軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70 クマさん、国王に会う

1人先に戻ってきたわたしはフィナを迎えにノアの屋敷まで向かう。

王都の中は未だ騒がしい。

でも、明日にも早馬が来るはずだから直に収まるだろう。

わたしは屋敷に着くと花壇を一緒に作ったスリリナさんに居間に案内される。

しばらく待っていると、走ってくる足音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開かれる。

「ユナお姉ちゃん!」

「ユナさん!」

フィナとノアの2人が部屋に入ってくる。

「2人とも元気にしていた?」

「ユナお姉ちゃんこそ大丈夫ですか」

「ユナさん、それでお父様は」

「大丈夫よ。魔物は討伐されたし、クリフが生きているのも確認したよ。あと数日で到着するんじゃない?」

「ほんとうですか」

ノアに笑顔が戻る。

「ノアもフィナを預かってくれてありがとうね」

「いえ、友達ですから、当たり前です」

「ノア様……」

フィナが嬉しそうにする。

わたしが王都に戻ってきた翌日、早馬が王都に到着し、時間が進むにつれて次々と兵士と冒険者たちが謎のAランクパーティーを称えながら、帰ってくる。

それと一緒にクリフも到着する。

さらに数日後、ギルドマスターのサーニャさんが王都に戻り、わたしは冒険者ギルドに出頭を命じられた。

「いらっしゃい、ユナちゃん」

「それでなにか用?」

「うん、少し困ったことが起きてね」

目を逸らしながら言葉を続ける。

「国王がね。ユナちゃんって言うか、架空のAランク冒険者に会いたがってね」

「国王が……、断ることは」

「それが、どうしてもって言ってね。名前を教えろとまで言ってくるのよ。ああ、もちろん、ユナちゃんのことは話していないわよ」

国王=面倒ごと

の公式が頭の中で完成する。

「サーニャさん、お世話になりました。わたしは旅に出ますから、探さないでください」

よくあるテンプレの文章の一文を読み上げてみる。

「ちょっと、待って。逃げたら指名手配になるわよ。逃げたら、わたし名前言うわよ」

「脅迫するんですか?」

「お互いに妥協点を探そうって話よ。ユナちゃんは討伐のことが知られたくないってことだよね」

「ええ」

「なら、国王だけに話すのはどうかしら? 国王陛下には誰にも話さないようにお願いするから」

「そんなことできるの?」

一国の王だ。

そんなこと了承するのだろうか。

まして、誰とも分からない冒険者に護衛も付けずに会うなんてするかな。

「約束は守る人だから、約束ができれば可能ね」

「約束ができなかったら」

「大々的に英雄に祭り上げられるか、勲章授与とか。誕生祭のときに国王陛下の隣に立って握手とか」

「えーと、どのくらい、移動すれば他の国に行けますか。できればこの国の力が及ばないぐらい遠いといいんですけど」

「だからユナちゃん。1日もらえない? もし陛下が約束をしてくれたら、陛下に会ってくれない? 王都から逃げ出すにしてもそれからでも遅くないでしょう」

たしかに、英雄に祭り上げられそうになったら逃げればいいことだ。

わたしは渋々とサーニャさんの考えを了承してギルドから出る。

帰ってきてのんびりとクマハウスにいると、夕方頃サーニャさんがクマハウスにやってきた。

「こんな時間にごめんなさいね」

「いいですけど、国王様との話はついたんですか」

