軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十三話

俺はサツキを連れ、エルフの戦士たちが集まっている広間へと戻った。

そこでは臨戦態勢を整えた戦士たちが、戻ってきた俺とサツキを見て驚きの表情を浮かべていた。

俺は雇い主であるフィノーラに、端的に結果報告をする。

「片付いたぞ」

「いやー、楽勝だったな。やっぱウィルの魔法は最強だ」

俺の簡単な報告に、サツキが主観的な感想を付け加える。

だがそれは、俺の感覚的には妥当とは言い難い内容だった。

「待てサツキ、不正確な情報を伝えるな。どこが楽勝だ」

「ん? だってあたしがあんなに不甲斐なくても無傷で勝ててんじゃん。楽勝だし、全部ウィルの力だろ?」

「キミは人の言ったことを聞いていないのか。サツキがいて助かったと言っただろう。俺一人でどうこうできる相手ではない。それにたまたま最大限に事がうまく運んだだけだ。あれを楽勝などと言っていると、足元をすくわれるぞ」

「あぁんもうウィルうっさい! あたしのウィルは最強なのー! いいじゃんそれで~」

「……キミは子どもか。まったく……遊びじゃないんだぞ、分かっているのか」

「えへへ~」

サツキはにへっと締まりのない笑顔を見せてくる。

俺はそれで、どうにも毒気が抜かれてしまった。

最近思ったのだが、サツキの本質は「甘えん坊」なのかもしれない。

ストイックな部分はひどくストイックなのだが、そうでない部分に関しては仲間にべたべたに甘えてくる。

幼少期に親が甘えさせてくれなかった人間ほど大人になってから甘えん坊になると聞くが、ひょっとするとサツキにもそういった何かがあるのかもしれない。

さて、それはともかく。

戻ってくるなり言い争いを始めた俺たちを見て、エルフ戦士たちは唖然としていた。

ちなみにミィとシリルは嘆息している。

エルフ戦士たちの筆頭であるフィノーラが、おそるおそると言った様子で聞いてくる。

「ウィリアム、『片付いた』とはどういうことだ? オークどもはどうなった、撤退したのか?」

「いや、十三体すべて撃破した。ひとまず後続の心配はないと思われる」

「は……? ──な、なんだと!? 十三体すべてを、キミたち二人だけで倒したというのか? 信じられない……敵に上位種はいなかったのか?」

「いや、一体のジェネラル級を指揮官として、加えてリーダー級が二体、メイジ級が一体いた。分隊レベルの戦力としては標準的な構成だろうな」

「そんなバカな……」

呆気にとられたという様子のフィノーラは、はたと気付いたように、俺とサツキの横を通り過ぎて現場確認に向かった。

ほかのエルフの戦士たちも、フィノーラに続いて現場を見にいった。

彼女たちはいま、そのトンネルの床に連なるように倒れた合計十三体のオークの姿を目の当たりにしているだろう。

その一方で、俺とサツキのもとにはシリルとミィが寄ってくる。

「お疲れ様。相変わらず派手にやるわね」

「それはそうとサツキはウィリアムとじゃれすぎです。そこをミィと代わるといいです」

シリルはねぎらいの言葉だったが、ミィが発したのはサツキに対するよく分からない苦言だった。

そしてそのミィの発言を皮切りに、サツキとミィが謎のいがみ合いを始めてしまう。

「へへーん、嫌だよーだ。ウィルはあたしに『キミにそばにいてほしい』って言ってくれたもん」

「いや、そういった発言をした記憶はないのだが……」

「ほら! 言ってないって言ってるです。分かったらそこをミィに譲るです」

「はぁ? だからって何でミィに譲らなきゃいけないんだよ。べろべろばー」

「こ、のっ……! ──ウィリアムはサツキを甘やかしすぎです! もっとミィも甘やかしてくれないと不公平です!」

「ちょっとちょっと! そっちじゃないでしょうが。ミィまでウィリアムを困らせてどうするのよ」

「うぅー……ミィは大人じゃなきゃいけないのに、サツキは子どもでいいってずるいです。ミィも子ども扱いがいいです」

「ミィあなた、本性を見せたら無茶苦茶なこと言うようになったわね……」

「っていうか待って。そもそもあたし子どもじゃねーし」

「「は、どこが?」」

「えっ」

シリルが終始ツッコミ役に回ってくれているので助かっているが、全体として会話が混沌としている上に、ミィの発言がどうにもおかしい。

ミィらしくない、というのはおそらく違って、これも彼女の一面なのだろうが……。

俺たちがそんなコメディを演じていると、検分を終えたフィノーラが広間に戻ってきた。

彼女はいまだ困惑を隠しきれないといった様子で俺に話しかけてくる。

「正直に言って驚いた。まさかキミたちがあれほどの力を持っているとは……。しかしオークの分隊規模を掃討できるほどの力を持っているなら、拠点をここから動かす必要もないのではないか?」

