軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十三話

王都に入ると、俺たちはまず今日の宿を取り、夕食を済ませてから王城へと向かった。

夜の帳が下りた中央通り、住居の灯りと 光(ライト) の呪文による街灯の照明を頼りに道を進んでいく。

「なあウィル。今更なんだけどさ、ちょっと聞いていい?」

そんな最中、前を歩くサツキがふと顔だけをこちらに向けて、そんなことを言ってきた。

嫌な予感がしたが、一応聞き返す。

「ああ、何だ」

「いや、あのさ──あたしたち、何で王都まで来たんだっけ?」

がくん。

俺、ミィ、シリルの三人がつんのめった。

嫌な予感は見事に的中していた。

いち早く気を取り直したミィが、隣を歩くサツキを軽く肘で小突く。

「よくそれでここまでついてきたですねサツキは……。アイリーンに呼ばれてきたですよ」

「ああうん、それは覚えてる。あれだろ、鏡に映った相手と喋れる魔法……何だっけ」

「 交信(コンタクト) のことです?」

「ああそう、それ。それで姫さんが、王都に来てほしいって言ってきたんだよな」

さすがのサツキでも、それは覚えていたらしい。

数日前、鉱山都市ノーバンにいた俺たちは、そこで王女アイリーンから連絡を受けた。

魔法の鏡を使って遠距離間をつなぐ 交信(コンタクト) の呪文で、彼女は俺たちに、仕事の依頼があるから王都まで来てほしいと伝えてきた。

それで俺たちは、数日をかけて王都までの旅路を歩んできたのだ。

「で、サツキは何が分からないです?」

「いや、なんかさ、呼ばれた理由あったじゃん。それが何だったかなーって」

「『魔王』のことですか?」

「あ、それだ! その『魔王』って何なのよって、あたしが聞きたいのはそれよ」

「……なるほど。分かった、説明しよう」

ミィが論点を整理してくれたところで、俺はサツキの疑問に答えるべく、魔術学院時代に学んだ知識の一つを脳内から取り出してくる。

そしてなるべくわかりやすいように、順を追って説明することにした。

「サツキは『魔族』に関しては知っているか?」

「んー、よく知らないけど、何となく? 肌が紫色の顔色が悪い奴らで、牙とか角とか爪とか生えてて……確か、結構強いんだったよな? 『魔界』とかいうとこに住んでるんだっけ?」

端的なイメージによる回答が返ってきた。

まあ、ある意味で的を射ているとも言える。

「そんなところだろうな。実際のところ、魔族に関しての詳しいことは生物学の見地からもまだよく分かっていないというのが現状だ。だから外見イメージとモンスターとしての驚異度、それに生息地などといった情報で語るのは、意外と悪くないアプローチだと俺は思う」

「ふぅん……それって、あたし褒められたってこと?」

「……ま、まあ、ものすごく端的に言えばそうだが」

「やった! ウィルに褒められた~♪」

「…………」

小躍りを始めるサツキ。

俺はときどき、この美人で剣の腕も立つが、他の部分がすごく残念な少女のことが心配になる。

「……まあいい。それで魔族についてだが、サツキの言う通り一般には『魔界』と呼ばれる異界に住んでいるとされる種族だ。一応の人型だが、肌の色は紫から群青色で、個体差はあるが鋭い牙や爪、角などを生やしているものが多く見受けられる」

「ふむふむ、あたしのイメージだいたい合ってた。さすがあたし」

「…………。そしてモンスターとしての驚異度だが、最も弱い一般的な魔族でも、モンスターランクCに相当するというのが一般的な評価だ」

なおモンスターランクCというのは、ある程度以上の経験を積んだ平均的な実力の冒険者パーティが、パーティ全員で一体を相手にしてどうにか問題なく対応できるといったレベルの強さになる。

鉱山都市ノーバンで何度も撃退したロックワームの成体がDランクであるから、それよりも一つ上のランクだ。

「ふぅん……ちょっち強いけど、一人で勝てない相手でもないってとこか。確かオークエンペラーの一個下、オークロードがCランクだったっけ? ──ま、油断は出来ねぇけど、あのぐらいだったら何とかなるな」

