軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

365 クマさん、島のことを知る (4日目)

わたしがクリュナ=ハルクの本を読もうとすると「く~」と可愛らしい鳴き音がする。

「ユナ姉ちゃん、お腹空いた」

お腹が空いたって、さっきリンゴ1つ食べたよね?

リンゴって、結構お腹は膨らむと思うんだけど。でも、シュリの言葉じゃないけど、確かに小腹が空いてきたかもしれない。魔物はいないみたいだし、危険な動物が近寄ってくれば、くまゆるとくまきゅうが教えてくれる。島が動き出せば飛び降りれば良い。

それに暑い日射しの中、歩いてきた。くまゆるとくまきゅうに乗っているフィナとシュリは暑かったかもしれない。

「風が吹いていたから、大丈夫ですよ」

「うん、大丈夫だよ」

と2人は言うが休憩を入れて、軽く食事をすることにする。

地面に敷物を敷いて、クマボックスからパンを取り出し、みんなで座る。わたしはパンを口に咥えながら、クリュナ=ハルクの本を読む。

『もし、この島のことを何も知らずに、この本を手に入れた者のために伝える。この島はタールグイの上である』タールグイ? 聞いたことがない。この島の名前?

『できれば早々に島から出た方がいい。島はいずれ動き出すだろう。渦潮が強くて出られない場合は、この碑石から左手周りに行ったところに同様な碑石がある。脱出方法は碑石に書かれている』

などと島から出る方法が書かれている。そもそも、船が壊れて漂着した場合はどうするのよ。などと突っ込みたくなる。

それから、この本はこの島にいるときにしか読めないと書かれていた。なんでも、島から離れると、碑石の中に戻っていくと言う。それってどういうことなのかな?

島から離れるとビューって飛んでいくとか? その場合、クマボックスに入れたら、どうなるのかな?

試したかったけど、二度と手に入らなかったら困るので、今は実験みたいなことをするのはやめることにする。でも、お持ち帰りできないのは残念だ。シアの話を聞く限りじゃ、クリュナ=ハルクの本は価値がありそうだから、手元において置きたかった。まあ、島に置いておけばいつでも、読めるなら、それはそれで問題はない。

「ユナさん、なにか分かりましたか?」

わたしが本を読んでいると、パンを食べているシアが尋ねてくる。

「そうだね。シアはタールグイって知っている?」

「タールグイですか? あのタールグイですよね」

どのタールグイかは知らないんだけど。そもそも初めて聞く名前だ。もしかして、タールグイは有名なの?

クリュナ=ハルクの本にも『ここはタールグイだ』っていきなり書いてあったし。

「ユナさんはタールグイのことを知らないのですか?」

「うん、知らないけど。もしかして、クリュナ=ハルクみたいに有名?」

なにぶん異世界歴、数ヵ月ですから知らないことの方が多い。一応、フィナとシュリにも聞いてみるが「知りません」「知らないよ」って返事が返ってきた。

「う~ん。有名と言えば有名です。でも知らない人は知らないかもしれません。タールグイは海の伝説の生き物の名前ですよ」

「伝説……」

伝説の海の生き物って、亀? 鯨? タコ? イカ? それともわたしが知らない生物?

でもタールグイって生き物が魔物なら探知スキルに反応しても良いはずなんだけどな。魔物じゃないってこと? 魔物じゃなくても、危険な生物なら、くまゆるとくまきゅうが教えてくれるはずだ。でもくまゆるとくまきゅうを見ても、フィナとシュリと楽しそうにパンを食べている。島に近づいても反応はなかった。

伝説って聞くと鳳凰とか聖獣が頭に浮かぶ。海だから聖亀とか聖鯨とか? それっぽく脳内で漢字を並べてみたが、読めない漢字になってしまった。

「それで、そのタールグイがどうかしたんですか?」

「どうやら、この島がタールグイらしいんだけど」

「それは本当なんですか!?」

シアが驚きの声をあげる。

「この本に書かれていることが本当ならね。それで、タールグイってなんなの?」

「タールグイは存在は確認されていますが、どこにいるか、どんな形態をしているかは分かっていません。でも、とても大きいらしいです」

この島全体がタールグイなら、生き物として確かに大きい。クマの地図で確認すれば、直径1kmは優にある。

「タールグイが出てくる話もいろいろあるんですよ。タールグイを襲った船が全滅させられた話もあれば、魔物に襲われた船を助けた話もあります。さらに災害にあった村の住民を背中に乗せて、村の人を救った話もありますよ。だから、タールグイを救いの神とも崇めている土地もあるみたいです」

神としてね。まさしく聖獣だね。

まあ、くまゆるとくまきゅうも神様の贈り物だから、聖獣かもしれないけど。わたしがくまゆるとくまきゅうを見ると可愛らしく「なに?」って首を傾げる。聖獣の貫禄はないね。

「それじゃ、危険はなさそうだね」

「タールグイは何千年と生きていると言われていますけど、今まで実際に災害になるほど大事件は起こしていないはずです」

シアの話ではこの百年、タールグイの存在は確認されていないらしい。もし、人を襲っているなら、危険な存在として、広まっているはずだと言う。

たしかにそうだ。人を襲う存在なら、タールグイが危険ってことで広まっていく。そもそも、タールグイは人を襲う以前に人の前に現れもしていないようだ。

「でも、わたしの話は言い伝えや本に書いてあったことです。実際に見たわけじゃないから、当てにしないでくださいね。そもそも、ここは本当にタールグイの上なんですか?」

たしかにそうなんだけど。そればかりは、確認のしようがない。あくまでクリュナ=ハルクの本に書いてあることが本当だということが前提だ。この島がタールグイって証拠はなにもない。探知スキルにでも反応があれば、確信が持てるが探知スキルには反応がない?

