軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

319 クマさんを心配する。カリーナ視点

わたしは壁を見つめる。あの壁の向こうには魔物がたくさんいます。そこにユナさんはくまゆるちゃんと残りました。心配しないでと言われても無理です。

これから水晶板を手に入れるために一人で魔物と戦うそうです。

クマさんの格好をした不思議な女の人。とっても優しく、可愛らしく、冒険者とは思えない女の人。国王様に頼まれて水の魔石を持ってきてくれた。わたしの心が潰れそうになっていたところに、そっと手を伸ばしてくれた人。

どうして、ユナさんはそこまでしてくれるんですか?

お願いします。ユナさん、無事に戻ってきてください。

不安そうにするわたしに、くまきゅうちゃんが擦り寄ってきます。慰めてくれているのでしょうか。

わたしはくまきゅうちゃんを撫でます。ユナさんと一緒でとっても優しいクマさんです。

「カリーナちゃん、行くわよ」

わたしが壁を見ているとメルさんが声をかけてきます。

ここにいつまでもいるわけにはいきませんので移動します。

わたしはくまきゅうちゃんに乗ります。後ろ髪を引かれながらも、くまきゅうちゃんが歩き出します。

「ユナちゃんなら、大丈夫だよ」

不安そうな顔をするわたしにメルさんが優しく声をかけてくれます。

「でも、あんなに大きな魔物相手に一人で」

クラーケンなどの魔物を倒したと聞きましたが、わたしにはピンときません。初めに聞いたときは、凄い魔物を討伐したってことは分かりました。でも、実際に大きな魔物を目の前にすると、あり得ないとしか思えなかった。人にあんな大きな魔物が倒せるのでしょうか。

「ユナちゃんは大きなワームも簡単に倒すほどの冒険者だから大丈夫よ」

「でも、さっきメルさんとジェイドさんは倒せないって」

それだけ、強い魔物ってことになります。

「それはわたしたちの実力の場合だよ。ユナちゃんは強いし、無理だったら無茶をしないで戻ってくるよ」

「それにくまゆるが一緒にいるから大丈夫」

メルさんとは反対側を歩くセニアさんが話しかけてきます。でも、そうは言いますが、くまゆるちゃんと一緒にやられるかもしれません。大きな魔物だけじゃなく。小さな魔物もたくさんいました。

もし、わたしがあんな場所に立たされでもしたら、怖くて足が 竦(すく) んで動けなくなります。

「それに、ユナちゃんが戦ってみるって言うなら、その言葉を尊重するべきだからね」

「それが冒険者」

それが冒険者なのでしょうか?

わたしは絶対に冒険者にはなれません。

「でもよ。あんな大きなスコルピオンは見たことがないからな。一人で倒せるか? しかも、小さなスコルピオンも、ウジャウジャといたんだぜ」

後ろを歩くトウヤさんが話しかけてきます。

でも、トウヤさんの言うとおりです。

あの数の魔物をユナさん一人で倒すって、無理だと思います。

「ユナちゃんは小さなスコルピオンを簡単に倒していたでしょう」

「でも、あの狭い空間で、さらに大きなスコルピオンまでいるんだぞ。小さなスコルピオンを倒す実力はあっても、倒せる状況にもっていけるか? あのときは一体、一体、スコルピオンを倒していたけど。あの空間に入れば、全部が一斉に襲ってくるんだぜ」

「そうだけど……」

トウヤさんの言葉にメルさんは同意してしまう。

それって、やっぱり倒せないってことなんでしょうか。

「でも、ユナちゃんが残るって言うからには、倒す方法があるんでしょう。ゴーレムのときも一人で倒しに行っちゃう子だし」

「あのときは驚いたよな。みんなが諦めて、酒を飲んだ翌日に、嬢ちゃんが鉱山から戻ってくると、ゴーレムを倒したって言うんだからな」

「どうやって倒したか聞いても、教えてくれなかったしね。もしかして、くまゆるちゃんが倒したのかも」

「そうなると、このクマも強いかもしれないな」

トウヤさんがくまきゅうちゃんを見ます。

ユナさんが護衛に付けてくれたからには強いのでしょうか?