サツキがそう言うと、横でシリルが眉をひそめる。

「……あのねサツキ、あなたの実力を基準にしないで頂戴。いまのあなた、ちょっと尋常じゃない強さだって自覚持った方がいいわよ」

「……ん? そうなん?」

「そうよ。私みたいな凡人から見たら、Cっていうモンスターランクは、数人で束になって掛かってようやくっていう相手なんだから」

俺もシリルの言葉に大きくうなずく。

確かに、いまのサツキの強さを基準に物事を考えると、色々とおかしくなる気はするな。

俺の見立てでは、いまのサツキはBランク冒険者に相当するかなりの実力者だ。

冒険者全体から見れば明らかにトップクラス、上位五%以内には入ってくるだろう。

なお先のように言うシリルでさえ、 神官(ホーリーオーダー) としては 侍祭(アコライト) 級──街の神殿なら副神殿長を務められるほどの実力を持っている。

本人が言うほど凡人ではない。

そしてそれは、もう一人のパーティメンバーであるミィとて同様だ。

盗賊(シーフ) として十分な実力を持つ上に、身体能力を強化するオーラを扱えるようになってからは、戦闘能力も並みの戦士を上回るほどになっている。

だがそんな彼女らも、日常の会話風景を見ていれば──

「サツキはきっと、オツムに回るはずの栄養が全部剣の腕に吸われているです。しょうがないです」

「そうそう。あたしはその分、頭が悪い──ってミィちょっと待って、それはひどくない!?」

「そしてシリルはおっぱいに吸われているです」

「おっ……!? ……ねぇミィ、あとで神殿の懺悔室に来てもらえるかしら?」

……何というか、非常に愉快なやり取りを繰り広げるばかりの、普通の美少女たちである。

いや、「普通の美少女」という表現もまたアレだが、どういうわけか実際に美少女揃いなので仕方がない。

しかし愉快なのは良いのだが、話が進まないのも問題だ。

「すまない、説明を続けてもいいか?」

「「「あ、はい」」」

俺が一声かけると、三人とも静粛になった。

それを確認して、俺は説明を再開する。

「で、その魔族だが、ほかの種族もそうであるように、当然ながら個体差がある。中には飛び抜けて強力な個体もいるわけだが──『魔王』というのは、その強力な個体の中でもとりわけ抜きんでたものを指す。魔王級の魔族の存在は、人類の歴史上でも数体しか確認されていないはずだ」

俺のその言葉に、三人の少女たちが、ごくりと唾をのんだ。

そしてサツキが、恐る恐る聞いてくる。

「……そ、それって相当ヤバいやつなんじゃねぇの? いやだって……普通の魔族でCランクだろ? じゃあその魔王って……」

「ああ、相当な化け物だ。魔王が配下の魔族と共に国内に現れた場合、中小の国なら存亡の危機、ここグレイスロード王国ぐらいの大国でも、近隣の国との緊張関係、軍事・政治レベルに大きな影響を及ぼすほどの一大事になると予想される」

「うぇぇぇええっ!? ……ま、マジかよ……何であたしらそんなのに関わろうとしてんの……?」

「そこまでは分からない。それを聞くために、いま王城へと向かっているところだ。……これでだいたい状況がつかめたか、サツキ?」

俺がそう聞くと、サツキはこくこくと首を縦に振った。

さすがのサツキも、ここまで説明すれば事の大きさが理解できたらしい。

サツキがいくら個人として強くとも、魔王出現というのはそういったレベルの問題ではないのだ。

だがその一方で、ミィが新たな疑問をぶつけてくる。

「でも、そんなものが突然『出現』ってどういうことです? というか、『魔界』って何なんです?」

少し厄介な質問だった。

俺は慎重に言葉を選び、説明をしていく。

「それも、『分からない』と答えるべきだろうな。有力な説の一つとしては、魔界は我々の世界と別の位相にある異世界で、両者が一定以上近付いたときに干渉現象──すなわち互いの世界の物質や生物の異世界間移動が起こる可能性が──」

「あ、ごめんなさいです。ミィには理解するの無理そうです」

「む……そうか」

ミィが理解をギブアップした。

ちなみにサツキはというと、ぱっかりと開けた口から魂のようなものが出ているようだった。

「……まあ、魔界という名の異世界があって、そこからごく稀に魔族が突如瞬間移動してくるようなものだと思っておけばいいと思う」

一応、ある程度噛み砕いた説明を加えておく。

するとどうにか話についてきていたシリルが、もう一歩踏み込んだ質問をしてきた。

「えっと……魔族っていうのは、その魔界と私たちの世界とを、自由に行き来できるものなの?」

「いや、それはおそらく不可能であろうと目されている。だからその説が正しければ、この世界に飛ばされてきた魔族というのもまた、干渉現象の犠牲者とも言えるな」

「……でも、そうは言っても向こうが平和的に来てくれないなら、武力でぶつかるしかないっていうわけね」

「そういうことだ。そして歴史上、魔族が人類に対して平和的な態度をとってきたという例は皆無だ。少なくとも俺が学んだ範囲ではな」

そんなことを話しながら夜道を歩いていると、やがて俺たちは王城の前までたどり着いた。

俺は城の門を守る門番に、王女アイリーンに呼ばれて訪問したことを伝える。

そしてしばらく門の前で待っていると、王城の門の奥に、中庭をパタパタと駆けてくる人影が見えてきた。

男装で、銀髪をショートカットにした美少年とも美少女とも見えるその人物は、俺たちの前まで来るとその華やかな笑顔を向けてくる。

「来てくれてありがとうウィル。それにサツキちゃん、ミィちゃん、シリルさんも。とりあえず中に入って。僕の部屋で話をするから」

そう言って、この国の王女にして俺の幼馴染であるアイリーンは、俺たちを先導して中庭を歩き、城の本館へと向かっていった。

俺たち四人は、彼女に従って城の中へと踏み込んでいった。