軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

721 クマさん、絵を描く

まったり中、プリメたちは何度も来ていたが、王女様に注意されて、来るのは自重したみたいだ。

でも、シェリーがぬいぐるみの修理屋さんをしていたなんてね。

孤児院が貧しいときには服の修繕とかもしていたから、直すのは得意なのかもしれない。

わたしはくまゆるとくまきゅうぬいぐるみも棚の上で埃を被るより、ボロボロになるまで使ってほしいと思った。

ぬいぐるみがボロボロになったら、新しく買ってあげればいいと思っていたが、その子たちにとっては、同じぬいぐるみでも、世界に一つしかないもので、替えはないのかもしれない。

でも、話してくれればよかったのに。

そうしたら、わたしも何かしてあげられた思う。

今日もまったりしようと思っていると、珍しいお客さんが家にやってきた。

「ユナちゃん、今いいかしら?」

「これから寝るので」

「つまり、大丈夫ってことね」

「わたし、寝るって言ったんだけど」

「だから、時間があるってことでしょう」

言葉が通じない。

人には睡眠という大切な仕事がある。

寝ないと死んじゃうんだよ。

でも、目の前の人は帰ってくれそうにもない。

わたしは諦めて、家の中に入ってもらう。

「くまゆるちゃん、くまきゅうちゃん、久しぶりね」

ミレーヌさんは部屋でくつろいでいるくまゆるとくまきゅうの頭を撫でながら挨拶をする。

「それで、なにか用?」

「ユナちゃんに絵の依頼をしようと思ってね」

「え!?」

「そう、絵よ」

ちなみに今の「え?」は驚いた「え」だ。

「絵って、紙に描く絵のこと?」」

「ええ、そうよ。それ以外にないでしょう」

「わたし、絵描きじゃないよ」

「でも、孤児院で絵本を描いてあげたんでしょう。見せてもらったわよ」

あの絵本を見られていたのか。

「あの絵本は販売したいところだけど、王家が関わっているのよね」

「知っているの?」

「絵本の裏に小さくだけど、王家の紋章があったわよ。流石のわたしでも王家が関わっていることに口を挟むことはできないわ」

流石のミレーヌさんでも国王には対抗できないみたいだ。

「でも、絵なら大丈夫でしょう」

「だけど、絵は冒険者への依頼じゃないでしょう」

「もちろん、冒険者としてのユナちゃんへの依頼ではないわよ。個人的なお願いよ」

「それじゃ、断っても」

「もしかして、描いてくれないの?」

「そもそも、わたしに描く理由がないんだけど」

「わたしとユナちゃんの仲でしょう」

仲なんてないでしょうと言うほど薄情ではない。ミレーヌさんにお世話になっているのは事実だ。

店を作るときにお世話になったし、卵のときにもミレーヌさんにメリットがないのに、わたしのお願いを聞いて、クリフに卵を売らないようにしてくれたりもした。

今後のことも考えると、邪険に扱うこともできない。

「分かったよ。描けばいいんでしょう」

わたしは絵本に使う紙をクマボックスから取り出す。

「それでなんの絵を描けばいいの? ミレーヌさんでも描く?」

「わたしを描いてくれるのは嬉しいけど、そもそも、その紙じゃ小さいわね」

「小さい?」

絵を描くときは、いつもこのサイズの紙を使っている。

絵本のときもそうだったし、和の国で着物姿のフィナを描いてあげたときもそうだ。

「紙はこっちで用意してあるわ。ここじゃ描くには狭いから、移動するわね」

「狭い?」

そんなに大きい紙に描くの?

