軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

531 クマさん、準備を整える

セレイユがキースの名を叫ぶ。でも、遠くで倒れているキースに反応はない。

「キースは生きているんですか!?」

「今は、まだ生きていますよ。死んでいましたら、セレイユ嬢との約束が守れませんからね」

探知スキルを使うことができれば、生死の確認ができるのに、クマの着ぐるみを着ていないから、使うことができない。本当に不便だ。

「どうですか、素晴らしい光景とは思いませんか?」

男は腕を広げて、わたしたちに魔物の群れの光景を見せつける。

魔物は見える範囲だけでも、ウルフにタイガーウルフ、ゴブリン、オークまでいる。

でも、どうして、魔物はキースを襲わないの?

「これだけの魔物をどうやって」

男はセレイユの質問に嬉しそうにすると、説明を始める。

「ああ、それはですね。あなたの母親に酷い仕打ちを受けたわたしは、しばらくした後、ある男に出会いました。その男は城に仕えていた魔法使いと言っていました。でも、男は国王に城を追い出され、国王に復讐するために、いろいろな研究をしていました。わたしは、同じ復讐をする者として、その男と意気投合し、共に研究をすることにしました。そして、ついに、わたしたちは魔物を操ることができるようになったのです」

国王に復讐。魔物を操る。気になる言葉が出てきた。

「魔物を操るなんて、そんなことが、できるわけがありません」

わたしは魔物を操る事例を知っている。

会ったことはないけど、魔物を集めた人物がいた。

「そうですか? 現に、セレイユ嬢の弟さんは魔物の群れの中にいるのに、襲われていないでしょう? わたしが命令をしてあるからですよ」

男の言う通りだ。あれだけの魔物がいるのに、キースの周りを歩くだけで、誰も襲おうとはしない。別に、魔物がキースに好意的なわけではない。離れたここからでも分かるが、魔物はいまにも、キースに襲いかかろうとしている。餌を我慢している猛獣って感じだ。

「そんなに信じられないのでしたら、試しに、弟さんを襲わせてみせますか? 腕の一本くらいなら大丈夫かもしれませんよ」

男が笑いながら、セレイユに尋ねる。

「し、信じますので、やめてください」

信じられなくても、キースの命がかかっているため、「やってみろ」とは簡単に口にすることはできない。

「それで、これだけの魔物を集めてどうするのですか? わたしを脅迫するなら、キースだけで十分でしょう?」

そもそも、魔物を集める理由がない。復讐するセレイユの母親は既に、この男に殺されている。逆に言えば、復讐は終えている。

「魔物の役割ですか? それは、わたしから彼女を奪った、あの男が治める街を滅ぼすためですよ」

狙いは、セレイユの父親か。

たしかに、セレイユの父親は男にとっては、セレイユの母親を奪った相手になる。

「約束が違います。街の住民は関係ないはずです」

「約束は弟さんの命です。あの街の住民の命の約束はしてませんよ」

そんなの方便だ。住民の話はなかったんだから、約束をしようがない。

「冒険者がいない今、どれだけの住民が死ぬことになるでしょうね」

「冒険者がいない?」

男の言葉に、セレイユが聞き返す。

「ふふ、セレイユ嬢は、知らないのですね。街に冒険者がほとんどいないことを」

「セレイユ。この街の付近に魔物がいなくなって、冒険者はいないよ」

「それは本当ですか?」

どうやら、冒険者のことは知らなかったみたいだ。

「冒険者ギルドで聞いたから、間違いないよ」

この数年、この時期になると、魔物がいなくなるので、冒険者は他の街に出稼ぎに行ってしまうと聞いた。

「そちらの小さなお嬢さんはご存知のようですね。冒険者がいない今なら、街に被害を出すのは簡単です。街にいる自警団や兵士の数は少ない。これだけの魔物でも十分です」

「もしかして、この時期に魔物がいなくなったのは、あなたが魔物を操ったせい?」

「あなたも幼いのに、頭の回転が速いですね。その通りです。わたしは魔物の研究のため、街から離れた場所で暮らしています。たまに街に行くこともありますが、セレイユ嬢の誕生日近くになると、セレイユ嬢の顔を見に行くんですよ。そのときに魔物を操る練習をしていました」

「だから、毎年、この時期になると魔物がいなくなって」

「ええ、偶然の産物でした。でも、それは神がわたしとセレイユ嬢が結ばれるために、仕組んでくれたことなのかもしれません」

そんな神はいないよ。いるのは、か弱い女の子にクマの格好をさせて楽しんでいる、変態の神だけだよ。

「でも、街には城壁があるから、ウルフやゴブリンは入れないよ」

簡単に魔物は入ってこれない。そのための壁だ。空を飛ぶ魔物でない限り、街の中に入ることはできない。

わたしの質問に、男は可笑しそうに、上に視線を向ける。

「ふふ、空を見てください」

わたしとセレイユは空を見る。

「……ワイバーン」

上空には三体のワイバーンが飛んでいた。

「ワイバーンが門を壊しさえすれば、街は終わりです」

これは王都のときと同じ方法だ。

あのときもワイバーンがいた。もっとも、寝ていたため、サクッと倒すことができた。でも、ワイバーンとはタールグイの上や、和の国で散々戦っている。今更感がある。

それに、たったの三匹。それとも、王都のときのように、ワームみたいに隠し球があるのかな?

