軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十二話

「お父さん、食事の前にこれを見てほしいんだ。ウィリアムたちが、この国内の山賊のアジトで見つけたものだって」

アイリーンが立ちあがって、国王アンドリューのもとに例の紙束を手渡しにいった。

アンドリュー王は席に座ったままそれを受け取って、中を検める。

読み進めていくにつれ、王の目つきがより鋭利なものへと変わってゆく。

そして一通りを読み終えると、不快そうに鼻をふんと鳴らして紙束をアイリーンに突き返した。

「騎士アイリーンよ」

「えっ……あ、はい」

アンドリューが威厳に満ちた声で呼びかけると、虚を突かれたという様子のアイリーンが慌てて背筋を伸ばす。

わざわざ「騎士アイリーン」と呼んだのは、親子としてではなく、国王と家臣という立場での話であることを示してのものだろうか。

「この書状を持ってきた者が、虚偽を申し立てていることはないのだな」

「えっと……は、はい。ウィリアムは僕の信頼できる友人で、少なくとも僕たちを陥れるような嘘をつくとは考えづらいです。それはお父……国王もご存じのはずです」

「ああ、お前の言うとおりだ。──ならば騎士アイリーンよ、この件お前に一任しよう。外部の人間を雇うなりしても構わん。俺の国の中で舐めた真似をする豚を許すな」

「──は、はい!」

アイリーンがそう返事をしたのを確認すると、アンドリューは俺のほうへと向いて、ニヤリと口の端を上げる。

「ウィリアムとその仲間も、ご苦労だった。これをアイリーンのところに持ち込んだのは見事だ。下っ端の役人にでも渡せば、与太話と思って握りつぶされたやもしれん。あとで金一封を渡そう。働きに対する正当な報酬として受け取るといい」

