一つとっても、勉強になる。

見たことがない食材に、見たことがない料理。こんな場所で暮らしていたら、新しい料理も増えていくだろう。

昨日、アンズの料理を見ていたが、新しい料理もいくつかあった。

そして、店の中には俺たちの同郷のミリーラから来て、アンズ同様に店を出している者もいた。

店の亭主も、最初は苦労したが、徐々にお客が増えて、クリモニアの住民に認められたと言っていた。

嬉しくもあるが、ミリーラから出て行ったと思うと寂しい気持ちもある。

でも、新しい街で挑戦することはいいことだ。

アンズも新しいことに挑戦して、今がある。

それもこれも、隣にいるクマの嬢ちゃんのおかげだ。

出店に関わる準備はクマの嬢ちゃんが、食材の仕入れ先への手配などはフィナの嬢ちゃんの母親であるティルミナさんがしてくれている。

さらにはいろいろな人がアンズの店にお客を呼び込むために、多くの人に声をかけてくれたらしい。それが人から人へと伝わり、店に来てくれるようになったとアンズが教えてくれた。

そのことをクマの嬢ちゃんにお礼を言うと。

「初めはそうだったけど。二度目、三度目と店に足を運んでくれるのは、アンズの料理が美味しいからだよ」

嬢ちゃんの言う通りだ。もし、食べて不味かったら、二度とそのお店には行かないだろう。

客にとっては数多くある一つの店だ。不味ければ、他の店に行ってしまう。

だから、料理の手を抜くわけにはいかない。

それから、食べ物つながりで嬢ちゃんが経営する、もう一つの店に行ったりした。

そこではミリーラの町に来たときに会ったモリンとカリンのパン職人がパンを作っている。

食べてみたが、凄く美味しかった。

俺とアンズとは違う料理だが、パンには情熱がこもっていた。

簡単に出せる味ではない。ここまでの味を出すのは大変だったはずだ。一人の料理人として尊敬する。

それに味だけではなく、子供に喜んでもらえるようにクマのパンなど、クマの顔をした料理が多くあった。

これなら、子供がまた来たいと思う。

料理は味も大切だが、見た目も大切だ。

タコやイカなどは料理にすれば、美味しく食べてもらえるが、以前お客に生きたタコやイカを見せたことがあったが、騒がれた。

俺たちは見慣れているが、タコやイカを知らない人にとっては気持ち悪いかもしれない。

味は最高なんだがな。

それから、アンズがお世話になっているフィナの嬢ちゃんの母親ティルミナさんにお礼を言うために会いに行く。

これ以上食べられないってこともあるが、アンズが世話になっている人には挨拶はするつもりだった。

「デーガさんいらっしゃい。フィナから聞いていましたけど、本当にアンズちゃんに会いに来ていたんですね」

「お恥ずかしいかぎりです」

「別に娘を心配するのは恥ずかしいことじゃないですよ。心配しない親より、心配する親のほうがいいです」

「そう言っていただけると助かります」

「ただ、あまり口を出しすぎると、子供に嫌われますからお互いに気を付けましょうね」

ティルミナさんは、そう言って、フィナの嬢ちゃんを見る。

子育ては俺のほうが長いが、俺よりも子供たちのことをよく知っている感じがする。

娘と息子を育ててきたが、幼いときは妻に任せていたかもしれない。それで、娘が料理を教わりたいと言ってから、子供を育てるって言うよりは、料理人を育てていたかもしれない。

それで、俺から離れてから、寂しい気持ちになっていたのかもしれない。

妻は子離れできているのに、俺ができていないようだった。

「だから、お互いに遠くから見守りましょう。それが親の役目です」

「そうですな」

アンズが困ったことがあれば、手を差し伸べよう。

「それで、アンズに男ができたら連絡を。どんな男なのか、確認しますので」

俺の言葉にティルミナさんは目を大きくして、笑い出す。

そんなおかしなことを言ったか?