くまきゅうちゃんは自分のことが話されていることが分かっているようで「くぅ~ん」と可愛らしく鳴きます。

「まあ、あの嬢ちゃんは不思議な嬢ちゃんだからな」

「ふふ、そうね。ユナちゃんは不思議な女の子よね」

「強さは未知数」

ユナさんはとっても不思議な人です。

わたしたちが話していると、前を歩くジェイドさんが会話に入ってくる。

「来るときにも話したが、ユナが戦っているところを見た者は少ない。でも、討伐したことは誰しもが認めている。それを証明するように冒険者ギルドのランクも高い。過去の話が本当なら、倒せないと分かれば逃げ出すことぐらいできるだろう」

冒険者ランクはCだった。年齢も15歳でこれは凄いことらしい。それにクラーケンって魔物も倒している。

「それにくまゆるちゃんも一緒だしね」

たしかにくまゆるちゃんがいれば逃げることはできるかもしれません。

「でもよ。ほとんどの冒険者はユナが戦うところを見たことがないんだよな」

「たぶん、人に見られたくないんでしょうね」

「砂漠のワームのときもユナちゃん一人で倒せた。それを隠すためにわたしたちに手伝わせた」

セニアさんはそう言いますが、本当にあの数のワームをユナさん一人で倒せたのでしょうか。

「砂の中に隠れるスコルピオンを倒せるぐらいだからな。もし、俺にそんな実力があればみんなに見せつけるけどな」

話を聞くとユナさんがとんでもなく強いように聞こえます。クラーケンを倒したことが本当なら、ユナさんは強いと思います。でも、ユナさんがワームやスコルピオンって魔物を倒す姿を見ても、可愛らしいクマさんの格好を見ていると。どうしても、そうは思えなくなります。

