軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

328 クマさん、家を購入する

商業ギルドの中に入ると、大きな部屋に数人の人がいるぐらいでカウンターは空いている。

わたしは受付に向かう。受付嬢はわたしが来たことも気付かずに下を向いて仕事をしている。

「あのう……」

「あっ、はい。すみません。…………クマさん!? それとカリーナ様?」

わたしが声をかけると、受付嬢は驚いたように顔を上げる。さらにわたしの姿を見て驚き、隣にいるカリーナを見て、さらに驚く。見事な三段驚愕だ。

受付嬢は20歳前後の茶色の髪をした女性だ。受付嬢はわたしの顔とカリーナを交互に見る。受付嬢の頭の上には「?」マークが浮かんでいるように見える。

まあ、言いたいことは分かる。でも、わたしに答える義理はないので、ギルドに来た目的を果たすことにする。

「聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「えっと、はい。なんでしょうか?」

受付嬢は混乱しながら頷く。

わたしは小さな空き家が欲しいことを話し、バーリマさんから貰った紹介状を渡す。受付嬢は渡された紹介状を見て、わたしと手紙とカリーナをループするように何度も見比べる。

「カリーナ様、これは……」

「すみません。わたしは付き添いで来ただけで、お父様の手紙の内容は知りません」

カリーナは領主の娘らしく丁寧に返答する。

「えっと、ユナさんでよろしいですか?」

受付嬢はわたしの名を口にする。手紙に名前でも書いてあったのかな?

「うん、それで小さくていいから、空き家が欲しいんだけど、あるかな? 多少なら高くても買えると思うんだけど」

クマの転移門を置くだけだから、小さくても問題はない。でも、受付嬢から返ってきた返事は予想外のものだった。

「いえ、お支払いは必要ありません」

「…………?」

今度はわたしの頭に「?」マークが浮かぶ。意味がわからない。でも、受付嬢はすぐにわたしの疑問に答えてくれる。

「手紙にはクマの格好した女の子が家を購入するので家を斡旋してほしいと。それから、支払いはイシュリート家が行うと書かれています」

なにそれ? バーリマさんから、そんな話は聞いていない。

でも、今バーリマさんの顔や言動を思い出すと、ありえるかもしれない。初めは家に泊まるように言っていたのに、考え込む仕草をしたかと思ったら、家を買うことに承諾して、紹介状も書いてくれた。

もしかして、わたしがお礼を断ったから、こんな暴挙に出た?

「えっと、カリーナ様に確認ですが、こちらのクマ……、ユナさんはイシュリート家の関係者でよろしいのでしょうか?」

「ユナさんはイシュリート家の大切なお客様です。わたしが保証します」

やっぱり、紹介状があっても、わたしだけじゃ、信用できないのかな? クマだし。

「わかりました。それではご希望の家を教えていただけますか?」

受付嬢はわたしの格好について尋ねたいのを我慢して、仕事としての対応をする。さっきから目がわたしのあちこちを見ている。周りからも「クマだ」「クマさん」「可愛い」などの言葉が商人やギルド職員から聞こえてくる。それをカリーナが視線を向けて黙らせている。

権力を使わないように言ったけど。こういうときはカリーナの存在は感謝しないといけないね。

わたしは受付嬢に、小さい家で、近くにお店があると助かることを説明する。お店が近ければ、ちょっと買い物に来たいときは便利だ。

わたしがそう伝えるとカリーナが横から口を挟んでくる。

「家はわたしの家の近くにお願いします」

「えっと、なんで?」

「近い方がいいです」

カリーナが力強く言う。わたしはカリーナに押されるように「そ、そうだね」と答えていた。

それを見た受付嬢は笑っている。

「それでは少しお待ちください。お調べしますので」

受付嬢は資料を調べると「カリーナ様の家はここで」「お店はここ」「そうなると、この辺りが」「あとこっちもかな?」「これは大きいから」「…………」と口から言葉が洩れている。

「お待たせしました」

受付嬢は地図を広げ、カリーナの家とお店が並ぶ通りの場所を教えてくれる。このお店の通りにはスパイスを購入したお店もあったはず。いいかもしれない。それから、候補の家の場所を教えてくれる。それはどれもお店の通りとカリーナの家の間にある場所だった。わたしは数件のうち、お店の通りに近い家をクマさんパペットで指す。

「ここがいいかな?」

「それじゃ、こっちです」

カリーナはわたしとは反対に自分の家に近い家を指す。カリーナと見事に意見が分かれた。

「なんで、そっちなんですか?」

「お店が近いから?」

「それなら、こっちの家もそんなに離れてませんから、問題はないですよね」

「でも、買い物するなら、こっちの方が便利だし」

わたしとカリーナはお互いの目を見つめ合う。どちらも引かない。

引いてもいいんだけど。なんとなく、張り合ってしまう。

「あのう。それなら、こちらでどうでしょうか?」

お互いに引かないわたしたちを見て、受付嬢が新しい案を提案してくる。受付嬢が提案した場所はわたしとカリーナが指した場所のちょうど真ん中の位置にある家だった。

「こちらの家は比較的に新しく、カリーナ様の家に近く、お店が並ぶ通りにも近いです。お二人の意見に合うと思います」

わたしとカリーナは再度、お互いの顔を見る。お互いに「仕方ないね」的な顔をして小さく頷く。わたしとカリーナは受付嬢の提案を呑む。それを見て、受付嬢は安堵の表情をする。でも、さすが商業ギルドの職員なのか、仲裁が上手いね。