もしかして、死んでいるってこと? それなら、反応が無いのも理由が分かる。でも、どっちにしろ今のわたしでは答えを導き出すことはできない。

「そのクリュナ=ハルクの本には、タールグイについて何か書いていないんですか?」

まあ、碑石に本を隠すぐらいだ。何かしらタールグイについて書いてある可能性もある。わたしは軽く本に目を通す。タールグイのことが書かれているページを見付ける。

『タールグイは言い伝えられているように危険は無い。ただし、タールグイに危害をあたえれば、反撃されることを身を以って受けるしかない。この地に降り、この本を手に入れた者に言う。タールグイを静かに見守ってほしい。できれば、誰にも言わずに立ち去ってほしい』

黙っておくのはいいけど。立ち去るのは無理。

だって、動く島だよ。見知らぬ食べ物もあるんだよ。この島にクマの転移門を設置すれば、船に乗らずに見知らぬ土地に行けるようになる。欠点は好きなところに行けないぐらいだ。

だから、前半は了承だけど、後半は却下だ。それと本を読む限り、タールグイを世間に知られたくないみたいだ。3人にも口止めが必要だね。

「ユナさん。タールグイについて、なにか書かれていましたか?」

「シアの話通りに敵意を向けなければ大丈夫みたい」

だから石碑に悪意がある者でないことを祈るって書いてあったのかな?

それに漁師の船が悪意を持って近づかなかったから、過去も含めて、なにも起きなかったってことになる。

もし、敵意を持って島に近付けば、この島が暴れるってこと? 想像もしたくないんだけど。

そもそも、このタールグイを倒して、メリットでもあるの? 島だよ、島。敵対しないなら、放置でいいと思う。この島が陸に上がって、街を襲うならともかく、海に浮いているだけなら被害はない。

そして、クリュナ=ハルクの気持ちは3人に伝えておく。

「だから、このことはわたしたちの秘密だからね」

「はい。わかりました」

「うん、誰にも言わないよ」

「…………」

「シア?」

黙っているシアを見る。

「こんな大発見なのに黙っているんですか? 大発見なんですよ。自慢しないんですか?」

「しないよ。クリュナ=ハルクの頼みだし。この話が広まって、人が押し寄せてきたら大変でしょう。もし、そんなことになってタールグイが人を襲うようになったらどうするの。だから、クリュナ=ハルクって人も口止めをしているし。それに善意がある者として、この本を受け取ってしまったからには話したりはしないよ。シアは善意ある者? 悪意ある者?」

「シア姉ちゃん。悪い人なの?」

「うぅ、わかりました。わたしも誰にも話したりはしません」

シュリにそう聞かれたら、そう答えるしかないよね。

まあ、シアの気持ちは分からなくもない。世紀の大発見をしたようなものだ。人に話したくなるのは仕方ない。でも、タールグイに人が押し掛けてきて、暴れでもしたら困る。何よりも、ここはわたしの秘密基地にしようと思っているのに、知られたら困る。

「ユナ姉ちゃん。この島にまだいるの?」

パンを食べ終わったシュリが尋ねてくる。

「そのつもりだよ。もしかして、帰りたい?」

シュリは首を振る。

「お母さんにお土産の果物を持って帰りたい」

「そうだね。帰りに美味しそうな果物を持って帰ろうか」

「うん!」

立ち上がって敷物を片付ける。

「ユナさん、どこに行きますか?」

「う~ん、島を初めは一周しようと思ったけど、島の中央に向かおうと思っているよ。そのまま反対側に出たら、今日は帰るよ」

もちろん、少しでも危険があれば島から脱出するつもりでいる。

それに次に来るときは1人で来るつもりだ。だから、あとでみんなに気付かれずにクマの転移門を設置したい。

「でも、この島がタールグイって信じられないです」

「それを証明するために、この島に攻撃するわけにはいかないからね」

「しないですよ。それに攻撃ってどうやってするんですか。剣を刺したって、地面には土があるだけですよ」

シアは腰にある剣の鞘をパンパンと軽く触れる。

確かにシアの言う通りだ。ちょっとした攻撃じゃ、蚊に刺された程度にも思わないだろう。そもそも、こんなに木々が生えているってことは土もかなりの深さがあるはず。

そんな相手に剣を地面に刺したって皮膚に届かないだろう。もし攻撃するなら海底からになるのかな? それだって、不可能に近い。まあ、いくら考えても攻撃をするようなことはしないけどね。