「ええ、国王陛下が1人で会ってくれるそうよ」

「本当に国王様1人なんですか。国王様ですよ。わたしが暗殺者だったら、どうするんですか」

「一応、わたしも同席はするわ。それに、国王陛下はどうしても魔物を倒した人物に会って礼が言いたいそうなのよ。だから、わたしのお願いは全て受け入れられたわ」

そこまでしてくれたなら断ることはできない。

「それでいつ会いに行けばいいの?」

「明日の朝に迎えに来るわ」

それからわたしは大事な質問をすることにする。

「この格好で行っていいの? 駄目なら今日の夜のうちに王都を出るけど」

このクマさんの格好でないと何かあった場合逃げ出すこともできない。

「大丈夫よ。国王陛下には変な格好をしているけど、それでも会いたいかと聞いておいたから。そしたら、構わないって返答だったから」

気が重いまま翌日がおとずれる。

サーニャさんが来ないことを祈っていたが、祈りは天には届かず迎えに来た。

フィナには留守番を頼み、サーニャさんと一緒にお城に向かう。

お城に入ると、そこには会いたくない人がいた。

「あら、ユナちゃん。ギルドマスターとこんなところでどうしたの」

お城の中を歩いているエレローラさんに会ってしまった。

仕事場がお城であるエレローラさんには十分に会う可能性はあった。

でも、広い城の中で会うなんてタイミングが悪すぎる。

「エレローラ様、おはようございます。わたしとユナちゃんは少しお城に用がありまして」

「あら、そうなの。どこに行くの? わたしも一緒に行くよ」

「いえ、それは」

「あら、遠慮しないでいいのよ。わたし暇だから」

「仕事はいいのですか?」

「部下が優秀だから大丈夫よ」

その言葉にサーニャさんは困っている。

もちろん、わたしも困っている。

そんなわたしたち2人の顔を見て、エレローラさんが笑い出す。

「ふふ、ごめん。そんな困った顔しないで。クリフから魔物のことは聞いているから。もちろん、誰にも話していないから大丈夫よ。これから国王のところに行くのでしょう」

「性格が悪いですよ。エレローラ様」

「だって、ユナちゃんがわたしに話してくれないのだもん」

「仕方ないじゃないですか。エレローラさん。お城の関係者なんだから」

「だからと言ってクリフに口止めさせることないじゃない。口を割らせるの大変だったのよ」

クリフ頑張ったんだ。

それじゃ、怒るに怒れない。

でも、どうやって口を割らせたのだろう。

「話を聞いているなら、エレローラ様も本当に一緒に行きますか?」

「ええ、行くわ。クリフから聞いた話もあるしね」

3人となったわたしたちは国王様がいる執務室に向かう。

入り口には近衛兵が立っている。

近衛兵に話が通っているみたいでギルドマスターを見ると部屋の中に通してくれる。

「よくきたな」

部屋の中に入ると40歳過ぎのハンサムなおじさんがいた。

この人が国王かな。

でも、王冠はかぶっていないね。

「エレローラもいるのか」

「魔物を倒した冒険者がわたしの知り合いだったからね」

エレローラさんはわたしの方をみる。

それに釣られて国王の視線もわたしの方を向く。

「それで、Aランク冒険者を連れてくると聞いたはずだが、その変な格好をした女の子はなんだ」

「国王陛下、申し訳ありません。Aランク冒険者はいません。魔物の群れを倒したのはこの彼女が1人でしたことです。この女の子が倒したと言っても信じてもらえないと思い、Aランク冒険者と偽りました」

