軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

609 クマさん、責任を感じる

わたしは他になにか書かれていないかノートを捲る。

『わたしの役目は終わった。あとは、研究に使った杖を処分するだけだ。でも、もう動くだけの力は残っていない。この本を読んだ者がいたら、わたしが持つクリュナ=ハルクの杖を処分してほしい。おいぼれの最後の頼みと思って頼む。決して、この杖に魔力を注ぎ込んではいけない。クリュナ=ハルクの魔道具が解除され、再びスライムが動き出すかもしれぬ。まあ、わたしほどの魔力を持つ者でないと無理と思うが。決して、魔力を注ぎ込んではダメだぞ。ダメだぞ』

その文章を読んだ瞬間、わたしはノートを床に叩きつけた。

わざわざ二回書く前にすることがあるでしょう!

「ユナお姉ちゃん!」

「なんじゃ!?」

「なに?」

「なんですか?」

周りにいたフィナたちが、わたしの行動に驚く。

わたしは叩きつけたノートを拾い、書かれていた内容を、みんなに教えてあげた。

「杖って、このことだよね」

クマボックスから白骨死体が持っていた杖を出す。

「そうじゃろう」

「魔力、注ぎ込んだよね」

「そうじゃのう」

「それじゃ、あのスライムが動き出したのは、わたしが原因ってことだよね?」

あの杖に魔力を流したあとに部屋を出るとスライムが現れたから、タイミング的にも間違いはないと思う。

つまり、スライムが動き出した原因を作ったのは、わたしが魔道具を停止させる杖に魔力を込めたことになる。

今回は止めるではなく、解除をしてしまったみたいだけど。

「いや、妾がお主に頼んだからじゃ。お主の責任ではなく、妾のせいじゃろう」

「そうだけど」

カガリさんが頼まなくても、わたしなら、面白半分に試しで魔力を流したと思う。

「そもそもの原因はわたしが、あのヘシュラーグの町を調べに行って、ユナたちに会ったから」

「うん。わたしたちがユナちゃんたちに会わなければ、杖を見つけることもなかったかも」

ミアとキャロルまで、自分たちのせいだと言い出す。

責任の押し付け合いもよくないけど、自己犠牲的な考え方もよくない。

「いや、お主たちがいなくても、妾たちならあの町を調べ、あの部屋を調べておったはずじゃ。お主たちの責任ではない」

カガリさんの言う通りにミアに出会ってなくても、わたしとカガリさんの性格なら町を探索して、あの部屋に行ったかもしれない。そうなれば、杖を発見し、今回同様に杖に魔力に流したと思う。

「そもそも、そんな物を、死んでも大切に抱いているんじゃないわよ!」

ミアの叫びには同意だ。

さっさと処分しておけば、こんなことにはならなかった。

「でも、ミアちゃん。この人、一人で研究して、クリュナ=ハルクの魔道具を守って、最後は動けなかったんだよ」

「そうかもしれないけど」

人生を研究に捧げ、クリュナ=ハルクの魔道具を守り、あの部屋で一人で寂しく亡くなった。そんな人物のことを悪くは言いたくない。

実際に、彼のおかげで今日までスライムの脅威から守られてきた。それをわたしが甲冑騎士を壊し、杖に魔力を注ぎ込んでしまった。

やはり、わたしの責任が一番大きい。

でも、杖に関しては、もう少しどうにかならなかったのかと言いたい。

「それと、十分な魔力を注ぎ込めるほどの魔力の持ち主が現れるとは思っていなかったんじゃろう」

「あと、ノートを読む前に杖に魔力を注ぎ込むとは思わなかったかもね」

「ともかく、妾の責任じゃ。お主たちは気にすることはない」

カガリさんは年長者らしく、責任を取る。

見た目は幼女だけど。

「じゃが、スライムが妾たちを追ってくる理由は分かったのう。妾たちを、体内に取り込んで浄化するためじゃったみたいじゃな」

「もしもの場合だけど、わたしたちが死んでも」

「ダメじゃろう。どれほど範囲を探知できるか分からぬが、いつかはスライムと遭遇する人が現れるじゃろう。その者がスライムから逃げれば、浄化する対象として追いかけてくる」

巨大なスライムと遭遇すれば、わたしたち同様に逃げると思う。その者が村や街に逃げれば、スライムは村や街にやってくる。

そうなれば、スライムは村や街にいる人を襲うことになる。

どれほどの被害がでるか分からない。

その街とかに巨大なスライムを討伐する者がいれば話は別だけど。可能性の話をしても切りがない。

「あのスライムを目覚めさせた責任として、妾が倒すしかないじゃろう」

「倒せるの?」

「分からん。なにぶん、こんなナリじゃからのう」

魔法などは使えるみたいだけど、本来の力は出せないみたいだ。

「わたしも一緒に戦うよ。わたしが魔力を込めたのが原因だからね」

「ちょっと、待って。本当に、あのスライムと戦うつもりなの? 大きかったわよ」

一度だけ遠くからだけど、スライムを見た。

巨大な池? ちょっとした湖ぐらいあったかもしれない。

「その杖に魔力を込めた責任があるからね」

「お主に魔力を込めろと言った妾の責任じゃ」

「それを言ったら、杖を見つけたわたしの」

話が堂々巡りになる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。もう、誰の責任でもないわよ!」

ミアが叫ぶ。

「強いて言うなら、全員の責任。さらに言えば、あの部屋にいた白骨死体のバカのせい。こんな大切な杖を抱いたまま、死んだんだから。死ぬ前にちゃんと処分しなさいよ。だから、責任の話は終わり!」

