軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

498 クマさん、クリモニアに帰る

着物は動きにくく、暑いので、わたしたちは元の服に戻る。

やっぱり、クマの服は落ち着くね。この着心地と肌触り、この着ぐるみと思えない温度管理。そこまで考えて、思考を止める。

……えっと、クマの着ぐるみの服が落ち着くって、もう末期?

もう、あの頃の純粋な心を持ったわたしには戻れないかもしれない……

わたしは膝を突いて落ち込む。

三文字で表すなら『orz』だ。

「ユナ様、どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないよ」

わたしは力を振り絞って立ち上がる。

見た目さえ気にしなければ最高級の服だ。

着替え終えたわたしは描いた絵をそれぞれにプレゼントする。

「ありがとうございます。大切にしますね」

「わたしも部屋に飾ります」

サクラとルイミンは嬉しそうにわたしが描いてあげた絵を見ている。ポーズは違うけど二人が一緒に描かれている。まあ、自分しか写っていない写真を自分の部屋に飾るのは恥ずかしいけど、友達と一緒にいる写真なら恥ずかしくはないはずだ。

喜んでもらえたのなら描いた甲斐があったものだ。

「わたしも絵が上手に描けたらいいのに」

わたしの絵を見ながらサクラが呟く。

「絵を何度も描いていけば上手になるよ」

「それはできる人が言うセリフっすよ。人にはやっても上手にできない人もいるっすよ」

「でも、サクラは小さいんだから、これからでしょう。人は成長するものだよ」

なにもしていなくても身長や体は成長する。でも、知識は学ばないと増えないし、技術は磨かないと成長はしない。ただ、シノブが言っていることは正しい。人には得手不得手が存在し、成長する速度も違う。少ない時間で多く進める人もいれば、その倍以上の時間をかけて進む人もいる。

ようはやる気の問題だ。

「シノブだって、初めからそんなに強くはなかったんでしょう」

「そうっすが、ユナはなんでもできる気がするっす」

「なんでもはできないよ。わたしだって、初めは下手だったころはあったんだから」

初めてやることは誰だって初心者だ。初めから上手にできるのは一握りの人間だけだ。絵に関しては、わたしは前者だったけど、苦手なことは時間がかかる。ただ、分かっていることは、やらなければ進むことはできないってことだ。

「そうですね。やりもしないで、できないって諦めたら、なにもできないですよね」

「サクラは国を救うために頑張ってきたんだから、その気持ちがあればできるよ」

「はい、頑張って描いてみます」

ここで話が綺麗にまとまったと思ったとき、シュリが爆弾を投下する。

「わたしも絵が上手になったら、ユナ姉ちゃんみたいに絵本を描きたいな」

「絵本ですか?」

「うん、くまさんの絵本だよ」

フィナが慌ててシュリの口を塞ごうとするが遅かった。

「ユナ様が描いた絵本ですか? ユナ様、絵本を描いているのですか?」

「えっと、子供に描いてあげたんだよ」

「わたし、見てみたいです」

「そうっすね。わたしも見てみたいっす」

やっぱり、そうなるよね。

「たいしたものじゃないよ。子供に見せる絵本だよ。サクラが見ても楽しくないかもよ」

「わたし、子供です」

サクラが少し拗ねたように言う。

……そうだったね。

「ユナさん、わたしも見てみたいです。お姉ちゃんから話は聞いているけど、見ていないから」

ルイミンの腕輪事件で、わたしが絵本のことでレトベールさんに連れて行かれた。だから、ルイミンも絵本のことを知っているかと思ったけど、見せた記憶がない。

「ユナ様、絵本を見させていただくことはできますか? 見たいです」

上目遣いでサクラがお願いしてくる。

わたしはいいけど、フィナが恥ずかしがるかもしれない。フィナを見るとシュリの口を塞いで困った表情をしている。

「えっと、今は持って……」

とりあえずはこの場は、持っていないことにして、やり過ごそうとする。

「なかったら、あの門を使えばすぐに取ってこられるから大丈夫っすよね?」

シノブが退路を塞ぐ。逃げることはできない。フィナも諦めたようでシュリの口から手を離す。それを見たわたしは、クマボックスから絵本を取り出して、サクラに渡す。

「可愛らしい女の子とクマさんです」

ルイミンとシノブがサクラの隣に座り、絵本を覗き見る。そして、三人は絵本を読み始める。

「女の子が可哀想です」「女の子がウルフに襲われちゃう」「おお、クマの登場っすね」「よかった」「薬草も手に入ってよかったです」「クマさんは街の中に入れないんですね」「クマとお別れっす」「でも、お母さんに薬草を持っていけてよかったです」

