軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十八話

ロックワーム退治を終えた俺たちは、坑道を戻って街へと帰還した。

井戸のような縦穴の梯子を上って外に出ると、どうやら今は昼下がりという時間のようで、柔らかな日差しを身に浴びることになった。

随分と長く潜っていたような気がしたが、その実質は数時間といったところだろうか。

今の時刻を思うと、そういえば昼食を食べていなかったなと思い出し、急に空腹を覚え始めるのだから不思議なものだ。

「んんっ……! やっと外だー! やっぱ、お天道様の下が一番だよな」

サツキが伸びをしながら外の空気を味わっている。

かなり上機嫌のようだ。

やはりサツキが明るいと、パーティのムードが明るくなる。

良くも悪くもムードメーカーなのだなと思う。

「ですです。ミィももう、狭いトンネルにはしばらく潜りたくないです。……それはそうとアレ、どうするです?」

一方のミィも開放感を満喫しているようだったが、そんな彼女がふと坑道の入り口を指す。

俺とサツキもそちらへと視線を向ける。

そこに誰かがいるというわけではない。

いるのは、その下だ。

サツキが坑道の入り口まで無造作に歩いていって、その場所から底を覗き込む。

「おおーい、シリルーっ! いつまでいじけてんだよ。早く帰ろうぜ」

俺とミィもそちらへ行って覗き込むと、縦穴の底で神官衣の少女が膝を抱えて座っているのが見えた。

彼女は穴の底から、アンデッドもかくやという暗い声でぼそぼそと言葉を発する。

「……いいの。私にはもう、みんなと一緒にいる資格なんてないの。こんなクズは放っておいて、もっといい 神官(ホーリーオーダー) を探して。私はここで果てて干からびるわ……」

穴の底の美少女は、凄まじい負のオーラを放っていた。

あの姿で荷馬車に乗っていたら、どこかの街の奴隷市場で売られてしまいそうな勢いだ。

ちなみに、先には「何でもするから見捨てないで」と言いつつ、今は捨ておけというのだから、おそらく彼女の発言内容に何か意味があるとは思わないほうがいいのだろう。

純粋に落ち込んでいるだけだと判断したほうが良さそうだ。

そもそもここまでついてきて出口直前になって駄々をこねているあたり、構ってほしさが如実に見える。

このまま放置して帰ったらどういうリアクションをするのだろうかとサディスティックな好奇心が首をもたげたりもするが、これ以上精神ダメージを与えると本当に壊れかねないのでやめておこう。

「っつか、何でシリルあんなになってんの?」

「んー、どうもパーティなのにクエスト達成に協力しなかった自分をクズだと思って落ち込んでいるみたいです。ぶっちゃけ今回ミィもほとんど何もしてないですけど、結果じゃなくて意志の問題とか何とか言ってたです」

「ふーん。にしても世話が焼けんなぁ。そんなこと気にしなきゃいいのにな」

「それ、昨日あれだけボコボコに落ち込んでいたサツキが言ったらダメなやつです」

サツキとミィがそんなやり取り。

まあシリルのあれは責任感の強さの裏返しなんだろうが、どうもそれと現実の自分のありかたとのギャップに耐えられずに幼児退行してしまったようだ。

俺は一つため息をつく。

「仕方がない。行ってくる」

「行ってくるってウィル、行ってどうすんのあれ? 梃子(てこ) でも動きそうにないんだけど」

「さてな。ひとまず子供でもあやすつもりでやってみるよ」

俺は先ほど上ってきた梯子を再び下りていく。

縦穴の底にたどりつくと、膝を抱えてうずくまっているシリルの前に立ち、とりあえずその頭をなでてみた。

「シリル。大丈夫だから気にするな。キミの仲間たちがそんなに狭量だと思うか?」

「うぅっ……でも、私……最低で……」

瞳に涙をいっぱいにためて見上げてくるシリル。

困ったことに、その姿はとても可愛い。

しかし困ったことには変わりないので、ここは一つジョークを織り交ぜてみることにする。

「ふむ……何ならシリル、俺が胸でも揉もうか?」

「ぐすっ……そんなことされたって…………って、はい?」

シリルが首を傾げた。

さらに頭上から声が降ってくる。

「へっ? ……あれ、あたし今、ウィルの声の空耳が聞こえたような……」

「空耳じゃない気がするです。ミィにも聞こえたです。……い、今、ウィリアム、なんて言ったです……?」

何だかすごく微妙な空気を感じる。

俺はこほんと一つ咳払いをする。

「胸でも揉もうかと言ったのだが──いや、ちょっとしたジョークだ、本気ではない。ほら、サツキが落ち込んでいるとき、シリルが罪と罰がどうのと言っていただろう。あれをヒントにしたのだが」

「…………」

「…………」

「…………」

場の空気が固まった。

何の反応もない。

というより、場が凍り付いたといったほうが適切だろうか。

気温が数度下がったような錯覚を覚える。

「……ウィリアム」

上からミィの声が聞こえてきた。

見上げると、ミィが悲しそうな表情で首を横に振った。

「ウィリアムのジョークのセンスは壊滅的です。そしてそれが今日、さらに更新されたです」

「ウィルぅ、それはダメだよ~。──おーいシリルー、いいから上がってこーい」

「あ、うん、そうね。……ウィリアム、上は見たらダメよ?」

「あ、ああ……」

なぜか気を取り直したシリルが梯子を上っていくと、やがて三人の少女たちはきゃいきゃいと普段話をしながら、さっさとその場から立ち去って行った。

一人縦穴の底に取り残された俺。

「……解せぬ」

つぶやく。

シリルが立ち直ったのだから、これは結果良しと見るべきなのだろうか?

俺は頭を掻きつつ、自分も再び縦穴の梯子を上っていった。