軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

340 クマさん、水着を見る

わたしとシュリがお店の中に入ると、ナールさんが迎えてくれる。

「シェリーはいますか?」

「奥にいるわよ。話は聞いているから、奥に行ってあげて」

わたしはお礼を言うと奥の部屋に向かう。奥の部屋に入ると、シェリーとテモカさんが仕事をしている姿がある。

「シェリー、遅くなってごめん」

目覚まし時計が動かなかったんだよ。タイマーをセットするのを忘れたんだけど。

わたしはシェリーに謝ってから、テモカさんに挨拶をする。

「それじゃ、わたしは表にいるから、ゆっくりしていいからね」

テモカさんは店内の方に移動して、わたしたちだけにしてくれる。

「もしかして、仕事の邪魔をしちゃった?」

「大丈夫です。ユナお姉ちゃんが来ることは話してあったので。それまで、仕事を教えてもらっていたんです」

「なら、いいんだけど」

「今日はシュリちゃんと一緒なんですね」

「ちょっと、一緒にいたからね」

さっきまで寝ていて、起こしてもらったとは言えない。

「シェリー、みんなの水着を作るの、大変だったでしょう。ありがとうね」

「いえ、そんなに大変ではなかったです。普通の服と違って、装飾もありません。布を繋ぐだけですから」

それでも、人数分作るのは大変だったはずだ。服を作ったことがないわたしには、その辺りの苦労は分からないけど、大変だったことぐらいは分かる。

「それで、ユナお姉ちゃんに言うことがあって」

「なに。わたしの水着ができていないことなら、問題ないよ」

「ユナお姉ちゃんの水着はちゃんと作りました」

作ったんだ。無くても良かったのに。

「それじゃ、なに?」

シェリーは部屋に置いてある箱の蓋を開けると、数着の水着を取り出す。手に持っているのは黒と白の水着だ。そして、シェリーはテーブルの上に乗せる。

テーブルの上に乗せられたのは…………スク水?

一瞬。わたしの? と思ったけど。わたしのではない。胸のところに孤児院の子供の名前が書かれている。なぜ? 名前?

「ユナお姉ちゃんに、いろいろな水着を描いてもらったんですが、孤児院のみんなの水着はこれになりました」

「えっと、なんでって、聞いていい?」

「その、一人一人に聞けば良かったんですが。みんなが集まっている食事のときに、どんな水着がいいか、聞いてしまったんです。そしたら、食事中なのに、みんな水着選びに騒ぎだしちゃって。ユナお姉ちゃんが描いてくれたイラストの紙は取り合いになるし、大変なことになっちゃって。それで、院長先生が怒って。みんな別々の水着にすると誰のか分からなくなるから、これにしなさいって、先生が決めちゃったんです。これだったら、名前も付けられるから、誰の物か分かるってことで。それで、わたしもなにも言えなくなって」

