軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十一話

変身(メタモルフォーゼ) の呪文を使って大鷲になり、大空を飛ぶことしばらく。

俺はようやく、その戦場へとたどり着いた。

そこは王国内のとある小都市。

中央広場から伸びる目抜き通りの一角を戦場として、王国軍と氷の魔王が対峙していた。

だが上空から見た感じ、状況はあまり芳しくはないようだ。

竜(イルドーラ) はすでに戦闘不能に追い込まれているようだし、王国軍の精鋭騎士たちも大多数が倒れて戦線を離脱している。

どうやら、楽観視せずに飛んできて正解だったようだ。

──俺とミィが遺跡を攻略し終え、炎の魔剣ほかの財宝を入手して外に出ると、そこにいるはずのアイリーン、サツキ、シリル、イルドーラが消え去っていた。

残されていた置き書きから、現地の事情が変わり彼女らが 竜(イルドーラ) を連れて急遽戦場に向かわなければならなくなったことが分かった。

それで俺はやむなく、ミィをその場に残したまま、 変身(メタモルフォーゼ) の呪文を使ってここまで飛んできたのだ。

大鷲の姿の俺の脚──鉤爪には、俺の杖とローブ、それに炎の魔剣が握られている。

炎の魔剣は、遺跡の最初の部屋でイミテーターが模していたものと同形の、フランベルジュ状の刀身が波打った剣。

俺はそれを、鞘に入った状態でここまで運んできていた。

竜(イルドーラ) がすでに倒れている以上、もはや 切り札(ジョーカー) はこの魔剣しかないと考えるべきだろう。

俺はひととおり戦況を見渡して、 その人物(・・・・) を見つけると、そこに向かって魔剣を落とした。

彼は実力においては、この場で最も信の置ける人物だ。

一方で俺自身は、氷の魔王を挟んでその人物の反対側に位置する場所へと降り立ち、 変身(メタモルフォーゼ) の呪文を解除する。

そして、叫ぶ。

俺が炎の魔剣を託したその人物──王国宮廷魔術師団長ジェームズ・グレンフォードに向かって。

「──親父、そいつを飛ばせ!」

炎の魔剣を拾い上げたジェームズは、俺のその言葉にわずかだけ黙考するような表情を見せた。

だがさすがの頭の回転の速さだ。

次の瞬間には口元をつり上がらせ、ニヤリと笑う。

「父親をあごで使うとは、お前も随分と偉くなったものだな、ウィリアム。──狙うべき場所は、分かっているんだろうな」

ジェームズはどこか嬉しそうな様子でそう言って、炎の魔剣を鞘から抜き放つと、呪文詠唱を開始。

「当然だ」

俺も杖をとり、ジェームズの呪文詠唱から少しだけタイミングを遅らせて、同様の詠唱を開始する。

だがさすがに、敵も黙って見てはいない。

氷の魔王は俺とジェームズとを見比べると、炎の魔剣を手にしているジェームズへと向かって駆けだそうとする。

だが黙って見ていないのは、王国軍とて同じこと。

「させるかよ!」

「私たちのことを忘れてもらっては困るんですよねぇ!」

その氷の魔王に向かって、アンドリュー王と騎士団長ディランが剣を手に猛然と駆け込んだ。

ほかの騎士たちやアイリーン、サツキもそこに参戦していく。

──ガンッ、ガキンッ、ガガガガガッ、ガッ、ギンッ、ガギンッ!

