軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

372 クマさん、押し花を作ることにする (4日目)

出発した場所と同じ海岸まで戻ってくる。

そして、くまゆるとくまきゅうに乗ったまま町の入口までやってくると、門番のおじさんが話しかけてくる。

「嬢ちゃん、遅かったな」

「ちょっと、遊んでいたら遅くなってね」

時間的に三時のおやつの時間ぐらいだ。夜にならないうちに戻ってこられたから良かった。門番のおじさんに挨拶をして門を通ると、そのまま子供たちが遊ぶ海水浴場まで戻ってくる。子供たちは海で泳いだり、ウォータースライダーで遊んだり、砂浜で遊んだりしている姿がある。なにごとも無かったようだ。

海の家に戻ってくると、院長先生やティルミナさん、ゲンツさんの姿があり、数人の子供も休んでいる。子供たちはくまゆるとくまきゅうを見ると駆け寄ってくる。

フィナとシュリはティルミナさんとゲンツさんのところに向かう。

「ユナさん、お帰りなさい」

院長先生が声をかけてくる。

「ただいま、何もなかったですか?」

「みんな、楽しんでいますよ。でも、ノアさんがユナさんたちのことを捜していましたよ」

「……えっと、なにか言ってましたか?」

「そうですね。少し怒っていました」

やっぱり。でも、定員オーバーで連れていけなかったんだよ。

「そのノアは?」

キョロキョロと見渡すが、砂浜にも泳いでる姿も見えない。ノアの水着もミサの水着も孤児院の子供たちとは違うから、遠目からでも分かるが、クマのウォータースライダーで遊んでいれば、ここからだと見えない。

「ノアさんはミサさんたちと一緒におでかけしましたよ」

そうなの?

もしかして、わたしを捜しに行ったわけじゃないよね。それだったら可哀想なことをした。

「それでユナちゃん。娘たちを連れてどこに行っていたの? フィナとシュリに聞いても、ユナちゃんに聞いてって言われたんだけど」

約束を守ってくれるのはいいけど、少しは言い訳をしてほしいよ。

「ちょっと、近くの島を探索しに行ってきたんですよ」

「リンゴ美味しかったよ」

「リンゴ?」

「うん」

シュリが頷く。

「ああ、そうだ。お母さん。お土産があるの。お姉ちゃん出して」

シュリがそう言うとフィナはアイテム袋から花を取り出す。

もしかして、桜の木の下に咲いていた花?

どうやら、あのときに花を摘んで、フィナが持っているアイテム袋に仕舞っていたみたいだ。本当は果物をお土産にするつもりだったけど、それどころではなくなり、採ってこられなかった。でも、花なんて摘んでいたんだね。

「ありがとう、綺麗な花ね」

ティルミナさんはシュリから花を受け取ると嬉しそうにする。

「たくさん綺麗な花が咲いていたんだよ」

「お母さんも見てみたかったわ」

それは無理です。

「あとで部屋に飾りましょう」

花瓶なんてお洒落な物、わたしの家にあったかな?

どちらかと言うと花より団子だ。花を飾るような女の子らしい趣味はない。やったとしても、花壇に花を育てるぐらいかな?

それでも、花じゃなくて食べ物を育てるかも。

「それにしても綺麗な花ね。数日で枯れるのはもったいないわね」

そればかりは仕方ない。花は長くは持たない。写真機でもあれば撮ることもできたけど、そんなものはない。わたしが絵を描いても、それはシュリとフィナからのプレゼントではなくなってしまう。

わたしは少し考えて、良い案が浮かぶ。

「それじゃ、押し花を作ればいいんじゃない」

「押し花?」

シュリは首を傾げる。

もしかして、押し花をしらない?

でも、別のところから反応がある。

「それはいい考えですね。わたしも花を摘んできたけど、どうしようかと思っていました。押し花にすればいいんですね」

シアは押し花のことは知っているみたいで、わたしの案に賛成する。もしかして、押し花って上流家庭ぐらいしか行なわないのかな?

「ユナ姉ちゃん。押し花ってなに?」

「簡単に説明すると、花を本みたいな平らな物の間に挟んで作る花かな? 額縁に入れたりして飾ると綺麗だよ。ただ、花がぺたんこになるのが難点だけどね」

小学校のときに作ったから、作り方は覚えている。プロが作るような押し花じゃなければ作れるはず。

「作り方を失敗しなければ、枯れたりはしないはずだよ。花の色は変わるかもしれないけど」

水分をちゃんと取らないと傷んだりする。その辺りは乾燥剤があれば大丈夫だったはず。乾燥剤は湿気がある場所に置く理由で、この世界でも売っているのを見たことがある。

変色を防ぐためには、なるべく空気に触れないように密封するって聞いたことがある。細かい部分もあるが、作れなくはないはず。

もし、失敗したら島に花を取りに行けばいいんだけど。わたしが取ってきた花とシュリがティルミナさんのために取ってきた花では価値は違う。それは絵と同様にわたしからティルミナさんへの贈り物になってしまう。

