軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十話

「へ……? いま、何があったの?」

サツキが驚きの声を上げたのは、俺が 魔法の矢(マジックミサイル) の呪文を使って敵の魔法を破壊したときだった。

シリルやミィも、目をぱちくりとさせている。

彼女らには俺が突然に呪文を唱え始め、そして何もないところに向かって光の矢を放ち、その光の矢が何もないところで炸裂したように見えたのだろう。

だが俺はそれに、確かな手ごたえを感じていた。

アリスが仕掛けたと思しき 警戒(アラート) の感知膜を突破して少し。

木々の間の道なき道をのぼっていったところで、俺の視界に赤く光る小さな魔力の光が映った。

その魔力の光は握りこぶしよりも小さいほどのサイズで、俺はそれをアリスが使った 魔法の目(ウィザードアイ) による「目」であろうと予想した。

そして俺は、 魔法の矢(マジックミサイル) の呪文を使って、その魔力の光を破壊したのだ。

なおこのとき 魔法の矢(マジックミサイル) によって放つ矢の本数は、一本に絞った。

魔法の矢(マジックミサイル) は魔力で形成された矢を放ち敵にぶつけるという最も基礎的な攻撃呪文だが、この呪文は術者の魔術師としての基礎能力が高いほど放てる矢の本数が増える。

俺の能力ならば通常三本の光の矢を同時に生み出し放てるのだが、ここでは敢えての一本にした。

これはあわよくば、アリスにこちらの能力を低く見積もってもらおうと目論んでのことだ。

迎撃に必要だった 魔力感知(センスマジック) と 魔法の矢(マジックミサイル) はいずれも最初級の呪文であり、なおかつ放った矢が一本であれば、アリスがこちらを初級の 魔術師(メイジ) であると誤認してくれるかもしれない。

さらにその認識から、俺たちの冒険者パーティ全体が初級の実力者であると思い込んでくれればベストだ。

ただいずれにせよ、こちらの存在がすでにアリスに気付かれていることは間違いないだろう。

先に使用した 認識阻害(インセンサブル) は功を奏さなかったということだ。

これは元よりそうなる可能性も視野に入れての行使であるから、問題はない。

俺は進行方向を切り替え横手へと向かいつつ、仲間たちに状況を手早く説明する。

「ひとまずこの場から移動したほうがいい。いまのはおそらくアリスの 魔法の目(ウィザードアイ) だろう。潰しはしたが、こちらの存在と位置はすでに認識されている。また一計は講じたが、これも効果的かどうかは分からん。いずれにせよいきなりの魔法攻撃もありうる」

俺の移動方向の切り替えには、ミィがすぐに反応して追いつき、一拍遅れてサツキ、シリルが追いかけてきた。

いち早く俺の横手についたミィが、俺に声を掛けてくる。

「ミィは何が起こってるのか理解するだけでも精一杯です」

「魔法戦は概ね、手の内の読み合いになるからな。そもそも互いの手持ちのカードをよく知らない余人には、駆け引きの内容まで理解するのは難しいだろう。ただ俺は、学院時代の模擬戦で同格の相手に負けたことはない。その実績程度には信頼してもらって構わない」

「それは問題ないです。ミィは元々ウィリアムをとても信頼しているです」

ミィは俺に向かってにぱっと笑う。

小柄で愛らしい彼女の笑顔には、人に頭をなでたくさせる魔力があると思う。

こんな状況だから軽くだが、俺は彼女の髪をくしゃくしゃとなでる。

ミィはいつものように、猫のように目を細めて気持ちよさそうにした。

そして俺たち四人は、元いた場所から多少離れた程度の場所へと移動し、そこでひとまず身を潜めて待機した。

そこから自分たちが元いた場所、及び元の進行方向を見張るが、しばらく待っても特に何かが起こることもなく、本人が現れる様子もない。

「……妙だな。手出しをして来ない、偵察にも来ないか」

「向こうの本拠地で、私たちを待ち伏せしているとか?」

シリルが一つの可能性を述べてくるが、俺の感覚としてはいまいちピンとこない。

「いや、向こうの本拠地にどういった準備があるかにもよるが、通常魔術戦においては相手に自身の位置を特定されていることは致命的な痛手だ。普通の感覚なら、相手の位置を捉えたなら奇襲を仕掛けにくると思うが……」

そのあたりは理由を考えても仕方がない。

俺は次なる一手として、いくつかの選択肢を脳裏に思い浮かべる。

魔法の目(ウィザードアイ) 、 透視(シースルー) あたりを使って、敵の位置情報を知ることは有効な一手だ。

またほかにも、アリスの居場所を探るための魔法はいくつかある。

ただ問題は、俺の魔素の残量が少ないことと、これらの情報獲得系の呪文が軒並み高レベルで、魔素の消費量が高めであることだ。

今日はすでにかなりの数の魔法を行使し、魔素総量の六割を消費している。

残り四割の魔素で渡り合うことを考えると、残量の三分の一ほどを要求するこれらの呪文は少々コストが重すぎる。

「ウィリアム、何ならミィが偵察してくるですか?」

俺のすぐ横に潜むミィが、そう提案してきた。

俺は一考し、それは有りだという結論に至る。

ここは魔法的な手段によらないほうが、むしろ効果的かもしれない。

それにいまならまだミィとの 念話(テレパシー) が通じている。

いざとなっても秒単位での的確な連携が可能であり、その点でもリスクが低い。

「よし、頼むミィ。 念話(テレパシー) をフル活用してくれ」

「了解です。行ってくるです」

そしてミィは、 盗賊(シーフ) としての隠密技術を駆使して、俺たちの本来の目的地であった方角へと向かっていった。

そうしてミィの姿が見えなくなってから少しして、ミィから 念話(テレパシー) による連絡が入った。

『山小屋のような建物を見つけたです。近付いてみるです』

『頼む。だが無理はしないでくれ』

『分かってるです』

それから数十秒ほど。

またミィから連絡が入る。

『周囲には誰もいないみたいです。山小屋の中も、外から聞き耳してみたですけど誰もいなさそうです』

『分かった。俺たちも合流する、そこで待っていてくれ』

『了解です』

そうして俺とサツキ、シリルの三人もミィに合流する。

合流する直前で、視界にあった森の木々が唐突に開けた。

そこは森の一部分だけが、広場のように切り拓かれた場所だった。

その差し渡し十メートルほどの広場の中央に、木造の小さな小屋が一軒立っていた。

俺たちは小屋の入り口、扉の前まで移動し、

「じゃあ開けんぞ──せーのっ!」

サツキを先頭にして、小屋の扉を開いた。