軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193 クマさん、怒る

走りながら、フィナを呼び続けるが返事がない。

わたしは急いでグランさんの屋敷に戻ってくる。

フィナはどこ!?

目の前に警備兵がいる。わたしがいきなり現れて驚いている。

「ミサは!?」

「ミサーナ様ですか!?」

警備兵はなにを尋ねられたか意味が分かっていない。

なにも起きていないの?

それじゃ、フィナたちは?

フィナはミサに花壇を見せてもらうと言っていた。

目の前の警備兵に尋ねようと思ったが、自分で探した方が早い。

わたしは警備兵を無視して、高く飛び、屋根の上に登る。

そして、入り口より、左手の方に花壇があるのを見つける。

「フィナ!」

屋根から飛び降りて綺麗な花が咲く花壇の前に降りる。

花壇の前にフィナとノアが倒れていた。その側にはミサにプレゼントしたくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみが落ちている。

「フィナ! ノア!」

駆け寄って、フィナを抱きかかえる。フィナの手にはクマフォンが握られている。

「うぅ……」

フィナの顔には殴られた跡があった。

誰が!

わたしは優しく、顔に触れて魔法を使う。

すると、顔の腫れは消えていく。

次にノアのところに駆け寄って見るが顔には傷は負っていない。気を失っているだけみたいだ。

ホッとするがミサの姿だけが見えない。周りはくまゆるたちのぬいぐるみが転がっているだけだ。ここで何かがあったのは間違いない。

「ミサ!」

叫ぶが返事はない。

どこにもいない。

襲われて、逃げた? 捕まった?

ミサが逃げていれば騒ぎになっているはず。先ほどの警備兵を見る限りじゃ、騒ぎになっていない。騒ぎになっていれば、フィナたちが放置されているわけがない。

なら、考えられることは連れ去られた。

「ユナ、どうした? 警備の者が驚いていたぞ。……ノア!」

クリフがやってきて、倒れているノアを見て叫ぶ。

その後ろにはわたしの行動に驚いた警備兵にメーシュンさんがいる。

「なにがあった!」

「分からない。フィナに危険なことがあったことが分かったから、駆けつけたら」

クリフはノアをわたしに代わって抱き抱える。

わたしはフィナのところに戻るが意識は戻っていない。

いったい、なにがあったの? ミサは無事なの?

「ユナ様! 何があったのですか!?」

「誰かに襲われたみたい。メーシュンさん、グランさんたちに報告と、お屋敷の中にミサがいないか念のために捜してください」

無駄と思うがお願いをする。

でも、小さな望みにかける。

メーシュンさんはすぐに警備兵に手分けして捜すように指示を出す。

騒ぎを聞き駆け付けてきたグランさんも来る。

そのとき、フィナの目がうっすらと開いた。

「フィナ!」

「ユナ、お姉ちゃん?」

「なにがあったの!」

「ミサ様が、ミサ様が」

わたしの服を掴みながら一生懸命に声を絞りながらミサの名を叫ぶ。

「落ち着いて、ゆっくりで良いから話して」

「わたしたち、ミサ様の案内でお花を見ていたんです。そしたら、いきなり、黒いマスクを被った男の人が現れて、ミサ様を捕まえて連れ去ろうとしたんです。わ、わたしとノア様はミサ様を守ろうとして、男の服を掴んだんだけど。なにもできなくて……」

フィナは顔を擦る。

そのときに殴られたのだろう。

「ユナお姉ちゃん、ミサ様を助けて」

「メーシュンさん、フィナをお願いします」

わたしはフィナの頭を優しく撫でて、ゆっくりと立ち上がる。

怒りで爆発しそうだ。

フィナの殴られた顔を見ただけで沸点に達している。

さらにミサを連れていかれた話を聞いてじっとしていられるわけがない。

「ユナ、どうする気だ」

クリフが尋ねてくる。

わたしはぬいぐるみを拾いながら答える。

「どうするって、決まっているでしょう。ミサを取り返しに行くのよ。どこのどいつか分からないけど。フィナやノアを殴って、ミサが攫われたのに、そんなことを聞いてくるの?」

