軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話

「おっはよーウィル。なぁ、見て見てこれ」

俺が食堂に下りていくと、ほかの三人はすでにいつものテーブルに集まっていた。

そのうちの一人、サツキが俺を呼び、胸元にあるものを見せつけてきた。

俺は自分もいつもの席に着くと、サツキが見せびらかすそれへと視線を向ける。

「それはEランクの冒険者証か」

サツキの胸元で輝くそれは、青銅製の小さなプレートだった。

よく見るとその表面にはサツキの名前が彫られている。

サツキは紐のついたそれを、ネックレスのように首から下げていた。

「ふふーん、そういうことだ。まだFランクのウィルは、あたしのこと『お姉ちゃん』って呼んでくれてもいいんだぜ」

えへんと得意げに胸を張るサツキである。

なお発言の内容は、だいぶ意味が分からない。

「Eランクになって、サツキのバカさ加減に拍車がかかったです」

「そうかしら。元々こんなものだと思うけれど」

ミィとシリルの二人は、いつも通りに淡々と朝食をとっていた。

彼女らの胸元にも、サツキと同様に青銅製の冒険者証が光っている。

サツキたち三人は、前回のアンデッド退治のクエスト達成により冒険者ランクがFからEへと昇進していた。

ランク自体はクエスト達成の段階で上がっていたが、新しい冒険者証を受け取ったのが今朝ということなのだろう。

ちなみにだが、俺もああした小型プレート状の冒険者証は持っている。

まだFランクのため普通の銅製だが。

冒険者登録をした翌日に、冒険者ギルドから受け取っている。

冒険者証は冒険者ランクによって素材が異なっており、かつその素材ごとの着色が為されている。

それを見れば冒険者ランクが一目でわかるようになっている、というわけだ。

それにしても、パーティで俺一人だけ冒険者ランクが低い状態というのも、少し落ち着かないものだ。

その心情を一度、ジョークとして表現しておくのも面白いかもしれない。

俺はそう考え、サツキの発言に乗ってみることにした。

「ではサツキお姉ちゃん。ちょっとそこのバターを取ってもらえるか」

俺は給仕に頼んで運んできてもらった朝食に手を付けながら、サツキに向かってそう要求する。

だがそれを聞いたサツキの反応は、奇異なものだった。

「ふひゃあっ」

サツキは変な声を上げて、ぶるりと身を震わせた。

そして椅子に座ったままどたばたと暴れだし、そのまま椅子ごと後ろに倒れた。

「や、ヤバい! ヤバいってこれは!」

起き上がったサツキは、そそくさと倒れた椅子を元に戻し、そこに座り直した。

何故か顔を赤くして、ハァハァと荒い息をついている。

「いえ、ヤバいっていうより……」

「どっちかって言うと、おぞましいです……」

一方のシリルとミィは、逆に顔を青くしていた。

いまいち反応がよく分からないが、反響は過去のジョークの中で最高であったと言えるかもしれない。

俺がそんなことを考えていると──気を取り直したシリルが、真剣な顔で別のことを聞いてきた。

「──それはそうとウィル、例のアレはどうするか決まったの?」

「ああ、アレか。……やはり考えなしに官憲や権力スジに渡すのは避けるべきだろうな」

「……やっぱりそうよね。……うちの神殿も、正直言って上の人たちは信用しきれないっていうのがあるのよね」

俺とシリルがそんな話をしていると、不思議そうに話を聞いていたサツキが、得心がいったというようにポンと手を打ち口をはさんできた。

「ああ、アレってアレか。あの山賊どもの館にあった、資料箱の中に入ってた紙だろ。あの箱、何であんなに厳重に鍵が掛かってて、罠まで仕掛けられてたんだろうな。確かあの辺の領主の名前が書かれて、ふががっ」

