軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

412 クマさん、宿屋に帰る

無事に魔力を補充することができたわたしとギルマスは部屋をでる。ドアの外にはロージナさんが出迎えてくれる。

「どうやら、上手くいったようだな」

ロージナさんが周囲の明るくなった様子を見ながら言う。周囲はわたしが部屋に入ったときに比べて明るくなっている。ちゃんと魔力が使われているようだ。

「これで、どうにか誤魔化すことができるだろう。問題はどのくらい持つかだけだ」

「まあ、そのときはそのときだろう」

最悪、わたしが魔力を追加する方法もあるけど。面倒なので、お断りしたい。

「それにしても、嬢ちゃんは魔力の量も多いんだな。それだけの魔力を持っていれば、普通は魔法使いとして生きていくから、あれほどのナイフの技術は得られないはずなんだがな」

「たしかにそうだな。魔力が多いってことだけで、人は有利になる。だから、魔力が多い者は危険な武器は使わず、魔法を使って戦うことが多い」

まあ、遠くから攻撃をすれば安全だし、魔法を使うにしても、それなりの練習は必要だ。武器を扱う練習する時間があれば魔法の練習をする。わたしが知っている新人冒険者の女の子も、日々、魔法の練習をしている。「二兎を追う者は一兎をも得ず」ってことわざがあるぐらいだ。

武器の扱いの練習をすれば、魔法がおろそかになる。だから、魔力が多い者が武器を扱うことは少ない。

それはゲームの世界でも同じことが言える。魔法使いは剣を使って戦わない。魔法と武器を使うのは魔法剣士ぐらいだ。

「それにその年齢で、あれだけの技術は簡単には身に付かないはずだ」

ゲームをして身に付けました。

この世界と違って、戦う練習をしようと思えば24時間できる。街の外にでれば魔物がいるし、対戦場に行けば、NPC(ノンプレイヤーキャラクター )やプレイヤーがいる。現実世界なら体力が無くなったり、怪我をしたら練習はできなくなる。でも、ゲームなら回復薬を使えば、体力は回復するし、怪我だって治る。何試合だってできる。

たった一年でも、この世界の住人より、十数倍、百倍近い戦いをしている。この世界に何万の魔物を倒したことがある者がどれほどいるか。わたしほどに各種様々な職業の人と戦ったことがある人物がどれほどいるか。

なにより、この世界にわたしほど死んだ数が多い者は存在しない。普通は死から学ぶことができない。でも、わたしは何度も死んで、死んだことによって学んだことがたくさんある。それがこの世界の者とわたしとの違いだ。

もっとも、その技術も力もクマ装備がなければ、使うことができないんだけどね。本当に嫌がらせだよね。

わたしは下を向いて、自分のモコモコの姿を見るとため息がでる。せめて、格好いい装備だったらよかったのに。

わたしたちは扉を開けてフィナとルイミンがいる建物に戻る。するとフィナとルイミンが駆け寄ってくる。どうやら、扉の前で待ってくれていたみたいだ。

「ユナお姉ちゃん!」

フィナが目の前にやってくる。わたしはそんなフィナをじっと見る。

「ユナお姉ちゃん?」

「本物だよね」

「本物?」

フィナが小さく首を傾げる。

本物みたいだね。あんなことがあったばかりだと疑ってしまう。まあ、あのときは魔法の壁に映ったシルエットと声で騙されたけど。目の前にいるのは間違いなくフィナだ。

わたしはポンポンとクマさんパペットでフィナの頭を軽く叩く。わたしの意味不明の行動にフィナは困惑の表情を浮かべる。

「2人ともなにもなかった?」

いきなり、記憶をコピーされるような、不思議なことは?

「えっと、ギルド職員の方が来ました」

フィナの後ろを見ると制服を着た2人ほどのギルド嬢が仕事をしている。そして、わたしたちに気付いたギルド嬢はギルマスに駆け寄ってくる。

「ギルマス。どこに行っていたんですか! 来たら、ギルマスはいないし。女の子がいるし、話を聞けば試しの門の中に入ったって言うし」

「ちょっと、試しの門の中を確認していたんだ」

「鍛冶職人のロージナさんとクマの女の子も一緒にですか?」

ロージナさんを見てから、わたしのほうを見る。

「それは……」

「すまない。俺が無理を言ってお願いしたんだ。遠くから来た知り合いが、試しの門の中を見たいって言うのでな」

ギルマスが言いよどんでいるとロージナさんが助け船をだす。そして、わたしのことをチラッと見る。なるほど、試しの門に挑戦したことは言えないから、わたしが我儘を言って、中に入ったことにするみたいだ。でも、これって、わたしのせいにならない?

