軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

718 クリフ、頭を抱える

仕事をしているとユナとノアが執務室にやってきた。

なんでも相談があるそうだ。

その話を聞いた後、俺は頭を抱えたくなった。

妖精だと?

どこかにいるとは聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。

妖精の名前はプリメ。

そのプリメの頼みで、姉を捜してほしいと。姉を捜すにはユナと娘のノアの力が必要とのこと。

妖精を見られるようにするにはユナの魔力が必要とのこと。そして、姉の居場所を見つけるにはノアの体に入ってしまったプリメの姉のハンカチが必要とのこと。

妖精の頼みは断れない。

断れば、どんなことが起きるか分からない。

妖精については、良い話もあれば、悪い話もある。

大切な娘に危険なことはさせたくないが、ユナが一緒なら安心だろうという思いもあって、俺は許可を出す。

ユナは格好こそ変だが、冒険者としての実力は高い。なによりも娘を大切に思ってくれている。そんなユナがノアに危険なことをさせないと思うし、守ってくれるだろう。

魔物一万匹、ブラックバイパー、黒虎、クラーケンを単独で倒せる冒険者がどれほどいるか。

それに、このような経験はさせたくてもできるものではない。きっとノアにとっても、貴重な経験になるだろう。

だが問題が一つ残る。

ユナが調査依頼を受けた屋敷だ。

冒険者ギルドの件は、俺の方でなんとかすると言ったが、屋敷に妖精がいたとは絶対に言えない。

そんなことを言えば大騒ぎになる。それは妖精にとっても、クリモニアにとっても良いことではない。

翌朝、ノアがやってくる。

「それでは、お父様、行ってきますね」

「ああ、ユナがいるから大丈夫だと思うが、気をつけろよ」

「はい」

ノアは妖精を捜すために家を出ていった。

楽しそうにしていたが、少し不安だ。

我が儘を言う娘ではないが、クマ関係になると何をするか分からない。だが今は信じるしかないだろう。

しばらくして俺も家を出て、冒険者ギルドに向かう。

冒険者ギルドに入ると冒険者たちが口々に、どんな依頼を受けるか、依頼の取り合いをしている。

相変わらず騒がしいところだ。

俺は受付に向かう。

確か、ヘレンという受付嬢だ。

「少しいいか?」

「これはクリフ様! は、はい。大丈夫です。もしかして、ご依頼でしょうか?」

受付嬢は緊張しながら尋ねてくる。

「先日、ユナが屋敷の調査の依頼を受けたと思うが、その件だ」

「ユナさんの依頼ですか。はい、確かにユナさんが幽霊が出るという屋敷の調査を受けましたが……」

「その報告をユナの代わりにしに来た」

「クリフ様がですが!?」

受付嬢は驚く。

「ああ、あの屋敷には子供が入り込んでいたようだ」

一日考えて、そう説明する。

妖精がいたとは言えない。まして、泥棒となれば、捕まえないといけない。なら、穏便に済ませるため、子供ってことにする。

「それは本当でしょうか?」

「なんだ。俺の言葉を信じないのか?」

「いえ、そんなことはありません。ですが……。光とか、声とか……」

子供のイタズラにしては不審な点が多かったから、俺の言葉を怪しんでいるんだろう。

「もし、幽霊がいたとしても気にするな」

「ですが、商業ギルドからの依頼なので……」

冒険者ギルドとしても、適当に処理はできないんだろう。

「分かった。俺が商業ギルドに出向いて報告すればいいんだな」

「いえ、クリフ様に、そんなことは……」

「俺が伝えたほうが早い。今から行ってくる」

面倒臭いが仕方ない。

これも、クリモニアを平和な街にするためだ。

妖精がいると知られたら、妖精を捕まえに来る者、見に来る者、騒ぎになるのは目に見えている。

それでなくても、ミリーラの町を行き来きするために以前より人が増えている。

この者たちは街にお金を落としてくれるからいいが、妖精探しとなれば、邪魔以外にはならない。

どんな人間が来るか分かったものではない。

「それでは、わたしも一緒に行きます」

「別に、来なくてもいいぞ」

「いえ、冒険者ギルドの確認も必要になります。二度手間になると困りますので、わたしも行きます」

受付嬢のヘレンは他の受付嬢に頼むと、俺と一緒に冒険者ギルドを出る。

「クリフ様、お一人で来たのですか?」

「自分の街を歩くのに護衛は必要ないからな」

俺の言葉に受付嬢は驚く。

娘のノアでさえ、一人で出かけている。

出歩く程度なら、俺だって護衛は必要ない。

街の見回りをしている警備兵もいる。住民の安全は守られている。

俺は商業ギルドに向けて歩き出す。

受付嬢は緊張した面持ちで、一歩後ろから付いてくる。

後ろから「ユナさんのバカ」「ユナさん、どうしてクリフ様に」と聞こえてくる。

「ユナの事はすまない。俺がユナに取り急ぎの頼み事をしてしまったばかりに、この街にいないんだ」

「いえ、クリフ様が謝ることはありません」

「そう言ってくれると助かる」

俺がそこまで言うと、受付嬢は黙る。

ユナに相当、苦労をかけられているのかもしれない。

