作品タイトル不明
232 クマさん、寄生樹を倒す
神聖樹の前に立つ。
たぶん、切り倒すだけなら簡単だと思う。
だからと言って、すぐに切り倒す必要はない。
燃やしたりしなければ、どんなことをしても良いことになっている。(注:わたしの解釈による)
ムムルートさんやサーニャさんたちの無理した笑顔は分かりやすかった。
たぶん、心の中では悲壮感があふれているはず。
だから、ぎりぎりまで悪あがきをしてみることにする。
まずは風の刃を放ち、くねくねと動いている 蔓(つる) を無作為に切りまくる。
でも、すぐに再生して蔓が伸びる。
これって神聖樹の魔力で再生しているんだよね。
うーん、寄生樹の元になっている場所ってどこかにあるのかな?
それとも、もう、神聖樹の体内に入り込んでいるのかな?
蔓が届かない距離から神聖樹を右一周する。
幹部分から枝の先まで蔓が伸びているため、邪魔で分からない。
こういう場合は、装甲が厚いところが怪しいのが定番だけど、蔓がぐるぐると絡みついている箇所が結構ある。
なら、怪しいところが多ければ全て確認すればいい。
多少、神聖樹に傷が付くことには、大目に見てもらうことにする。
まずは一番怪しい、幹に絡み付いている蔓に向けて、縦に一閃、風の刃を放つ。
大樹の中心に縦一本に風の刃が入る。
巻きついている蔓が切れるが、すぐに切った箇所同士がくっつく。
今度はさっきよりも強く、風の刃を放つ。
さっきと同様に蔓は切れるが、やはりくっつく。
うん?
蔓の下にある幹が傷ついたようには見えなかった。
意外と神聖樹は頑丈?
なら、もう少し手荒なことをしても大丈夫かな。
いくつか案を考えてみる。
それらの案を実行するには魔力の量に不安が出てくる。
なんと言っても相手は神聖樹から、魔力を吸いとっている。
回復力もあり、反則だ。
それなら、こちらもそれなりに対処をしないといけない。
わたしはキョロキョロと辺りを確認する。くまきゅうが「なに?」って顔でこちらを見る。
「なんでもないよ」と言って、クマの着ぐるみを脱ぐ。
ここには誰も入れないから、着替えを覗かれる心配もない。
現段階でクマハウスを除けば、世界で一番安全な着替え場所かもしれない。
そして、白クマの着ぐるみに着替える。
くまきゅうが「お揃いだね」って嬉しそうな顔をしているように見える。
まあ、これで魔力の回復速度も上がるはず。
相手も回復するんだから、お互い様だ。
わたしは神聖樹の前に立つと、無数に風の刃を放つ。
右手を振る。左手を振る。左右の手から風の刃が飛ぶ。
風の刃は寄生樹の 蔓(つる) を切り刻んでいく。
でも、蔓は再生を繰り返していく。一方的な殺戮になるかと思ったら、寄生樹が葉を飛ばしてくる。
おお、そんな攻撃もしてくるんだ。
着替え中にやられていたら、危なかったね。
さらに蔓を伸ばしてくる。
えっ、ここまで伸びるの!?
かなり、離れた距離にいたと思っていたんだけど。
「くまきゅう、下がって! もしものときは援護をお願い」
くまきゅうを下がらせて、蔓の根元を狙って切り落とすが、再生の速度が速い。
チートは良くないと思うよ。
わたしは土のドーム型の壁を作り葉の攻撃を防ぐ。
相手は上から葉を飛ばしてくるから卑怯だ。
蔓は伸びてくるわ。葉を飛ばしてくるわ。威力はないけど、絶え間なく行われるからうっとうしい。
隙をついて攻撃するけど、再生するから、ほとんど意味が無い。
やっぱり、再生が一番ウザイ。
なら、こちらは再生する時間を与えない攻撃をすればいい。葉が邪魔なら無くせばいい。
神聖樹の葉が全て無くなっても、来年には生えてくるよね。
右手のクマさんパペットに魔力を貯める。
そして、右手を神聖樹に向かって右斜め下に振り落とすと、神聖樹の周りに風が巻き起こる。
その風は徐々に大きくなり、神聖樹の周りを回り始め、竜巻となっていく。
さあ、勝負と行きましょうか。
わたしの魔力が尽きるか。
寄生樹の再生速度が間に合わなくなるか。
神聖樹が竜巻の力に耐えきれなくなるか。
神聖樹の魔力が切れて、寄生樹と共倒れになるか。
4つに1つ。寄生樹が先に力尽きれば、わたしの勝ちだ。
巨大な竜巻が神聖樹を中心にして回転する。
寄生樹の蔓を切り刻み、神聖樹の葉を巻き上げていく。
蔓は再生する度に、切り刻まれていく。
竜巻の強さを間違えると、神聖樹にダメージを与えてしまうが、枝ぐらいは許してもらう。
竜巻の強さを調整しながら、耐久勝負に入る。
チート対チート。
どっちに分があるかは分からない。
向こうも魔力は無限ではないし、再生速度も限界がある。もちろん、わたしだって、白クマの着ぐるみとは言え、魔力の回復速度の限界はある。
膠着状態が続くが、わたしの竜巻が徐々に寄生樹を剥ぎ取っていく。
神聖樹は枝が折れはするが、大樹そのものに被害は出ていない。
耐久勝負が続く中、神聖樹の葉が半分ほど無くなったとき、少し上の辺りでなにかが光ったように見えた。
気のせいかと思ったが、また、一瞬光る。
竜巻の隙間から、たまに緑色に光る物が見える。
神聖樹の葉によって見つかりにくい場所にあり、普通に見ても分からない場所だ。
目を凝らして見る。
もしかして、魔石?