サツキの軽い口を、ミィがとっさに手でふさいだ。

ミィはすぐに周囲を見渡して特に注目を浴びていないことを確認し、ホッと安堵の吐息を漏らす。

それからサツキの口を解放して、彼女に向かって詰め寄った。

「バカですか!? サツキは本当にバカなんですか!?」

「……な、何だよ。あたし何かまずいこと言った?」

「言ったです! こんな公共の場で大声で喋っていいような内容かどうか、ちょっとは考えるです!」

「あー……あたしあのときぐったりしてて、紙に何書いてあったかちゃんと読んでないんだよな」

「……分かったです。ちょっとミィが説明するですから、大きな声出さないで大人しく聞くです」

「お、おう」

サツキはミィの様子に気圧されながらも、話を聞く姿勢を見せる。

サツキへの説明はミィに任せるとして、俺は件の書類の扱いについてあらためて検討することにする。

山賊の館の執務室にあった資料箱。

その中には、いくつかの当たり障りのない書類に混じって、より重要な書類──数枚に渡る「任務通達書」が入っていた。

そして、そこに記されていたのは驚くべき内容だった。

「なっ……! じゃあそのゴルダート伯爵が、山賊たちにあの村を滅ぼせって指示を出したってのか!?」

ミィの説明を受けたサツキが、小声で驚きの言葉を発している。

それを受けたミィが、口元に人差し指を立てて、それ以上喋るなと促す。

サツキはそれに、無言でこくこくとうなずく。

──そう、あの書類に書かれていたのは、まさにその内容だ。

何月何日に村を襲撃し、村の人間を皆殺しにすること。

事が済んだ暁には、相当額の金貨、もしくは土地及び農奴を与える。

追って連絡を送るので待て。

そういった内容の記述とともに「ゴルダート伯爵」の名が記され、ゴルダート伯爵家の名に誓って約束を守ることが示されていた。

そして俺は、資料箱の中からその一連の資料を回収し持ち帰ってきていた。

ゴルダート伯爵という名は、この近隣のとある一帯を治める領主のそれである。

この都市アトラティアから一日半ほど歩いた場所にある都市ゴルディア、及びその周辺の数十ほどの村は彼の領地で、滅ぼされたフィリアの村も、かのゴルダート伯爵の統治する領土であった。

だが領主が自らが統治する村を滅ぼすというのは、話の筋が合わない部分がある。

伯爵の領地は国王から預かっているものであるが、伯爵は領地に対する徴税権を持ち、徴収した税の一定割合を自らの懐に入れることができる。

どんな悪徳領主であったとしても、自らの財源をむざむざ捨てるというのは通常では考えにくい。

ほかにもいろいろな点で、疑問が尽きない内容の文書である。

その記述を鵜呑みにせず、様々な可能性を検討すべき内容ではある。

だが──

「……それが本当だとしたら、許せねぇ。フィリアはそいつのせいで……」

サツキの目に、怒りの感情が宿っていた。

俺はそのサツキに向かって、同意を示すためにうなずいてみせる。

「ああ、俺もサツキと同意見だ。……だが現状では、情報が少なすぎる。それに何より──俺たちは一介の冒険者だ。正義の味方ではない」

「……っ! 何だよウィル! じゃあこのまま知らないふりしろってことかよ!」

俺の言葉を聞いて、激昂したサツキがテーブルにバンと手をつき、立ち上がった。

テーブルの上の食器類が揺れる。

食堂にいた人たちの注目がサツキと、俺たちのテーブルに集まる。

「……サツキ、静かにして。 腸(はらわた) が煮えくり返っているのは、何もあなただけじゃないわ。私が信仰する神が何を司っているかは知っているでしょ」

シリルが紅茶に口をつけながら、サツキを睨みつける。

それを受けサツキは、不承不承と言った様子で再び席についた。

周囲の視線が、ちらちらとこちらを見る程度に弱くなる。

俺はそれを確認し、サツキに説明する。

「俺も先にも言った通り、サツキと同意見だし、サツキのその感情にも共感できるつもりだ。だが事は単純ではない。まず事実確認が先決だし、例の記述内容が事実だったとしても慎重に動かなければ潰されるのはこちらだ。社会的手段を視野に入れて検討する必要がある」

「……分かったよ、あたしが悪かった」

サツキは少し納得がいかないという様子で、それでもどうにか先の発言を謝ってくる。

俺は彼女に向かってうなずきつつ、もう一言を付け加える。

「それに、これも先にも言ったが──俺たちは冒険者だ。正義と信念のためにタダ働きをするというのも少々不健全だろう。何か活動をするならば、それを報酬に変えるべきだ」

「は……? 報酬に変えるって、え、どうやって?」

「その点に関しては、俺に一応の考えがある。うまくいくかどうかは分からんがな」

「はあ……。報酬って、自分で作れるもんなんだ……」

そんな呆れた様子のサツキをわき目にしつつ、俺は朝食へと取り掛かった。