軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282 クマさん、引き篭もる

わたしが落ち込んでいると、スリリナさんが夕食の準備ができたと部屋に呼びに来てくれた。

「ユナ様、どうかなさったのですか?」

落ち込んでいるわたしをスリリナさんが心配そうに尋ねてくれるが、パンツを見られたからとは言えないし、美少女の噂が独り歩きして、恥ずかしいなんてことも言えるわけがない。そんなことを言えばわたしが自分で美少女って言っているようなものだ。

ちびっ子たちはわたしを慰めてくれるが、しばらくは立ち直れそうもない。

わたしはフィナたちに引っ張られながら食堂に連れていかれる。

「みんな、遅いわよ」

食堂に来ると、わたしと違って元気になっているエレローラさんの姿がある。さっきまで、生ける屍のようだったのに、もう、元気になっているよ。気持ちの入れ替えが早い。羨ましいかぎりだ。

「あら、ユナちゃん。元気が無いわね」

「エレローラさんは元気ですね」

「休んだしね。それに文句を言われ続けたら、ルトゥムとは関係なく、辞めるっていうことにしたから」

つまり、それは脅迫って奴じゃないかな。

エレローラさんの場合、本当にやりそうで怖い。

「それで、どうしてユナちゃんが元気が無いの?」

「乙女心が壊れかけているからです」

「…………?」

わたしの返答に意味が分からないと首を傾げるエレローラさん。

「えっと、ユナさんは……」

わたしが元気が無い理由をシアとノアの姉妹がエレローラさんに説明する。

「ふふ、ユナちゃんのパンツを見た男の子は幸運だったわね」

その代わりにわたしが不幸になりました。

「見つけたら、目をくり抜いて、記憶が無くなるまで頭を殴りたいです」

そうすれば、わたしの心も落ち着くかもしれない。

「ユナお姉ちゃん、怖いです」

フィナとシュリが自分の目を押さえる仕草をする。

「冗談だよ。そんなことをしないよ」

さすがのわたしでも、目をくり抜いたりはしない。記憶が無くなるまで頭を殴る可能性は否定はできないけど。沸き上がるモヤモヤをどこかにぶつけたい。これも全て、あのルトゥムっておっさんが悪い。今度会ったら、追加で殴ろうかな。でも、クマの姿で殴れば試合をした相手がわたしだと気付かれてしまう。制服姿で行けば、それはそれで大変なことになりそうだし。

どうやら、このモヤモヤをぶつけることはできないらしい。

「それでシアに尋ねたいんだけど。学園の休みっていつ?」

「休みですか?」

「クリモニアに帰る前にティリアにお礼を言おうと思ってね。今まで、お城に行っても学園に通っているせいで、会えなかったから。だから、学園の休みの日にお城に行こうと思って」

今まで、お城に何度か行っているのに遭遇率が0%だ。

「えっと、明日は片付けや学園祭の発表があるから、明後日が休みです」

それじゃ、明後日にティリアに会いに行けばいいかな。

「あのう、ユナさん。明後日、少し時間をもらえませんか? ユナさんがクリモニアに帰る前に、マリクスたちがお礼を言いたいって」

綿菓子機やお店の宣伝をしてくれたことのお礼を言いたいらしい。お礼なんていらないけど、わたしがティリアにお礼に行くっていうのに、いらないと言うと、それでは矛盾をしてしまう。だから、マリクスたちに会うことにする。

そうなると午前中にマリクスたちに会って、午後にティリアに会いに行けばいいかな?