フィナじゃないけど、自分が描いた絵本を目の前で読まれると、少し恥ずかしいものがあるね。

サクラは一巻が読み終わると、二巻、三巻と読む。そのたびに感想をもらすので、わたしもフィナも恥ずかしかった。

「ユナ様、続きはないのですか?」

「三巻までしか描いていないから、ないよ」

流石に描いていないものは出せない。

「残念です。女の子が新しい街でどうなったか、気になります」

「それにしても、初めは悲しい話かと思ったけど、クマさんが現れることで、女の子が幸せになってよかったです」

「あと、気になったっすが、この姉妹の女の子はフィナとシュリっすか?」

やっぱり、気付かれるよね。

「よく、気付いたね」

「特徴が似ているっすからね。ユナは人の特徴をとらえて、描くのが上手っす。それに、先ほどのわたしたちを描いてくれた人物画と違って、こっちは可愛らしい絵っすね」

「子供向けの絵本だからね」

「このような可愛いらしい絵本は初めて見ました」

サクラは絵本を持って、返そうとはしない。

「もしかして、欲しいの?」

「……はい。欲しいです。女の子が一生懸命に生きようとして、その女の子をクマさんが助けてくれる。わたしを写しているようでした」

サクラは絵本のクマに触れ、わたしを見る。

クマさんがわたしだってことも気付かれているよね。

「その絵本はあげるよ」

「本当ですか!?」

「うん、でも、あまり他の人には見せないでね。フィナが恥ずかしがるから」

「女の子がわたしだってことは誰にも言わないでください」

「言ったとしても、誰にも分からないっすよ」

確かにそうだ。フィナって子が女の子のモデルになっていると言っても、和の国じゃ、誰も分からない。

「でも、恥ずかしいんです」

「分かりました。誰にも言いません。お約束します」

サクラは約束をする。

絵本はサクラにプレゼントすることになった。それを見ていたルイミンも欲しがったので、ルイミンにもプレゼントする。

「ありがとうございます。大切にしますね」

ついにクマの絵本が和の国とエルフの村に行き渡ってしまった。なんだか、自分の首を自分で絞めている気がするんだけど、気のせいだろうか。

でも、自分が描いた絵本を喜んでもらえるのは嬉しいものだ。

「わたしにくれないんすか?」

「シノブに渡すと、知らないうちに同じ本がたくさん増えてそうだからね」

「そんなことはしないっすよ」

でも、サクラに渡しておけば、見ることはできる。孤児院だって、みんなで見ているんだし、サクラが持っていれば十分だ。

一応、複写はしないように伝えておく。

そして、外を見ると陽が沈みかけているので、帰ることを伝える。

「本当に帰られるのですか? もう少しいても」

「あまり、長くこっちにいると、フィナたちの両親が心配するからね」

と言っても王都に連れていくときも、ドワーフの街に行くときも、それほど心配せずに、ティルミナさんは送っていた。心配するとしたら、ゲンツさんのほうかな?

それにルイミンもムムルートさんがクマの転移門のことを知っていると言っても、何日も誤魔化せないかもしれない。

「だから、今日は帰るよ」

わたしが座布団から立ち上がったとき、白クマさんパペットが「くぅ~ん、くぅ~ん」と鳴きだす。クマフォンが鳴っている。

誰?

クマフォンを持っているのはここに全員いるはず……と思ったけど、もう1人いたことを思い出す。

わたしはクマボックスからクマフォンを取り出し、軽く魔力を流す。

『おお、ユナか?』

クマフォンから聞こえてきたのは思っていた通りにカガリさんだった。

そういえば、大蛇と戦っているときに、なにかあったときの場合に渡していた。返してもらっていないから、そのままだ。

「カガリさん、どうかしたの?」

『すまぬが、帰ってくるのは明日にしてくれぬか?』

「どうして?」

『スズランの奴が来たのじゃが、今日は泊まると言ってな。会うといろいろと面倒じゃろう。明日の朝には帰させる約束をした。悪いが今日のところはそっちで泊まってくれ。金が必要ならスオウの奴に言っておく。スズランが来た。話を終えるぞ』

カガリさんは一方的に話して、通話を切る。

「そういうことらしいんだけど、フィナ、もう一日大丈夫かな?」

「たぶん、大丈夫だと思います。ただ、お父さんが心配しているかも……」

「ルイミンのほうは?」

「お爺ちゃんが誤魔化してくれているかもしれないけど」

だよね。

わたしの考えた通りだ。

そして、話し合った結果、三人は帰ることになった。

「そうだ。サクラちゃん、これを渡しておくね」

ルイミンは何かを思い出したようにアイテム袋から、両手で持てるほどの布袋をだす。

「これはなんですか?」

「エルフの村にある木の葉から採れる茶葉だよ」

「もしかして、神聖樹の?」

わたしが尋ねるとルイミンは頷く。そして、サクラのほうを見る。

「サクラちゃん、大蛇の結界を守るために魔力を無理に出しちゃったんだよね」

「はい、でも後悔はしていません」

サクラは将来魔法が使えないかもしれない。そもそも魔法が使えるのは一握りだ。でも、その可能性も大蛇の結界を守るために、使えなくなったかもしれない。

「これを飲めばお爺ちゃんがもしかすると魔法が使えるようになるかもしれないって」

「それは本当ですか?」

「ごめんね、本当に効果があるかは分からないの。でも、この茶葉は長年エルフの村を守ってくれた魔力の木から作った茶葉なの。この茶葉には魔力を回復させる効果があるの。だから、もしかすると魔法が使えるようになるかもしれないって」

