軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

494 クマさん、朝食を食べに行く

わたしたちはサクラを家まで送り届ける。

「それではみなさん、楽しんできてください」

「サクラちゃんも一緒に行けたらよかったのに」

ルイミンの言葉にサクラは申し訳なさそうにする。

「でも、午後は一緒にいられますので、家にお越しになってください。シノブ、みんなのことをよろしくお願いしますね」

「了解っす。ちゃんと、案内するっす」

サクラと別れたわたしたちは朝食に向かう。

ちなみに街に入ってから、住民の視線は受けまくっているよ。現在進行形で。

「サクラ姉ちゃんの家、大きかった」

「あれは、サクラだけの家じゃないよ。巫女が集まっている家だよ」

「巫女?」

巫女って言葉にシュリは首を傾げる。巫女が理解できないみたいだ。ここでも文化の違いがでてくる。

それぞれの国の文化の説明をするのは難しい。わたしだって、他の国の常識なことでも知らないことはある。説明するのも、理解するのは難しいものだ。

「う~ん、サクラの仕事場って言うのかな? サクラ以外にも住んでいるんだよ」

だから、仕事場でもあり、サクラ以外にも住んでいることを簡単に説明する。

そんな説明で、シュリもなんとなく分かったようで、頷いている。

「それで、どこで食べるの?」

「そうっすね。わたしの行きつけのお店で軽く食べて、あとは街の中を歩きながら、適当に食べ歩きでもしようかと思っているっす」

「初めに言っておくけど、変なものは食べないよ」

「変なものって失礼っす。サクラ様も食べるから、変なものじゃないっすよ」

「サクラが食べるからと言って、虫は却下だよ」

イナゴとか食べたりするけど、わたしは遠慮したい。食べたことはないけど、虫ってことで拒否反応する。美味しい、不味いの問題でなく、虫ってところが問題だ。

「虫がいいんすか?」

「人の話を聞いている? もし、そんな店に連れていったら、暴れるよ。店、破壊するよ。シノブ死ぬよ」

「殺さないでほしいっす。虫はでないから大丈夫っすよ」

先ほどのシノブの表情を見ていると、怪しいから気を抜けない。

「みんなも嫌いなものはないっすよね」

「虫は食べたくない」

「はい、わたしも」

「わたしもです」

わたしだけでなく、シュリ、フィナ、ルイミンも反対する。仲間がいてよかった。

みんなの意見も一致したのだから、シノブも変な店には連れていかないはずだ。

わたしたちがやってきたのは定食屋みたいなお店だ。シノブを先頭にお店の中に入る。中は思ったよりも広い。テーブルが10個ほどあり、カウンター席もある。

だけど、お客さんが誰もいない。穴場なのか、人気がないのか、判断はできない。

「タイミングが良かったっすね。空いているっす」

「あら、シノブちゃん。いらっしゃい」

わたしが心配をしていると、カウンターの奥から前掛けをつけて頭に三角頭巾を付けてる中年女性が出てくる。シノブの名前を呼んだってことは、本当に行きつけのお店だったみたいだ。

「ちなみに、お客さんがいないのは、みんな仕事に行ったからよ」

「聞こえていたっすか?」

「そりゃ、お客さんが来れば耳を傾けるわよ。それで、今日は可愛い子たちを連れてきているわね。シノブちゃんの彼女なのかしら? シノブちゃんは女の子にモテるからね」

「そんなんじゃないっすよ。友達っす。みんなで朝食を食べに来ただけっすよ」

「そうなのかい? それにしても見かけない服を着ている子たちだね」

女性がわたしたちを見て、視線がわたしで止まる。

「しかも、クマかい? そんな格好をしている子は初めて見たよ」

見たことがあったら、それはそれで困る。

「その恰好については、追及しないであげてほしいっす」

「訳アリかい?」

「訳アリっす」

「なら、聞かないでおくかね。それじゃ、適当に座っておくれ」

わたしたちは奥のテーブルの席に着く。

「シノブ姉ちゃんは女の子にモテるの?」

椅子に座ったシュリが無垢な表情で尋ねる。

「別にモテたりはしてないっすよ。おばちゃんは冗談を言うのが好きなだけっすよ」

「そんなことはないわよ」

話を聞いていた女性がシノブの言葉を否定する。

「シノブちゃんはそこらにいる冒険者よりも強くて、頼りになるから、女の子に好かれているのよ。男に絡まれている女の子がいれば助けるから、シノブちゃんを慕っている女の子は多いわ。シノブちゃんが男の子だったらと女の子の間じゃ言っているほどよ」

どこかで、聞いたことがあるセリフだ。

「おばちゃん、みんなに変なことを言うのはやめてほしいっす。それよりも、食事に来たっすよ。変なことを話すなら、他の場所に行くっすよ」

シノブが無理やりに話を打ち切る。

からかうネタをゲットできると思ったのに残念だ。

「それじゃ、帰られる前に注文を聞こうかね。何にするんだい」

わたしが「なにがあるんですか?」って聞こうとするよりも先にシノブが答える。

「全員、いつもの朝食セットを、お願いするっす」

「了解。それじゃ、少し待っておくれ」

おばちゃんはシノブの注文を聞いて、カウンターの奥に向かう。

朝食セットと言うなら、変なものはでてこないはずだ。

「シノブはいつもここに来ているの?」

「安い、早い、美味しいから、来ているっすよ」

シノブの言葉通りに調理場では調理が始まる。中年男性がいる。さっきの女性の旦那さんかな?

