軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

714 クマさん、ノアを送り届ける

クマの転移門の扉が開き、クリモニアへと繋がる。

「くまゆるとくまきゅうは、ブリッツたちを運ぶのを手伝って」

「「くぅ〜ん」」

ブリッツたちはクマバスの中で静かに寝ている。

わたしはブリッツたちを起こさないようにゆっくりと大きくなったくまゆるとくまきゅうの背中に乗せ、クマハウスの二階の寝室に寝かす。

眠り粉が効いているのか、運んでいる間も起きることはなかった。

「ここ、本当に妖精の森から離れた場所の街なの?」

ローネがクマハウスの窓から外を見ている。

「クリモニアっていう街で、ノアはこの街の領主の娘だよ」

「そうなの!?」

「はい。ですが、お父様は妖精になにかするような人ではないので、安心してください」

「わたしも、ノアの父親に会ったけど、悪い人間じゃなかったよ」

ローネは窓に張り付くように外を見ている。

「それで、ブリッツたちは、どのくらいで目が覚めるの?」

ブリッツたちに毛布をかけ、窓の外を見ているプリメとローネに尋ねる。

「その人の睡眠状況によるよ。睡眠不足な人は深く。睡眠が足りている人は目覚めも早いわ。眠り粉は、その人の睡眠を誘うものだから」

つまり、その人の体調次第ってことらしい。

体が疲れていたり、睡眠不足なら長く。

体調がよく、睡眠がしっかり取れていれば、早く目覚めるということらしい。

結局のところブリッツたちがいつ起きてくるか分からないので、わたしは最後の仕事をする。

それはノアをクリフのところに送り届けることだ。

「それじゃ、ノアを家に送り届けてくるけど、2人はどうする?」

「わたしは行くわ。ノアの父親にお礼を言わないと」

「……わたしも行くわ。今回のことはわたしのせいだから」

「別にいいけど。あなたたちの姿が他の人に見られると騒ぎになるから、ノアのポシェットの中に隠れるか、姿は消してね」

「それじゃ、姿を消すわ」

「プリメさんが見えなくなりました」

ノアの目からプリメが消えたらしい。

「でも、わたしは見えているのでしょう」

「はい。ローネさんは見えています」

「その代わりに、わたしの姿はユナには見えない」

もう、言ったほうがいいかもしれない。

「その、いつ伝えるか悩んでいたんだけど。わたし、ローネの姿も見えているから」

わたしの言葉にローネが驚く。

「嘘でしょう」

「あのリヤンさんが実験したときに見えていたんだけど。それを言うとややこしいことになると思って、言わなかったんだけど」

「それじゃ、ユナさんはローネさんともパートナーってことですか?」

わたしは首を横に振る。

「パートナーってわけじゃなくて。わたし、たぶん全ての妖精を見ることができるんだと思う」

「嘘⁉」

「あくまで、想像だけどね」

クマ装備のおかげなら見ることができる可能性は十分に高い。

チート装備だ。

でも、それを確かめる手段は、今はない。

ここに他の妖精がいないと確認することはできない。

実際は奇跡的にプリメとローネの2人だけと相性がよく、他の妖精は見えないかもしれない。

確認するために妖精を連れてくるわけにはいかないので、今は確認はできない。

ただ、あの女王様が言っていた言葉も気になる。

懐かしい魔力。

もしかすると、それと関係があるのかもしれない。

「なにか、ズルイです。ユナさんだけ、2人が見えるなんて」

そんなことを言われても困る。

これも神様の恩恵だと思う。

わたしはノアを宥めるとクマハウスを出る。

「クリモニアに帰ってきたんですね」

ノアは周りを見ながらしんみりした様子で言う。

「いろいろありましたが、これで終わりなんですね。少し寂しいです」

