軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123 クマさん、蚕を見て後悔する

黒虎(ブラックタイガー) が倒れた。

手加減をしたとはいえ、魔法察知能力が高かったため、倒すのに苦労した。

でも、これで黒い虎の毛皮をゲットできたので、帰ったらフィナに解体をお願いしよう。

「ユナさん、倒したんですか?」

シアが木の後ろから恐る恐る出てくる。

「終わったよ。ちょっと時間がかかったけど」

「信じられませんわ。あの 黒虎(ブラックタイガー) を1人で倒すなんて」

シアに続いてカトレアたちも出てくる。

4人はわたしのところにやってくると、地面に倒れている 黒虎(ブラックタイガー) に近寄る。シア以外の3人は信じられないように 黒虎(ブラックタイガー) を見ている。その4人の後ろからくまゆるとくまきゅうがやってくる。

「くまゆるたちもありがとうね」

近寄ってくるくまゆるとくまきゅうの首筋を優しく撫でてあげる。

ウルフはくまゆるが近くにいたためか、4人には近寄ってこなかった。

探知魔法を使ってウルフの状況を確認すると、 黒虎(ブラックタイガー) が倒されたためなのか、森全体に逃げている。

これは、わたしたちの仕事じゃないね。

「…………」

マリクスがなにか言いたそうにわたしのところに近づいてくる。

「なに?」

「た、助かった。ありがとう」

マリクスが言葉を詰まらせたように礼を述べる。

「そうですわね。ユナさん、ありがとうございました。おかげで助かりましたわ」

「ユナさん、ありがとうございました」

「その、ありがとう」

女子2人がお礼を述べ、最後にティモルもお礼を述べてくれる。

「気にしないでいいよ。あなたたちを護るのがわたしの仕事だから」

マリクスはまだ、なにか言いたそうにしたが口を閉じた。

やっぱり、冒険者と思っていなかったわたしに助けられて複雑な気分なんだろうね。

でも、これで1つ勉強になったはず。 人(クマ) は見た目で判断しちゃ駄目と。

4人は倒された 黒虎(ブラックタイガー) を触ったりしている。でも、いつまでもここにいても仕方ないので、皆に村に帰る提案をする。

「こんな状況だから、村に帰るってことでいいよね?」

反対するものは誰もいなかった。

黒虎(ブラックタイガー) をクマボックスに仕舞い、帰る準備をする。帰る準備と言っても 黒虎(ブラックタイガー) が無惨に殺したゴブリンの後始末ぐらいだ。一応、ゴブリン討伐の証明として魔石の剥ぎ取りだけは忘れない。