「あと、制服はどうすればいい? 洗って返せばいい?」

借りた物は返さないといけない。

「制服はユナさんに差し上げますよ。なにか、ユナさんには必要になりそうですから」

なに、その予言みたいな言葉は。わたしが制服を着る予定もパンツを見せる予定も無いよ。

わたしは断るが、シアは受け取ろうとはしない。

「なんなら、学園に入学しますか? ユナさんが入学すれば制服は必要になりますよ」

「あら、いい考えね」

シアの提案にエレローラさんが賛同するが、それに対して反対の声があがる。

「ダメです。ユナさんはクリモニアに帰ります」

「ユナ姉ちゃんに会えなくなったら、悲しいからダメ」

「ユナお姉ちゃんがいないと困ります」

ちびっこ三人から反対の言葉が出た。

うん、必要とされるって嬉しいね。

もっとも、始めから学園に通うつもりはないので、シアの提案は丁重にお断りした。

学校なんて、元引き篭もりには地獄でしかない。

それに、クマの転移門があるとはいえ、フィナたちと簡単に会うこともできなくなってしまう。フィナたちじゃないけど、わたしも寂しくもある。

とりあえず、制服は貰うことになったが、着ることは二度と無いと願いたい。

翌日、わたしは部屋に引きこもった。

「ユナさん、お出かけしましょうよ。しばらくしたら、クリモニアに帰るんですから」

「ヤダ」

「そのクマさんの格好なら、誰も気付きませんよ」

パンツを見られた翌日に外を歩く勇気はない。

ノアとシュリがわたしの左右からクマさんパペットを握って、引っ張ろうとするが、わたしはビクともしない。神様からもらったクマさん装備をしたわたしを誰も動かすことはできない。

「ユナさん、その格好なら、パンツは見えたりしませんから」

「それに誰も、ユナお姉ちゃんって、気付かないと思うよ」

時間が経てば、人の脳裏から薄れていくものだ。でも、昨日の制服美少女(笑)とわたしが同一人物と気付かれれば、脳裏にパンツの映像が鮮明に復活する可能性もある。

だから、今日は外に出るべきじゃない。脳内のわたしの顔が薄れていくのを待った方がいい。

「学生は学園に行ってますから大丈夫ですよ」

ノアが腕を手で引っ張るが、わたしは動かない。

それに試合を見ていたのは学生だけじゃない。普通の人もいた。人の目がどこで光っているか分からない。

「ユナ姉ちゃん。パンツを見られたのがはずかしいの? わたしはへいきだよ」

シュリがわたしの手を離して、自分の履いているスカートを捲ろうとする。でも、隣に立つフィナがシュリの手を掴む。フィナによってシュリのパンツは守られる。

たとえ、見えたとしても、同じ女の子でシュリは子供だ。なにも恥ずかしいことはない。ただ、どこでもスカートを捲るようになってはダメだから、フィナが注意をしている。

「大人になると、男の子にパンツを見られると恥ずかしいんだよ」

わたしはノアの手を振りほどくと、後ろにあるベッドに飛び乗り、ベッドの前に通常サイズのくまゆるとくまきゅうを召喚する。

無敵のクマの防波堤が完成する。誰もこのクマの防波堤を越えて、わたしのところに来ることはできない。

「くまゆる! くまきゅう! わたしを守って。でも、怪我をさせちゃ、ダメだからね」

くまゆるとくまきゅうは困った顔をする。そんなクマの防波堤に挑んでくる者がいる。シュリとノアが嬉しそうに防波堤に突撃して、ダイブする。

「でっかい、くまゆるだ~」

「大きいのは移動のとき以来です」

2人はくまゆるとくまきゅうに抱きつく。フィナも嬉しそうにくまきゅうに抱きつく。それから、三人はくまゆるとくまきゅうと遊び、外にお出かけをしようとは言わなかった。

違った意味でわたしは防波堤に守られた。

翌日、朝食を食べ終わり、しばらくすると、マリクスたちが約束通りにやってきた。

「ユナさん、今回はありがとうございました」

マリクスがお礼を言うと、ティモル、カトレアもお礼の言葉を口にする。

綿菓子機を返してもらう。ちゃんと綺麗に洗ってあり、汚れていない。綿菓子を作った後って、ザラメでべたつくんだよね。そういえば、綿菓子を国王のところに持っていかないといけないことを思い出す。忘れてクリモニアに帰ったら、今度、会うときが面倒なことになりそうだから、ティリアに会うときに持っていけば良いかな?