始まりがあれば、終わりがある。

終われば、新しいことを始めればいいだけだ。

でも、しばらくはのんびりしたいものだ。

「クリモニアに帰ってきたら、現実に戻ってきた気分です。今までのことが、夢のようで不思議な体験に思えてきます」

まあ、現実離れしたことがいろいろあったからね。

妖精、それからノアにとってはクマの転移門もそうだと思う。

そんな会話をしていると、ノアの家が見えてくる。

家の近くにやってくると、すぐに門番が気付き、ララさんに連絡が行き、クリフのいる部屋に案内される。

「お父様!」

ノアはクリフに駆け寄る。

「怪我はないか?」

「はい、大丈夫です」

ノアはクリフに向かって微笑む。

その笑顔を見てクリフも安堵する。

「そうか。それにしても、かなり遅かったようだが」

クリフがわたしのことを見る。

「ちょっと、いろいろとあってね」

「そのいろいろな話を聞く前に、妖精の件はどうなった?」

「ノアのおかげで見つけることができたよ。プリメ、ローネ」

わたしが声をかけるとクリフの視線がノアの側にいたプリメとローネに向けられる。

「いたんだな」

「うん、一応お礼を言わないといけないと思って」

「それで、そっちにいるのが姉の妖精か」

「ローネよ。その子にはお世話になったわ」

「見つかってなによりだ。それじゃ、ノアの役目も無事に終わったんだな」

「うん、娘さんをありがとうね」

その言葉にクリフは安堵の表情をする。

「それで、説明はしてくれるのか?」

わたしは説明できるところはクリフに話した。

「妖精を愛する人間による暴走か。領主の役目を放棄して、住民を苦しめるとは」

「それで、お父様。サーヘルって名前の国がどこにあるかご存知ですか?」

「聞いたことがないな。海を渡った先に小国の集まりがある。その一つかもしれない。近くにある大国の名前でも聞けば、分かるかもしれないが」

「クリフでも分からないことがあるんだ」

「地方領主なんて、そんなものだ。関わりがあるとしても隣国ぐらいだ。まして海を渡った先の国なんて、俺との関わりなんてない」

そう言われたら、なにも言えない。

関わりがない国の名前なんて、知らないのもしかたない。

わたしも中東やアフリカなどの小さい国は国名も正確な場所もほとんど知らない。

日本の都道府県でさえ、どこだっけ? となることもある。

全ての国名と場所を知っているのは地図マニアぐらいだと思う。

まして異世界、細かい地図がどこまで作られているか分からない。

「どうしても知りたいなら、王都にいるエレローラに聞くんだな。お前さんの頼みなら調べてくれるだろう」

「う〜ん、気が向いたら聞いてみるよ」

実際問題、どこにあの街があろうが関係ない。クマの転移門は設置済みだ。

船に乗って、あの街に行く予定はない。

「あと、もう一つ。言うことが」

「なんだ?」

「わたしたちを見て、変だと思うことはない?」

「変なことだと?」

クリフはわたしたちを見るが、変なことに気付かないみたいだ。

「分からん。なにが変だと言うんだ」

「妖精を見る方法は?」

「相性だったな。それで、ほとんどの者が妖精を見ることができない……」

そこまで言って気付いたみたいだ。

クリフはローネをジッと見ている。

「どうして、見えているんだ?」

「簡単に言えば、ノアと相性がよかったみたい」

「ノアが」

「わたしだけじゃありませんよ。ユナさんなんて、プリメさんとローネさんと両方と相性がいいんですよ。信じられません」

ノアを見ていたクリフの目が、わたしに向けられる。

「そうなのか?」

「そうみたいだね」

「おまえさんは、本当に何者なんだ」

「普通の冒険者だよ」

「鏡が必要なら、そこにあるぞ」

クリフが壁に掛かっている鏡を指さす。

つまり、自分の格好を見ろってこと?

