軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

160 クマさん、王都にお店を出す?

走る速度は遅いが、息を切らせて料理長のゼレフさんが庭園にやってきた。その後ろから歩いてくるアンジュさんの姿もある。しかも、移動速度が同じ現象が起きている。マンガやアニメだとよくあるけど、走っている人と歩いている人の速度が同じって、初めて見たよ。あれなら、歩いてもいいんじゃないかな?

「ゼレフ、どうしたんだ?」

庭園に現れたゼレフさんに国王が尋ねる。

「国王様、それに王妃様も、いらっしゃったのですか?」

「まあな、仕事の息抜きにな」

それも毎回ね。しかも、この人、仕事を放り出してきているんだよ。

いつも、思うけど。注意する人いないのかな。この手の世界だと、宰相みたいなお爺ちゃんとか。国王の隣に立って、お小言を言う人。そして、国王の行動に、いつも胃を痛めて、胃薬を飲んで苦労している人がいそうなんだけど。

まあ、そんな人がいればここまでやってきているよね。

「それでどうしたんだ。お前さんが走るところなんて初めて見たぞ」

あれは走ったと言うのだろうか。歩くアンジュさんと同じ速度だったけど。

そのアンジュさんは王妃様とフローラ様のところに移動してお世話をしている。

「お恥ずかしいところをお見せしました。先ほど、ユナ殿に頂いた物が気になって、来てしまいました」

頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。

「確かに旨かったな」

「はい。それで、その正体が知りたくて年甲斐もなく走ってしまいました」

年甲斐って、見た感じ30代ってところだろう。それに走るのは年齢は関係ないと思う。逆に運動して、そのお腹を引っ込めた方がいいと思うよ。

ゼレフさんはそんなことは気にせずにわたしの方を見る。

「ユナ殿。お久しぶりです。それと、いつもありがとうございます」

「ゼレフさん、お久しぶり。あとゴメンね。いつもフローラ様たちのお昼とか準備しているところを邪魔しちゃって」

「確かに初めの頃は、そう思ったことはありましたけど、今はユナ殿の料理を楽しみにしている一人でもあります。ユナ殿の料理は料理人として、刺激を受けます。料理には無限の広がりがあることに気付かせてくれますから」

そんな、大袈裟な。

でも、異世界の料理だと、そんなことになっちゃうのかな?

「それで、ユナ殿。先ほど頂いた、あの食べ物はなんなのですか!?」

ゼレフさんがわたしに目の前にやってきて問い詰める。

クマさんの服の耐熱効果のおかげで暑くないはずなのに、暑苦しさを感じるから、そんなに近寄らないでほしい。

わたしは椅子を少し引いて答える。

「ケーキだよ。こないだ食べたと思うけど。ホットケーキの上位版の食べ物かな?」

このセリフも何回目かな?

それ以外に説明がしようがないから仕方ないけど。

「いえ、そこは分かりますが、あの甘く白い物はなんですか?」

「ああ、生クリームね」

「生クリームですか。とても美味しかったです」

「まだ、試作段階だから、調整中だけどね。生クリームに、いろいろ混ぜればいろんな味もできるよ」

ブルーベリーとか、イチゴのムースを作るのも良いかもしれない。今度作ってみようかな。

本当はチョコムース作りたいんだけどね。さすがにカカオがあったとしてもチョコレートは作ることはできない。どこかの地域で売っていないかな。

そうすればお菓子の幅も広がるんだけど。チョコとジュースを食べながらゲームをやっていたときが懐かしい。

「それで、ケーキはどうだった? 甘くなかった?」

「いえ、そんなことはありません。とても、美味しくいただきました」

「まだ、あるけど。食べる?」

テーブルの上には無いけど、クマボックスの中にはまだホールケーキが入っている。

「頂けるのであればぜひ頂きたいですが。ここに来たのは他の理由がありまして」

ゼレフさんは言いにくそうにする。

「なに?」

「その、作り方を教えてもらえることは可能でしょうか? もちろん、他言はしません。料理人として、この不思議な感触と味の正体が知りたいんです。もちろん、料理人(ユナ殿)が苦労して考えた製法です。レシピを聞くのは料理人として恥ずかしい行為であり、他人に教えるものでないことも分かっています。ですが……」

ケーキ作りには少しは苦労したけど、作り方はわたしが考えたわけじゃない。元からある製法を思い出しながら作っただけだ。混ぜる物は覚えていても分量を覚えていなかったため、少し苦労したぐらいだ。

「ゼレフ、ユナに調理方法は聞かないと約束をしたはずだぞ」

「はい。ですが、料理人として、作り方の想像ができない食べ物はどうしても知りたいと、わたしの料理人としての魂が訴えてまして……」

「すでにユナからは、プリンやピザなどのパンの作り方も教わっているだろう」

「はい、申し訳ありません……」

ゼレフさんは国王に叱られて項垂れて声が小さくなる。

国王が言った通り、すでにゼレフさんにはいくつかレシピを教えているが、管理がしっかりしているため、洩れた話は聞かない。だから、個人的にはゼレフさんに教えることは問題がないと思っている。

「教えても、いいよ」

「いいのですか!?」

わたしの言葉に喜ぶゼレフさん。

「うん、いいよ。でも、糖分が多いから作りすぎには注意してね。エレローラさんはいいけど。太ったフローラ様は見たくないから」

「ユナちゃん……」

エレローラさんがわたしを見るが気にしないでおく。

「もちろんです。王族の皆様の体調管理や栄養管理もわたしの仕事です。フローラ姫が食べたいとおっしゃっても、お作りしないことを誓います」

「わたし、いわないよ~」

フローラ様が口を尖らせながら言う。

可愛いね。

「ユナ、本当にいいのか? 毎回思うが、レシピは料理人にとって、大事なものなんだろう? そんな大事な物を他言しないと約束したとはいえ」

確かにどの世界でも料理人にとってレシピは大事かもしれない。人によっては命より大事と言う人もいるかもしれない。とくに代々引き継がれる家の秘伝の味ならそうなのかもしれない。

