軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十三話

敵の能力も加味した上で、行使する呪文を再検討、最善と思う強化構成を決定する。

魔素(マナ) の残量、消費量とも相談し、最適解を導き出す。

結果、行使を決めた呪文は四つとなった。

サツキに対して行使する呪文の一つ目──

それは、まず何よりも 身体能力増強(フィジカルバースト) だ。

俺は呪文を唱え、サツキにその効果を宿らせる。

すると──

「──うはっ!? な、何だこれ、体から力が湧き出てくる……! マジかよ、すげぇ……!」

サツキのテンションが一気に上がった。

彼女の体からは、魔力とオーラが入り混じった力が肉眼で目視できるほどの輝きを持ってあふれ出していた。

「あ、その呪文、ミィも知ってるです! オークエンペラーとの戦いで、ミィやアイリーンに使った呪文ですね?」

「ああ。筋力や敏捷性をはじめとした身体能力全般を大幅に強化する効果がある上級魔法だ。この呪文一つだけでも、ランク一つ分ぐらいの戦力差はゆうにひっくり返すだけの力がある。──では、次だ」

続いて行使するのは、 炎熱武器(ヒートウェポン) 。

これは 魔力武器(エンチャントウェポン) の上位互換に相当する中級魔法である。

俺が呪文の詠唱を終えると、サツキの刀に燃え立つ炎のような赤橙色の魔力の輝きが宿った。

「んんっ? 刀に魔法……?」

「ああ。ではサツキ、その刀でこの岩壁を軽く斬ってみてくれ」

俺はそう言って、傍らの岩壁に手をついてサツキに指し示す。

「……へ? いや、ロックワームみたいに皮膚だけ岩っぽいのならともかく、ガチの岩はさすがに斬るのキツイんだけど……」

「いや、そんなに気張らなくていい。軽くで構わない」

「んー? 軽くって、こう……? ──うおっ、なんじゃこりゃ!?」

サツキがトンネルの岩壁に刀で軽く斬りつけると、刀の刃先が触れた部分からドロッと岩が溶けて、柔らかいバターにナイフを入れるようにスッと刃が通った。

「それが 炎熱武器(ヒートウェポン) の効果だ。その魔力が宿す熱量は、火山のマグマが持つそれに匹敵する。なお武器そのものは防熱の魔力で保護されているから安心してくれ」

「ふえぇっ……何だこれ。こんなのロックワームの皮膚なんか楽勝で真っ二つじゃん」

サツキは感動して、その刀で岩壁をスパスパと斬り裂いていた。

実際にはそれほどの速度で斬れるのはサツキの技量もあってこそだが、いずれにせよ攻撃力が大幅にアップする呪文であることは疑いない。

次いで、俺はさらに三つ目の呪文を唱える。

上級の防御系呪文、 物理障壁(フォースフィールド) だ。

呪文が完成して魔力がサツキの体に吸い込まれる。

「えっと……これは?」

「 物理障壁(フォースフィールド) ──対象の体の周囲に不可視のバリアを張る呪文だと思ってもらえばいい。あの怪物の攻撃でも、ダメージを二発までなら完全無効化してくれるはずだ。ただこれはあくまでも保険だと思ってほしい。基本的には一撃も貰わないつもりで挑んでくれ」

「オッケー了解。……あ、でもダメージってことは、触手に絡みつかれるのは防いでくれない?」

「ああ、そういうことになる。締めつけ攻撃でもしてくれば、そのダメージだけは吸収するが──触手への対策は、最後のこの呪文で行う」

俺はそう言って、四つ目の呪文を唱える。

そしてその呪文の効果の説明を終えると──

「……へっ、マジで? それってもう負けようなくねぇ?」

「ひ、ひどいです……むしろ触手が可哀想になってくるです……」

サツキとミィが、そんな感想を漏らした。

それを聞いた俺は、ふと笑う。

「まあ、見えている範囲の脅威はすべて潰したつもりではある。そういうわけだから──思う存分暴れてこいサツキ。キミのことは、俺の魔法が守る」

俺のその言葉に、サツキは感極まったという顔をする。

なんだか今にも泣きそうだ。

「ウィル──あたし、ウィルのこと今すぐ抱きしめたい!」

「……やめてくれ。俺を殺す気か。四つ目の呪文の効果の説明を聞いていなかったのか」

「ふひひっ。じゃあ帰って来てからにする!」

「……そうか」

何だか戦いが終わったあとが色々怖い気もするが、そのときはそのときだ、またそのときに為すべき最善を考えよう。

「うっし、テンション上がったぁ! じゃ──行ってくる!」

サツキはそう言ってトンネルから身軽にぴょんと飛び出る。

そして坂道を、凄まじい速度で駆け下りていった。

そのスピードは 岩従者(ロックサーヴァント) のそれと比べると段違い、数倍の速度だ。

俺はトンネルから顔を出し、サツキの背中に声をかける。

「サツキ──気を付けろ、と言いたいところだが、キミにこの言葉は逆効果なのかもしれん! だから言い方を変える──キミのベストを尽くせ! それがどういう方法なのかは、キミのほうが分かっているだろう!」

その声が届くと、サツキは軽く手をあげる。

そして疾風のような速度で駆け下りていったサツキは、あっという間にロックワームの幼虫の群れへと突入していったのだった。