軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 失礼な子ね!

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「素人判断であんなに堂々と指示をしたりして良いものでしょうか?」

アナウンサーが苦言を呈するような言葉を口にしていた。

え、俺、悪者?

漁協で俺が受けた講習では、誰かが自発的に動き出すのを待つのではなく、「あなた」と指を差して個人を特定してから具体的に何々をしてくれ、と指示を出すように言われていた。そうしないと、みんな誰かがするだろうと様子を見ているだけで結局誰も何もしないまま時間だけが経ってしまうそうだ。下手をすると誰も救急車を呼ばないまま時間だけ過ぎていく。

ニュース映像を見た祖父は激怒した。

暴川上流漁業組合として正式にテレビ局に抗議すると息巻いていた。

同じ頃、テレビ局には心肺蘇生法に詳しい視聴者からアナウンサーの発言に対して多数のクレームが寄せられていたそうだが後の祭りだ。

翌日の放送でアナウンサーが謝罪の言葉を口にしたけれども、何をどう間違ったという具体的な謝罪の言葉ではなく昨日の放送に不適切な発言があったというだけの内容だったため、あまり謝罪の意味はなかった。恐らく、わざとだろう。テレビ局様は人に頭を下げたくないのだ。

そのうえで正しい知識を普及させるためとして心肺蘇生のやり方について放送した。

わざわざ俺の場合はどこがよくなかったという注釈付きだ。

嫌がらせ以外の何者でもなかったがテレビ局なんて所詮そんなものだろう。自分たちは常に正しい。

ネットでも俺の段取りが悪かったとか順番が違うとか様々な意見が出ているらしい。

俺の態度がひどい、とか。まず止血だろとか。素人が勝手な判断で偉そうに心臓マッサージをしている、とか色々言っている人がいるらしい。バイト先の漁協で聞いた。

俺はそんなものが目に入らないようにスマホをいじらなかったので詳細は知らない。

もちろん逆に俺の行動を正しいという意見もあったが誰かを叩きたい側の発言権が強い傾向があるネットでは擁護派は少数派だ。

俺に対しての批判だけではなく、素直に俺なんかの指示に従っている奴もどうかしているという意見もあった。世の中、どうしちゃったんだろう。

本当のところ俺はどうすれば正解だったのかは分からない。

何もしないで救急車を待っている間に手遅れになるより手を尽くしたほうがいいだろう。

俺はそう思うが、もし患者の脳に重大な損傷が残ったら死ぬよりひどい目に合うのだ、という意見を言われると何も言い返せない。

そうなるくらいなら死んだほうがマシとか言われると、まあそういう考えもあるだろう。

個人的には俺自身もそう思う。人より馬鹿な人生と人より格好悪い人生、どちらか選べと言われたら俺は格好など悪くても馬鹿じゃない人生を選ぶ。

命令口調ではなくお願い口調で話すべきという声もあった。

俺がしていたのは素人が勝手な正義感で偉そうに指示を出して悦に入る行為だそうだ。

緊急事態の現場なんて普通は素人しかいないに決まっているだろう。だから救命講習が行われて本職が来るまでの間に素人にしてほしい内容が啓発されるんだ。

緊急事態に俺の口の利き方が悪いか否かは人の命よりも大切なのか。

大切なことほど主張する時の言葉は大きな声にならないだろうか。俺はなる。

翌日、俺は病院で自分の傷の経過を見てもらった後、笹本の病室をノックした。

笹本はベッドに身を起こしており母親が隣の椅子に座っていた。

二人だけだ。

俺が病室に入るなり、「あなた漁協の人だったのね、なぜ手順通りに助けていただかなかったの」と母親に詰問された。

仮に俺が本職の漁協の正規職員だったとしても漁協の仕事に溺れた人間を助ける行為は含まれていない。人助けは仕事の一環としてではなく俺個人が人間としてやったことだ。

手順と言われても俺の何がどこでどのように間違っていたというのか俺には分からない。

この母親は分かっているのか?

だとしたら正解を教えてくれ。

きっと母親はネットを見まくってしまったのだろう。

病気になった時、病名や症状をネットで検索する行為は俺も行う。

多分、笹本のためを思って心肺停止とか心臓マッサージとか脳の損傷とか、そんな言葉で母親は検索を行ったのだろう。今なら検索するともれなく、なぜか俺が叩かれてしまっている誹謗中傷の言葉が山ほど出てきた。母親はそういった掲示板でも見たに違いない。

「は?」

俺は間抜けな声を出した。自分の耳を疑った。

俺は必死に目の前のやれることをやっただけだ。

もし、俺が何もしなかったら笹本は絶対に死んでたんだぞ!

笹本が「かあさん!」と母親を叱るように声を上げた。

母親は自分の失言に気づいたのか、「あ、いや、そうじゃなくて」と慌てて取り繕った。

何が『そう』で何が『そうじゃない』のか俺には分からない。『そう』って何?

「仕事で人助けに携わっているわけじゃないので、あのようにしか私にはできませんでした。もし次があったら手出しをしないように心掛けますので、お母さんからも息子さんに私の目の前で死にかけないようにと、ぜひ言ってあげてください」

失礼しました、と俺は踵を返して病室を出た。

笹本が母親を叱っている声が廊下にも聞こえた。

「何あれ、失礼な子ね!」

捨て台詞のような母親の声が廊下を追いかけて来た。

失礼、って何だろう?

何日かして抜糸のために俺は再度病院に行ったが笹本の病室には寄らなかった。

その時点で笹本が既に退院をしていたのか、まだ入院をしたままだったのか俺は知らない。