軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

343 クマさん、クマパンを食べる?

「お店の中もくまさんがいっぱいです」

ミサはお店の中に入ると、満面の笑顔を浮かべる。壁や柱、テーブルにはいろいろなポーズをしたデフォルメされたクマが飾られている。壁をよじ登るクマ。柱にしがみ付くクマ。テーブルの上には走るクマ、親子クマ、ハチミツを舐めるクマ、戦うクマ、寝るクマ、魚を咥えるクマといろいろなクマがいる。

ミサは遊園地に来た子供のようにキョロキョロと店内を見る。そして、ミサの視線はちびっこ店員を見つける。

「本当にくまさんの格好をしています。しかも、わたしと同じぐらいの子も働いています」

それを言われると辛いものがあるけど。みんな、自分から申し出てくれた子たちだ。決して無理やり働かせているわけじゃない。それに、この世界の子供たちは家のお手伝いをしている子も多い。

「でも、とっても可愛らしい格好です。本当にこのお店はくまさんがたくさんいるんですね」

ミサは興奮も収まらずに、キョロキョロとする。わたしはそんなミサの手を掴んでパンを注文しに行く。

「ユナちゃん、いらっしゃい」

パンの販売所にはカリンさんがいた。

ミサはカリンさんを見て、「くまさんの格好をしてません」と小声で呟く。それはわたしにも聞こえ、カリンさんにも聞こえたようで苦笑いをしている。

「今日は知らない子がいますね」

カリンさんはミサを見る。

「わたしはシーリンの街から来たミサーナと言います。今回はユナお姉様とノアお姉様に誘われて、ミリーラの町に一緒に行くことになりました。よろしくお願いします」

「……ユナお姉様?」

「はい、そう呼ばさせてもらっています」

「ユナさん、この子は?」

カリンさんが小声でわたしに尋ねてくる。何かを感じ取ったみたいだ。

「ノアの関係者って言えば分かるかな?」

わたしのその言葉だけで、カリンさんは理解したようだ。

「気にしないでください。フィナちゃんとシュリちゃんと同様に扱ってくれて構いませんので」

そんなことを言われても困るカリンさん。

「ちなみに、ノアお姉様のことは、なんてお呼びになられているのですか?」

「……ノアールちゃんって、呼ばさせてもらっています」

ノアはわたしの関係者には孤児院の子供だろうとノアールと呼ばせている。でも、呼び捨てにはできないので、カリンさんやモリンさんは「ノアールちゃん」と呼び。孤児院の子供たちも「ノアールちゃん」「ノアールお姉ちゃん」と呼んでいる。年長組の男の子は近寄って話しているのは見たことがない。

ちなみにノアの愛称で呼んでいるのはわたしとフィナとシュリの三人だけだ。

「それではわたしのこともミサーナとお呼びください」

「えっと、それじゃ、ミサーナちゃんって呼ばせてもらうね」

「はい」

「それじゃ、ミサーナちゃん。どのパンにする?」

「どれも、美味しそうで悩みます」

ミサはいろいろと並ぶパンを見る。

そして、ミサが目ざとく、とあるパンを発見する。

「くまさんのパンです! くまさんのパンがあります!」

ミサは目を大きくして、わたしとパンを見る。

そう、ミサが見つけたパンはクマの顔をしたパンだ。まん丸と可愛らしいクマの顔だ。

「わたし、このくまさんのパンがいいです」

「お店で人気があるパンですよ。それも、さっき焼きあがったばかりだから、美味しいですよ」

カリンさんはお皿の上にパンを乗せる。

「みんなはどうする?」

「カリンさん、わたしもくまさんのパンでお願いします」

「わたしも」

「みんなが、くまさんのパンなら、わたしも」

ミサがクマのパンにするとノア、シュリと続き、最後はフィナまでクマパンを選ぶ。

このクマパンはこのお店で働くミルとわたしが作ったパンだ。

初めはミルが孤児院の小さい子供に頼まれたのがきっかけで作ることになった。でも、ミルはクマパンを作ることができずに困っていた。それを見たわたしは孤児院の子供のためならと思って、作るのを手伝ってあげた。

これが失敗とは思わないけど。その数日後にはクマパンがお店に並んでいた悲しい記憶がある。

ミルになんでこんなことになったか尋ねたら、カリンさんが「お店にだそう」と言ったらしい。

それで話はモリンさんとティルミナさんへと広がって、お店でクマパンを販売することになったそうだ。なんで、わたしに相談がなかった。そのことに悪意を感じるのは気のせいだろうか。

でも、今ではクマパンは人気のパンの1つとなっている。

わたしは小さな抵抗で、一人他のパンを注文する。それに対して、カリンさんは笑っていた。

「はい。お金」

わたしはカリンさんにお金を渡す。

「ありがとうございます」

カリンさんの表情は店員に戻り、お礼を言ってお金を受け取る。

「ユナお姉様のお店なのに、お金を払うんですね」

「店内で買うときは、お客さんとして来ているからね」

わたしたちはそれぞれのパンをお皿に載せて、空いている席に座る。

「くまさんが寝ています」

ミサはテーブルに飾られている、デフォルメされた寝ているクマを楽しげに触る。そして、握ると取ろうとする。

「うぅ、取れないです」

「そんなに引っ張っても取れないよ」

初めてお店に来た人はみんな取ろうとする。でも、店内にあるクマは簡単には取れないようになっている。ミサは残念そうな顔をする。ミサにはぬいぐるみをあげたんだから、それで我慢しようよ。