そして、それほど待つこともなく、料理がテーブルの上に並べられる。確かに、早い。

ごはんに味噌汁、のり、納豆、焼き魚。

魚は鮭、味噌汁の具材もシンプルでワカメと豆腐が入っている。確かに和の国らしい普通の朝食だ。

「それじゃ、いただくっす」

「「「「「いただきます」」」」」

わたしは納豆に醤油をかけて、掻き回す。

いい感じに粘りがでてくる。納豆を食べるのも久しぶりだ。うん、美味しそうだ。でも、周りの反応は違った。

「うぅ、ネバネバして、気持ち悪いよ」

わたしの真似をして、掻き回していたシュリは手を止める。

「それに臭いです」

ルイミンが納豆に顔を近付けて変な顔をする。2人は納豆の入った器を遠ざける。フィナは器を持って、困っている。

「えっと、シノブさん。この豆、腐ってませんか? ネバネバして、臭いんですが」

ルイミンが納豆を見ながら、少し言い難そうに尋ねる。

「うん、腐っているっすよ」

「腐っているんですか!?」

シノブの言葉に三人は驚き、納豆から目をそむける。

「でも食べられるから、大丈夫っすよ」

シノブはそう言うが、三人は不安そうにしている。確かに、腐っていると言われたら、不安になる。

「三人とも大丈夫だよ。正確には腐っているわけじゃないから。発酵させているだけだから、食べられるよ」

わたしは証明するために、納豆をご飯に乗せて食べる。

久しぶりの納豆だ。美味しい。

「ユナさん……」

「ユナお姉ちゃん……」

「ユナ姉ちゃん、大丈夫?」

三人は心配そうにわたしのことを見ている。

「そういえば、他の国では納豆は食べないって、聞いたことあるっす。しかも、苦手な人が多いって」

「食べないって言うか、無いからね。だから、初めて見る人は驚くかもね」

和の国以外では見たことがない。

「すまないっす。すっかり、忘れていたっす。わたしが食べるから、くださいっす」

シノブは申し訳なさそうにする。

まあ、普通に自分が食べているものを嫌っているとは普通は思わないかもしれない。

「それなら、わたしももらうよ。1人じゃ多いでしょう」

「それは助かるっすが、ユナは平気なんすか?」

「大丈夫だよ。わたしの故郷にもあったからね。食べるのは久しぶりだから、嬉しいぐらいだよ」

「そう言ってもらえると嬉しいっす」

シノブは、嬉しそうにする。せめて、わたしだけでも食べてあげないと可哀想だ。

わたしはシュリから納豆が入った器を受け取る。

「ユナ姉ちゃん、本当に美味しいの?」

「う~ん、どうだろうね。嫌いな人は嫌いだからね。だから、無理に食べる必要はないよ」

関西の人は苦手って聞いたことがある。誰だって、食文化が違っていれば、口にするのは怖いものだ。わたしだって、虫は遠慮したい。

育った環境が違うんだから、仕方ないことだ。

「それじゃ、ルイミンの分はわたしが貰うっすね」

「シノブさん、すみません」

ルイミンは納豆が入った器をシノブに差し出す。

「フィナはどうする?」

「食べてみます」

「無理をしないでいいっすよ」

「いえ、食べ物を粗末にしたら、ダメだから」

「わたしが食べるから、粗末にはならないよ」

「でも……」

フィナは納豆を見ている。少し嫌な顔をしている。やっぱり 臭(にお) いが駄目なのかな?

「それじゃ、一口だけ食べてみて、ダメだったら、私が貰うよ」

わたしの言葉にフィナは一口サイズの納豆をごはんの上に乗せ、息を止めて口に入れる。そして、口をモゴモゴと動かす。最後にゴクンと飲み込む。

「どう?」

「お姉ちゃん?」

「フィナちゃん?」

わたし、シュリ、ルイミンが心配そうに見守る。

「豆が柔らかくて、醤油と混ざって、不思議な味でした」

「味は?」

「不味くはなかったです」

その言葉にシノブはホッとする。もちろん、わたしもだ。

「それじゃ、残りはわたしがもらうよ」

「いえ、食べます」

「無理をしなくても」

「無理じゃないです」

そういうとフィナは残りの納豆をご飯の上に乗せて食べ始める。それを見たシュリが。

「わたしも食べてみる」

わたしのところに置いてある納豆が入った器を自分のところに戻す。そして、納豆を掻き回して、ご飯の上にかける。フィナと同じように目を瞑って口の中に入れて食べる。

「美味しい」

「はい、不味くはないです」

シュリとルイミンの感想は悪くない。

「でも、臭いです」

まあ、それは仕方ない。わたしは食べたことはないけど、くさやも臭いけど美味しいらしい。それと同じだ。もしかして、和の国にもくさやがあったりするのかな?

まあ、自分から食べようとは思わないけど。

結局、納豆は全員が、それぞれが食べることになり、無事に完食することができた。

「お魚も美味しかったです」

「そう言ってくれると、良かったっす」

どこかに納豆って売っているのかな?

今度、自分用に買っておこうかな。納豆はたまに食べたくなるんだよね。