軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

496 クマさん、和服を着る

風鈴を買い、大道芸をしているのを覗き、サクラと別れたお屋敷の前に戻ってくる。お屋敷の入り口に門番が一人立っている。

「ユナさん、このカードを見せれば、サクラちゃんに会わせてもらえるんですよね?」

「たぶんね」

スオウ王はそう言っていた。

「今回はわたしもいるから大丈夫っすよ」

「それじゃ、今回は必要ないの?」

「必要はないっすけど、一度見せておくといいっすよ。わたしが連れてきた客人と、スオウ王が与えたカードじゃ影響力が違うっすから。多少、なにかしでかしても影響力が違うっす。それに、余計な詮索をされないっすよ」

「そうなんですか?」

「そのカードを持っているってことは国の関係者ってことっす。そんな人物の不興を買いたいと思う人はいないっすよ」

「逆に言えば、それ目当てで変な人が近寄ってきそうだね」

「まあ、ないとは言えないっすが、あまり見せびらかさなければ大丈夫っすよ」

わたしたちは門の前にやってくる。

「お疲れさまっす」

「シノブ殿、お疲れさまです。サクラ様へのお客人ですか?」

「そうっす。みんなサクラ様の友達っす」

門番の男がわたしたちを見る。

「こないだのクマ?」

どうやら、わたしのことを知っているみたいだ。

顔は覚えていないけど、始めてシノブに連れてこられたときにいた門番の人みたいだ。

「話は聞いているっすか?」

「聞いています」

そう言って、わたしとルイミンを見る。

もしかして、クマの格好とか、エルフの女の子って感じに伝えられているのかもしれない。

「二人とも、一応カードを見せてあげてっす」

わたしとルイミンはカードを門番に見せる。

「どうぞ、お入りください」

門番はなにも言わずに通してくれる。わたしたちはそのまま建物の中に入り、サクラのいる部屋に向かう。

「サクラ様、戻ったっす」

「入ってください」

部屋に入ると、壁際でサクラが座布団に座って、書き物をしていた。そして、振り返る。

「もしかして、仕事?」

「いえ、違いますから、大丈夫ですよ。みなさん、街は楽しめましたか?」

「うん、見たことがないものがたくさんあって、楽しかったよ」

ルイミンは笑顔で答える。

「それはよかったです。今度はわたしもみなさんの住んでいる場所に行ってみたいです」

「そのときは招待するよ」

「楽しみにしています」

今度はサクラをクリモニアやエルフの村に連れていってあげたいね。

「それで、どんな場所に行ってきたのですか?」

わたしたちは見たものや食べたものを話す。

「凄く臭かったよ」

「ふふ、納豆ですか。確かに独特の臭いがしますからね。初めての人には辛いかもしれませんね」

「サクラちゃんも食べるの?」

「はい、食べますよ」

まあ、納豆がある食文化で育ってきたなら、食べるよね。

それから、ルイミンとシュリは街のことを楽しそうに話す。フィナはわたしの隣で微笑ましそうに見ている。

「あと、綺麗な音をするものをユナさんに買ってもらったんだよ」

「綺麗な音ですか?」

ルイミンが言っていることが伝わらず、サクラは首を小さく傾げる。

「風鈴だよ。わたしたちがいる国には風鈴は売っていないんだよ」

「そうなんですね」

「あっ、サクラちゃんの風鈴を買ってこなかった」

ルイミンは思い出したように、表情が暗くなる。

「ふふ、気にしないで大丈夫ですよ。風鈴は持っていますから。話を聞いたら風鈴の音が聞きたくなりました。あとで飾ることにしますね」

それからも、かき氷を食べたとか、何かを見たとか話は続く。そんな話をサクラは嬉しそうに聞いている。

本当に大人びた女の子だ。フィナと違うタイプの精神が大人な子供だ。

「みなさん、いろいろな場所に行ったんですね」

「あと、服とかも見たりしたよ。この国の服って綺麗だけど、動き難そうだよね」

確かに、和服は足元まであるから、動き回るのは不便だ。腕の袖口も広がっているから、腕を振り回すのも不便だ。それと帯がキツイイメージがある。お腹が膨れたら、苦しそうだ。

「ちょっと、着てみたかったかな?」

「わたしが買ってあげるって言ったんだけど。フィナに断られたんだよ」

わたしはフィナに視線をおくる。

「だって、あんな高いもの買ってもらうわけにはいかないよう。それに買ってもらっても着ることはないから、お金がもったいないです」

まあ、その気持ちは分かる。わたしもフィナもミサの誕生日パーティーのときにノアからもらったドレスは一度も着ていない。和服を買ってあげたとしても着る機会はない。無駄金と思われても仕方ないことだ。

「フィナちゃんじゃないけど。あんな値段が高いのは買ってもらえないですよ」

「わたし、服より食べ物がいい」

ルイミンとシュリらしい言葉だ。

「でも、フィナたちの和服姿は見てみたかったね」

「そうですね。わたしも見てみたいですね」

わたしの言葉にサクラも賛同する。そして、サクラはフィナたちを見る。

「わたしの服ならフィナは着られますね。小さいときの服ならシュリは着られるはずです。ルイミンさんは、少しわたしより大きいですが、着られないことはないですね」

サクラは確認するように頷いている。

もしかして、着物を着させようとしている?