「ふふ、そうじゃのう。誰の責任でもない。じゃが、この場にいた全員の責任はある。フィナは違うから、安心せよ」

カガリさんの言葉にフィナは小さく首を横に振る。

「ううん。わたし、光魔法を使って部屋を照らしたから、わたしの責任もあるよ」

フィナまで、そんなことを言い出す。

そもそも、フィナの光の魔法なんて、なにも影響はしていない。

「フィナが光魔法を使わなければ、わたしが使っていたよ」

「そうよ。あなたみたいな子供に責任を負わせるわけがないでしょう。大人であるわたしの責任よ」

ミアは無い胸を張る。

「お主は優しいのう」

「や、優しくなんてないわよ。わたしは事実を言っているだけよ」

ミアは恥ずかしそうに顔を赤くする。

「……その、確認だけど、あなたがお姫様なら、強い騎士や魔法使いを呼ぶことは……」

「すまぬ。それも噓じゃ」

「嘘なの!?」

「ここまで来て、隠すのもなんじゃのう」

カガリさんは、そう言うと服を脱ぎだす。

「ちょっと、なに、服を脱いでいるのよ」

「破けるからのう」

カガリさんの体が大きくなっていく。そして、次第に大人のふくよかな体になり、頭から耳が飛び出し、お尻の辺りから尻尾がでる。

二度目だけど、不思議な光景だ。

「ちょ、ちょ」

「妾は狐じゃ」

「狐?」

「数百年と生きる狐じゃ」

ミアとキャロルは信じられないようにカガリさんを見ている。

「そんな、信じられないわ」

「これが真実じゃ」

カガリさんの耳と尻尾が動く。

「つまり、妾は狐の姫ってことじゃ」

そこは王女だと思うよ。

「本当!?」

「種族は妾しかいないから、一番偉いのは本当じゃぞ」

「それじゃ、特殊な力があって、あのスライムを倒すことも」

そのミアの言葉にカガリさんは横に首を振る。

「少し前に、大蛇と呼ばれる魔物と戦って、力を使い切ってしまった。それで、今は回復をするために、こんなナリをしておる」

カガリさんは幼女の姿に戻る。

「魔法は使えるが、今はどれほど戦えるかは分からんのが、正直なところじゃ」

カガリさんは申し訳なさそうにする。

その表情と連動するように狐耳と尻尾が垂れ下がる。

「はぁ、分かったから、早く服を着なさい」

ミアは床に落ちている服を拾うと、カガリさんの肩にかける。

「それじゃ、ユナとフィナも動物ってこと? ユナはクマで、フィナはなにかしら?」

ミアがジッと、わたしとフィナの正体を探るように見る。

「わたし、人間だよ」

「わたしもです」

「いや、フィナは人間でも、ユナはクマでしょう。そんなクマの格好している人なんて、世界中探してもいないわよ」

ミアは宣言するけど、クリモニアには、何人もクマの格好をして仕事をしている子がいる。

「まあ、子供がしても、大人はしないわね」

「うぅ」

確かに、大人はいないかも。

「それじゃ、三人はどんな関係なの?」

「近くに村があるのも嘘だったんですよね?」

「遠くから来たとだけ言っておく。ここに来たのは、本当に散歩ってだけの理由じゃ」

「くまゆるとくまきゅうに乗って分かったと思うけど、この子たちなら遠くでも移動できるから」

わたしは部屋で丸くなっているくまゆるとくまきゅうに目を向ける。

「確かに、そのクマならできるかも」

「この姿で分かるように、詳しいことを答えることはできぬと思ってくれ」

カガリさんはわたしのことを隠すためか、自分を引き合いに出して誤魔化してくれる。

「……分かったわ。何も詮索はしない。でも、一つだけ聞かせて。どうしてわたしたちを置いて逃げなかったの? あのクマなら、逃げることも可能でしょう」

「逃げても、追いかけてくる可能性がある。なにより、妾は見捨てるのは嫌いじゃからのう」

「わたしも」

カガリさんの言葉にわたしも同意する。

「わたし、何もできないけど。ミアさんとキャロルさんを見捨てるのは嫌です」

フィナも自分の気持ちを伝える。

悪人なら見捨てる。でも、ミアとキャロルは悪人ではない。

もし、見捨ててクマの転移門で帰れば、2人のことが気になって、寝ることもできない。

「バカね」

ミアは嬉しそうに微笑む。

「それじゃ、今日は遅いから、寝てから明日考えよう」

「寝るの?」

わたしの言葉にミアが驚く。

「まずは、この距離を追いかけてくるかどうかを確かめないとね。もし、スライムが追いかけてこなければ、街に帰ることはできるってことになるからね」

「街に帰ることができれば、実力者を集め、スライムを討伐することもできるかもしれぬ」

街にあのスライムを倒せるほどの者がいなければ、最悪なことになる。

「どっちにしろ。今、いろいろと考えても、無駄になることが多い。なら、休めるときに、休息をとったほうがいい」

「そうだけど。万が一にも、寝ている間にスライムの中ってことはないわよね」

「大丈夫だよ。深夜でもスライムが近づいてきたら、くまゆるとくまきゅうが教えてくれるから」

「「くぅ~ん」」

くまゆるとくまきゅうは、任せてと言っているように鳴く。

「本当にお願いね。わたし、あなたたちを信じるからね」

ミアはくまゆるとくまきゅうに真剣にお願いをする。