そんなバカな質問をするって、クリフは馬鹿なのかな。

やばい、頭に血が上っている。

クリフの馬鹿な質問のせいだ。

落ちていたぬいぐるみをフィナに渡す。

「助けるって、どこにいるのか分かるのか?」

グランさんがわたしの肩を強く掴む。

わたしはその手を静かに払いのけて、左右の腕を伸ばす。

「くまゆる! くまきゅう!」

わたしはくまゆるとくまきゅうを召喚する。

大きいくまゆるたちの姿に周りが騒ぐが気にしない。

「2人ともミサの居場所、分かる?」

くまゆるとくまきゅうは周りの匂いを嗅ぐと、『クーン』と鳴く。

わたしはくまゆるに飛び乗る。

「ユナ、待て!」

「なに!」

時間が惜しいのにグランさんが呼び止める。

「ミサを頼む」

わたしは頷くと、塀を飛び越えて、走り出す。

道の真ん中、くまゆるとくまきゅうが走る。

人が騒ぐが知ったことじゃない。

どこのどいつか知らないが、生きて帰れると思うな。

くまゆるたちが案内してくれた先はグランさんとこと同じ大きさのお屋敷だった。

バカ 息子(ランドル) 視点。

パーティーから戻ってきた。いきなり現れた料理人のせいで、なにもかも失敗に終わった。

イラついた。

なんなんだ? 親父も簡単に引き下がりやがって。

親父らしくない。いつもなら、引き下がらずに、相手を 陥(おとしい) れるのに。あんな料理人が出てきたぐらいで、謝りやがって。

いつも通りにすればいいんだ。

言うことを聞かなかったら、無理やりにでも聞かせればいい。

親父はいつも、そうやってきたじゃないか。

賄賂、脅迫、暴力、やる方法はいくらでもある。

この地下にも親父が誘拐した子供たちがいる。ミサーナのクソ爺のパーティーに参加させないために攫ってきた子供たちだ。

親父が脅しても参加を断らなかった者の子供。だから、攫って脅迫をした。

なら、同じようにすればいい。

俺はブラッドを呼んで、ミサーナを攫うように指示を出した。

「父上の指示ですか?」

「俺の命令だ。おまえは俺の言うことを聞いていればいい」

「構いませんが、お金は頂きますよ」

「分かっている。お金ぐらい払ってやる。でも、気付かれずに攫えよ。俺が攫ったと知られると面倒だからな」

それから、ブラッドはミサーナを攫うため、行動に移した。

ブラッドの報告によれば、ミサーナは暢気にモグラ退治を手伝っていたが、冒険者がいたため攫えなかったと言う。モグラ退治とは、呑気なものだ。それも今のうちだけだ。

ブラッドにはチャンスがあれば攫えと言ったが、数日経つが未だに攫えていない。無能なのか、チャンスがないのか。

親父の方も、あれだけの屈辱を受けたのに動きだそうとはしない。

ただ、商人と話している姿は見かける。

子供を預かっている親が来るが、あの料理人が帰るまで保留にしてる。

そんなとき、ブラッドがミサーナを攫ってきたと報告が来た。

ブラッドを迎えると目と口が塞がれているミサーナがいた。

これでファーレングラム家はおしまいだ。

ミサーナに俺の声を聞かれないように隣の部屋に連れていかせる。

「俺が攫ったことは気付かれていないな」

「すぐに目と口を塞ぎましたから大丈夫です」

「ならいい」

俺がどうするかと考えていると親父が血相を変えてやってくる。

「ランドル! 貴様、ミサーナを攫ったって本当か!?」

「ああ、親父がいつもやっていることと同じことをしたまでさ。後はあの爺さんを脅迫して、領主を辞めさせればいい」

「ばかやろう! そんなに簡単に行くわけがないだろう。貴族は商人とは違う。領主の地位を守るために小娘一人くらい見捨てる。俺なら……」

最後は聞き取れなかったが意味は分かった。

俺ならお前を見捨てると。俺だって親父が捕まっても見捨てる。だからと言って、あの馬鹿正直に生きているファーレングラム家が家族を見捨てるとは思えない。

そのとき、玄関辺りから物凄い音が聞こえた。

ユナ視点

くまゆるから降りてゆっくりと歩く。その後ろをくまゆるとくまきゅうが付いてくる。

「なんだ。お前は!」

警備兵がくまゆるたちを見て剣を抜く。

「ミサはどこ?」

静かに冷静に尋ねる。

自分でもこんな声が出るとは思わなかった。

「なにを言っている?」

知らないみたいだね。

邪魔なので、クマパンチで黙らせる。警備兵は体をくの字に曲げて倒れる。

倒れている警備兵の横を通り抜けて門をくぐる。

玄関の前に立つと、挨拶代わりにドアをクマパンチして開ける。ドアは大きな音を立てて吹き飛ぶ。ドアが無くなったおかげで、吹き抜けになる、くまゆるたちも余裕で通れることになった。

それにこの家は潰れるんだ。ドアなんて必要はないだろう。

「くまゆる、くまきゅう」

わたしの言葉にくまゆるとくまきゅうは反応して歩き出す。

くまゆるたちがミサのところに案内をしてくれる。

わたしが歩き出した瞬間。ガマガエルみたいな顔をした男と、ミサに喧嘩を売ってわたしに殴り掛かってきた少年が現れた。

やっぱり、こいつらの屋敷だったんだね。

攫ったミサを自分の屋敷に連れてくるとか、馬鹿なのかな。

「なにごとだ!」

「ミサを返してもらいに来たよ」

「貴様はなんだ。それにその熊は?」

「ミサはどこ?」

「なんのことだ?」

知らないふりをするんだ。

わたしはガマガエル男に軽めの空気弾を撃ち込む。

ガマガエルはお腹を押さえて膝を落とす。あんな軽い魔法で何を苦しんでいるの?