「ごめんなさい。夫と同じことを言っていたので。でも、女性のわたしからしたら、父にそんなことをされましたら、余計なお世話と嫌われると思うので気をつけてくださいね」

妻にも同じことを言われたことがある。

だが、変な男に引っ掛かったら、大変だ。

「それに、ユナちゃんがいるかぎり、変な男は近寄ってこないから大丈夫ですよ。誰も死にたくありませんから」

ティルミナさんが怖いことを言う。

でも、なんとなく分かった。クマの嬢ちゃんがアンズのことを守ってくれている。

誰しもが、クマの嬢ちゃんのことを信じている。

俺もその一人だ。だから、アンズをクマの嬢ちゃんに任せることができた。

少しだけ、心に引っかかっていたものが取れた気がする。

それから、子供たちと遊んでいたクマの嬢ちゃんと、街の散策に戻る。

いろいろと食べ歩きをした俺は、遅くまで付き合ってくれたクマの嬢ちゃんと、フィナの嬢ちゃんにお礼を言って、アンズの店に帰る。

嬢ちゃんたちは、お腹を擦りながら帰っていった。

俺に付き合って、いろいろな食べ物に付き合わせてしまった。

俺が店に帰ってくると、店は夕食を食べに来るお客さんがたくさん来ていた。

窓から店の中を覗くと、どんどんお客さんが入っていく。店内ではセーノとフフォルネが忙しそうに動き回って接客をしている。

食べ終わったお皿を片付けて、テーブルを拭き、新しいお客を案内する。そして、注文を受け、厨房に伝える。そして、次々と厨房から料理が運ばれてくる。

昨日も思ったが、ちゃんとやっているんだな。

俺は黙って、店の中を見つめる。

このまま店が終わるまで、見守ろうと思っていると、窓の近くのテーブルを拭いていたセーノと目が合う。

セーノは窓を開ける。

「デーガおじさん! お帰り!」

隠れるのは諦め、俺はセーノに近づく。

「ああ、ただいま」

「なにか食べる?」

「いや、大丈夫だ。食べてきた」

「ええ、信じられない。アンズちゃんの料理じゃなくて、他の料理人の料理を食べるなんて」

「いや、勉強するために食べるだろう」

「裏切りだよ」

「セーノ、デーガおじさんを困らせないの」

フォルネが現れ、セーノの頭を軽く小突く。そして、俺のほうを見る。

「デーガおじさん、お腹が空いていないなら、手伝ってください」

「だが、ここはアンズの店だろう。それに朝は手伝わないでいいって言ってただろう」

「それは、デーガおじさんにクリモニアを見てほしかったから言っただけです。見終わって、手が空いているなら、話は別です」

「……」

「それに、アンズちゃんは、あんなことを言っていましたが、昨日一緒に料理ができて嬉しそうでした」

「……そうか」

「ですが、デーガおじさんにクリモニアを見てほしいと言うのも噓では無いと思います」

フォルネは微笑む。

「分かった。宿代ぐらいは働かないとな」

俺は店の中に入り、厨房に向かう。

「お父さん?」

「街は見てきた。手が空いて暇だ。指示をくれ。この店の料理人はおまえだ」

アンズは俺のことをジッと見たと思うと、頷く。

「それじゃ、お父さんはそこにある魚を捌いて」

「おお、分かった」

俺はアンズの指示で動く。

アンズの指示は迷いがなく、ベテラン料理人と遜色はない。

テキパキと料理を作り、補佐をしてくれるペトルに指示を出している。

出来上がった料理をセーノとフォルネが運び、接客をする。

「ありがとうございました」

「また、来るよ。セーノちゃん」

客は満足な顔をして店をあとにする。

「お父さん。次に肉をお願い」

「分かった」

ミリーラの町で一緒に料理を作っていたときのことを思い出す。

楽しい。

昨日も思ったが、成長している。

ちょっと見ないうちに、ここまで成長していたとはな。

……そんな楽しい時間も終わりを告げる。

「それじゃ、デーガおじさん、夕食のときだけでいいので、クリモニアにいるときは手伝ってくださいね」

「ああ、分かった」

「まあ、明日は休みなので、アンズちゃんと仲良く、お出かけをしてください」

フォルネに言われて、俺は頷く。

みんな、楽しそうでよかった。

これも全て、クマの嬢ちゃんのおかげだ。

翌日、店が休みなのでアンズと一緒に出かける。

アンズはクリモニアの住民のように街のことに詳しく、いろいろと説明してくれる。

「お父さん、聞いている?」

「ああ、聞いている」

「ミリーラにはない食材があるから、楽しいよ」

「ミリーラにも入ってきている」

クリモニアとミリーラに繋がるトンネルができたおかげで、見たことがない食材も少なからず入ってきている。

「そうなんだ。でも、クリモニアだと和の国の調味料や食材が入りにくいのが難点だね。それでも優先的に回してくれているんだけどね。これもユナさんのおかげ」

「そうか」

「さっきから、どうしたの?」

「なんでもない。アンズが成長していることを知れて、嬉しくもあり、少し寂しいなと感じただけだ」

「嬉しいは分かるけど、寂しい?」

「親としては子供が成長するのは嬉しい。でも、自分の手から離れていくのは寂しいんだよ。お前も結婚して、子供ができれば分かる」

「いったい、何年後の話? それにわたし、まだお父さんから離れたりしないよ。今はクリモニアで働いているけど、たくさんのいろいろな料理を覚えて、いつかはミリーラの町に戻って、みんなに食べてもらうんだから」

「アンズがクリモニアを去ったら、クマの嬢ちゃんが寂しがるぞ」

「料理のことなら、心配ないよ。料理を作るのが好きな子が孤児院にいるみたいだから、その子に教えてあげれば問題ないよ。今はニーフさんがいろいろと教えているみたいだから。今度、お店で体験させてあげることになっているんだよ」

「そうか」

「お父さんの味がいろいろな人に伝わっていくね」

アンズが笑顔を向ける。

「俺の味は簡単に真似はできないぞ」

「だから、毎日が修行だね」

アンズの顔を見ることができて、本当に良かった。

どこにいても、俺の娘だ。

慢心もせず、料理を作り続ける。

ただ、心配なのは、孫を抱けるかどうかだ。

まあ、気長に待つことにしよう。

数日後、俺はミリーラの町に帰った。

お土産として、アンズやクマの嬢ちゃんから、いろいろな食材をもらった。

もし、ミリーラで必要になったら、送ってくれることにもなった。

まだまだ、アンズに負けないためにも俺も勉強だ。