まあ、居たとしても、炎のクマの軍勢で体内から焼くだけだ。

「一つ聞いてもいい?」

「なんでしょうか。お嬢さん」

気分がいいのか、わたしが話しかけても、笑顔で聞き返してくれる。

「国王に復讐しようとしたその男はどうなったの?」

「ふふ、ふふふ」

わたしが尋ねると、男は笑い出す。

「すみません。彼なら失敗しましたよ。自分の全ての魔力、生命力まで使って、およそ1万の魔物を集めたのに、見事に失敗しました。わたしが調べたところによると、Aランクパーティーの冒険者によって、魔物を全滅させられ、本人も国王に殺されたようです。彼はわたしと違って、運がなかったようです」

残念そうに話すが、表情は笑っている。

ここで、「あなたもわたしがいたから、運がなかったね」と言ってみたい。

「共に研究をした仲間じゃないの?」

「同じ手段のために共同研究をしただけで、仲間ではありませんよ。それに目的が違いますからね。ですから、お互いにやることは干渉はしないことになっていました」

でも、同じ研究をしていたなら、おかしいことが一つある。

「今、魔物を操るには多くの魔力と、生命力って言ったけど、あなたは使っているようには見えないけど」

あまり、興味がなくて、うろ覚えだけど。国王から聞いた話では、魔物を操るために自分の魔力だけでなく、命を削って、魔物を集めたと聞いている。

「わたしは彼のように自分が死んでまで、復讐をする気はありませんからね。だって、そうでしょう。死んだら、セレイユ嬢と一緒にいられなくなるでしょう」

何を言っているのか? と馬鹿にしたようにわたしを見る。

「それじゃ、どうやって、これだけの数の魔物を操って」

それだけが分からない。

この男は痩せ細っているが、生気はある。それとも、それだけの魔力を保有しているの?

「簡単なことです。魔物の数を最低限にし、命令は簡略化し、魔力は他のもので補えばいいんですよ。お嬢さん」

魔物の数を減らすことと、命令の簡略化の意味は分かる。

他のものの魔力で補う?

他の人間の魔力……もしくは魔石?

自分の考えに、パズルのピースがカチっと嵌った気がした。

「魔石か」

「お嬢さん、よく分かりましたね」

わたしの言葉に男は驚く。

「ええ、魔石です。その魔石に魔法陣を描き込み、簡単な命令や指示が発動するようになっています」

男はそう言うと、いきなり服を巻き上げる。

「体に魔石?」

男の心臓近くに魔石が埋め込まれていた。

「わたしを殺すと、命令は解除され、弟さんは魔物に襲われることになります。くれぐれも、わたしを殺そうとは、思わないことです」

だから、男はペラペラと話してくれたわけか。説明することで、男に攻撃ができなくなる。

「そして、これと対になる魔石が、ユーファリアの街に隠してあります。わたしが死ぬ。もしくは、太陽が昇った数時間後に発動し、魔物がユーファリアの街にある魔石に向かうことになります」

「!?」

「ですが、セレイユ嬢が、わたしと共に来てくださるなら、魔石を隠した場所を、そちらのお嬢さんに教えて、解放しましょう」

セレイユは歯を食いしばりながら、一生懸命になにかを考えている。

「お父様に復讐しようとするあなたが、気前がよすぎませんか? わたしたちに教えるメリットがないと思うのですが」

「いえ、お教えしますよ。ちゃんとね。それで、どうしますか? わたしと一緒に来ますか? それとも、皆と死にますか?」

セレイユは魔物の群れを見る。そして、口を開く。

「あなたと一緒に行きます。だから、街に隠してある魔石の場所を教えてください」

「セレイユ!?」

「ユナ、場所を聞きましたら、お父様に伝えてください」

「この男が本当のことを言うとは限らないよ」

「ですが、ユナはこの場から離れることはできます」

「ふふ、賢い女性は好きですよ。それでは、服を脱いでもらいましょうか」

「!? どうして、服を」

「武器を隠し持っていたら、困りますからね。それと、服を脱ぎましたら、こちらを首に付けてください」

男はアイテム袋から何かを取り出し、セレイユに向かって投げる。地面に落ちたのは、首輪のようなものだった。

「セレイユ嬢は魔法も使えますからね。魔力を抑える魔道具です」

セレイユは震える手で首輪を拾おうとする。

「セレイユ、拾うことはないよ」

「それは、どういう意味でしょうか。お嬢さん」

「そのままの意味だよ。この男は、魔石の場所を教えてくれる気はないよ」

「そんなことはありません。ちゃんとお教えしますよ」

「湖」

「!?」

わたしの「湖」って言葉に反応する。

これで、確信した。もう、この男から聞き出すことは何もない。

昨日、わたしが湖で拾った魔石。それが、この男が捨てた魔石だ。あのフードを被った怪しい人物は、この男だったんだね。どうりで、男を見たとき、どこかで見覚えがあったんだね。

全てがスッキリしたわたしは、クマボックスから、クマの着ぐるみを取り出す。

とりあえず、緊急だから、制服のまま、着ることにする。

「あなた、何をしているのですか?」

「ユナ?」

えっと、足を入れて、ああ、着ぐるみの中でスカートが捲れる。でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。これが透明だったら、スカートが捲れて、パンツが丸出しだったけど、着ぐるみだから、見えることもない。

「だから、あなたは何をしているのですか?」

腕を通す。ああ、制服が邪魔で着にくい。

「あなたはふざけているのですか!」

「別にふざけてはいないよ」

制服のままだから、ごわごわする。

気持ち悪い。

わたしは最後にクマさんフードを被る。

「その格好はなんですか?」

「クマだよ」

よし、久しぶりに完全体になった。

もう、なにがあろうと安全だ。

「どうして、この状況で、あなたはクマの格好をしているんですか?」

「それは、あなたをぶっ飛ばして、魔物を全て倒し、キースとセレイユを助けるためだよ」

わたしはクマさんパペットを男に向ける。