軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話

俺がミィを手伝って、ゾンビの討伐証明部位を回収しに行こうとした、そのときだった。

「うっ……!」

その声を上げたのは、サツキだった。

何事かと見ると、サツキは苦しげに頭を押さえ、地面に膝をついていた。

その闇夜の炎に照らされた着物姿の少女には、「何か」が纏わりついていた。

それは青白い半透明の姿をした、サツキとは別の、裸身の少女の姿であるように見えた。

その姿は、ありていに言うと「少女の幽霊」だった。

「なっ……!? まさか──ゴースト!?」

サツキの近くにいたシリルが、そう叫んでサツキの傍からバックステップで離れる。

そして腰の 鎚鉾(メイス) に手を伸ばそうとして──しかし間違いに気付いて、その手を引っ込めた。

「違う、ゴーストは物理攻撃じゃ倒せない……。でも、私が使える奇跡じゃ……」

神官の少女はそう言って、悔しそうに歯噛みする。

唐突に現れた脅威に対し、彼女は為すすべを持たないようだった。

俺としても、突然何事が起こったのかと、驚かざるを得ないところだ。

だが慌てたところで、事態は改善しないだろう。

俺は努めて冷静に、学院時代に頭に叩き込んだ知識の中からゴーストというモンスターに関するそれを検索することにした。

アンデッドモンスター、ゴースト。

未練や恨みを残して死んだ魂が、浄化されずに地上に残ったもの。

肉体を持たない存在ゆえに物理攻撃で倒すことはできず、それは 魔法の矢(マジックミサイル) や 火球(ファイアボール) などの物理的なダメージを与える魔法でも同様だ。

ならば神官の 亡者退散(ターンアンデッド) ではどうかというと、あれは肉体を持ったアンデッドの負の力を浄化する奇跡であって、精神体であるゴーストには効力がないようだ。

一方で、ゴーストの側もこちらに対して干渉する能力はほとんど持たないのだが──しかしながら一つだけ、極めて厄介な能力がある。

憑依(ひょうい) 。

対象に取り憑いて、その肉体を乗っ取ってしまう能力である。

それにしてもこのゴースト、突然どこから現れたのかとも思ったが、精神体であるゴーストには、移動面での制限はほとんどない。

空を飛んで頭上から忍び寄るなり、地中を通り抜けて地面の下から襲い掛かるなり、いくらでも方法はありうる。

俺も街から出立する段階で 警戒(アラート) という魔法を張っていたが、この呪文の性質上、今回のケースではゾンビたちにまぎれて気付かなくても不思議はない。

さて、それはともあれ──この事態を、どうしたものか。

火球の呪文をすでに四回行使した俺に、残された 魔素(マナ) は少ない。

ならばひとまず──

俺は様々な選択肢を脳内で検討した結果、一つの呪文の行使を決定する。

呪文詠唱を開始。

「うぐっ……うあああああああっ!」

「サツキ! サツキ、しっかりするです!」

苦しむサツキと、彼女に寄り添って揺さぶるミィ。

その二人の姿を悔しそうに見つめるシリル。

やがて、サツキが叫び声をあげるのをやめる。

さきほどまでの苦悶の声が嘘だったかのように、ぴたりと静かになる。

サツキにまとわりついていたゴーストは、吸い込まれるように消え去っていた。

「さ……サツキ……?」

ミィがおそるおそる呼びかけると、四つん這いになって苦しんでいたサツキが、ゆらりと立ち上がる。

そして──

「──うふっ、うふふふふっ……あっはははははははは!」

その着物姿の少女は、夜空に向かって両腕を広げて、狂ったように笑い始めた。

「すごい! すごいわこの体! この力ならあいつらを殺せる! ぶっ殺せる! 皆殺しにできる! 待っていなさいゴミども、いますぐ殺しに行ってあげ──」

「── 眠り(スリープ) 」

「ふにゃん」

哄笑をあげていた少女が、ぱたりと倒れた。

一発で効いてくれたのは僥倖だ。

「ミィ、ロープを出してくれ。縛る」

「あ……はいです」

ぽかんとした様子のミィが、それでも荷物からロープを取り出し、サツキをぐるぐる巻きに縛りつけた。

それも、サツキのオーラによる筋力増加も考慮に入れて、絶対に逃げられないように三重のロープで厳重拘束する。

これでよし。

あまりにも唐突に現れた難事だったから対応に困ったが、これでひとまずの脅威は去ったと言えよう。

次のステップへ移行することにする。