軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

178 クマさん、ゼレフさんとシーリンに向けて出発する

ゼレフさんが用意する食材をクマボックスに仕舞っていく。

かなりの量になっているが、シーリンの街に行ってから足りないと騒ぐよりはいい。

それに量が増えたからといって重たくなるわけでもない。

「最後に酒倉にいいですか。パーティーには必要だと思いますから」

お酒か。確かにパーティーには必要なのかな? わたしは貴族のパーティーは物語の中でしかしらない。確かに思い出してみると、グラスにワインを入れて飲んでいるイメージがある。

酒倉に行くとゼレフさんが指定するお酒をクマボックスに仕舞っていく。

う~ん、お酒は飲まないから、見ても良し悪しが分からない。

飲んでも、良し悪しは分からないけどね。

「これで、終わり?」

指定された最後のお酒を仕舞って終了だ。

「あとは、わたしのキッチンに戻って調味料を持っていきます」

キッチンに戻り、調味料を仕舞っていくゼレフさん。

いろんな調味料があるんだね。この中にわたしが欲しい調味料があるかもしれない。

今度、来たときに見せてもらうのもいいかもしれない。

「ユナ殿、準備が終わりました」

「それじゃ、今すぐにでも出発したいけどいいかな?」

間に合うと思うけど、少しでも早い方が良い。

フィナたちのことも気になるし。

「はい。いつでも構いませんよ」

「忘れ物は無いよね。取りに戻ってこられないよ」

「大丈夫です。いや、待ってください」

そう言うとキッチンの奥に小走りで向かう。

「包丁を忘れていました。向こうの包丁を使ってもいいのですが、やっぱり使いなれている包丁が一番ですから」

これで忘れ物はないようだ。

ただ、ゼレフさんは料理人の服装のままだ。このまま、出発するわけにもいかなかったので、着替えることを勧める。

「別にこのままでも」

「さすがに目立つでしょう」

「ユナ殿の格好に比べれば、目立たないかと」

ゼレフさんがわたしの格好を見て言う。

それはわたしも分かってるよ。歩けばいろんな視線を浴びている。

ただ、ゼレフさんの場合はシーリンの街に着いたときに、サルバード家にわたしが料理人を連れてきたことを知られたくない。もしかすると、ゼレフさんも襲われる恐れもある。

「でも、この格好は落ち着くんですよ」

ゼレフさんは自分の服を指で掴む。

確かにいつも着ている服装は落ち着くものがある。その気持ちはわたしにも分かる。

クマの着ぐるみを脱げと言われたら落ち着かなくなる。

でも、そのままの格好では襲われる恐れがあるので、料理人の服装が見えないように大きめのマントを羽織ってもらうことにする。

準備も終わり、城を出ようとすると王都の外に出るまで馬車が用意されているという。準備をしてくれたのはエレローラさんとのこと。

こういう細かいところに気が回るエレローラさんは凄い。お城から王都の外に出るには歩きだと時間が掛かるし、乗り合いの馬車だと目立つ。主にわたしのせいで。

エレローラさんに感謝して、馬車で門まで向かう。時間を短縮できたことに感謝する。

そして、王都の外に出るとくまゆるとくまきゅうを召喚する。

「おお、手から出てきた!」

ゼレフさんが感動している。

「しかも、大きい」

ゼレフさんは小熊化したクマしか見たことが無かったっけ?