でも、わたしが手に入れた調理方法は普通に料理本やテレビ、ネットで公開されている基本料理だ。べつにわたしが生み出したわけじゃない。

それに、わたしは料理人でもないし、この世界で料理人として生きるつもりもない。だから、レシピが大事かと問われれば、大事ではないと答える。

でも、それがクリモニアのお店に被害がでるようだったら大切と答える。あそこには一生懸命に働いているわたしの仲間がいるからね。

だから、クリモニア以外で作られるだけなら、なにも問題はない。

もし、王都でケーキのお店が作られてもクリモニアの人が遠くの王都まで食べに行くことはないだろうし。味で負けるつもりはない。

「フローラ様に喜んでもらえれば、それでいいよ」

「おまえ、孤児院のこともそうだが、子供にあまいな」

子供にあまいって言うか、純粋な人が好きなのかもしれない。

日本に居たときは、親は文句しか言わないし、学校は妬み、嫉妬、虐めが多かった。

だから、異世界の純粋な心を持っている子供が好きなのかもしれない。日本じゃ、子供の間でも陰険な虐めもある。

それを考えると孤児院の子供たちは真面目で純粋で良い子たちだ。もし、乱暴で盗みをするような子たちだったら見捨てた可能性もある。良い子には幸せになってほしいからね。

もっとも、大人になったらエレローラさんやミレーヌさんみたいになる可能性もあるけど。モリンさんやティルミナさんみたいな大人になってくれると嬉しい。

「ねえ、ユナちゃん。それなら、王都にもお店をださない? わたしいろいろと力を貸すよ。立地とか、建物、食材確保、価格の交渉とかするよ」

「それはいい考えだな」

エレローラさんの言葉に国王も賛同する。

考えたことはあるけど、わたしにとっては王都にお店を出すメリットがない。

クリモニアにお店を作った理由は。

1、いつでも食べたいときに食べられるため。

2、孤児院の子供たちに仕事を与えるため。

3、最後にお金かな。使い道が無いけど。

1、2はともかく、3は必要が無いかもしれない。日本から持ってきたお金。魔物を倒したことで得たお金。それから、トンネルの通行料で得るお金。

十分なお金はあるはず。お店の売上やトンネルの通行料がどれだけ増えているか知らないけど。

だから、王都でお店を出す必要はない。

そして、王都にお店をだすメリットはある?

1、わたしが経営? 面倒。

2、教育、面倒。

3、いろいろと面倒。

4、なによりも、クマの着ぐるみを着た女の子の指示を聞くとは思えない。

「プリンもあるし、それ以外にも王都にあるお菓子と一緒に売れば、王都で一番人気なお店になるのも夢じゃないわよ」

「他に食べた料理も美味しかったからな」

「王都一のお店に興味はないし、面倒だから王都でお店を作るつもりはないよ」

クリモニアのお店を出すのも面倒なのに、ティルミナさんやミレーヌさんがいない王都でお店を作ることを考えただけで、無理だ。

それと先ほどのデメリットの件も説明する。

「王都にお店ができればいつでも食べることができると思ったのに」

「ゼレフさんに頼めばいいんじゃ」

「食べたいときに食べるのがいいのよ。ゼレフが忙しいときは、作ってもらえないでしょう?」

わたしと同じ考えだ。

「なんなら、エレローラさんがお店を出したらいいよ」

「わたしが?」

「レシピは教えるし、エレローラさんがお店を作ればいいよ」

我ながらいい考えだ。

いつでも食べたいとおもうなら、その苦労もしないとダメだよね。

わたしだって苦労してお店を作ったんだから。

「なら、王国直営のお店として出したらどうだ」

国王がとんでもないことを言い出した。

「……?」

「経営、教育、人材、漏洩の問題があるだろう。なら、国で経営をすればいい。国が経営するお店からレシピを盗む者は居ないだろうし、人材をしっかり選べば漏洩もないだろう。経営は捜せば何人かいるだろうし。料理人の教育はレシピを知っているゼレフにやらせればいい」

「自分ですか?」

「おまえが一番ユナのレシピを知っているだろう」

「でも、わたしは料理長の立場があります」

「時間ぐらいあるだろう。おまえを料理長の地位から外さないから安心しろ。でも、おまえにはお店の料理責任者にはなってもらう」

「いいわね。それなら、いつでも食べることができるわね」

「食べ過ぎて太るなよ」

「そんなに食べないわよ」

全部やってくれるなら、わたしはなにも問題はない。

お城が経営するなら国王の言う通り、漏洩の怖れも少ないだろうし。王都で営業するのなら、クリモニアのお店にも影響はない。

「そうなると、人材の確保ね」

「それはエレローラとゼレフに任せる。俺は財源の確保だな」

「そうなると、あとは立地と材料ね」

「最後に、ユナの利益の配分も決めないといけないな」

「わたしの?」

「あたりまえだろう。おまえさんの料理を販売するんだからな」

「そうよ。当然の権利よ」

「一応、国が経営することにするが、おまえさんは利益の一部を貰う権利はある」

まあ、貰えるものはもらっておくけど、お金がどんどん増えていく。

そして、さすが国王とエレローラさん、料理長の3人で話がどんどん進んでいく。

「ふふ、楽しみね」

「自分も楽しみです」

「王都の名物になるかもな」

3人は楽しそうにしている。

このとき、わたしは全て任せたことを後悔することになるとは思わなかった。

一度でもお店を見に来ていれば、あんな外観にさせなかったのに。