でも、どっちの魔石?
神聖樹?
寄生樹?
そもそも、神聖樹に魔石なんてあるの?
考える。
答えは寄生樹の魔石。
神聖樹に魔石があるとしても、この程度の竜巻で魔石が剥き出しになるとは思えない。
竜巻を強める。
神聖樹が大きく揺れる。
葉は飛び、細い枝は折れる。
それと同時に魔石がハッキリと見えるようになる。
大きな種のような物の中心に緑色の魔石が見えた。
魔石が見え隠れする理由は、種のような物にある魔石に蔓が巻いて守っていたようだが、強めた竜巻によって、剥き出しにされていた。
あれが寄生樹の魔石なら、魔石を破壊すれば寄生樹は死ぬはず。
でも、魔石のある位置が悪い。
下手に魔法を使えば、魔石だけでなく、神聖樹の一部も破壊してしまう恐れがあるが、神聖樹の一部に穴を開けたりするぐらいは大丈夫だと思う。
なんたって神聖樹って立派な名前があるんだし、現状だってわたしの魔法に耐えている。
まあ、神聖樹に穴を開けたりするほどの魔法を使う前に試すことはいくらでもある。
クマボックスからミスリルナイフを取り出し、クマさんパペットにしっかり咥えさせる。
これなら魔石を破壊して、神聖樹に突き刺さるだけだ。
わたしはミスリルナイフを投げる構えをとる。
そして、神聖樹の中心に回っている竜巻を消す。それと同時に魔石に向けてミスリルナイフを投げる。
竜巻に巻き込まれた葉が舞い落ちる中、銀色に輝くミスリルナイフが一直線に魔石に向かって飛んでいく。
竜巻が消えると同時に寄生樹は魔石の周辺を再生させて、魔石がある種を包み込む。
普通のナイフなら防がれた可能性もあるが、ガザルさんが作ってくれたミスリルナイフだ。
切れ味は最高級だ。
ミスリルナイフは魔石がある寄生樹の種に命中して、魔石を破壊する。
神聖樹に絡み付いていた蔓は動きを止め、再生も止まる。
耐久勝負はルール変更をしたわたしの勝ちになった。
勝てば官軍とはよく言ったものだ。
まあ、寄生樹相手に使う言葉ではないけど、わたしの勝利だ。
わたしは改めて神聖樹を見る。
空からは神聖樹の葉が舞い落ちてくる。
舞い落ちてくるってことは葉が無いってことになる。
神聖樹を見ると見事に枯れ木のように禿げてしまった。
最後の方で竜巻の威力を増したせいだ。
なんとも寂しい木になってしまった。
寄生樹を倒したけど、こんな神聖樹の姿をムムルートさんが見てショックで死なないよね。
これ、時間が経てば元に戻るよね?
……段々と不安になってくる。
別に寄生樹を倒したんだから、お礼を言われるはずだけど、この状態で笑いながらVサインはできない。(くまさんパペットのせいでできないけど)
それに 図々(ずうずう) しく、お礼の請求もできない。
うーん、舞い落ちる葉の中考える。
もしかして、魔力を流せば復活とかしない?
もしくは回復魔法?
よく、漫画とかで魔力を注ぐと復活するとかあるけど。
まあ、試しにやってみて、駄目なら「時間が解決してくれるよ」と言って誤魔化すことにする。
わたしは枯れ木のようになった神聖樹に近づき、黒白クマさんパペットで太い幹に触れる。
そして、ダブルクマさんパペットに魔力を注ぐ。
おお、魔力を飲むように吸い込んでいく。
でも、吸い過ぎじゃない?
白クマの着ぐるみで回復をしているはずだけど、それ以上に魔力を吸収される。
なら、おまけとして、葉が生えるイメージをしながら回復魔法を使う。
すると、神聖樹が光りだし始める。
おお、ゲームイベントみたいだ。
目を開けていられないほどに輝く。
神聖樹から手を離し、手で目を覆う。
そして、光が止み、目をゆっくりと開ける。
わたしは神聖樹から離れて確認すると、そこには葉が生い茂っている神聖樹の姿があった。
どうにか、うまくいったみたいだね。
でも、少し魔力を使いすぎたみたいだ。
わたしは少しふらつくと、後ろに倒れそうになった。
でも、くまきゅうが支えてくれる。
「くまきゅう、ありがとう」
「く~ん」
くまきゅうに支えてもらいながら見る神聖樹は、名にふさわしく神々しく見えた。
葉は生き生きと綺麗な色になっている。
これが本当の姿なんだね。
わたしが神聖樹を見ていると、後ろが騒がしくなる。
「なんだこれは!?」
声がする方に振り返ると、ムムルートさんを始め、サーニャさんとアルトゥルさんが呆然と立ち尽くしている姿があった。