「それでユナ殿、どちらに乗せてもらえるのですか?」

くまゆるとくまきゅうを交互に見る。

「ゼレフさん、怖がらないんだね」

「小さなクマたちは見させてもらってますし、なによりもフローラ姫と一緒に楽しそうな姿を拝見していますから。怖さはそれほどはないです」

「でも、あれは小さかったけど。こっちは大きいよ」

「確かにそうですが。顔の表情とかは同じですし、怖くはないですよ」

そう言ってもらえると嬉しい。

怖がりながら乗られても、くまゆるたちが可哀想だからね。

「それじゃ、ゼレフさんはくまきゅうに乗ってもらえますか?」

「確か、くまきゅう殿は白い方でしたな」

ゼレフさんはくまきゅうの正面に立つ。

「くまきゅう殿、重いかもしれませんが、お願いします」

ゼレフさんはくまきゅうに頭を下げて挨拶をする。それに対して、くまきゅうは頷き、くるっと半回転して腰を落として、ゼレフさんが乗りやすいようにしてくれる。

「くまきゅう殿、ありがとうございます」

そう言って、小太りなゼレフさんはくまきゅうに乗る。ゼレフさんが乗るのを確認するとくまきゅうはゆっくりと立ち上がる。

重さを感じさせないほど簡単に立ち上がる。

まあ、ゼレフさんが多少太っていても、くまきゅうにとってはそれほどの重さじゃないだろう。

わたしもくまゆるに飛び乗る。

「それじゃ、出発しますね。初めはゆっくりと行きますが、徐々に速度を上げていきますよ」

わたしたちはシーリンの街に向けて出発する。

「馬よりも快適ですね」

「ゼレフさん、馬に乗れるの?」

言っては悪いが、馬に乗れるようには見えない。

「基本、乗りはしませんが。有事の際には、必要になる可能性がありますので、最低限乗ることは義務付けられているため乗れますよ。上手ではありませんが……」

最後の一言は小さく言うが、わたしにはちゃんと聴こえている。

有事って、ゼレフさんが料理人として、出兵することを言っているのかな?

「まあ、もっとも、馬に乗る機会は今後もありそうもないですが」

確かにそんな戦いが近々起きるという話は聞いたことがない。

あるとすれば遠くにいる魔物を討伐するために出兵するとか?