でも、孤児院の子供たちの水着を統一するのは良いアイディアかもしれない。このスク水だったら胸のところに名前があるから、間違えることもない。

「ユナお姉ちゃんにいろいろな水着のイラストを描いてもらったのに、ごめんなさい」

「気にしないでいいよ。院長先生の気持ちも分かるから。でも、なんで黒と白?」

黒は分かる。わたしがイラストで黒くした。でも、なんで白? わたしは白スクなんて描いていない。この世界に白スクなんて、あるとは思えない。

「くまゆるちゃん 色(カラー) とくまきゅうちゃん 色(カラー) です。せめて、そのぐらいは許してもらったんです」

シェリーの返答はなんということはない。くまゆるとくまきゅうを参考にしただけだった。

黒は何も問題はない。元の世界でも紺色や黒っぽい水着だった。でも、白は白スクの水着みたいで、微妙な感じがする。学校で白スクなんて、存在はしなかったはずだ。

白スクを見ると、恥ずかしい気持ちになるのは、わたしが元の世界のことを知っているせいかもしれない。子供たちにとっては、普通にくまきゅう色と思っている。

「それで男子の方は?」

最低限、女子の白スクは許すことにしよう。白の水着は普通に存在する。でも、男子の白パンは見たことも聞いたこともないから、止めてほしい。

シェリーは先ほど、水着を出した箱から別の水着を取り出す。そこには黒の短パンの水着しかなかった。

わたしはホッと胸を撫で下ろす。ここで、白い海水パンツが出てきたら、叩きつけたかもしれない。

「黒なんだね」

「はい。男の子は黒を選びました」

本当に良かった。白パンツでなくて。

あと男子のイラストを描いたとき、名前は右端に付けたけど、同じようになっている。

「シェリー姉ちゃん。わたしのは?」

「シュリちゃんのもちゃんとあるよ」

シェリーは違う箱から水着を取り出し、シュリに渡す。

「着てもいい?」

「着るの? 海に行ってからでいいんじゃない?」

「ダメなの?」

子供には恥ずかしいとかは無いんだろうか。

まあ、それにサイズを計っているとはいえ、試着も大切だ。

わたしが許可を出すと、シュリはここで服を脱ぎ出そうとする。そんなシュリをわたしは慌てて止める。シュリは首を傾げている。女子同士だから、普通は問題はない。普通のプールや海水浴だって、女子同士で着替える。でも、ここは人様の家だ。この部屋に誰かが入ってくる可能性もある。ちゃんとシュリに着替える場所を教えないと、シュリの将来が心配だ。

「シェリー、着替える場所ってある?」

「はい。それじゃ、シュリちゃん。隣の部屋を使って」

「わかった!」

シュリは水着を持って、隣の部屋に行ってしまう。なにか、微妙に疲れた。わたしは、シュリの入った部屋のドアを眺めて待つ。どんな水着を持って行ったか分からないから、気になるところだ。

「ユナさんも着ますか?」

わたしがジッとドアを見ているとシェリーが尋ねてくる。

「あるの? わたし、水着の希望言っていないよね?」

サイズは計られたけど。

「はい。だから、ユナお姉ちゃんに似合う水着をたくさん作りました」

「…………」

今、なんと言いました?

たくさん、作ったって聞こえたんだけど。聞き間違いだよね。

シェリーは後ろを向き、別の箱の蓋を開ける。そして、たくさんの水着を抱えて戻ってくると、テーブルの上に置く。

「わたし、ユナお姉ちゃんのために頑張りました」

シェリーは屈託のない笑顔で答える。悪意がないだけ困る。本当にわたしのために作ってくれたんだろう。

「えっと、ありがとうね」

わたしの顔が引きつっているのが、自分でも分かる。でも、わたしの言葉にシェリーは嬉しそうにする。だけど、考え方を変えれば、ラッキーかもしれない。たくさんの水着の中から選ぶことができるってことになる。これが、もし、白スクとか、超ミニビキニだったりして、選択肢がなかったら、泣いていたかもしれない。

「これなんて、どうですか?」

シェリーは水着を広げる。ワンピースだ。黒を主体として、白が混ざった水着だ。普通?

さらにシェリーは、どんどん水着を出していく。

ビキニがあり、上下の色が白と黒で分かれているものがあったり、右と左で黒と白に分かれているタイプもある。でも、ビキニって胸がないと辛い。魔法のパッドを入れれば大丈夫かな?

わたしの胸囲を知っている人物は少ない。サイズを計ったシェリーは仕方ないとして、あとは一緒にお風呂に入った、フィナ、シュリ、ティルミナさんとノアぐらいだ。他はクマの着ぐるみのおかげで、わたしの胸囲は知らないはずだ。巨乳だと思っているかもしれない。

わたしが、そんなことで悩んでいる間もシェリーは水着を見せてくれる。その中にはミニビキニは無かったけど、黒と白のスク水があった。危なかった。これがメインだったら、拒否っていたかもしれない。

「でも、なんで、みんな黒と白なの?」

全ての水着が黒と白が主体となっている。他の色はいっさい使われていない。

「ユナお姉ちゃんは黒と白が好きだと思って。くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんも黒と白だし」