その話を聞いて、サクラの目に涙が浮かぶ。

「約束したよね。いつか、旅にでるって」

「はい。約束しました」

「だから、効果があるかもしれないから試してみて。もし、たとえ魔法が使えなくても、前に約束した通りにわたしが守るから」

「ルイミンさん……」

「でも、それにはわたしも強くならないといけないけどね」

「わたし、ちゃんと飲みます」

「でも、飲みすぎは駄目だからね」

「はい」

ルイミンとサクラは約束をする。

神聖樹の効果は分からないけど、効果があればと願う。でも、どんな結果になっても、2人なら大丈夫なはずだ。

ルイミンはクマの転移門を通る。

「ルイミンさん。また、来てくださいね」

「うん、来るよ。フィナちゃんもシュリちゃんもまたね。シノブさんもいろいろとありがとうございました」

「いつでも歓迎するっすよ」

みんなはルイミンに向かって別れを伝える。いつまでも開けておくわけもいかないので、扉を閉める。

あとでルイミンが通ったクマの転移門を回収しないといけないことを覚えておかないとね。

次に扉を閉めたわたしはクリモニアへと扉を開ける。

「家まで送らないで大丈夫?」

「大丈夫です。ユナお姉ちゃん、誘ってくれてありがとう。楽しかったです」

「うん、楽しかった」

わたしは描いた和服姿のフィナとシュリの絵を渡す。

「やっぱり、お母さんに見せるの?」

「せっかく描いたんだからね」

ティルミナさんも娘の可愛い姿は見たいはずだ。

絵の中のフィナは恥ずかしそうに、シュリは楽しそうな表情をしている。手を見ると、仲良く手を繋いでいる。実際はフィナが逃げないようにシュリがフィナの手を掴んでいるんだけど、仲良く手を繋いでいるように見える。

「それじゃ、わたしも明日には帰るから」

「はい。サクラちゃん、シノブさん、いろいろとありがとうございました」

「また来てくださいね」

フィナとシュリもクマの転移門を通ってクリモニアに帰っていく。

「ユナ様はどうするんですか?」

「わたしは適当に一泊して、明日帰るよ。サクラの部屋に扉を出したまま、わたしまで帰るわけにはいかないからね」

「それなら、ここに泊まってください」

わたしはその言葉に甘えることにする。

夜はサクラにくまきゅうと一緒に寝かせてあげた。

翌日、わたしはサクラやシノブと別れて、温泉付きの家に戻ってくる。

「カガリさん、ただいま」

「戻ってきたのか」

カガリさんは広い部屋に布団を敷き、寝そべりながら器用にお酒を飲んでいる。

布団の近くには女性でも持てそうな小さな酒タルがある。

「スズランさんは帰ったの?」

まあ、一応、家に入る前に探知スキルで確認してある。まだスズランさんがいたら、説明が面倒になるので確認してから入った。

「ああ、しばらく泊まりたいと言っていたが、必要なものがあるからと、帰らせた」

「よほど、カガリさんのことを心配していたんですね」

「どうじゃったかな。荷物がたくさんあるからと、妾にも運ばせたからな」

カガリさんは目を逸らしながら、お酒を飲む。

「それで、お主はどうするのじゃ?」

「帰ろうと思っているけど、もしかして、寂しい?」

「なにを言っておる。妾は誰よりも長く生きている。別れも何度も経験している。別に寂しいわけがなかろう」

もしかして、別れが辛いから一人でいるのかもしれない。島に一人で残り、城に残ろうともしなかった。

たぶん、今までにたくさんの人と別れ、悲しんできたのかもしれない。その気持ちはわたしには分かることはできない。ただ、寂しいって気持ちは分かる。

「もし、エルフの村で暮らしたくなったら、言ってね。あそこなら、カガリさんも共に生きられると思うよ」

「……」

カガリさんは驚いた表情でわたしのことを見ている。

わたしたちと違ってエルフは長寿だ。共に生きるなら、同じ長寿の人たちと生きたほうが幸せだと思う。

「……その言葉はありがたくもらっておく。だが、ここには妾がいないと寂しがる者がいるからのう」

遠くを見るような目で開いている窓の外を見ている。

わたしは、フィナたちが選んでくれたお土産の風鈴を窓に付け、クリモニアに戻ってくる。