だから、絶対って言葉は使わない。

「それじゃ、うちで作りますか? たしか道具はあるはずです。あっ、でも家に戻るまで花が」

「花なら、わたしが預かるよ。わたしのアイテム袋なら枯れたりしないからね」

「たしか、ユナさんのアイテム袋は特殊なんですよね」

クマボックスに入れておけば枯れたりはしない。

「シュリ、どうする?」

「枯れないの?」

「大丈夫だよ」

「うん、わかった。ユナ姉ちゃん。お花預かって」

ティルミナさんがシュリの言葉を聞いて、わたしに花を渡してくれる。わたしはクマさんパペットに咥えるとクマボックスに入れる。

「ユナさん、わたしのもお願いしてもいいですか?」

「いいよ。フィナも花があるなら預かるよ」

「ありがとうございます」

シアとフィナの花も受け取り、クマボックスの中に仕舞う。

クリモニアに戻ったら押し花作りだね。

「ユナちゃん、戻ってきたのね。ちょっといい?」

海の家で休んでいるとルリーナさんがやってくる。

問題でも起きたのかな?

「あの子たちを見て」

ルリーナさんが指差す方向を見ると数人の子供たちがいる。うちの子たちじゃない。スクール水着を着てないので、遠目でも分かる。

「あの子たち、少し前からユナちゃんが作ったクマを見ているのよ。たぶん、一緒に遊びたいんだと思うんだけど。どうしたらいいかと思って。相談しようにもユナちゃん、いないし」

「声はかけたんですか?」

「まだよ。気付いたのが少し前で、どうしようかと悩んでいたら、ユナちゃんが戻ってくるのが見えたから相談してからと思って」

わたしはルリーナさんの代わりに子供たちに声をかけることにする。知らない大人の人が声をかけるよりは、ミリーラの町ではそれなりに有名なわたしが声をかけた方が、驚かれないはず。

わたしは立ち上がると、クマのウォータースライダーを見ている子供たちに近づく。

10歳から13歳ぐらいの男の子と女の子が5人ほどいる。

「こんにちは」

「クマさん?」

「くまのお姉ちゃん?」

「もしかして、遊びたいの?」

「うん、楽しそう」

「それじゃ、遊ぼうか?」

「いいの?」

「いいよ。でも、仲良く遊ぶんだよ」

「うん」

わたしは子供たちを連れて、クマさんウォータースライダーに向かう。

「みんな、この子たちも一緒に遊ばせてあげて」

わたしが声をかけると。

「うん、いいよ」

「いいよ~」

と声が返ってくる。

地元の子たちは嬉しそうにウォータースライダーに駆け出していく。

「ユナちゃん、ありがとうね。もう少し早く気付いて、声をかけてあげれば良かったんだけど」

ルリーナさんはお礼を言うとクマさんウォータースライダーに向かう。

わたしが海の家に戻ってくると、シュリはティルミナさんの膝の上で寝ていた。疲れたのだろう。シアとフィナは飲み物を飲んでいる姿がある。わたしも一緒に休もうとすると声をかけられる。

「ああ、ユナさん。戻っています」

後ろを振り向くとノアとミサ。それとマリナとエルの姿があった。

「ユナさん、どこに行っていたんですか。黙っていなくなるなんて酷いです。どこかに行くなら、わたしも連れていってください」

ごめんね。くまゆるとくまきゅうは定員オーバーだったんだよ。ノアは小さいから頑張れば乗られたかもしれないけど、そんなことになればミサもマリナたちも付いてくると言い出したかもしれない。そうなれば完全に定員オーバーだ。

「ごめんね。本当はフィナたちも連れていく予定は無かったんだよ。でも、付いてきたいって言うから、仕方なくね。だから、ノアを 蔑(ないがし) ろにしたわけじゃないよ」

「本当ですか? わたしが邪魔だからってことじゃないですよね」

「本当だよ。わたしが無理やり付いていったんだよ」

「はい、偶然にユナお姉ちゃんが出掛けようとしていたので、付いていくことになったんです」

シアとフィナがフォローしてくれる。

「うぅ、今度はわたしたちも誘ってくださいね」

どうやら、それほど怒ってはいないようだ。寂しかったみたいだ。そう考えると可哀想なことをしたね。

「それで、ユナさんたちはどこに行っていたんですか?」

「近くの島の探索だよ。なにか面白い物がないかなと思って」

「なにか面白い物はあったんですか?」

「綺麗な花が咲いていたよ」

わたしはフィナたちから預かった花を取り出す。

「綺麗です。わたしも行きたいです」

「魔物がいたから、ダメだよ。わたしたちも魔物がいたからすぐに戻ってきたからね」

「そうなんですか。それじゃ、無理ですね」

わたしの口から嘘と本当のことが混ざる言い訳が出る。

嘘は心が痛むけど。わたしが招いたことだし、タールグイについては言えないから仕方ない。

だから、魔物って単語でお茶を濁すしかない。実際に魔物がいたから、嘘ではない。

「クリモニアに戻ったら、この花で押し花を作るんだけど、一緒に作る?」

「押し花ですか?」

「花を乾燥させて作る花だよ。上手にできれば綺麗だよ」

わたしの言葉にノアは嬉しそうにする。

「約束ですよ。今度はのけ者にしないでくださいね」

「ミサも時間があったら一緒にやろうね」

「はい。お爺様にお願いしてみます」

それから、わたしたちはクマハウスに戻ることにする。

寝ているシュリはゲンツさんに担がれていく。微笑ましい姿だ。