「それじゃ、みんなは先に村に戻っていて」

「ユナさんは戻らないんですか?」

「ちょっと、調べたいことがあるから」

「調べたいことですか?」

「村長が蚕の心配してたから、ちょっと様子を見てくるよ。護衛にはくまゆるを付けるから安心していいよ」

わたしはくまゆるに近付いてお願いをする。

「くまゆる、4人を村までお願いね」

くまゆるはクーンと返事をしてくれる。

「あと、村に近づいたら小さくなってね。村人を驚かせちゃダメだからね」

わたしの言葉に再度鳴いてくれる。

「それじゃ、くまゆるがいるから大丈夫だと思うけど、気をつけて帰るんだよ」

わたしはくまきゅうに乗って移動をする。

向かった先は村長に聞いた蚕がいる場所。

くまきゅうを走らせて森の中を駆けていく。

この辺りだったはず。ゆっくりと歩いて目的の場所を探す。

でも、この世界の蚕って魔物だったんだね。探知魔法にしっかり反応している。それならゴブリンを食用にするって話も分かるかな。

そして、蚕の巣に来て後悔する。

1メートル以上の蚕がウニョウニョと動き回っている。

気持ち悪い。

ゲームでもそうだったけど、昆虫型の魔物は気持ち悪い。

まして、都会育ちの引きこもりのわたしが昆虫との接点があるわけもなく、苦手意識は倍増だ。

その小さな虫が人間サイズで動いているんだ。顔がリアルに造られるとトラウマものだ。

ゲーム時代、ゲーム会社がシークレットイベントを行なって、開始30分で中止になったイベントがあった。

そのイベントはゴキブリを退治しよう。人サイズのゴキブリを退治するイベントだった。

イベント開始と同時に阿鼻叫喚が周りから起こった。わたしもゴキブリを目にして、すぐにログアウトしたが、数日間恐怖にうなされた嫌な思い出がある。

人間サイズのゴキブリが地面を這っている姿は恐怖以外の何ものでもない。

イベントもすぐに中止となり、謝罪のアイテムが送られてきたほどだ。

よくスタッフもあんなにリアルに作ったと、一部のゲーマーからは称賛されていたけど。あれだけはリアルに作っちゃいけないものだ。顔が怖かった。

さすがに蚕はゴキブリと違ってうなされることはないけど。大きさが、やっぱり生理的に受け付けない。

そんなこともあり、虫には苦手意識がある。

この世界の蚕は村長の話だと、動物や魔物を呼び寄せる匂いを放つってことだけど。

それを示すように、呼び寄せられたゴブリンやウルフがクモの糸のように絡まって動けなくなっている姿がある。

これじゃ、蚕なのかクモなのか他の魔物なのか分からない。

この捕まっているゴブリンは森の反対側にいるって言うゴブリンだよね。

やっぱり、ゴブリンの巣が 黒虎(ブラックタイガー) に襲われたってことなのかな。それでこっちまでゴブリンが逃げてきて、それを追いかけてきた 黒虎(ブラックタイガー) にわたしたちが鉢合わせした感じになるのかな。

ゴブリンの巣に行けば分かるだろうけど、面倒なので行かない。村が知りたければ調べるだろうし、そこまでする義理はない。わたしは蚕の周辺をもう少し調べてから帰ることにする。

周りを見渡すが被害はない。襲われた様子もない。 黒虎(ブラックタイガー) はここには来なかったみたい。まあ、来たとしても虫を食べるとは思えないけど。とりあえず、蚕には被害はない。村人も安心だろう。

蚕があれば必然的に繭もある。その繭の色がおかしなことになっている。

確か桑の葉に含まれているなんたら成分のせいで黄色に変わるって聞いたことがある。

蚕の種類によって異なるが、繭の色は基本、白と黄色が多い。でも、ここにある繭は緑や赤も存在している。

この繭、貰っちゃ駄目だよね。

一色ずつ欲しいかも。

まあ、貰っても自分で服を作ったりはできないから、自分では活用できないんだけど。孤児院の子供たちのお土産になるかもしれない。

でも、お土産にするなら糸の方がいいよね。繭の状態で貰っても困るだろうし。

そう思い、繭を持って(盗んで)帰ることは止める。

村に帰ってくると、入り口にシアたち4人と村長と村人が数名いる。

シアの腕の中にはくまゆるが納まっている。ちゃんとみんなを送ってくれたみたいだね。

「ただいま」

「ユナさん。大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。くまきゅうもいたし。それで、みんなはどうしてこんなところにいるの?」

シアが駆け寄ってきたのでくまゆるを受け取り、撫でてあげる。

「ユナさんを待っていたんです」

「わたしを?」

「あのう、ユナさんでしたかな?」

村長がわたしたちの会話に入ってくる。

「この子たちが言いますには、 黒虎(ブラックタイガー) が現れ、ユナさんが倒したとお聞きしたのですが、本当でしょうか?」

「ユナさん。村長さん、信じてくれないんですよ」

シアが少し口をとんがらせながら言う。

「まあ、信じませんわよね」

「僕も信じないと思う」

「誰も信じないと思うぞ」

でも、他の3人は村長の気持ちに肯定的だ。

実際に見たとしても、それが非現実的なら、信じるのも難しい。

「だから、証拠を見せてあげてほしいんです」

そういうことね。

わたしはクマボックスから 黒虎(ブラックタイガー) を取り出す。

黒虎(ブラックタイガー) を見た村長と村人は驚きの声をあげる。

「これを本当にあなたが倒したんですか?」

信じられないようにわたしと 黒虎(ブラックタイガー) を交互に見る。

「一応ね。あと蚕の様子を見てきたけど、被害はなかったよ」

「見に行ってくれたのですか?」

「村長が心配そうにしていたからね」

「ありがとうございます」

「あと、森の中はウルフがいるから気をつけてね。今度はちゃんと冒険者に依頼を出すことをオススメするよ」

「はい、そうさせてもらいます。今回は申し訳ありませんでした」

頭を下げる村長。

その日の夕食は感謝の気持ちもあって豪華な料理が振舞わられた。と、言ってもモリンさんの食事にはかなわないけど。十分に美味しい料理だった。

食事のときに、村長からお礼の話になったとき、全員がわたしの方を見る。

わたしが決めていいの?

