軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

269 クマさん、差し入れを持っていく

お昼時になるので、一度、シアたちのお店に戻ることにした。

昨日はろくに休憩が取れなかったという話なので、差し入れを持っていくことにした。もちろん、フィナたちから反対意見はでない。

差し入れは屋台で売っている物ではなく、いつものモリンさんのパンだ。

お店に並ぶのが面倒ってこともあるけど、友達が手伝いに来るって話だ。差し入れを持っていくなら、その子たちの分も用意しないと可哀想だ。だから、クマボックスに入っているパンなら、好きな量を用意できるので、差し入れはモリンさんのパンにした。

お店の近くに来ると、綿菓子を美味しそうに食べ歩きしている人を見かける。綿菓子を食べている人の光景を見ると嬉しくなる。シアたちも頑張ったんだから、それなりに売れてほしいものだ。

お店が見えてくると、知らない学生が一生懸命に客の呼び込みをしている姿がある。シアが言っていた手伝ってくれる友達かな?

わたしと違って友達がいるんだね。

「シア、お店は順調みたいだね」

子供に綿菓子を渡しているシアに尋ねる。

「はい、友達も手伝ってくれているので、助かっています」

「でも、お礼に食事をご馳走しないといけないけどな」

マリクスが交換条件の内容を教えてくれる。ここでお金って出てこないのが、学生らしい交換条件だ。その手伝ってくれている学生たちの方を見るが、ティリアの姿が見えない。朝の用事が終わってから手伝う話だったけど。いないってことは、まだ用事が終わっていないのかな?

「シア、ティリアはいないの?」

一応、昨日のお礼をしようと思っていたんだけど。

「ティリア様なら裏にいますよ」

お店の裏を見ると、なにかいじけているようなティリアの後ろ姿がある。さすがに「の」の字は書いていないけど、ティリアの背中からは哀愁が漂っている感じがする。

「ティリアはどうしたの?」

「その、お手伝いを断ったら、あんな状態になって」

「断る? どうして?」

シアの話によると、ティリアが呼び込みを始めると、ティリアのことを知っている学生が集まりだし、ティリアが「美味しいですよ」と微笑むと生徒たちが綿菓子の注文に殺到し始めたそうだ。

さらにその人だかりが人を集めて、新たにやってきた人にティリアが宣伝をする。その悪循環のスパイラルに入って、一時的に混乱状態になって、大変なことになったらしい。

三人で作っても追いつかない状態になり、危機感を覚えたシアたちはティリアを急いでお店の裏に引っ込めたと言う。そして、やっと落ち着いて、今の状況らしい。それでも、他のお店よりも人が多い。

間違いなく、有名人効果だね。

まあ、普通に考えたら、お姫様のティリアが呼び込みしたら、学生は近寄ってくるよね。そして、周りでティリアの名前が出れば、一般人も足を止めることになる。

そんなお姫様のティリアに勧められたら、普通は断れない。しかも、お姫様のスマイル付き、さらに美人。笑顔で言われたら男性なんかはアウトだろう。わたしには決してできない技だ。

そう考えると、お姫様効果は、わたしが作ったクマの置物以上に効果があったみたいだ。

「それで、ティリア様には手伝いを終わりにしてもらったら」

あんな状況になっているってわけね。

わたしはティリアのところに行って、後ろから声をかける。

「ティリア、大丈夫?」

「ユナ? 聞いてよ」

わたしの声に反応したティリアが振り向いた瞬間、固まり、キョロキョロと見渡す。

誰を捜しているのかな?

「あれ、ユナは?」

あなたの目の前にいますが。

「ユナの声がしたと思ったんですけど」

だから、目の前にいますよ。

ティリアはわたしのことを見ると、横にいるフィナたちを見る。

「ユナは?」

「ユナお姉ちゃんなら、そこに」

フィナたちがゆっくりとわたしの方を見る。ティリアの視線も必然とわたしの方に向く。そして、小さく首を傾げる。

「…………ユナ?」

「はい。ユナです」

改めて自己紹介をする。

ティリアが信じられないような目でわたしを見る。

なんですか、クマから出てきた女の子がわたしじゃ、不満ですか?

