軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十二話

エルフの戦士団のリーダーである少女は、自身の名をレファニアと名乗った。

レファニアは、自分は集落に戻って報告をしなければならないからと言って、エルフの戦士の一人を案内役として俺たちに同行させ、自身は残るエルフたちを連れて自らの集落へ帰還していった。

俺たちはオーク退治の依頼をした村と、クエストを受注した都市アトラティアでクエスト達成の報告をして報酬を受け取ると、同行したエルフの戦士の案内でレファニアたちが住むエルフの集落に向かった。

一度オークの棲み処である洞窟があった場所まで戻り、そこから森の中の道なき道を進むことしばらく。

やがて俺たちは、その集落にたどり着いた。

「待っていたわ、ウィリアム。それにサツキ、ミィ、シリルも。歓迎するわ」

入り口で出迎えてくれたのはレファニアだ。

俺は彼女に連れられ、集落の中へと踏み入ってゆく。

「へぇー、エルフの集落ってのは、木の上に家作ってんのか。すげぇな」

サツキが物珍しそうに頭上を見上げながら、そんな感想を口にする。

驚いている様子なのはミィとシリルも同様だし、俺も書物に描かれた絵画で見たことはあったものの、実物を見るのは初めてで少し興奮していた。

サツキが言う通り、その集落は森林を切り拓くことなく、あちこちの大木の上に木造の家を作ることで成り立っていた。

木の上の家までは梯子がかかっており、それを上ることで住居の入り口にたどり着くことができる仕組みだ。

「ええ。人間たちは地べたに家を建てるようだけど、あれだと外敵から身を守るのが大変じゃない? 私たちにはあれって不思議でならないのよね」

レファニアが俺たちを先導しつつ、振り向いて後ろ歩きをしながらそんな感想を述べてくる。

なるほど、異文化とはそういうものかと感心させられる。

なおこのエルフの集落は、それほど大きな規模のものではないようだ。

歩きながら見渡す限りでは、住居の数は五十に満たないほどに見える。

もっとも、エルフという種族自体があまり数の多い種族ではないから、これでもそこそこの規模の集落に該当するのかもしれない。

エルフの人口規模は人間の数十分の一ほどというから、この規模の集落で人間の中小規模の都市ぐらいの感覚なのだろうか。

「……でも何か、私たち見られていない?」

「ですです。家の入り口からこっそりこっちを見ているエルフがたくさんいるです」

シリルとミィが、周囲を見渡しながらそう指摘する。

確かに、木の下に下りてきているエルフはほとんど見当たらず、エルフたちの多くは木の上の家からこそこそと、しかし俺たちのことを興味深そうに見ていた。

その様子を見て、先導するレファニアが苦笑する。

「まったくもう。……ごめんなさい。みんなエルフ以外の人を見るのが物珍しいものだから、怖がっているのよ。いい人たちだから大丈夫だって、あれほど言ったのに」

「じゃあ別にあたしたち、嫌われてるってわけじゃないんだよな?」

サツキがそう聞くと、レファニアは、

「とんでもない! そんなやつがいたら私が絞めてやるわ。そのあと往復ビンタよ」

と謎の意気込みを見せていた。

まあひとまず、歓迎されていないわけではないと受け取っていいのだろう。

そうこう話をしながら集落の中を歩いていると、やがてレファニアは、集落でもとりわけ大きな大木の上に作られた大きな家の下で立ち止まった。

「さ、着いたわ。ここがこの里の最長老の家よ。あとについて上がってきて」

そう言ってレファニアは、大木に掛けられた梯子をひょいひょいと上がってゆく。

俺もレファニアのあとに続いて梯子を登ろうとしたが──

「ウィリアム、ストップ」

そこで俺は誰かから、ローブの背中の部分をぐいと引っ張られた。

そして背後から抱きつかれるようにして、その何者かの手によって視界をふさがれる。

「な、何だ……!? シリルか?」

聞こえた声や背中に当たる胸の感触の立派さからして、俺の背後に立っているのはシリルだろう。

彼女の手が、俺の視界をふさぐようにして俺の目を覆っているに違いなかった。

さすがに混乱した。

突然何が起こっているのか。

「……まったく、エルフの貞操観念ってどうなっているのかしら。あれじゃあ下から丸見えじゃない」

耳元からシリルの声が聞こえてくる。

それで俺は、ああなるほどと合点した。

レファニアが身につけている衣服は、下はスカート状の末広がりになるデザインであった。

ゆえに梯子を上っているところを下から見ると、その内側が丸見えになってしまうだろう。

それでシリルは、俺がそれを見ないようにとこのような取り計らいをしたわけだ。

しかしそう考えると、シリルの疑問ももっともだ。

このような構造の住居に住んでいてあのような衣装を身につけていては、必然的に他者に向けて露出するケースが多くなるはずだ。

……が、それはそれとしてだ。

「──とは言えシリル、俺たちのこの姿勢もいささかまずい気はするのだが」

ほとんど後ろから抱き着かれたような姿勢の密着状態での目隠し。

ローブ越しにシリルの肢体の柔らかさが伝わってくるようなこの状態にありながら平静でいなければならないというのは、曲りなりに健全な男子の一端である俺にとってはかなりの難業だ。

「うっ……。……で、でも、大したことじゃないでしょう? それともあなたひょっとして、この程度の誘惑で私に興味を持ってくれたりするわけ?」

「この程度とは言うがな……というかいま、『誘惑』と言ったか?」

「え、ええ。まあ、あれね、ちょっとしたお遊びよ。あなただってサツキを弄んでいるのだから、このぐらいはお姉さんの好きにさせてくれてもいいでしょ?」

「…………」

シリルなりの悪ノリなのだろうか。

耳元で囁きかけてくる彼女の悪魔性に支配され、俺は返す言葉を見つけられなかった。

そして彼女の言葉の中には、考えさせられてしまう部分があった。

そんなつもりはないにせよ、結果としてはそうなっているのかもしれないし、少なくともシリルからはそう見えるのだろう。

だがそこに咎めるような響きがあまりないのは、どういった考えなのか……。

俺がそんなことを考えていると、頭上からレファニアの声による、こんなつぶやきが降ってきた。

「……すごい、何あれ。人間の貞操観念ってどうなっているの……?」

そのレファニアの感想が俺とシリルの状態を見てのものであろうことは、視界をふさがれていても想像がつくことであった。