そう言われたら、なにも言い返せない。まあ、ピンクとか派手な赤とかよりはいい。

それから、フリルが付いた水着とか、セパレートの水着もある。見た感じ、わたしが描いたイラストの中から、わたしに似合いそうな水着を全て作ってくれたみたいだ。

「ユナお姉ちゃん。どれにしますか?」

「もしかして、わたしが選ばなかったから、シェリーに迷惑をかけちゃった?」

「そんなことないです。ユナお姉ちゃんに似合いそうな水着を作るの、楽しかったです」

「でも、全部着ることはできないよ」

「はい。でも、この中にユナお姉ちゃんが気に入った物があれば嬉しいです」

シェリーの言葉には嘘がない。満面の笑顔で答える。

「…………」

「もしかして、全部。駄目でしたか?」

わたしが無言でいると、シェリーの笑顔が一瞬で不安そうになる。

「そんなことないよ。たくさんあって、悩んでいるだけだよ。みんな良くて、すぐには選ぶことはできないから、持って帰って、ゆっくりと考えてもいいかな?」

「はい。全部ユナお姉ちゃんのですから、大丈夫です」

わたしは絶対に着ないと思う水着から、可愛い水着まで、全ての水着をクマボックスの中に仕舞う。これ絶対に一つは選ばないといけなくなった。でも、着れそうな水着もありそうだから、どうにかなりそうだ。

わたしが悩んでいると、奥のドアが開き、シュリが出てくる。

「…………普通?」

出てきたシュリの格好は、普通の子供用のフリルが付いた白いワンピースの水着だった。

「ユナ姉ちゃん。どう?」

「うん、似合っているよ。可愛いよ」

「本当?」

シュリは嬉しそうに、その場をくるっと回る。

…………?

今、なにか見えたような。たぶん、気のせいだよね。

「えっと、シュリ。もう一回、ぐるっと、ゆっくりと回って」

わたしは確かめるためにシュリにお願いをする。

「うん!」

シュリはゆっくりと、ぐるっとその場で回る。

「ストップ!」

わたしはシュリが後ろを向いた瞬間、叫ぶ。

「なに?」

ストップって言ったのに、シュリは動いてしまう。でも、見間違いじゃなかった。わたしはシュリに近づくと、背中を……お尻を見る。

「えっと、これはなに?」

シュリのお尻にはまん丸い白い物が付いている。

「くまきゅうちゃんの尻尾だよ」

「なんで、そんなものが……」

「あっ、そうだ。シェリー姉ちゃん。帽子が無かったよ」

「あっ、ごめん。忘れてた」

シェリーは、また箱の中に手を入れると、何かを取り出し、シュリに渡す。

何を渡したのかな?

何かを受け取ったシュリは広げると、頭から被る。

「…………」

開いた口が塞がらないとはよく言ったものだ。本当に口を開いたままシュリを見てしまった。シュリが被った帽子にはクマの顔があるスイムキャップだった。

「ユナ姉ちゃんとお揃いです」

シュリがクマの尻尾とクマの顔があるスイムキャップを付ける。まさしく白クマの格好だ。

「……シェリー。これは?」

「ユナさんが描いてくれた中に、あったんですが、間違っていますか?」

シェリーは今度は引き出しから紙を持ってくる。その紙にはわたしが描いたスクール水着のイラストがあった。そのイラストにはスイムキャップが描いてある。

シェリーが言いたいことは、なんとなくわかった。でも、なんでクマ?

わたし、帽子にクマのイラストは描いていないよね? わたしが理由を尋ねると、次の返答が返ってきた。

孤児院で水着はスク水になった。そして、水着の色がくまゆる 色(カラー) とくまきゅう 色(カラー) に決まった。くまさん色だから、幼年組から「尻尾ないの?」と聞かれたらしい。それで、クマの尻尾が欲しい子には付けることになったそうだ。そして、イラストには帽子があった。それに、シェリーが気を利かせて、わたしのクマさんフードを真似して、クマさんのスイムキャップを作ったそうだ。

これって、わたしの格好が元凶ってことになる。

つまり、海に行くと、何人かの子供はシュリみたいな、くまさんの水着の格好をしていると。

なにか、いきなり海に行きたくなくなった。でも、みんなが楽しみにしているのに、そんなことができるわけもない。

こんなことになるなら、国王の仕事を受けないで、クリモニアで監視するべきだったかもしれない。

でも、そうなるとカリーナの運命がどうなっていたか分からないし。この分岐点鬼畜だよ。