「たしかに、その手のクマに足のクマもユナのようね」

わたしの手と足を見て、わたしと認識する。

最終的にみんなは、そこでわたしと判断するんだね。

「それで、その格好は?」

「クマの格好は目立つから、シアに駄目って言われて」

簡単に制服姿の理由を説明をする。

「たしかに、あのクマの格好は目立つからね。でも、ユナはそんな可愛らしい女の子だったのね」

返答に困る感想だ。

まだ、クマの着ぐるみ姿が可愛いと言われた方が納得がいく。

「意外ですよね。あのクマの中身がこんな可愛い女の子だなんて」

「シアまで」

ティリアがシアを見て、なにかを思い出す。

「そうよ。ユナ、聞いてくださいよ。シアったら、わたしがお客さんを呼んでいたら、止めるんですよ。これ以上は止めてくださいって、頑張ってお客さんを呼んだのに」

「それはティリア様がお店の前に立って、呼び込みをすると、凄い人の数が集まってきてしまって、わたしたちでは対応ができないんです。だから、ティリア様が悪いとかじゃなくて、わたしたちの力不足なんですよ」

どのお店にも言えることだけど、キャパには限界がある。それがお店の大きさだったり、店員の人数、料理を作る速度。それらを踏まえて、ティリアが客の呼び込みをすると、キャパオーバーになるってことだね。

「でも、手伝いはユナを紹介してもらうのが交換条件だったのに」

そういえば、そんなことを言っていたね。

なんとも割に合わない取り引きだ。わたしと会うだけで学園祭の時間を売るなんて、ティリアはもう少し自分の価値を知らないとダメだね。

「もう、十分に手伝ってくれましたよ」

ティリアが手伝いたそうにしているが、こればかりは仕方ない。そもそも、ティリアは学生だけど、お姫様だ。お姫様が手伝うってことが反則技だ。

元の世界で言えば有名な芸能人がやっているようなものだ。

シアはあくまでティリアは悪くないと説明をするが、ティリアは納得がいかないようだ。

もしかして、ティリアはお店の手伝いをするのを楽しみにしていたのかもしれない。

わたしも学園祭を経験をしたことがない。だから、手伝って参加気分を味わっている自分がいる。綿菓子機を貸したのもクマの置物を作ったのもそんな理由からだ。

それで自分のおかげで、売れると余計に嬉しくなる。だから、ティリアの気持ちが何となく分かるような気がする。

だから、わたしはティリアを慰めて、気持ちを落ち付かせる。

「わかりました。大丈夫です。もう、我侭を言ったりしません」

ティリアの気持ちも収まった頃、誰かのお腹が鳴る。そのお腹の音でここに来た目的を思い出す。

「シアたちは、お昼は食べた?」

「まだです。これから、交代で食べに行こうかと思っているところです」

まあ、さっきまで混んでいたらしいからね。

「パンでよければあるけど」

「もしかして、護衛のときに食べたパンですか?」

「そうだけど」

「食べます!」

「僕も」

綿菓子を作っているマリクスとティモルが返事をする。どうやら、三人は護衛のときに出したパンを思い出したようだ。モリンさんのパンは美味しいからね。

「それじゃ、ここに置いておくから、みんなで適当に食べてね」

わたしは手伝いをしてくれてる学生の分も用意する。

「ユナさんたちはこれから、どうするんですか?」

「続きを回るけど」

まだ、見ていない場所はたくさんある。

午前中はノアとシュリが昨日のリベンジばかりするので、昨日と同じところばかり回ることになってしまった。でも、午後は違う場所に行くことにしている。同じところばかりではつまらないからね。