「でも、嬢ちゃんがどうやって戦うか気にならないか? それに心配にならないか?」

「もちろん、心配よ。あんな可愛い女の子が残るっていうんだから」

「ならよ。俺たちも残るべきだったんじゃないか?」

「ユナが戦うところを見てみたい」

「それじゃ、見に行こうぜ」

トウヤさんはセニアさんの言葉に同意して、引き返そうとする。

「俺たちの仕事はカリーナを外に連れていくことだ。セニアもトウヤの言葉に乗るな」

わたしたちは、ジェイドさんの言葉に従ってユナさんのところには戻らずに、地上に戻ることになります。

ユナさんが倒したスコルピオンの道を通り、ユナさんが作った橋を渡る。

通ってきた道を戻ると、ユナさんがとっても凄い人だってことが分かります。

そして、わたしたちはピラミッドの上に行く迷宮の穴があるところまで戻り、そのままピラミッドの出口までやってくる。

外に出ると緊張が解けたように感じます。気を張っていたのかもしれません。

ジェイドさんたちはラガルートの様子を見に行きます。わたしはくまきゅうと一緒にピラミッドの入口に残り、ユナさんが戻ってくるのを待ちます。

「ユナさん……」

「そんなに心配?」

わたしがユナさんの名前を口にすると、後ろからメルさんとセニアさんが声をかけてきました。

「メルさんにセニアさん? ラガルートを見に行ったんじゃ」

「わたしたちはカリーナちゃんの護衛。魔物が襲ってくるかもしれないからね」

「くぅ~ん」

「ふふ、もちろん。くまきゅうちゃんのことは信用しているわよ」

メルさんはくまきゅうちゃんの頭を撫でます。

「ああ、ユナちゃんいいな。わたしもこんな召喚獣が欲しいな」

それにはわたしも同意です。くまゆるちゃんやくまきゅうちゃんがとっても欲しいです。

「それにこの子とユナちゃんは心が繋がっているらしいから、ユナちゃんになにかあれば、分かるんじゃないかしら」

たしかにそんなことを言っていました。

「くまきゅうちゃん、ユナさんのことわかる?」

「くぅ~ん」

なにを言っているか分かりません。でも、それが本当ならユナさんになにかあれば、分かるかも知れません。

わたしたちがピラミッドの入口にいると、ウラガンさんがやってきます。

周りを見ると他の人たちは、解体をしている姿があります。あれから、まだやっていたみたいです。

「おい! 戻ったのか?」

「一応ね」

「それで、探し物は見つかったのか?」

「う~ん、見つかったけど。手に入らなかったが正しいかな」

「見つけたのに、手に入らなかったのか?」

水晶板がある場所は見つけました。でも、手に入れることはできませんでした。

「それはどういうことだ?」

「どうやら魔物が食べちゃったみたいなのよ?」

「そんなの倒せばいいだろう。逃げ戻ってきたのか?」

「無茶を言うな。スコルピオンの親だ」

ラガルートの世話をして戻ってきたジェイドさんが答える。

「スコルピオンの親?」

「噂で聞いたことぐらいあるだろう。たまに巨大化した魔物が現れるって」

「凄い、大きかったわよ」

メルさんは大きく手を広げて、スコルピオンの大きさを表現しようとしている。

「冗談だろう」

「普通はそう思うわよね。でも、本当のことよ」

「それじゃ、諦めて戻ってきたのか?」

メルさんが首を振る。

「ユナちゃんが一人残って戦っているわ」

「……おいおい、あのクマの嬢ちゃんを一人残してきたのか!?」

メルさんの言葉にウラガンさんが目を大きく開いて驚きの表情を浮かべる。

「ええ」

「おい!」

メルさんが肯定するとウラガンさんが怒ってメルさんの胸倉を掴む。

でも、セニアさんがウラガンさんの首にナイフを向ける。

「離して」

「くそ!」

セニアさんの言葉にウラガンさんは突き飛ばすようにメルさんを離す。

喧嘩は駄目です。

「でも、見損なったぞ。いくら、クマの嬢ちゃんが強いからと言って、そんな魔物がいるところに一人残してくるなんて」

「ユナちゃんが一人で残るって言ったから、仕方なかったのよ」

「俺たちだって、無謀なら止めたさ」

わたしも止めたかった。

でも、できなかった。

「クマの嬢ちゃんは本当に、ブラックバイパーやタイガーウルフを一人で倒しているのか?」

「知っているの?」

「嬢ちゃんのことを知っている奴がパーティーに一人いてな。そいつから、少しだけ話を聞いた。初めに聞いたときは鼻で笑った。『近寄ると危険』とか、『関わらない方がいい』とか、『街を出よう』とか言い出すんだぜ。それで理由を聞けば、冗談みたいな話が出てくる出てくる。それで今回の依頼を受ければ、そのクマの嬢ちゃんがいるから驚いたさ。それにあんたたちほどのパーティーが嬢ちゃんを信用しているようだったし、巨大なワームを討伐するところを見れば、嘘じゃないことはわかる。もっとも、この目で見ても、クマの嬢ちゃんが強いって信じられないけどな」

「そのユナちゃんが戦ってみるって言うから、仕方ないでしょう」

「だからと言って、おまえたちまで戻ってくることは無かっただろう。もしものことを考えれば残るのが普通だろう」

「ふふ」

「なにが、おかしい?」

「だって、そんなにユナちゃんのことを心配するとは思わなかったから」

「…………ふん! そんなんじゃねえよ」

ウラガンさんの態度が可笑しかったのか、みんなが笑い出す。

そうです。初めて冒険者ギルドで会ったときは怖い人かと思いました。でも、わたしのことを覚えていたのか、家で会ったときに謝罪を受けました。

もしかすると、依頼主の娘だったからと思いましたが、優しい人なのかもしれません。でも、顔は怖いです。

「それで、これからどうするんだ?」

「ユナを待つさ」

「なら、暇だろう。解体を手伝え」

ウラガンさんは親指を自分の後ろに向けてクイクイと指す。そこには解体作業をしているウラガンさんのパーティーメンバーがいます。

「できれば魔法使いが手伝ってくれると助かるんだがな。もちろん、解体してくれた分は分け前として、再計算してやる」

ジェイドさんとメルさんがお互いの顔を見ると頷く。

「わかったわ。セニア、カリーナをよろしくね」

「任された」

セニアさんは返事をするとくまきゅうちゃんに抱きつく。

メルさんは呆れ顔になるけど、ジェイドさんとトウヤさんを連れて、解体作業に向かった。

「くまきゅうちゃん。ユナさんになにかあったら教えてね」

「くう~ん」

ユナさん、無事に戻ってきてくださいね。