地獄を見るのはこれからでしょう。

「別に居場所を教えてくれなくてもいいよ。勝手に見つけて連れ帰るけど。もっとも見つけたあと、あんたたちがどうなっているか分からないけどね」

ミサが怪我をしていたら、ただでは済ませない。

「な、なにを言っている?」

ガマガエル男は苦しそうにわたしの方を見るが、わたしはガマガエル男の言葉を無視して再度、歩き出す。

くまゆるとくまきゅうを連れて歩き出したとき、階段の上から黒い影が飛び出す。それと同時に、黒い影から火の玉がくまゆるとくまきゅうに向けて放たれる。

でも、くまゆるとくまきゅうは楽々と躱す。

「熊が今のを躱しますか?」

黒いマントをした黒ずくめの男が現れる。

「あなたの格好といい。その熊といい。あなたは何者ですか? わたしが監視していたことに気付いていたみたいでしたし」

いきなり現れた黒服の男は、意味不明なことを言い出す。

なんのこと?

「まさか、あんなに離れて見ていたのに気付かれるとは思いもしませんでしたよ」

この黒いの、何を言っているの?

「そのせいでチャンスが中々ありませんでした。せっかく、今回は子供たちだけになって、攫うことができました。なのに、どうして、こんなに早くこの場所にたどり付けるんですか? あなたは出掛けていて、こんなに早く知られるわけがないんですが」

「ブラッド! 余計なことは言うな!」

「もう、この変な格好したお嬢さんには気付かれてますから、無駄ですよ」

この黒い男がミサを攫ったわけだ。

つまり、フィナとノアを殴ったのは、この黒い男だと。

簡単に犯人が見つかって良かった。しかも、攫ったことに罪悪感を覚えていない。殴っていいよね。

「なにが可笑しいんですか?」

「こんなに簡単に犯人が見つかって嬉しいだけだよ」

「ブラッド。おまえが気付かれずに攫ってこなかったせいだ。責任を持って、この変な女と熊を処分しろ!」

ガマガエルの息子が黒い男に向かって叫ぶ。

「仕方ないですね。本当は別料金を頂きたいところですが、わたしの落ち度ですから、今回はサービスにしておきます」

黒い男はそう言うとわたしに向かって駆け出し、戸惑うこともなく火の玉を放つ。白クマパペットで防ぎ、仕返しに火の玉を放つ。

ブラッドは後方に跳んで躱す。

「魔法を防いで、魔法を打ち返しますか。面白い熊だ。子供と思って甘くみないことにしましょう」

ブラッドは獲物を見つけたように舌舐めずりをする。

気持ち悪い。吐き気がしてくる。

「ブラッド、魔法なぞ使いおって!屋敷を壊すつもりか!」

「魔法なら、こちらのクマの嬢ちゃんも使っていますよ」

「いいから、早くその変な熊をなんとかしろ。騒ぎを外に漏らすな。おまえたちも絶対に逃がすなよ!」

ガマガエル男が叫ぶ。

玄関を見ると数人の警備兵が玄関を塞いでいる。あんなので塞いでいるつもりなのかな。

くまゆるたちを見てビビッているのに。くまゆるたちが近寄っただけで道が開きそうだ。

「本当は広いところで戦いたかったのですが、仕方ありませんね」

男はナイフを構えて襲ってくる。

着ぐるみの能力のおかげで相手の動きがよく見える。

男の移動。ナイフの軌道、全てが見える。

男のナイフを躱し、男の顔に向けてクマパンチを撃ち込む。でも、躱される。

嘘!

男が真正面で笑う。相手の動きがよく見えるため、表情までよく見えてしまう。

その笑みがわたしの怒りを増幅させる。

一発、躱しただけでいい気になるな。

男はナイフを振りかざす。だが、遅い。

白クマさんパペットがナイフを咥える。その瞬間、男の表情が初めて驚きの顔に変わる。男は力を入れてナイフを押し込もうとするが、微動だにしない。

わたしは右手の黒クマパペットに力を込めて殴るが空を切る。

また、躱された!?