見なくても、クマの格好をしていることぐらい分かっているよ。

普通の冒険者じゃないってこともね。

「まあ、それが問題になるのか?」

「問題はないよ。一応伝えておこうと思っただけだから。それにプリメとローネに会うことは、そんなにないと思うし」

「会いに来るわよ?」

ローネがわたしの言葉を否定する。

「そうなんですか?」

「だって、リヤンと約束したでしょう。あなたがわたしの話し相手になってくれるって」

確かに頼まれた。

でも、まさかローネ本人の口から出るとは思わなかった。

「お姉ちゃんだけじゃなくて、わたしだって、遊びにくるわよ」

つまり、姉妹揃って、わたしとノアに会いに来てくれるみたいだ。

「クリフ、初めに言っておくけど、妖精のことを広めちゃダメだからね」

この世には悪意を持って妖精に近づく人もいる。そして、好意が悪意に変わることもある。

「言わん」

「それから、妖精の研究をしようとしてもダメだよ」

「誰が、するか!」

「なに? それって、つまり、わたしたちに興味がないってこと?」

「どうしてそうなる。お前さんたちは、ユナとノアの友達なんだろう」

「うん」

「俺は自分は真っ当な人間だと思っている。娘の大切な友達を研究しようとは思わない。なにより、そのクマに喧嘩を売ってまでするメリットはない」

「つまり、わたしがいなければするってこと?」

「揚げ足を取るな。妖精は人を不幸にも幸せにもする。それは人間と妖精が、どうやって関わったかの行動によるものだ。それは、人間同士もそうだ。だから、俺はお前たちが娘に危害を与えなければ、なにもするつもりはない」

逆を言えば、娘に酷いことをすれば、手を出すってことだ。

まあ、父親としては当たり前のことかな。

「ノアに酷いことなんてするわけがないでしょう」

「分かっている。だから、俺もなにもしないと言っている」

ノアはプリメとローネに会う約束をする。

それからノアは楽しそうに経験したことをクリフに話した。

「ユナ、ありがとうな。ノアも貴重な経験ができたと思う」

「ノアには立派な貴族の令嬢になってほしいから、良い経験になったならよかったよ」

「わたしは、すでに立派な令嬢です」

ノアが胸を張って言う。

その姿にわたしとクリフは笑う。

そして、ノアが家に帰ってきて安心したのか眠そうにし始めたので、わたしはプリメとローネを連れてノアの家を出ることにした。

クマハウスに戻ってきたわたしたちは妖精の鏡の前にやってくる。

「ユナ、ありがとうね。あなたがいなかったら、お姉ちゃんを助けることができなかった」

「大変だったけど、助けることができてよかったよ」

結局のところ、最後はわたしの代わりにブリッツに領主を殺させてしまったけど。

「ユナとノアには感謝している。リヤンを救ってくれてありがとう」

ローネもあらためてお礼を言う。

「本当にリヤンさんに会いに行かないつもり?」

「……うん、わたしからは会いに行かない。きっと、リヤンのほうから会いに来てくれると思うから。それまで待つつもり」

それがいつになるか分からない。

でも、きっとリヤンさんなら、会いに来てくれると思う。

「それじゃ、女王様に報告もしないといけないから、帰るね」

「うん」

「くまゆる、くまきゅう。あなたたちもありがとうね。とても気持ちよかったよ」

「「くぅ〜ん」」

「それから、ブリッツたちにもお礼を言っておいて」

「言っておくよ」

「プリメ、行きましょう」

「うん」

名残惜しそうにわたしたちを見ながら、妖精の鏡に触れる。

「ユナ、また会いに来るわ!」

そう言って、プリメとローネは妖精の鏡に吸い込まれるように入っていった。

わたしは妖精の鏡に近づき、触れる。

吸い込まれることはない。普通に鏡だ。

鏡にはクマの格好したわたしが映っているだけだ。

わたしは妖精の鏡を持つと、クマの転移門がある部屋に運び。壁にかける。

鏡を見ていると、外からわたしを呼ぶ声がする。

ドアを開けると息を切らしたフィナがいた。

「ユナお姉ちゃん、帰ってきていたんだね」

フィナを見ると、帰ってきたと思える。

「フィナ、ただいま」

「お帰りなさい」

フィナが笑顔になると、わたしも笑顔になる。