軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 ただのクラスメイトだ

ゴールデンウィークが明けた。

今年は土日の巡り合わせが良くて五連休だった。

もっとも、俺の場合、友達と遊びに出かけるイベントもなく毎日アルバイトに明け暮れているうちに過ぎていた。そもそも友達いないし。

六日振りに自転車に跨って登校する。

高校の近くまで来ると付近の電柱の何か所か置きに休み前までは見かけなかった迷い猫探しのチラシが貼られている様子が目についた。

素人が自宅のパソコンとプリンタで製作したのだろう手作り感満載のチラシだ。

チラシの上部に『迷い猫探しています』という大きな文字があり中央に赤い首輪をつけた真白い猫の全身と顔のアップの写真、下部に『名前はマオです。見かけた方は追いかけたりせず 此花(このはな) 宅までご連絡をお願いします』とある。

それから自宅の電話番号。

もし見つけたらね、と心に留め置いて俺は通りすぎる。

その日の帰り道。

いつものように俺は近道をするべく、いつかクラスメイトの美少女を偶々助けることになった公園に自転車を乗り入れた。

あれ以降、俺と美少女は言葉を交わしていない。もちろん同じクラスだから顔を合わせてはいたけれども、お互いに用事はないので安定の無関係という関係性だ。

公園の半ば付近には遊歩道沿いに公衆トイレの建物がある。

通りすぎる際、白い何かがトイレの裏側にさっと隠れる姿を見たような気がした。

俺はトイレの前に自転車を止めた。

音を立てないように気を付けながら忍び寄って、そっと建物の裏手を覗いた。

三メートルほど先で白猫が振り返って俺を見ていた。長い尻尾がフラミンゴの首の様に優雅に立って揺れている。チラシの写真と同じような赤い首輪を付けていた。

「マオ」と俺は猫に小さく声をかけた。

「なあ」と猫は鳴いて全身でこちらに向きなおった。チラシのマオで間違いないだろう。

俺はしゃがんで再び「マオ」と呼んだ。

家猫(いえねこ) なので人肌に飢えていたのか猫は尻尾を振り振り寄ってくると俺の足に体を擦り付けた。

あっさりと捕まえて抱っこする。

トイレの裏に忍び寄る際、トイレ入口の脇にも迷い猫のチラシが貼られている事実に俺は気付いていた。

片手で猫を抱っこしながらポケットからスマホを取り出してチラシに記載された番号に電話をかけた。

「はい」と、ワンコール目で相手が出たのでびっくりした。若い女性の声だ。

「多分、チラシの迷い猫を見つけたんですが」

「ありがとうございますっ。どこにいましたっ?」

相手は弾んだ声で言った。この場にいたならば飛びつかれそうな声の勢いだ。

「マオと呼んだら体を擦り付けてきたので今は抱っこしています。 真緑台(みどりだい) 中央公園はわかりますか? 真ん中あたりにあるトイレの近くにいます」

「五分で行きますっ」

俺が答える間もなく電話は切れた。

俺はトイレ近くにあったベンチに座った。

抱っこしたまま手を腿の上に降ろしたら猫はそのまま丸くなったので、不用意に動かず寝かしつけるために、じっとした。紐でもあれば首輪の金具に結びつけて逃げられないようにするところだったが持っていない。

いや、自転車の荷紐があったな。バックを荷台に載せるために巻き付けて使っている。

そう思い、猫を抱いてトイレ前の自転車まで戻ろうと立ち上がりかけたところに遊歩道を誰かが走って来る足音がした。軽快なジョギングの足音ではない。もっとドタバタとした足音だ。

俺の前に足跡の主が立ちはだかった。

俺は顔を上げて相手を見た。

俺と同じ高校のブレザーを着た女生徒だった。見覚えのある顔だ。

「相羽くん!」

この公園で彼女に名前を呼ばれるのは二回目だ。いつぞやのクラスメイトだった。

美少女はここまで走り続けて息が切れたのか、ぜいはあと大きく息をした。

白猫マオは、ぴょんと俺の上から飛び降りて美少女に近寄ると相手の顔を見上げながら、なあと鳴いた。

「マオぉ、ダメじゃない、勝手におうちから出ちゃあ」

クラスメイトは満面の笑顔で愛猫に万歳をさせるように両手で抱きあげた。

それから胸に抱きかかえた。

「あれっ、 貴音(たかね) さん? 此花さんちに電話したはずだけど」

そういえば電話の声は彼女だった。

チラシにあった電話先の名前とうろ覚えだったクラスメイトの名前が俺の中で交錯した。

話しかけたつもりではなく、つい、思考が口から洩れていた。

クラスメイトは、むうと頬を膨らませた。

「え、私って相羽くんの中でそんな認識? 貴音(たかね) は名前。 此花(このはな) 貴音です」

「ごめん。女子に『たかねー』って呼ばれてるから苗字かと。 タ行(たぎょう) で前から三番目の席って変だとは思ってたんだ」

「相羽くんには二回も助けてもらったから特別に貴音呼びでいいよ」

「いや、此花さんで」

ラノベやマンガじゃあるまいし、じゃあ俺も 麟(りん) でいいよ、なんて恥ずかしい言葉は口が裂けても言わないし俺から名前呼びもしない。

そんな親しい仲になった覚えはまったくなかった。ただのクラスメイトだ。