わたしはミレーヌさんに連れて行かれる。

やってきたのは幽霊屋敷。プリメがいた屋敷だ。

「ここって、クリフから宿にするって聞いたけど」

「ええ、それで、この宿屋に飾る絵を描いてほしくて」

この屋敷にあった絵を思い出す。

殴りたくなる男の絵が飾られていた。

屋敷の中に入ると、ミレーヌさんはわたしが思っていた場所に連れていく。

想像どおりに男の絵が飾られている。

「この絵を処分する予定だから、ユナちゃんにはここに飾る絵を描いてほしいの」

処分って……この絵の人物が誰かは知らないけど、可哀想だ。

だからと言って、この男の絵が欲しいかと聞かれたら、速攻でゴミ箱行きだ。

まあ、宿屋にするなら、こんな人物が描かれた絵なんて必要はないと思う。

「でも、こんな大きな絵を描くの?」

絵本や和の国で掻いた紙のサイズより、遥かに大きい。

縦1m以上はある。

こんな大きな絵は描いたことがない。

絵が大きくなればなるほど、描くには難しくなる。

「上手に描けないかもよ」

「ふふ、謙遜はいいわよ」

別に謙遜とかではない。

経験がないことはできるかどうか分からないのだから。

「それじゃ、絵を描く部屋に案内するわね」

ミレーヌさんはそう言うと、2階の一つの空き室に案内する。

すでに、キャンバスはイーゼルにセットされており、描く準備は整っていた。

絵の具っぽいものも用意されている。

色を塗るのは久しぶりだけど、使えるかな?

「時間は?」

「そんなに慌てていないから、大丈夫よ。この宿もまだ準備中だから。掃除は終わったけど、用意する物は、まだたくさんあるわ。それに人材の確保はもちろんだけど、教育も必要だしね」

確かに建物があるからといって、すぐに宿屋を始められるわけではない。

従業員を集めたからといっても、教育がされていなければ、しっかりしたサービスが受けられない。どんな料理を出すのか。ベッドメーキングも必要だ。清掃や洗濯のルール。食材の仕入れなどもある。

簡単にできるものではない。

わたしのお店だってそうだ。

だから、わたしは面倒くさいので、そのあたりのことはティルミナさんに任せたけど。

「ティルミナさんが手伝ってくれたら助かるのに」

わたしの心を読んだかのようにティルミナさんの名前が出てくる。

「もし、ティルミナさんを引き抜いたら、ミレーヌさんとは縁を切るから」

「仕事は自由って言いたいところだけど、ユナちゃんの反感を買ってまではしないわよ。それにユナちゃん。わたしが誰か忘れている? 商業ギルドのギルドマスターよ」

「だから、権力を使って、ティルミナさんを……」

「どこの悪徳商人よ。そんなことはしないわ。でも、実際には欲しい人材であることは間違い無いわね」

わたしも本当に良い人材を確保できたと思う。

「仕事を探している人は多くいるわ。ただ、その中から真面目に仕事をやってくれる人を探すのが大変なのよ。いくら仕事ができたとしても、部下を導くこともできない者だったら、上を任せることはできないし、付き合いもある程度は必要でしょう。接客するんだから、優しくできない人や横柄な人には任せられない。その一方で、ティルミナさんは真面目だし、店の管理の経験もある。優秀な人だから、欲しいとは思うわよ。でも、ユナちゃんを敵に回してまで引き抜くメリットはないわ」

わたしがミレーヌさんにお世話になっているのと同時に、ミレーヌさんもまたわたしの恩恵を受けているのは事実だ。

持ちつ持たれつの関係かもしれない。

「あと、孤児院の子供たちも働いてくれたらとも考えたけど。どうかしら?」

「子供たちがやりたいと言えば、いいけど。無理にはさせないでね」

「クマさんの格好させて、働かせたら可愛いとは思わない?」

「ここは、わたしの経営する店じゃないから、クマは却下だよ」

もし、ここでクマの格好をさせて働かせたら、この宿までわたしが経営していると噂が立ってしまう。

「そんなことをしたら絵は描かないからね」

「冗談よ。子供たちの件も冗談だから気にしないでね。それに、子供たちに言ったとしても、誰もこの宿屋で仕事をしたいとは思わないわよ

「どうして?」

「だって、この宿屋はユナちゃんとは関係ないでしょう」

「……?」

どうして、わたしと関係ないと子供たちが働かないのか、意味が分からない。そんなの子供達に聞いてみないと分からないと思う。宿屋で仕事をしたいと思う子もいるかもしれない。