男はナイフを離して後方に逃げていた。さらに置き土産に火属性の魔法を放っていく。でも、水魔法で相殺する。いや、わたしの魔法が勝ち、水が炎を飲み込み、水はそのまま後方に下がった男を襲う。

男は濡れるが致命傷になっていない。

「あなたは何者ですか? わたしのナイフは受け止めるわ、13歳ほどの子供なのに力負けまでするわ。さらには魔法まで負けますか」

「別に全力じゃないでしょう」

「ここは狭いですし、威力のある魔法を使うとお屋敷が壊れますからね。でも、わたしよりも遅く魔法を使ったのに力負けしたのは悔しいですね」

「今まで、弱い者としか戦ってこなかっただけじゃないの? 今だって、見た目が弱そうだからわたしと戦っているんでしょう」

「そんなことはないですよ。あなたにはなにかあると思っていましたから、あなたが居ないときに襲わせてもらったんですよ」

その言葉で怒りを思い出す。

「倒す前に、わたしからも良いかな。どうして、ミサと一緒にいた2人にも攻撃をしたかな? あなたほどの腕があれば2人に攻撃をする必要は無かったでしょう」

「ああ、あの一緒にいた2人ですか。勇敢な少女たちでしたね。ターゲットの少女を捕まえて逃げようとしたら、いきなり、服を掴んでくるのですから。少し手荒な真似をしてしまいました。一生懸命にわたしの服を掴み、離そうとしませんでしたからね」

「もう、いいよ。分かったから」

聞いたわたしが馬鹿だった。

ムカついただけだった。

でも、フィナ、ノアの勇敢な姿は思い浮かぶ。友達を助けようとした2人。見捨てるよりは良い。でも、危険なことは二度としてほしくない。

さっさと、全員 打(ぶ) ち倒して、ミサを取り戻す。そして、2人のところに連れ帰る。それだけだ。

わたしは黒クマパペットに力を込める。

魔法で倒すのは簡単だ。でも、それでは気が収まらない。フィナとノアのために顔を殴る。百倍返しだ。

わたしは奪い取ったナイフを男に向けて投げる。それと同時に床を蹴る。

ナイフの速度は速い。男は咄嗟に避けるが、避ける先にはわたしがいる。男は反応するがわたしの方が速い。わたしの力がこもった黒クマパペットが男の顔を襲う。

そのまま、腕を振り落とす。

男は床に叩き付けられる。二、三度、バウンドして倒れる。

顔は変形し、鼻、口から血が流れている。鼻、歯は間違いなく折れているだろう。

男はピクピクと痙攣をして、立ち上がる様子はない。

「ブラッド!」

ガマガエルの息子は叫び。ガマガエルは信じられないように倒れている男とわたしを見ている。

「おまえたち、何をしている。その変な熊をなんとかしろ!」

警備兵に向かって叫ぶ。とっさに剣を構える者。魔法を唱える者。

でも、わたしは風魔法を使って警備兵を全て吹き飛ばす。

「なんなんだ。おまえは」

「ミサの友人だよ。貴族同士の争いに何かを言うつもりは無いけど。子供のミサに手を出せば別」

「俺は知らん。息子が勝手にやったことだ」

その息子はいない。警備兵に攻撃をした瞬間に逃げたみたいだ。探知魔法を使って逃げ出そうとしている人物を捜そうとしたら、自分から戻ってきた。

しかも、ミサを連れて。

「おい、その熊! 抵抗すれば、ミサーナの…」

バカ息子が何かを言う前に、空気弾を顔に撃ち込む。そして、距離を縮めて、バカ息子に掴まれたミサを引き寄せて、再度、バカ息子の顔にクマパンチを叩き込む。

先ほどの男同様、鼻、口から血を流しながら倒れる。

わたしは助け出したミサを見る。口と目が布で塞がれている。

目と口が塞がれていた布を取ってあげると、ミサは涙を浮かべていた。

「もう、大丈夫だよ」

安心させるために、優しく微笑んであげる。

「ユ、ユナお姉ちゃん」

ミサが涙を浮かべて、泣き始める。

わたしはミサを優しく抱きしめてあげる。

そして、バカ息子の親を冷めた目で睨みつける。

「俺は知らん。息子が勝手にやったことだ」

「だから、自分は関係ないと?」

「そうだ。それに、貴族の俺にこんなことをしてただで済むと思っているのか? 犯罪だぞ。それに俺は被害者だ」

ああ、息子がバカなら、親もバカだ。

口から出る言葉に一切、謝罪が無い。

殴って、静かにしてもらおう。

我慢の限界が来て、殴って黙らせようとしたとき、

「ユナちゃん、ちょっと待って!」

こちらにやってくるエレローラさんの姿が見えた。