今の国王がそんなことするようには見えないし。本当に有事のときのために練習をしたのかな。

ゼレフさんが慣れてきたところで、速度を上げてシーリンの街に急ぐ。

数時間後、一度休憩を入れて、くまゆるとくまきゅうを乗り換える。

「そうだ。ゼレフさん、今度はくまゆるに乗ってください」

ゼレフさんがくまきゅうに近付いて乗ろうとした瞬間、くまきゅうが悲しそうな顔をしたのが見えた。決してゼレフさんを嫌がっているのではない。

ただ、わたしを乗せたいと思っているのだ。

「くまゆる殿ですか? 構いませんが、どうしてですか?」

「わたしが、片方の子だけ乗り続けたりかまったりすると、もう片方の子がいじけちゃうんですよ」

くまゆるとくまきゅうのことを説明する。

「なるほど、それなら今度はくまゆる殿に乗ればいいのですね」

ゼレフさんは直ぐに理解してくれて、くまゆるに近付くとくまきゅう同様に挨拶をする。

「くまゆる殿、よろしくお願いします」

わたしがくまきゅうに近付くと嬉しそうに近寄ってくる。

頭を撫でてあげてからくまきゅうに乗り、出発をする。

魔物との遭遇も無く、順調に進む。魔物が現れたとしても、下級魔物程度ではくまゆるたちに追い付けない。

ワイバーンやドラゴンが出てくれば逃げることもできないと思うけど。王都の近くにそんな魔物が現れることも無く、くまゆるたちは進んでいく。

長時間の移動のためか、ゼレフさんはくまゆるに乗りながら船を漕ぎ始める。

なんとも神経の太い人だ。まあ、落ちないからいいんだけど。馬でやったら危険なことだ。

くまきゅうに乗り換えて、数時間経つと、陽が沈み、暗くなってくる。

くまゆるたちなら、強行軍も可能だけど。無理をするようなことじゃない。

2日後がパーティーだから、明日の昼頃に到着して、下準備に取り掛かれば間に合うそうだ。

ゼレフさんに声を掛けて、この辺りで夜営することを伝える。

ゼレフさんはくまゆるから降りて、撫でてお礼を言っている。

「くまゆる殿、ありがとうございました」

それに対してくまゆるは鳴くことで返事を返す。

わたしはクマボックスから薪をだして火を起こし、その周りに椅子を2つ作る。

さすがにクマハウスのことは知られたくないので、今回は使用は控える。

「それじゃ、すぐに食事の準備をしますね」

「それなら、自分が……」

ゼレフさんが申し出てくれるが調理することはない。

わたしはモリンさんが作ったパンとアンズが作ったスープを出す。

「自分の出番がありませんね」

「ゼレフさんには街についたら頑張ってもらうよ」

「期待にそえるように頑張ります」

パンとスープを受け取ったゼレフさんは美味しそうに食べる。

「このパンとスープはユナ殿が?」

「違うよ。クリモニアにあるお店で販売しているパンとスープだよ」

「どちらも、美味しく素晴らしいです」

「王宮の料理長が褒めていたって、伝えておくよ」

わたしが冗談っぽく言うと。

「別にお世辞とかじゃありませんよ。本当に美味しいですよ。基本がしっかりしています。だから、こんなに美味しくなるんですよ」

ゼレフさんはパンを食べ、スープを飲む。

「今度はクリモニアにも行ってみたいですな」

「わたしの街じゃないけど。いつでも歓迎するよ」

「そのときはよろしく、お願いします」

食事も終えて食後の休憩をしている。

とくにやることも無いので、くまゆるとくまきゅうのブラッシングをしてあげる。

その様子を見ていたゼレフさんが話しかけてくる。

「それにしてもくまゆる殿もくまきゅう殿も速いですな。肌触りも良いし、自分が乗っても速度が落ちない」

ゼレフさんは笑いながら膨らんでいる自分のお腹を擦る。

「ゼレフさんは食べ過ぎなんじゃない?」

料理人はよく味見などをするから、太るという話を聞く。

「それを言われると耳が痛いです。でも、部下が作った料理を食べるのも料理長としての役目ですからね。どこが悪いのか指摘しないといけませんからね」

「しっかり、教えているんだ。見て覚えろっていうんじゃないんだ」

「確かに、そのように教える料理人もいますが、わたしは甘いのか駄目ですね。それに王宮の料理人になる者は基本ができてますから、一度教えればある程度のものは覚えますから優秀ですよ」

それはそうか。王宮で料理をする者たちだ。新人でもそれなりに技術がないとなれないのかな。

「ユナ殿はどこで料理を教わったのですか?」

答えづらい質問だ。

人からは教わっていない。ほとんどが、独学でネットや本で仕入れた知識だ。だから、教わった人物はいない。だからと言って、そんなことは言えるはずもない。

「すみません。答えられないようだったらいいです。ただ、ユナ殿が作る料理は不思議な物が多かったので……」

わたしが黙っていたことを気にしたのか、ゼレフさんが頭を下げて謝る。

「違うよ。料理は誰にも教わっていないから、どう答えようかと思っていただけ」

「それではあの料理の数々はユナ殿が考えたのですか?」

わたしは首を横に振る。

「わたしの故郷の料理だから、知っていただけだよ」

「ユナ殿の故郷ですか?」

「うん、だから、わたしが考えたわけじゃないよ」

「そうだったんですか。世界は広いですな」

うん、広いと思うよ。異世界があるなんて思ってもいなかったよ。本当に世界は広い。

「いつかは、ユナ殿の国に行ってみたいですな」

わたしはそのゼレフさんの何気ない一言に返答はできなかった。

ただ、沈黙が流れていった。

ゼレフさんは何かを感じとったのか、それ以上はなにも聞いてこない。

「そろそろ、寝ようか?」

「そうですな。でも、見張りはどうしましょう。自慢ではありませんが、自分は夜は弱いです」

確かに自慢することじゃないね。

「大丈夫だよ。くまゆるとくまきゅうがいるから、危険なことがあればすぐに教えてくれるよ」

わたしの側にいるくまゆるとくまきゅうを見る。

「おお、そうですか。ユナ殿の召喚獣は凄いですな」

「だから、安心して寝ていいよ。ちなみにわたしを襲ったらくまゆるたちが襲うからね」

笑顔で忠告しておく。

「それは怖いですな。でも、大丈夫です。わたしは死にたくありませんから、そんなことはしませんよ」

ゼレフさんは笑いながら毛布にくるまると横になる。

わたしはくまゆるとくまきゅうに挟まれながら眠りに落ちていく。