いいらしいので、糸、繭からできた布、もしくは繭を頼んだ。もし、無理なら購入したいことも伝える。

村長は明日までには用意してくれると言った。

食事も終わり夜も更け、男女がそれぞれの部屋に戻る。

「美味しかったですわ」

お腹を擦りながらカトレアがベッドに座る。

部屋にはベッドが3つ並んでいる。

わたしは中央のベッドの上で座り、本日の疲れを癒すために、甘いものを補充することにする。クマボックスからプリンを取り出して、1人で食べ始める。

疲れているときは甘いものだね。

それを見ていたカトレアが驚いたようにわたしを見る。

「ユ、ユナさん。そ、それは……もしかして……」

「プリンだけど。知っているの?」

もしかして、クリモニアで食べたことがあるのかな?

スプーンですくい、一度カトレアに見せてから口に運ぶ。

やっぱり、プリンは美味しいね。

「知っているもなにも、国王誕生祭の晩餐会に出された伝説の料理…」

ああ、国王の晩餐会のときか。

それ以前になに? その伝説の料理って? ただのプリンだよ。

でも、カトレアの言葉でノアの言葉が思い出される。

晩餐会で出たプリンで会場が騒ぎになったとか。そんなことすっかり忘れていたよ。

「カトレア、あの晩餐会に参加したの?」

「はい、参加させていただきました。そのときに食べさせてもらいました。そのときの感動は今でも忘れてません」

プリンの味を思い出したかのように目がとろけている。

大袈裟な。ただのプリンだよ。

「そのプリンって、ユナさんが作ったんですよね」

反対側のベッドに座っているシアが会話に参戦する。

「そ、そうなんですか!? 伝説のプリンを作ったのはユナさんなんですか!」

「伝説かなにかは知らないけど、晩餐会のプリンを作ったのはわたしだけど……」

「それじゃ、晩餐会の謎の料理人はユナさんってことですか?」

さっきから、伝説とか謎とか、プリンにどんなことが言われているのよ。

あれから、それなりに時間も過ぎているのに。

「シアさんはご存じでしたの? どなたが作ったのか、国王陛下はどなたが伺っても教えてくださいませんでしたのに」

「わたしは晩餐会の前にユナさんからご馳走になっていましたから」

「そうなのですか!? 羨ましいですわ」

カトレアの目はわたしの持っているプリンに向かっている。

シアの方を見ればシアの視線もプリンに向いている。

「えーと、2人も食べる?」

1人で食べていると居心地が悪いので2人にプリンを出してあげる。

「いいですの?」

「ユナさん。ありがとう」

2人は嬉しそうにプリンを受け取ってくれる。

「ああ、この味ですわ」

「わたしはユナさんのお土産で何度か頂きました」

「シアさん、ずるいですわ」

確かに王都に来たときに、何度かエレローラさんにシアに渡してほしいと頼んだことがある。

「でも、わたし以上に妹の方がもっとずるいよ」

「どういうことですの?」

「クリモニアの街のユナさんの店では誰でも買えるようになっていて。いつも、妹のノアは食べに行っているって聞いているの」

いつもじゃないけどね。

家を抜け出してたまに来ている。それで執事さんに何度も怒られている。

「ユナさんのお店!?」

「クリモニアの街にユナさんのお店があるんですよ。しかも、このプリンが一般庶民でも食べられる価格で販売されて大人気とか」

「国王陛下の晩餐会で出た伝説の料理が一般のお店で販売ですか……」

言葉にならないのか、呆然とプリンとわたしを見ている。

そんな大袈裟な食べ物じゃないんだけどな。

「でも、お店って、ユナさんは冒険者ではないのですか?」

「冒険者だけど、お店のオーナーかな? 店はほとんど、他人任せだからね」

「そうなんですか。クリモニアに行けばプリンが食べ放題……」

制限があるから食べ放題ってわけじゃないけど。

「だから、早くクリモニアの街に戻りたいんだよね」

コンコン

プリンの話題で女子3人? で盛り上がってると、ドアがノックされた。