軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十七話

「それじゃ、会議を始める」

そこに集まっているのはサツキ、ミィ、シリルの三人だった。

発言者はサツキだ。

それはエルフたちの大移動が終わり、一息ついてのことだった。

森の中の一角に腰を落ち着けたエルフたちは、いまはいくつかの焚き火を作ってその周囲に集まっている。

サツキたちがいるのはエルフたちの輪から少し離れた場所だ。

少女たちは円陣を組むように向かい合い、互いを牽制し合っていた。

ウィリアムの姿はない。

彼は偵察に飛び立ったまま戻ってきておらず、また、それゆえの少女たちの集まりだった。

サツキは先の発言に続き、二の句を継ぐ。

「で、えーっと、どうしてこうなったんだっけか」

サツキが問うているのは、なぜこのような会議を持つ必要が生まれたのか。

転じて、なぜ三人は対立することになってしまったのか、であった。

つまりこの「会議」と称された話し合いは、少女たちのウィリアム争奪戦を穏当に進めるためのものであった。

そしてそれは、ミィやシリルも承知しているところである。

「別にどうしてってこともないと思うです。ミィもシリルも、いつの間にかあの朴念仁に心をつかまれていただけです。あの天然、相当タチが悪いです。……もっともシリルまでやられていたのは、ミィには想定外でしたけど」

そう言って小柄な獣人の少女は、神官の少女のほうをジト目で見る。

それを受けたシリルは、ばつが悪そうに視線を逸らす。

「まあ、正直私も自分のこの感情の動きは想定外だわ。でもなんかいつの間にか……ううん、いつの間にかってこともないか。心当たりはある。──でもそれを言うなら、私はミィの告白にこそ度肝を抜かれたわよ。あなたはもっとクールでクレバーな子だと思っていたわ」

「お互い様です。シリルとウィリアム、いつの間にか距離が近くなったとは思っていたですけど、シリルが好きって言うとは思わなかったです」

「だって仕方ないでしょ。サツキとミィに宣言されちゃったら、何も言わないでいたら私だけ除け者じゃない。そんなの嫌よ」

「じゃあシリルのあれは、ミィのせいですか?」

「ええ。ミィが言い出さなければ私は黙っていたわ」

「黙っていただけで、内心では好きだったですか?」

「…………まあ、それは」

「じゃあ一緒です」

ミィとシリル、二人の話し合いは片が付いた。

ミィの勝利であった。

ただ別に色事の勝敗が付いたわけでもなく、だから何だというものであるが。

「でもさ、ミィのあれも酷くね?」

そこで話に割り込んだのはサツキだ。

「あたしが部屋で相談したときは黙って聞いてたくせに、あの場でいきなり言うなんてさ。不意打ちで横取りしようって魂胆だったのかよ」

サツキにしては、本気で根に持ったトーンの不満だった。

彼女はミィを信用していたからこそショックだったのだ。

だがそれを聞いたミィの側は、別に堪えたという風でもなかった。

「事前に言ってどうなるですかそんなもの。それに色恋事は戦争です。正々堂々なんてバカげてます。そもそもミィは 盗賊(シーフ) ですよ? 不意打ちがモットーです。むしろ裏で 隠密(ステルス) に事を運ばなかっただけミィもバカです。……ただ、あれは敵が強すぎるです。ミィ一人じゃあの牙城は崩せる気がしないです。共闘の必要があるです」

「敵……っていうとあれか。ウィリアムは『冒険』が恋人っていう」

サツキが問うと、ミィは真剣な顔でこくんとうなずいた。

そしてその発言に、シリルも同意を示す。

「確かにね。しかもあれ、意外と筋が通っているのよね。冒険と恋人とは両立できない。現に私たち、こうして仲違いしているわけだし。特に致命傷なのはそっちじゃないとはいえね」

「あー、仲違いっていうのかこれ?」

「ミィとサツキはいま仲違いしたばっかりです」

「いや、あたしなんかミィのさっきの話聞いて許せちゃったんだけど」

「……なんでですか。サツキは本当、バカでお人よしです」

「それ褒めてんの? 貶してんの?」

「褒めてるです。あとちょびっとだけ貶してるです」

「いつも通りじゃん」

「いつも通りです」

そう言い合って、にらみ合うサツキとミィ。

だがどちらが先か、ぷっと噴き出して一緒に笑いだしてしまった。

その二人を見て優しげな微笑みを浮かべるシリルだったが、すぐに思い出したかのように話を戻す。

「でもミィが言っている共闘というのには私も賛成。いまのウィリアムに『私と冒険、どっちが大事なの?』とか聞いてみたところで、『冒険だ』って答えるに決まってるもの。一人じゃとても太刀打ちできないわ。それは私じゃなくてサツキやミィが聞いても結果同じでしょ。っていうかサツキは実際に聞いたのよね」