「冗談を聞いている暇はない。冒険者はいつ来るんだ」

国王が怒っている。

もっともなことだ。

いきなり、魔物を倒したのがAランク冒険者ではなく、変な格好をした女とか言われたら怒るだろう。

「だから、会わせたくなかったんです。国王陛下、これは事実であり、信じてもらうしかありません。このことはギルドマスターである、わたしが保証します」

「わたしも保証するわ」

「おまえもか」

「だって、クリフを助けてもらったのですもの 。それ以上の証拠はないわ」

国王がわたしの方を見る。

「本当にお前が倒したのか。そのフードを取って話してみろ」

あまりの緊張に国王の前なのにフードも取らずにいた。

わたしはフードを取り挨拶をする。

「冒険者ユナです」

「まだ、子供じゃないか。本当におまえさんが1万を超す魔物を一人で倒したのか」

小さいけど15歳です。

「倒しました。証拠を出せと言うなら出します」

「あるのか」

「森で倒した、ワーム、ワイバーンの死体があります」

「彼女は古代の遺物のアイテム袋をもっていますから」

「そんな物をもっているのか」

「そのことはわたしが保証するわ」

この古代の遺物の件はここに来るまでの間に話し合っておいたことだ。

わたしのクマボックスは特殊であり、ワームほど大きな物は通常のアイテム袋には入らない。

入るとしたら古代の遺物ぐらいの物だと教えてもらった。

だから、このクマのアイテム袋を古代の遺物とすることにした。

「 俄(にわ) かには信じられないな。でも、おまえら二人が言うなら本当なんだろうな」

国王はあらためてわたしの方を見る。

「感謝する。王都に住む国民、兵士の命を救ってくれたことに礼を言う」

「いえ、別に魔物を倒したのはついでですから」

「……ついで?」

本音が漏れてしまった。

「そうなのよ。ユナちゃんはね。わたしの娘のために魔物を倒してくれたのよ」

エレローラさんは笑みを浮かべながら嬉しそうにする。

それから、魔物を倒した理由をクリフから聞いたことを面白おかしく話し始めた。

「女の子が泣きそうにしている。そんな理由で倒されたのか」

「あら、十分な理由でしょう。守りたいもののために戦うのは」

「分かっている。ただ、これをたくらんだ奴が聞いたら、死んでも死にきれないと思ってな」

「「たくらんだ?」」

ギルドマスターとわたしの声がハモる。

「そうだな、当事者のおまえたちなら話してもいいだろう」

国王はこの魔物襲撃未遂事件は一人の男が復讐のためにおこなったことだと説明をしてくれた。

魔物を操る魔法、そんなのがあるんだ。

ゲームでも魔物をテイムすることによって魔物を仲間にすることはできたけど。

話を聞く限り、違うっぽい。

命を消耗するなんてそんな魔法は知らない。

この世界の禁呪的な魔法なのかな。

そんなことを考えているとドアの外が騒がしくなる。

「駄目です。フローラ様。中にはお客様がいらっしゃっておりますから」

ドアが少し開き、声が聞こえてくる。

「やだ。くまさんに会うの」

「お願いしますから」

「やー」

「どうした?」

「それがフローラ様がくまさんに会いたいと」

近衛兵がドアを開けて説明した瞬間、その横を小さな体を利用して、部屋の中に入ってくる。

「くまさん!」

わたしに向かってフローラ姫が抱きついてくる。

「会えたの」

うれしそうに頭をわたしのお腹に擦り付ける。

「なんだ。おまえ、フローラと知り合いなのか」

「前にわたしとお城に来たときにフローラ様に会ったのよ」

わたしの代わりにエレローラさんが答えてくれる。

「もしかして、あのクマの絵本って」

「見たの? あれ、ユナちゃんが描いたものよ。上手かったでしょう」

「なんていうか、可愛らしい絵だった。誰が描いたんだとフローラに聞いてもくまさんとしか答えてくれなくてな。でも、納得だな」

わたしの方を見る。

クマですがなんですか。

「くまさん、遊んで」

「うーん、どうかな?」

わたしは皆の方をみる。

「構わないぞ」

国王直々の了承が出た。

クー

そのとき小さなお腹の鳴る音が聞こえた。

「フローラ姫、お腹が空いているのですか?」

「うん」

まだ、お昼まで時間はある。

クマボックスにはプリンが入っている。

このぐらいならいいかな。

でも、お姫様にあげていいものなのかな?

「えーと、姫様に食べ物あげてもいいですか?」

「構わんぞ」

そんなに簡単に了承していいの?