フィノーラが率直な疑問をぶつけてきた。

この彼女の言い分もある程度妥当な物言いであるし、必ずしも間違った見方ではないと思う。

だが俺は改めて、自身の見解を雇い主に向かって述べる。

「確かにあの地形はオークの群れを迎撃する環境としてかなり望ましい。その点を見るに、この洞窟を防衛拠点とするのは悪くはない選択であるようにも思う。──だが一度うまく事が運んだからといって、次も必ず同じようにうまくいくと考えるのは危険だ。先にも言った通りここは袋小路で逃げ場がない。一つ歯車がズレたら破滅的な事態になる。その状態を維持することは極めて大きなリスクであると俺は考える」

「お母さん、私もウィリアムに賛成よ。一度うまくいったからといって調子に乗れば……その先に待っているのは破滅だもの」

近くにいたレファニアが、俺の見解に賛同の意を示す。

彼女はいま、自分たちが以前のオーク退治で犯した失態を思い浮かべているのだろう。

「それにいまの迎撃の流れで、俺は魔素総量の三分の一を失っている。より大規模の軍団に攻められ、戦力を小出しにされれば、俺の魔素は早々に枯渇する。俺の魔法による迎撃力を過信するべきではない」

「そうか……」

「あ、そうそう、それだよウィル」

と、そこにサツキが横から口をはさんできた。

「何でオークども、百体以上いるはずなのに一気に攻めてこないんだ? まとめて攻めてきたほうが向こうにとっちゃ有利じゃん。やっぱオークだからバカなの?」

それはサツキらしい、率直な疑問だった。

しかしそこには理があるわけではない。

俺はサツキに説明する。

「サツキ、羊飼いの兄弟が飼っていた羊を逃がしてしまったとする。逃げた羊は十匹。羊飼いの兄弟は三人。彼らは逃げた羊を探すために、三人でまとまって動くか?」

「あー……そりゃあ手分けして探すか。ってことは、あたしらは連中から、羊だと思われてるってこと?」

「ああ。そもそも連中の勘定に含まれているのはエルフたちだけで、俺たちの存在は慮外のはずだ。──もっとも、分隊規模の戦力が帰還しないとなれば、自分たちが追いかけているものが獰猛な狼の群れである可能性を疑うだろうがな。俺が敵の指揮官なら、次は最低でも小隊規模で部隊を編成するか、さもなくば敵を発見し次第、撤退及び本部への連絡をするよう徹底させるだろう」

「はあ……。えっと、その小隊規模? ってのはどのぐらいなんだ?」

「三個程度の分隊がまとまって一個小隊になるというのが一つの目安だ。今回のケースなら、一個小隊は三十体から五十体程度と見込んでおくべきだろう」

「げっ、マジか……」

「さらに言えば、小隊規模の軍を指揮するのはジェネラル級よりもさらに格上──ロード級のオークになると考えておいたほうがいい。場合によっては、移動拠点扱いでエンペラーそのものが一個の部隊を指揮することもありうるだろう」

「…………」

誰かがごくりと唾をのんだ。

それはサツキへの説明だったが、周囲のエルフ戦士たちも聞き入っていたようだ。

フィノーラも、俺の話を聞いて何かを考えているようだった。

彼女ならば俺がいま言った理屈と展開ぐらいは考えていたかもしれないが、他人の言葉で聞くことで改めて見方が固まるというのもよくあることだ。

ちなみに俺自身も、オークの一個分隊ぐらいなら個人レベルでどうにかできる目途も立つが、小隊規模とぶつかるのにはさすがに無理を感じる。

正面衝突をすれば、この場にいるエルフ戦士たち全員と協力して総力戦を挑んでも、全滅を覚悟しなければならない戦いになるだろう。

「……なるほど、状況は整理できた。確かにこの場からは離れたほうが良さそうだ。予定通り、拠点移動の手筈を進めることにしよう」

俺の発言からしばらく。

やがてフィノーラがそう宣言し、改めてエルフたちは拠点移動の準備を始めたのだった。