「それよりも、早く食べちゃおう」

せっかくの焼きたてだ。温かいうちに食べた方が美味しい。

わたしの言葉にフィナとノアはクマパンの耳を千切って、食べ始める。シュリはそのままクマパンをパクッと咥える。ミサだけは手に持ったまま、食べようとしないで、みんなが食べる様子を見ている。

「食べないの?」

「なにかもったいなくて」

「ミサの気持ち分かるよ。わたしも初めてクマパンを食べたとき、可哀想な気分になったよ」

「ノアお姉様もですか?」

「でも、何度も食べていたら、普通に食べられるようになったよ」

慣れは怖いものだ。

「そういえば、シュリもくまさんの耳を千切ったとき、泣きそうな顔をしてたよね」

「してないよ~」

シュリは頬を膨らませると、パクッとクマパンの横顔を美味しそうに食べる。

「とりあえず、ミサも食べて。クマの顔はしているけど、美味しいパンだよ」

「はい」

ミサはクマパンの耳を千切ると口に入れる。

「美味しいです」

一口食べると、他の部分も食べ始める。

ちなみに、わたしの顔が食べられているとは思っていないよ。別にわたしの顔はクマさんじゃないからね。

わたしたちがパンを食べていると、お店で働いている女の子がやってくる。

「ユナお姉ちゃん。モリンさんがちょっと来て、だって」

「モリンさんが?」

「うん、ユナお姉ちゃんがいることを話したら、呼んできてって頼まれたの」

う~ん、なんだろう。ミリーラの件かな?

「ちょっと、行ってくるから、みんなはちょっと待っていて」

四人を残して、わたしは奥のキッチンに向かう。

「モリンさん。なんですか?」

「ユナちゃん、あれはなんだい。いきなり、ゲンツさんがスコルピオンの肉だって持ってきて、適当に調理して欲しいって、伝言だけされても困るよ」

ああ、その件か。

水着の件で疲れて、ゲンツさんに伝言を頼んだんだっけ。昨日のことなのに忘れていた。

「ちょっと、食材が手に入ったので、適当に調理してもらおうと思ったんです。美味しくできれば、期間限定で販売しようと思って」

「そうなら、そう言っておくれ」

「すみません」

「でも、ミリーラに行くっていうのにユナちゃんは余裕だね」

モリンさんに呆れられる。

たしかに、これから長期休暇で小旅行に行くのに新作の料理を作るとなれば、そんな顔をされても仕方ない。

「それで、何か料理に使えそうですか?」

「そうだね。パンにはちょっと微妙だったけど。ピザに合うね。試しに焼いてみたけど。美味しかったよ」

さすがと言うべきか、一応すでに調理をしていたみたいだ。

「試しに焼いてみるから、ユナちゃんも試食してみてちょうだい」

モリンさんはそう言うと、手際よくピザ生地を作り、食材を載せていく。そして、最後にスコルピオンの肉を乗せて、石窯に入れる。

しばらくすると、こんがりと焼けた美味しそうな匂いが漂ってくる。

「それじゃ、フィナちゃんたちにも食べてもらって、感想を貰ってきて」

どうやら、わたしがフィナたちを連れてきたことも耳にしているみたいだ。

わたしはお皿に載せたスコルピオンのピザを持って店内に戻る。

「ユナさん。そのピザはどうしたんですか?」

「モリンさんが、新作を作ったから試食をお願いだって。みんな、まだ食べられる?」

「はい。大丈夫です」

「わたしも大丈夫です」

フィナたちのお腹には余裕があるみたいで良かった。とてもじゃないけど、わたし一人じゃ食べられないからね。

わたしはすでにナイフで切り分けてあるピザを、みんなのお皿の上に載せる。

「熱いから気をつけてね」

わたしが言う前に、みんなが食べ始める。熱いのか「ふ~ふ~」と吹いている姿もある。わたしも食べることにする。

普通に美味しい。スコルピオンの味が分からないけど。海老のような歯応えがある。

「美味しいです」

「それで、ユナさん。なにが入っているんですか?」

答えていいのかな?

「スコルピオンだよ」

「スコルピオン? そういえば、ララがそんな肉を買ってきたと言っていました」

まあ、昨日の話だ。早ければ出回っていてもおかしくはない。ギルドとしても早く売り捌きたいだろうし。

「なにか、栄養があるとか言ってましたよ」

「そうなんだ」

スコルピオンの肉って聞くとわたしには少し抵抗があるけど、普通に買っていくんだね。

でも、ピザで食べた感じは不味くはない。ララさんが言う通り、栄養があれば欲しがる人は多いのかな?

それなら、モリンさんにも言ったけど、在庫処分もできるし、期間限定で販売するのも良いかもしれない。

「ちょっと、スコルピオンって聞いたときは抵抗がありましたが、美味しかったです」

ピザだと基本何を載せても美味しいからね。

どうやら、みんなの評価も概ね良いみたいだ。

それから、わたしたちはモリンさんに感想を伝えて、お店を後にした。