「ギルマス、本当ですか?」

ギルド嬢の1人は少し怒ったようにギルマスに尋ねる。

「……すまない」

「わたしたちもギルマスの許可なしで入ることが禁止されているのに、ロージナさんに頼まれたからと言って、女の子を中に入らせるのは困ります!」

ギルド嬢の怒った表情にギルマスはたじろぐ。

「ま、まあ、試練をしているところを見せたわけじゃないから」

ギルマスは言い訳をするように言う。ギルマスの威厳がないね。それともギルド嬢がしっかりしているのかな。

「でも、規則は規則です。しっかり、守ってください」

「すまない」

「俺からも謝罪する」

「ごめんなさい」

ギルマスに続き、ロージナさんも謝罪するので、わたしも一緒に謝っておく。

ギルド嬢は小さくため息を吐く。

「お嬢ちゃん。この中にはギルマスの他は試しの門に挑戦する者しか入れない。わたしたちも入れないんだから。中が見たいからと言って、我儘を言ったら駄目よ」

わたしが子供っぽく見えたのか、ギルド嬢は許してくれる。

まあ、わたしが試しの門に挑戦したとは思わないよね。

「ギルマスも女の子だからって、規則は守ってくださいよ」

「ああ、わかった」

「それでは外で待っている鍛冶職人と冒険者の受付を始めても大丈夫ですか?」

「ああ、頼む」

受付嬢はドアを開ける。すると数組の鍛冶職人と冒険者と思われる人が建物の中に入ってくる。

受付嬢の一人がテーブルの前で受付をし、もう一人が外で対応する。

「どうにか、無事に始められそうだな」

ギルマスは武器職人や冒険者を見て嬉しそうにする。どちらも若く、見習い鍛冶職人と新人冒険者かもしれない。そして、受付を終えた一組目がやってくる。

「タロトバ、今回は世話になった」

「今度は自分で武器を作って、参加してくれ。それなら文句はない」

「わかっている。そのときは最高の武器で参加する」

ロージナさんが最高の武器で参加すると言った。もしかして、そうなの?

「ただ、その嬢ちゃんが参加するなら、最終日だ。これだけは譲れないからな」

ギルマスはロージナさんの言葉に嬉しそうにすると、試練の門に挑戦する一組目と一緒に扉の奥に入っていく。

ギルマスはああは言ったが。もう、わたしは参加するつもりはない。また面倒なことが起きても困る。それに試しの門の試練は堪能した。

「ロージナさん。それじゃ、わたしも行くね」

これ以上時間が過ぎると、人が集まってくる。その前に帰りたい。

「ああ、嬢ちゃんには良いものを見させてもらった。感謝する。明日までに頼まれた物は終わるから、取りに来てくれ」

ロージナさんはしばらく残って、試練にやってくる鍛冶職人を見ていくそうだ。

わたしはフィナとルイミンを連れて帰ることにする。

「ユナお姉ちゃん、それで試しの門の試練はどうだったんですか?」

階段をポンポンと飛び降りる感じで降りるフィナが尋ねる。

ルイミンはわたしから逃げるように一人で階段を降りている。わたしが一緒に降りようか? と尋ねると逃げてしまった。

「そうだね。武器の性能、武器を扱う者、そして、武器を扱う者の心の試練だったね」

「難しそうです。それで、ユナお姉ちゃんは試しの門の試練はクリアしたんですか?」

数段下にいるフィナが振り返りながら尋ねる。

「一応、クリアしたよ」

「ユナお姉ちゃん、凄いです。でも、細かい内容は話せないんですよね」

「まあ、規則だからね」

それに偽フィナについて話すのは、気恥ずかしさがある。それに自分のコピーのこともそうだし。クマの着ぐるみvsクマの着ぐるみ姿の戦いを想像させるのも恥ずかしい。

わたしは規則を盾にして、細かい内容はお茶に濁す。

「でも、わたしもユナお姉ちゃんの戦いは見てみたかったです」

「それはわたしもです」

フィナの声が聞こえたのか、フィナの数段下にいたルイミンが同意する。

「ああ、そうだ。ユナお姉ちゃん、聞いてくださいよ。ルイミンさん、勝手に試しの門の中に入ろうとしたんですよ。わたしがダメって言っているのに」

「ああ、フィナちゃん。言わないでよ。中には入らなかったでしょう」

下にいるルイミンは駆け登って、フィナの口を塞ごうとする。

「少しだけならとか、言っていました」

「フィナちゃ~ん」

「結局、ギルドの人が来て、入りませんでしたが。来なかったら、絶対に入っていました。止めるのが大変でした」

「だって、気になるでしょう」

ルイミンは言い訳をするが、その気持ちは分からなくもない。わたしも知りたいから、長い階段を登って、試しの門までやって来て、ロージナさんの言葉に甘えて、挑戦させてもらった。だから、ルイミンを責めることはできない。

そして、わたしたちは長い階段を降りる。それまで、数組の鍛冶職人とパートナーの冒険者とすれ違った。そのたびにわたしのことを見るが、スルーして階段を降りていった。

彼らがどんな試練になるかは、気になるところだ。頑張って、試練に挑戦してほしいものだ。

「2人はこれからどうする? わたしは宿屋に戻って休もうと思うけど」

「それじゃ、わたしも戻ります」

「わたしはどうしようかな?」

ルイミンは1人、悩みだす。

「ロージナさんから鍋とか受け取ったら帰る予定だから、好きなことをやっていいよ」

「もう、十分に楽しみました」

「そうだよね。今日は朝は早かったし、わたしも帰って寝ようかな」

ルイミンが小さく欠伸をすると、つられるようにわたしとフィナも欠伸がでる。

確かに朝は早かった。それに魔力の消耗もある。わたしも宿屋に戻ったら寝よう。

宿屋に戻ってくると、子熊化したくまゆるとくまきゅうを召喚して、ぬいぐるみのように抱いて寝ようとしたら、フィナとルイミンに取られ、一人で寂しく寝ることになった。

……寂しい。