三人が着るのは賛成だけど、わたしは遠慮したい。

「ふふ、ユナ様の服も用意しますから大丈夫ですよ」

顔に出ていたのか、サクラが微笑みながら言う。

「わたしは別に……」

「シノブ、みなさんの着物を用意するのを手伝ってください」

「了解っす」

わたしの言葉を聞く前にサクラとシノブは立ち上がって、部屋からでていく。

もしかして、わたしも着ることになるの?

しばらくすると、つづらが部屋に運ばれてくる。

「お待たせしました」

サクラは自分の体ほどのつづらの蓋を開ける。

「どれが似合うかな」

サクラは楽しそうにつづらの中を確認する。

「みなさんも好きな色とかあったら教えてください」

そこからはサクラから逃れることはできず、サクラの着せ替え人形となる。

わたし? 逃げようとしたけど、逃げることはできなかった。そもそも、逃げる場所なんてないし、フィナたちを置いていくわけにもいかない。なので、わたしもみんなに付き合って、着物を着ることになった。まあ、ドレスのときのパーティーと違って人前に出るわけでもなかったので、拒否反応はあのときほどはない。着物を着て街の中を歩くようだったら抵抗したけど。

「ユナ様はこちらが似合うかと思います」

サクラが見せてくれたのは黒い着物に鮮やかな白と赤の花の柄の着物だった。

「わたしはあとでいいよ」

「ユナお姉ちゃんが着替えたら、わたしも着替えます」

「ユナ姉ちゃんの着替えたところ見たい」

「わたしもユナさんが着替えたら、着替えます」

「ほら、みんなもこう言っています。クマさんを脱いでください」

わたしは諦めて、くまゆるとくまきゅうを召喚してから、クマの服を脱ぐ。

そして、わたしはサクラの言われるままに着付けをされる。そして、長い髪は結ばれ、かんざしを付けられる。

「ユナ様、綺麗です」

姿見の前に立って、自分の姿を見る。

似合う、似合わないの問題ではなく、なぜか気恥ずかしい。

クマの着ぐるみと別の意味で恥ずかしくなるのはどうしてだろう。

そもそも、恥ずかしくないと思う服ってなんだろう?

ドレス姿も恥ずかしかったし、こっちの世界の服を着ても気恥ずかしいような気がする。

そして、サクラの手によって、全員が着物に着替え終わる。

フィナとシュリは姉妹ってことで同じ色の赤色の着物を着ている。ルイミンは髪に合わせたのか、薄緑色の柄の着物だ。シノブも忍者服から紺色の着物に着替えさせられて、わたし以上に恥ずかしそうにしている。

サクラもサクラの花の着物に着替えた。

「みなさん、綺麗です」

うん、サクラを含めてみんな綺麗だね。写真があったら、撮りたくなる。でも、カメラもデジカメもスマホもない。

こういうときに、スキル、クマの念写とか欲しかった。見たものを紙に写すことができるとか。そんなスキルがあれば、今のフィナたちのことを画像に残すことができたのに。そうすればティルミナさんにも可愛い娘たちの姿を見せることができたのに、神様も融通が利かないものだ。

でも、写真がなければ、絵を描けばいい。

「フィナ、シュリ。こっちに来て、その座布団の上に座って」

わたしは目の前にある座布団に視線を向ける。

「えっと、はい」

「うん」

着物を着たフィナとシュリは素直にちょこんと座布団の上に座る。わたしはクマボックスから、紙と書くものを取り出す。

「しばらく動かないでね」

「もしかして、わたしたちの絵を描くんですか!?」

「絵を描いてくれるの?」

「うん、だから、動かないでね」

「恥ずかしいから、やめてください!」

動かないでって言ったのに、フィナはわたしの持っている紙に手を伸ばしてくる。

「ほら、動かないで。ティルミナさんに見せてあげるんだから」

わたしはフィナを押し返して、座布団に座らせる。

「シュリ、フィナが逃げないように手を握っていて」

「うん、お姉ちゃん、動いちゃダメだよ」

シュリがフィナの手を掴む。フィナもシュリの手を振りほどくことはしない。

わたしはフィナが動かない間に絵を描き始める。

「うぅ~、恥ずかしいです」

フィナは頬を赤く染めながら、俯いてしまう。

「フィナ、動かないで、顔はあげて」

フィナは恥ずかしそうに顔をあげる。

やっぱり、被写体がいいといいね。仲良し姉妹だ。

でも、着物は描くのは難しい。まあ、黒一色だから、色を塗らないので楽だけど。

「ユナ様、絵を描いているんですか?」

「記念になるからね」

フィナが毎回着てくれればいいけど、着てくれそうもない。

「ユナ様、上手です」

「ユナは絵も描けるんすね」

「うわぁ、本当に上手です」

わたしの後ろからシノブとサクラ、ルイミンが絵を覗き込む。

「ユナ様、次にわたしたちも描いてくれませんか?」

「うん、いいよ」

わたしは照れるような表情をするフィナの絵を描き上げ、次にサクラとルイミンを描く。それが終わればくまきゅうと一緒にサクラとシュリを描き、くまゆるとフィナとルイミンも描き、シノブとサクラも一緒に描いてあげる。

そして、最後はフィナ、シュリ、ルイミン、サクラ、シノブ、くまゆる、くまきゅうを一緒に描く。

久しぶりの人物画だったけど、楽しく描けた。