「それなら、ティリア様もご一緒にしたら、どうですか?」

「シア?」

いきなりのシアの提案にティリアが驚いている。

「呼び込みが駄目なら、他のことをお手伝いをしますよ」

シアは首を横に振る。

「ティリア様の宣伝のおかげで、お客様もたくさん来てくれました。そのお客様が広めてくれているから、今も売れています」

確かにお客様は途切れることもなく、買いに来る。

「それに、これ以上ティリア様に手伝ってもらったら、他のお店からクレームが来ます」

そもそも、お姫様を手伝わせることが反則技だからね。

「だから、ティリア様はユナさんたちと楽しんできてください」

そのシアの言葉にマリクスやティモルも賛同する。そして、お店の手伝いをしている他の学生もティリアに声をかける。

「あとはわたしたちがしますから、ティリア様は楽しんできてください」

「みんな…………、ありがとうね」

ティリアはみんなの気持ちを素直に受け取り、わたしたちと一緒に行くことになった。

わたしたちは交代で食事をするシアたちとお昼を食べると、ティリアを新たなる仲間として加えて出発する。

「ふふ、わたしが男の子だったら、モテモテですね」

先ほどまで落ち込んでいたティリアはシュリとミサに挟まれながら楽しそうに歩いている。その横にわたしとノアにフィナがいる。

「みんな子供ですよ」

7歳から10歳の子供だ。わたしは15歳だけど。

「小さくても、可愛いレディでしょう」

まあ、それは否定はしないけど。

ティリアにはミサのことを紹介したが、グランさんのことは知っていたけど孫娘のミサのことは知らなかったみたいだ。

「それに、わたしが買ってあげた服を着てくれているのを見ると、嬉しくてね」

三人とも、昨日ティリアに買ってもらった服を着ている。それが嬉しいみたいだ。

誰もがそうだけど、プレゼントした物を身に付けたり、使ってもらえると嬉しいものだ。大事にされて、一回も使われないよりはいい。

「ミサーナにも買ってあげましょうか?」

「いえ、その、わたしは」

「遠慮しないで」

恥ずかしそうにするミサの手を掴むと昨日と同じ服を売っているお店に飛び込み、みんなでミサの服を選んで購入した。ティリアは昨日同様にわたしの服を購入しようとしたが、丁重にお断りした。

ミサの服を購入したわたしたちは一度建物の外に出る。

前を歩くミサは嬉しそうにクルクルと回っている。なんだかんだで、お姫様のティリアに買ってもらったのが嬉しいみたいだ。

「わたしの嫁がまた一人増えたわ」

「だから、女の子だよ」

そんな、ティリアの冗談を聞きながら歩いていると、人が集まっているのが見える。

「なんだろう?」

ノアが走り出し、ミサが追いかける。シュリも走ろうとするがフィナが手を握って走らせない。

「お姉ちゃん!」

「駄目」

「うぅぅ」

わたしたちはゆっくりと人だかりに向かう。

剣を出して、なにかをしている。

「剣舞だね」

たしか、剣を使って踊るんだっけ?

6人ほどの学生が剣を持って踊っている。

剣を構え、右、左、剣を上手く操る。お互いの剣がぎりぎりで通り過ぎるが、ぶつかることもなく、続けられていく。

「凄い……」

「きれい……」

ノアたちが学生の動きに感動している。テレビで似たような物を見たことがあるけど。この目で見るのは初めてだ。剣が左右に力強く舞い。全員が同じ動作をするのは壮観だ。

誰もが同じ動作をして、剣や体の動きも同時に同じ方向に動く。そして、全員が剣を上に差す。それが、合図になったのか、激しい動きをする。今までとは比べ物にならないほどの速度で動く。でも、お互いにぶつかり合うことも無く舞う。そして、最後に剣をクルッと回して、綺麗に鞘に収めて終了となる。周りから拍手が沸き起こり、フィナたちも拍手をする。

わたしもパフパフとクマさんパペットを叩く。

もしかして、初めて良いものを見たって気がした。

ティリアの話によれば、行事とかあるときに代表として剣舞することがあるらしい。しかも、選ばれるのは優秀な学生だと言う。

「お姫様もできるの?」

「わたし? わたしは人と合わせるのは苦手だからね。一人でやる剣舞ならいいけど。複数でやる剣舞はできないかな」

シュリの質問に答える。

確かに、あれはお互いに信頼していないとできない。それにかなりの練習が必要だ。わたしも絶対にできないね。そもそも、人に合わせることが苦手なわたしでは無理だと思う。