まあ、あとは現物の家を見て、購入するか決めるだけだ。もし、駄目なら、またカリーナと勝負だ。

受付嬢と一緒に購入する家にやってくる。位置は地図の通り、カリーナの家とお店が並ぶ通りの中間にある。わたしは家を見る。

「うん、いいね」

小さい家だけど、二階建ての家だ。

「小さくないですか?」

「ちょっと、泊まるだけだから、十分だよ」

大人数で来る予定はない。来るとしたらクマの転移門のことを知っているフィナぐらいだ。それだって、泊まらずに帰ってもいい。だから、大きい家は必要はない。

「中も確認しますか?」

「お願いします」

家も新しい方なので中も綺麗だ。でも、少し埃を被っているから掃除は必要になりそうだ。

一階はキッチンと食堂、風呂、トイレがあり、小さいけど倉庫もある。二階は部屋が二部屋ある。どうやら、新婚夫婦が住むような家みたいだ。

「うん、ここに決めるよ」

「あ、ありがとうございます。それでは一度ギルドに戻って、契約の方をお願いします」

わたしたちは商業ギルドに戻ってくる。

「それでは、ギルドカードをよろしいですか?」

名前:ユナ

年齢:15歳

職業:クマ

冒険者ランクC

商業ランクE

と書かれてるギルドカードを出す。

「職業クマ?」

だから、なんでみんなそこを見るかな?

「ユナさんは商業ギルドにも加入しているのですね」

「まあ、ちょっとした商売をね。それで、お金のことなんだけど」

「それは先ほども言いましたが、イシュリート家のバーリマ様から頂きますから大丈夫ですよ」

「半分、わたしが払うよ」

話を聞いたときから、バーリマさんに全て払ってもらうつもりはなかった。でも、わたしが全て払うとバーリマさんの気持ちを無駄にすることになる。だから、代金の半分はわたしが出すことに決めていた。

受付嬢はわたしの言葉に困ったようにする。バーリマさんの紹介状には全て払うと書かれている。でも、わたしも払うと言っている。どっちの言葉を取ればいいか、わからないみたいだ。

「ユナさん。お父様からのお礼なんですよね。それなら受け取っても」

「さすがに全部は受け取れないよ。でも、バーリマさんの気持ちを 蔑(ないがし) ろにはできないから、半分だよ。ここはカリーナやバーリマさんの言葉でも譲れないよ」

「ユナさん……」

わたしは受付嬢に家の購入代金を尋ねる。

「ですが……」

「バーリマさんにはわたしから言っておくから」

「……わかりました」

受付嬢は小さく息を吐くと、わたしの言葉を受け入れてくれる。わたしは提示された金額を支払って、家を購入した。

いくらなんでも、お礼で家は貰えないからね。

えっ、前は絵本とぬいぐるみで家を貰ったって?

まあ、あのときは断れなかったからね。何事もほどほどが一番だ。

無事に支払いが終わったわたしとカリーナは、購入した家にやってくる。購入した家を掃除をするためだ。管理されているとはいえ、多少は汚れている。

「ユナさん、お金持ちなんですね。お姉さん、驚いていました」

わたしが半分とはいえ、一軒の家を一括で支払ったことに驚いていた。

家の中に入ると、わたしは掃除の手伝いとして、小熊化したくまゆるとくまきゅうを召喚する。くまゆるとくまきゅうは雑巾を持って、床を拭いてくれる。掃除には猫の手も借りたいので、クマの手を借りることにする。掃除を手伝うと言っても、遊ぶ感じで手伝ってくれる感じだ。

まあ、本当のところはカリーナと一緒にいられる時間も少ないので、少しでもくまゆるとくまきゅうと一緒にと思ったためだ。

「ほら、カリーナも掃除を手伝ってくれるんでしょう」

「はい。もちろんです。くまゆるちゃんやくまきゅうちゃんには負けません」

家の掃除をするから、カリーナと別れようとしたが、カリーナが掃除を手伝うと言ってくれた。家にはメイドさんがいる環境だ。そんなお嬢様に掃除ができるか不安になるが、いくらお嬢様でも掃除ぐらい、したことはあるよね。

「…………」

そして、見事にわたしの不安は的中する。

「カリーナ、下にくまゆるが!」くまゆるを踏みつけそうになる。

「カリーナ、危ない!」ドアに頭をぶつける。

「カリーナ、足元!」くまゆるとくまきゅうの掃除姿を見て、床にあった雑巾を踏んでしまう。

「カリーナ、バケツが」今度は水が入ったバケツに引っ掛けてしまう。

「うう、ユナさん、くまきゅうちゃん、ごめんなさい……」

くまきゅうは見事に汚れてしまった。倒れた水が側にいたくまきゅうに直撃してしまったのだ。雑巾を洗った水のため、水は汚れていた。白いくまきゅうが少し黒くなっている。

くまきゅうは悲しそうに「くぅ~ん」と鳴く。カリーナは慌てて、手に持っていた汚れた雑巾でくまきゅうを拭こうとするので、慌てて止める。

「くまきゅうは大丈夫だから。カリーナは床を拭いて」

わたしはくまきゅうを送還させて、もう一度召喚させる。綺麗なくまきゅうが現れる。

「くまきゅうちゃんが綺麗になりました」

「カリーナはくまゆるとくまきゅうと一緒に掃除をするのは禁止!」

「ううぅ、そんな~」

ショボーンと落ち込むカリーナ。

ここは鬼にして言わないと、被害が拡大する。

掃除が終わったときには、ドッと疲れたのは言うまでもない。