いずれもオーラをまとった戦士たちの、凄まじい速度での戦闘が開始された。

常人には何が起こっているのか認識することすら難しいほどの超人的戦闘。

「──ウィル! あと何秒!?」

そんな中からアイリーンの声が聞えてきたので、俺は呪文詠唱を止めないまま、タイミングを見計らって左手を開いて出してみせ、五、四、三と指折りしていく。

「オーライ、ウィル! 三、二、一──離れろ!」

サツキのその掛け声と同時に、氷の魔王に切り掛かっていた戦士たちが一斉に散開した。

さすがは王国の誇る精鋭たち、寸分の狂いもない。

そして、まったく同じタイミングで──

「── 武器投射(ウェポンシュート) !」

宮廷魔術師団長ジェームズが、炎の魔剣を発射した。

対象はもちろん、氷の魔王。

──しかし。

氷の魔王とて、その魔剣が最も危険であることは、見切っていたのだ。

「──ッ!」

氷の魔王は王国軍の猛攻でわずかに体勢を崩していたものの、高速で飛来した炎の魔剣の切っ先をすんでのところで回避してしまう。

そう来ることは分かっていたという動き。

「ウソだろっ!?」

サツキの驚きの声。

だがそれに、呪文詠唱を終えた俺の声が重なる。

「── 武器投射(ウェポンシュート) !」

「……へっ?」

サツキの間が抜けた声。

俺は氷の魔王が回避し、俺のすぐ横を飛び去ろうとしていた炎の魔剣を魔力によってキャッチすると、それをすぐさま方向転換させて、再び氷の魔王へ向けて投射した。

さすがの氷の魔王も、それには対応できない。

炎の魔剣の切っ先が氷の魔王の左肩に突き刺さると、そこを瞬時に焼き溶かして貫通する。

──ぶちんっ。

氷の魔王の左腕が、根元から千切れて吹き飛んだ。

「なっ……!? 急所を外れた!?」

今度はアイリーンの声。

だがその認識は、正しくない。

「──いえ、これで 詰め(チェックメイト) ですよ」

そう言ったのは騎士団長ディランだ。

彼は自分のもとに飛んできた氷の魔神の腕をキャッチすると、それをさらに遠くへと放り投げた。

それを確認した俺は、さらなる呪文詠唱を開始。

宮廷魔術師団長ジェームズも、自らの指揮下の宮廷魔術師たちに呪文の行使を指示すると、自らも呪文詠唱を開始する。

一方、ついに左腕をも失った氷の魔王は、天に向かって咆哮し、口を開いてそこにエネルギーを収束し始める。

あれは 吐息(ブレス) 攻撃か。

だが 吐息(ブレス) は、発動までに幾ばくかの時間がかかる。

それでは、もう遅い。

やがて宮廷魔術師たちの呪文が完成する。

「「「── 火球(ファイアボール) !」」」

宮廷魔術師たちの掲げる杖の先に、炎の魔力の塊が次々と現れた。

同時に、宮廷魔術師団長ジェームズの呪文も完成する。

「── 煉獄炎(インフェルノ) !」

行使したのは、最上級の威力を持つ炎属性の攻撃魔法。

火球(ファイアボール) よりもさらに凝縮された、超圧縮の灼熱の魔力球が浮かび上がる。

俺はまだ、あの呪文が使える領域には届かない。

だが総火力で比べるなら──

「 火球(ファイアボール) ──」

俺は宮廷魔術師たちやジェームズと、ほぼ同時に呪文を発動。

そこにさらに、 固有技能(ユニークスキル) による効果を乗せる。

「── 多重呪文行使(マルチプルキャスト) !」

残りの 魔素(マナ) をすべて注ぎ込み、生み出した火球を三つに増やした。

それを見たジェームズが、驚きに目を見開く。

だがそれはそれ。

お互い仕事はしっかりとやる主義だ。

俺は三つの火球を、ジェームズは一つの煉獄炎を、ほかの宮廷魔術師たちはそれぞれ一つの火球を一斉に放つ。

氷の魔神を魔法から保護していた消魔の指輪は、その左腕が失われた時点で、やつのもとにはない。

騎士団長ディランが言った「 詰め(チェックメイト) 」とは、そういうことだ。

炎の魔法群は、一瞬の後に氷の魔神のもとへと着弾し──

爆音、轟音、と形容するのも生ぬるい。

一瞬にしてすべての音が飲み込まれて消え去るような聴覚情報。

それとともに、紅蓮と爆炎と灼熱に彩られたかつて見たことのないほどのまばゆい輝きが巻き起こった。

その、この世全ての熱量を集めたような光も、やがては自然の摂理にしたがって消え去り──

あとには、何も残っていなかった。

そこにあったあらゆるものが溶解し、中央通りの地面の一角はマグマ溜まりのようになってえぐられ。

そして、かつて氷の魔王と呼ばれたものも、あとかたもなく消失していた。

しばしの静寂。

その後。

「「「──ウォオオオオオオオッ!」」」

騎士たちが勝利の雄叫びをあげた。

俺もそれで緊張の糸を解き、大きくため息をつく。

どうにかなったようだ。

王国軍はそれから、残った氷の魔神の腕も焼き切るなど入念な後始末をし始める。

ジェームズはというと、アンドリュー王と一言二言話して一礼すると、俺のほうへと向かってきた。

そして、俺の前まで来ると一言。

「ウィリアム──よくやってくれた。客観的な観測として、お前たちがいなかったらこの国は滅びていたと評価するしかない。助かった、礼を言う。──だが、一つだけ言わせてもらう」

「何だ?」

「そろそろ服を着なさい。淑女たちもいる」

そう言ってジェームズが指し示す先には、両手で顔を覆ったアイリーン、サツキ、シリルの姿。

指のすき間からチラチラこちらを見ているように思えるのは、きっと気のせいだろうが──

「……あ、ああ。そうだな」

また忘れていたが、 変身(メタモルフォーゼ) を解いた俺は全裸だったのだ。

俺は慌てて、足元にあったローブを羽織るのだった。