「はい、ありがとうございます」

「よし。──では堅苦しい話はこのぐらいでいいだろう。あとは晩餐の時間だ。うまい酒と料理はたっぷりと用意してある。存分に楽しんでくれ」

遅れていた王妃も食堂に到着したところで、アンドリュー王がそう宣言した。

豪勢な晩餐が始まった。

***

「いやぁ、それにしてもびっくりしたよ。まさか僕の任務になるとは思ってもいなかった。あー、どうしよう……」

俺の隣の席で食事しているアイリーンが、ぽつりとそんなことをつぶやいてきた。

健啖な彼女は、そう不安事を漏らしながらももりもりと食事をしているわけだが。

一方の俺は、芳醇な香りのワインを楽しみながら、彼女へと言葉を返す。

「そうか? こうなるであろう可能性については想定できただろう」

「えっ、そうなの?」

「ああ。陛下の性格を考慮に入れれば、十分に想定の範囲内だと思うが」

豪放なアンドリューは、可愛い我が子をほどよく千尋の谷に突き落とすタイプだ。

アイリーンに経験を積ませるために適度な難関だと判断すれば、積極的にそこに放り込んでいくであろうことは想像に難くない。

「ぶー。しょうがないじゃん。だって僕、ウィルみたいに頭良くないし」

「まあ得手不得手があるのはやむをえんが」

「でもどうしよう~。プランが浮かばないよぉ~! 僕にウィルみたいな頭の良さがあればなぁ~」

そう言ってアイリーンは頭を抱えてしまう。

それを聞き、俺は大きくため息をつく。

「アイリーン。キミは少し人を使うというやり方を覚えるべきだ。陛下はさっき、キミに任命する際に何と言った。一言を付け加えただろう」

「……え、何かあったっけ」

「『外部の人間を雇っても構わん』だ」

「ああ、そういえばそんなことも言ってたね。それが何──ああーっ!」

アイリーンがガタッと立ち上がり、大声を上げる。

使用人たちまで含めて、食堂にいた全員の目がアイリーンに集中した。

「あ、ご、ごめんなさい。何でもないです、あはは……」

アイリーンは取り繕うようにパタパタと手を振って、肩身を狭くしながら着席する。

「……それってつまり、ウィルを参謀として雇えってこと?」

「俺の耳には、陛下が選択肢の一つとしてそれを提示しているように聞こえたが」

「そ、そうなんだ……。何だよ、お父さんもそうならそうと、はっきり言ってくれればいいのに」

「それも含めてアイリーンに考えさせようというのが一つ、それと陛下のことだ、そこまで深く考えていないというのがもう一つだろう。組織で誰かの下につくなら、上の人間の性質は計算に入れるべきだぞ」

「ウィルは相変わらずすごいなぁ……」

アイリーンは思考を放棄したようだった。

俺はやれやれと思い、肩を竦める。

と、そこに──

「おうウィリアム。我が愛娘をしっかり教育してくれているようだな」

アンドリュー王が盃を片手に席を立ち、どすどすと俺たちの席のほうに歩み寄ってきた。

そして俺の隣、アイリーンとは逆側の空席に、どっかりと腰を下ろす。

食卓マナーはどこへ行ったのか。

無礼講と言っていたが、一番無礼講をしたいのはこの人のようだ。

そしてアンドリューは俺の肩に腕を回し、アイリーンに聞こえないように小声で俺に話しかけてくる。

「何ならウィリアム、教育ついでにうちの娘を嫁に貰う気はないか」

突然、突拍子もないことを言ってきた。

「……ご冗談を」

「冗談ではないぞ。あれは誰に似たのかじゃじゃ馬だが、俺の可愛い愛娘だ、ろくでもない男にくれてやるつもりはない。だがそれでは嫁の貰い手がなさそうだ。お前ならば申し分ないし、娘もお前のことを好いている。考えておけ」

「はあ……」

どうもアンドリューは本気のようだ。

アイリーンが俺のことを好いているというのは、嫌われていないという程度の意味だろうが……。

それにしても、アイリーンと男女の関係になどと、考えたこともなかったが──

ふと横を見ると、純白のドレス姿のアイリーンが、不思議そうに小首を傾げてこちらを見ていた。

──可愛い。

そんな感情が、不意に俺の中に湧き上がってくる。

だが──

「……いえ、大変ありがたいお言葉ではあるのですが、俺はこれから冒険者としてやっていこうと思っています」

俺はアンドリューに、そう耳打ちして返した。

するとアンドリューは、意表を突かれたという顔をして、次には大声で笑い始めた。

「がははははっ! そうか、お前にとってはそれが一番大事か! 相変わらず面白いヤツだ! だが分かるぞ、己の腕一つで立ちたいというその気概!」

そう言って、俺の背中をバシバシと叩いてきた。

力強いアンドリューの殴打で、俺はゲホゲホと咳込んでしまう。

「──ではウィリアム、あの三人の美女がお前の女ということか」

アンドリューが再び耳打ちをしてくる。

その視線の先にいるのは、テーブルをはさんで向こう側にいるサツキ、ミィ、シリルの三人だ。

三人は俺とアンドリューの視線に気付き、不思議そうな顔をしている。

俺は首を横に振り、言葉を返す。

「いえ、彼女らは冒険者仲間です。……そして陛下、『三人が』という言い方は、不貞行為を前提にした物言いです。感心いたしかねます」

「……お前、硬いなぁ。いい女を見たら全員抱きたくなるのは、男の甲斐性だろうが」

「それは奥方様にお伝えしてもよろしいでしょうか」

「すまん、俺が悪かった。勘弁してくれ」

アンドリュー陛下は、平謝りした。

「──だが娘の話は本気だ。いますぐにとは言わん、考えておけ」

そう言ってアンドリューは俺の元を離れ、今度はサツキたち三人のほうへ向かっていって彼女らと話し始めた。

自由すぎる国王というのもいかがなものだろうかと、ふと考えさせられるのであった。