「ユナさんのおかげで、投票の結果。食べ物部門で3位になりました」

シアが学園祭の出し物の投票結果を教えてくれる。

そういえば投票をしていたよね。

3日目は国王にドナドナされて、投票はできなかったけど。

「でも、何で俺たちが3位なんだ。絶対に1位だと思ったのに」

マリクスは納得がいかなそうにする。

「3位って、駄目なの?」

「そんなことはないですよ。お店もそれなりに数がありますから、3位でも凄いですよ」

「でも、あれだけ売って3位ってないだろう」

「マリクス、しつこいですわよ。投票してくれたクラスメイトが言うには、不思議な食べ物で美味しかったけど、お腹が膨れなかったから、投票しなかった方が多かったと聞いたではありませんか」

カトレアがネチネチとしているマリクスに説明をする。

「でも、みんな、あんなに美味しそうに食べてくれたのによ」

「それには同意しますが、3位でも凄いことですよ」

「わかっているよ」

「あと、あの無効票のあれが、僕たちの票になっていれば2位になれたかもしれないけど」

ティモルの言葉に3人は微妙な顔になる。

「無効票?」

「はい。なんでも、店の番号を書かずに、クマって書いた人が多かったんですよ。それで、ユナさんが作ってくれたクマの置物を見た人が書いたんじゃないかって話もあったんですが。どうも違うみたいなんですよ」

「まあ、あれは初日に集中していたらしいからな。さすがの俺でも違うと分かるぞ」と言ってマリクスはわたしを見る。

「噂になっていましたからね」カトレアがわたしを見る。

「やっぱり、そうだよね」ティモルがわたしを見る。

「初日でクマだからね」シアもわたしのことを見る。

それに釣られて、ちびっ子たちもわたしに視線を向ける。

シアの話によると、初日にクマって書いた紙が大量に投票されていたらしい。それで、実行委員はクマの置物があるシアたちの店だと判断したらしいんだけど。二日目、三日目はクマと書かれた紙は数枚しかなかったそうだ。それで、調べてみると学園祭初日にクマの格好をした女の子が景品荒らしをしたことが分かり、そのクマの格好をした女の子に投票したと判断をしたらしい。

そのクマってわたしのことだよね。

「たぶん、クマの格好をしたユナさんの姿を見た人が投票したんだと思いますよ。初めは実行委員も困ったみたいですが、調べると、クマの格好をした女の子がお店荒らしをしたことが判明して、無効票になりました。もし、ユナさんが二日目も三日目もクマの格好をしてたら、入賞したかもしれませんね」

遠慮するよ。

うん、2日目は景品荒らしをしなくてよかった。まあ、クマじゃないから大丈夫だけど。目立つのは自重しないといけない。

「ユナさんって言えば、あれもユナさんのおかげだろう」

「まあ、たぶんね」

学生組は頷いているけど、なんのこと?

なんでも、見習い騎士の出し物が3位に入ったらしい。

「普通は騎士の練習試合で、こんな順位になったりはしないようで、凄い騒ぎになりました。知り合いの話によれば、一人で3票入れる人が多かったみたいです」

「絶対にユナさんの試合のおかげだよな。見たかった」

「僕だって、見たかったよ」

「シアさんが羨ましいですわ」

「わたしだって、大変だったんだよ」

なにか、わたしのおかげで見習い騎士の出し物の投票が良かったみたいになっているけど、わたしとは限らない。わたしが消えたあと、投票したくなることが起きたかもしれない。

「試合を見た知り合いが、3票入れたって言っていたよ」

「クラスで見ていた奴も3票入れたって」

「美少女の強さに感動したって言っていた」

……たぶん、わたしじゃない。わたしは美少女(笑)だ。

「昨日もクラスでは、ユナさんのことが話題になっていましたよ」

これも全て、あのおっさんのせいだ。

わたしは学園に近寄らないことを心に決める。