わたしが毒物をあげたらどうするつもりなんだろう。

「聞いておいてあれだけど、本当にいいの? 毒が入っているとか」

「なんだ、毒物を食べさせるのか」

「しませんけど。王族なら、もう少し気をつけるんじゃないかと思って」

「エレローラとサーニャが信頼する人間だ。俺が心配することじゃない」

「それじゃ、姫様のお部屋に行こうか」

「うん」

「ここで食べていけばいいだろう。それなら、変な疑いもなくなるだろう」

確かにそうだけど、国王の前でプリンを出すとかしたくないな。

でも、今更出さないわけにはいかないし。

クマボックスからプリンとスプーンを取り出す。

「フローラ姫、これをどうぞ」

「なにこれ」

「冷たくて甘くて美味しいお菓子ですよ」

フローラ姫は小さな手でスプーンを持ち、プリンを口に運ぶ。

その瞬間フローラ姫の顔が花が咲いたような笑顔になる。

フローラ姫は次々とプリンを口に運ぶ。

喜んでもらえたようだ。

「おいしい?」

「うん」

小さく頷く。

笑顔がかわいい。

わたしは頭を撫でたくなり、王族の姫様の頭を撫でてしまう。

でも、誰も咎める者はいない。

「なんだ、そんなに旨いのか?」

娘が美味しそうに食べているプリンが気になったようだ。

「ユナちゃん。わたしも、もう一度食べたいな」

エレローラさんが物欲しそうに見てくる。

「エレローラ様は食べたことがあるのですか」

サーニャさんが聞いてくる。

目線はプリンに向かっている。

おお、もしかしてあなたもですか。

「ええ、前に食べさせてもらったわ。甘くて冷たくて美味しいのよ」

全員の目がプリンとわたしを交互に見ている。

「えーと、食べます?」

「ああ、貰おう」

「ありがとう、ユナちゃん」

「わたしもいいの?」

とりあえず、3つ出す。

プリンが残り、5個になった。

これはフィナも楽しみにしているから本当に一度戻らないと駄目かな。

「なんだ。これは」

「うーん、美味しい」

「あら、本当に美味しいわ」

3人とも喜んでもらえてなによりだ。

そのとき、ひとつの視線を感じる。

ジーと見ているフローラ姫がいた。

空になったカップとわたしを見ている。

「最後の一つですよ。食べ過ぎるとお昼が食べられなくなりますから」

「うん」

そう注意してプリンを一つ出してあげる。

「なんだ、城下にはこんな美味しいものが売っているのか」

「わたしも知りませんでした」

「そりゃ、そうよ。これはユナちゃんが考えたお菓子だもん」

エレローラさんがわたしの代わりに説明してくれるが、別にわたしが考えたわけじゃない。

でも地球の知識だとは言えない。

「そうなのか。だが旨いな」

「ほんとうね」

「レシピが分かれば、うちの料理人でも作れるのか?」

「作れるけど」

教えたくはない。

「駄目よ。この食べ物でユナちゃんは孤児院の子供たちにお店をもたせてあげようとしているんだから」

「どういうことだ?」

エレローラさんはクリフから聞いたのか、わたしが街でやっていることを話しはじめた。

街で孤児院の面倒を見ていること、プリンの材料である卵のためコケッコウを育てていること。

それで、孤児院の子供たちに料理がしたい子がいたら、店をもたせようと考えていること。

「どうして、そんなに詳しいんですか?」

「もちろん、毎回来るクリフの手紙にあなたのことが嫉妬するぐらいに書かれていたからよ。このことはユナちゃんが持ってきた手紙に書かれていたわよ」

誰か個人情報保護法を作ってください。

「なら、レシピを聞くのはよそう。でも、たまには持ってきてくれると俺も娘も喜ぶから頼む」

「はい、それなら」

「エレローラ、ユナにはいつでも城に入れるように手配をしておいてくれ」

「はい、分かりました」

プリンを持っていくためにギルドカードに城の入城許可証が記載されることになった。

それでいいのか。