そして俺たちは商業ギルドまでやってくる。

面倒臭いので、受付でミレーヌを呼んでもらう。

「クリフ? どうして、あなたがここに? それにヘレンさんも?」

「話がある」

俺がそういうと、奥のギルマスの部屋に通してくれる。

「それで、どうしたの? ヘレンさんとクリフの組み合わせなんて、珍しいんじゃない?」

「それは、わたしから、報告させていただきます」

受付嬢は、そういうと幽霊屋敷の件をミレーヌに話す。

「ああ、あの屋敷の件ね」

「それで、ユナさんに調査依頼をしたのですが、その報告にクリフ様がいらっしゃいまして」

「どうしてクリフが?」

面倒臭いが、もう一度、冒険者ギルドで話したことを言う。

「怪しいわね。それでどうして、クリフがユナちゃんの代わりに説明に来るのよ。それに子供が入り込んだとなれば、それなりの形跡があったはずだけど……?」

ミレーヌがヘレンを見る。

「そのような報告は……」

面倒臭い。

「とにかく、あの屋敷に問題はない」

「そういう訳にはいかないわ。購入した人が、あとで幽霊が出たとなれば、商業ギルドの信用問題なのよ」

「分かった。俺が購入する」

「本気?」

「ああ、それなら問題はないだろう」

「そうだけど、あんな屋敷を買ってどうするのよ?」

最近、気にかかる報告が上がっている事を思い出した。

宿屋が足らず、夜中に街をうろつく者や、馬車の中で泊まる者、誰もいない場所に許可もなくテントを張って泊まる者が増えていると言う。

「宿にする」

「宿?」

「ああ、おまえさんたちも知っているだろう。最近、泊まれる場所が足らないことを」

「ええ。確かに商人が泊まれる宿を紹介してほしいと言われて、いくつか紹介はするものの、全て埋まっているということが多くなってきているわね」

「はい、冒険者ギルドでも、他の街から来た冒険者が泊まれずに、冒険者ギルドの部屋を貸し出すことが増えています」

「だから、あの屋敷を宿屋にする」

「でも、宿屋にしては立派過ぎない? あの屋敷を宿屋にするなら、それなりの価格にしないといけないでしょう?」

「あの屋敷の間取りはあるか?」

「間取り? もちろんあるわよ」

ミレーヌは職員に屋敷の図面を用意させる。

すぐに職員は屋敷の図面を持ってくる。

そしてテーブルの上に図面が広げられる。

孤児院のお金や他にもあちこちのお金を着服していた、あいつが住んでいた屋敷だ。

本当は取り壊したい気持ちがあるが、建物自体は悪くない。

広く、一階は使用人が使っていたと思われる部屋が多い。

俺は一階部分を指さす。

「思ったとおりだな。一階は使用人が使っていた部屋が多いな。この部屋の価格を抑えて普通の人でも泊まれるようにすればいい」

他にもキッチンも倉庫もあり、食材を置いておける場所もある。

次に二階に目を向ける。

「二階は客室が多いな。部屋も広いから、ここは少し価格を上げればいいだろう」

使用人の部屋と比べても2倍から3倍ある。

他にも資料室などもあるが、あのバカの親子が使っていたとは到底思えない。

見栄を張るために用意させただけかもしれない。

ただ、金になるものは全部、王都の親戚に送るように指示を出していたから、空っぽかもしれない。

まあ、屋敷になにが残っているか、改めて確認は必要だろう。

そして、三階の間取りに目を向ける。

あいつの部屋と思われる部屋があり、広い隣の部屋には風呂もある。

「この広い部屋は最上級の部屋として解放する」

この部屋には泊まりたいと思わないが、他の街から来る者で、あいつが住んでいたことなんて知る者はいない。金持ちに泊まらせればいいだろう。

「確かに階ごとに値段を決めればできそうね」

「もし、宿にして幽霊が出ると騒ぎになったら、俺の責任で対処する」

「なにか怪しいわね。絶対に幽霊が出ないと確信しているみたいな……」

「だから、子供が遊んでいただけと言っているだろう」

妖精が現れるのは妖精の鏡だ。その妖精の鏡はユナが自分の家に持って行った。

妖精(幽霊)が屋敷に現れることはない。

「はぁ……分かったわ。あなたが購入して責任を持つと言うなら、商業ギルドとしても問題はないわ。冒険者ギルドとしてもそれでいいかしら」

「はい。冒険者ギルドとしても、商業ギルドが問題なしとしてくださるなら、依頼は完了として、処理をさせていただきます」

これで屋敷の件は大丈夫だな。

「それで、あとのことはミレーヌに任せていいか?」

「まさかと思うけど、わたしに丸投げする気?」

「それがおまえさんたちの仕事だろう。宿で働く者、料理人、メイド、清掃員、宿で必要な人数、給金から宿代を算出して、報告してくれ」

「それは仕事としてかしら?」

「基本的に俺が口を出すつもりはない。俺の利益は2割でいい。あとは商業ギルトのものにしてくれて構わない」

「2割……」

「屋敷を購入する代金は長い目で見ても回収したいからな」

「そこは懐の大きなところを見せるのが領主様じゃないかしら?」

「狭くて結構だ」

ミレーヌは文句を言いたそうだったが、どうやったら利益が出るか考え始める。

流石、たくましい。

最後にユナから預かっていた屋敷の鍵をミレーヌに返して、今回の件は終わる。