「ふふ、答えはみんなユナちゃんに褒められたいからよ」

ミレーヌさんは微笑みながら言うと、「それじゃお願いね」と言って、部屋から出ていった。

意味が分からない。

子供たちがどこで働こうが、一生懸命に働いていれば褒める。別にわたしの店とかは関係ない。

ミレーヌさんの言葉の意味が分からないけど、引き受けてしまったからには絵を描かないといけない。

そういえば、どんな絵を描けばいいか、聞くのを忘れた。

なんでもいいのかな。

まあ、わたしの店じゃないから、クマは除外だよね。

そうなると、思いつくのは一つだ。

わたしはペンを持つと、下書きを描き始める。

確か、こんな感じだよね。

ここはこんな感じで。

笑顔がいいよね。

口元はあげて。

……

それから、数日後、絵が完成する。

ミレーヌさんは忙しいのか、あれから一度も顔を出さなかった。

代わりにギルド職員の人が見に来たりしていた。

「ユナさん上手です」

リアナさんが完成した絵を見て、褒めてくれる。

わたしも、上手に描けたと思う。

キャンバスにはミレーヌさんが描かれていた。

椅子に上品に座り、笑顔を向けている。

「きっと、ギルマスも喜びます」

「だったら、嬉しいね」

「今日、完成するとお伝えしていたので、後で来ると思います」

そう話していると、ドアが開く。

「ユナちゃん、絵ができたと聞いたんだけど」

「うん、できたよ」

「……!?」

ミレーヌさんが絵を見て固まる。

「自分でも、上手に描けたと思うんだけど、どう?」

「なんで、わたしなの!?」

「ミレーヌさんが、あの肖像画の代わりに絵を描いてほしいって言ったから」

「それが、どうして、わたしの絵になるのよ」

「この建物の所有者を示すために、自分の肖像画を描いてほしかったんじゃないの?」

「違うわよ。わたしは絵本を見てと言ったでしょう。クマの絵を描いてほしかったのよ」

「クマが描いてほしいなんて聞いていないし、そもそもわたしの宿屋じゃないんだから、クマなんて描かないよ」

「しかも、何? この上手さ。ユナちゃん、こんな絵も描けたの?」

写真とまでとは言わないけど、十分に似ていると思う。

最近では、和の国にフィナたちと行ったときに、絵を描いてあげた。

「誰が宿屋のオーナーか分かるように、自分の絵を描くように頼んだんじゃなかったの?」

「わたしには、自分を主張する趣味はないわ」

「ですが、せっかくユナさんが描いてくださったのに、もったいないかと」

リアナさんが助け船を出してくれる。

「そうだけど、ユナちゃん。可愛いクマさんを描いてくれない?」

ミレーヌさんが手を合わせて、お願いしてくる。

「それじゃ、このミレーヌさんの絵はどうするの?」

「それは……」

流石に頑張って描いたんだ。

処分したり、倉庫に眠ることはしてほしくない。

「商業ギルドに飾るのはどうですか?」

「嫌よ」

リアナさんが案を出してくれるが、速攻で却下するミレーヌさん

そして、話し合った結果。

わたしがクマの絵を描く代わりに、ミレーヌさんの絵は商業ギルドの資料室に飾ることになった。

ギルマスの部屋という案もあったが、自分の部屋に自分の絵があるのを嫌がり、ギルマスに会いに来たお客さんに見られるなんて嫌だという。

それで、リアナさんが妥協案をだして資料室に飾ることになった。職員に見られるのは我慢するとのことだ。

そして、わたしは絵本風の可愛らしいクマの親子の絵を描いてあげた。