そのシリルの言葉に、サツキは神妙な顔でうなずく。

「ああ。あたしその場で大号泣しようかと思った。真面目に」

「よく泣かなかったわね」

「なんかアホらしくなって。それにそこで泣いたら卑怯だって思って」

「相変わらずサツキのプライドのありかは分からないわね。……それはさて置いて、共闘の話よ。三人がかりで誘惑すれば、あの牙城は崩せると思う?」

シリルはそう言ってサツキとミィを見渡すが、二人とも難しい顔をしていた。

敵は強大。

三人で力を合わせても、打ち破れる目は見当たらない。

そういった表情だった。

シリルはその二人の様子に、良い感性をしていると感心する。

彼女自身もまた、ほぼ同様の認識を持っていたからだ。

しかし一方で、シリルには幾分かの勝算も見えていた。

「でもあれは異性にまったく興味がないっていうわけではないと思うの。わずかだけどほころびは見えるわ。そこを突けば、あの鉄壁の守りも破れるかも……」

「そうなのですか? ミィにはそんな風には見えないです」

「あたしもミィに同感。いくら攻めてもびくともしないぜ?」

「そう思うでしょ? でも、こんなことがあったのよね……」

そう言ってシリルは、ゴルダート伯爵付きの宮廷魔術師アリスと戦った日の酒場での出来事を二人に話した。

女に溺れる者の気持ちが分かったと言ったときの、ウィリアムの様子。

それは情報の共有だった。

強大な敵を相手にするのだから手段は選んでいられないという、シリルの気迫が伺えた。

そしてそれを聞いたミィが、愕然とした表情を見せる。

「……まさかのシリルが一歩リードだったです」

「まさかで悪かったわね。ところで最近違和感が凄いのだけど、ミィのウィリアムに対するあのあざといまでの態度って、ひょっとして演技なわけ?」

「……? 演技って、何がです?」

つぶらな瞳をぱちくりとさせて、きょとんとした様子で小首を傾げるミィ。

それを見たシリルが思ったのは、演技なのかそうでないのか分からないが、仮に演技だとしても明かすつもりがないのだから聞いても意味がないということだった。

ミィが女子トークでも本性を表さないような猛者であるなら、そっちの経験や機微に疎い自分が見極めをつけるのは不可能だろう。

シリルがそんなことを考えていると、サツキが新たな見解を述べた。

「でもさ、そもそもの話だよ。ウィルが色恋沙汰を望んでねぇのにあたしらが無理に押し込むってのも、どうなんだろうなって。あたし諦めないとは言ったけどさ。将来的にはともかく、いまはいまのまんまでもいいんじゃねぇかって、そんな気もしててさ。その辺どう思うよ?」

「サツキにしては本質的なところ突いてきたわね……」

「確かにそれはあるです。いまの関係が崩れたら怖いはあるです。そのあたり、ミィもウィリアムと同じかもしれないです」

三人は、うーんと悩み込む。

それはシリルの言った通り、本質的な問題であった。

そこでシリルはふと思いついて、サツキに問う。

「サツキはどうなの? ウィリアムと恋人関係になって何がしたい? 肉体的に繋がりたいっていう風にも見えないけど」

「なっ……し、シリルぅ、もうちっとこうさぁ、オブラートに包んでくれよ。うーん、何がしたい、何がしたい……いやぁ、そこまで深く考えてなかったけどさ。強いていうなら、手ぇ繋いだり? キスしたり? いちゃいちゃしたり?」

「やっぱり肉体的接触なの?」

「うぅっ……その言い方やめてよ。別なもの想像するよぉ」

「別なものって?」

「……あのさぁシリル、あたしのこと弄って遊んでない?」

「あらバレた、残念。サツキってころころ表情が変わって可愛いわよね」

「そういうシリルはどうなんだよ?」

「んー、私はさっきも言った通り、一人だけ除け者にされるのが嫌だったから動いただけだもの。──ミィはどうなの?」

シリルがそう振ると、獣人の少女はその小さな体で仁王立ちして、鼻息を荒くしてこう言った。

「ミィはウィリアムにぎゅーって抱きしめてもらって、ミィのほうからもぎゅーって抱きついて、そのまま一時間ぐらいずーっとなでなでしてもらいたいです。もっと言えば耳元でたくさん甘い言葉をささやいてほしいです」

「……あ、そ。清々しいぐらい欲望まみれな返事がきて驚いているわ」

「シリルはそういうの、全然ないです?」

ミィにそうつぶらな瞳で問われて、シリルは少し考え込む。

するとトントン拍子で妄想が進んで、裸で肌を重ねたベッドインの姿まで想像してしまって、ぶんぶんと首を横に振った。

その様子を見た獣人の少女が、にやにやとした表情でシリルを見上げてくる。

「おやぁ? シリルはいま何を想像したですかぁ? ミィはすごく聞きたいです」

「……意外と意地悪いわねあなた。別に普通の想像よ。男と女が行きつく先の」

「アダルトな感じですか?」

「アダルトな感じよ」

「ねぇ何なの? あたしたちいまなんでこんな話してんの?」

三人が三人とも、ほんのり頬を赤らめていた。

壮絶な自爆合戦であった。

シリルがコホンと咳払いをして、話を元に戻す。

「まあ、だいたい全員の目的地は見えた感じね。要は肉体的接触と、彼の愛が欲しいと」

「また身も蓋もねぇ言い方だな……」

「いいのよ。そのぐらいまで分解すれば見えてくるものもあるわ。例えばそう──誰も独占なんて望んでいない、とかね」

「あー……」

「なるほどです」

「となればあとは──彼に私たち全員を愛させること。そこが私たちの目指す終着点よ」

そう言ってシリルは、自らの手をサツキとミィの前に差し出した。

残る二人の少女も、そこに自らの手を重ねてゆく。

「よっしゃ、やってやる!」

「燃えてきたです!」

そうして、えいえいおーと気合を入れる三人の少女たちを、近くにいたエルフたちが胡乱げな様子で見つめていた。