軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十一話

そんなこんながありつつ、サツキも含めて食卓についた俺たち。

四人で食前の礼をしつつ食事に取り掛かる。

「……いただきます」

だがサツキの声には、いまだに元気がなかった。

普段は必要以上にあれこれと喋る彼女だが、今日はご馳走だというのにどうも元気がなく、暗い雰囲気でちまちまと料理を口に運んでいた。

そして実は、サツキが喋りはじめないと会話が転がらないのがこのパーティだったりもする。

こう言うとサツキをバカにしているようだが──あまり深く考えずに軽率に何かを喋る人間というのは、コミュニケーションの場において必要な存在なのだと思う。

だがその点において当のサツキが機能していない以上、その代替役となる役者が必要になってくる。

そういったことは得意ではないが、やむを得ない。

そう思って、俺が口を開こうとしたとき──

「……なぁ、ウィル」

サツキが先に喋りかけてきた。

言葉少なに、彼女らしくなく。

「なんだ、サツキ」

「その……やっぱり、ごめん」

うつむたまま、そう言ってくる。

やはりシリルの「荒療治」も、そう劇的に効いたわけではないらしい。

シリルとミィも、その様子を見て小さくため息をつく。

二人とも、何かを言おうとして、それをのみ込んだ様子でもあった。

一方の俺も、これ以上サツキに何かをしてやろうという気は起きなかった。

おそらくサツキ自身も、何について謝っているのかも分からずに謝罪の言葉を口にしているのだろう。

──人は何か失敗したり、うまくいかないことがあれば、心にダメージを負う。

それが短期間にいくつも積み重なれば、ダメージは甚大となる。

例えば──俺にはこんな思い出がある。

俺は子供の頃、不注意で家の高価な花瓶を割ってしまったことがあった。

それはあらかじめ親から「高価なものだから気を付けろ」と言われていたもので、取り返しのつかないことをしてしまったと思った。

俺もさすがに幼少期なので、子供の手の届くところにそんな高価なものを置いておくほうが悪い、などと責任転嫁をするような小賢しい知恵もなく、素直にショックを受けた。

だが、その一部始終を見ていた母親は、俺を叱らなかった。

俺の前でしゃがんで目線を合わせ、「お父さんが帰ってきたら、ちゃんとごめんなさいするのよ」と言って、それに俺がうなずくと、「うん」と言って笑顔を見せ、頭をなでてくれた。

それだけならまだ良かったのだ。

それからすぐ──割ってしまった花瓶の片づけが済んだ後、父親が帰ってくるよりも前。

罪悪感に苛まれて呆然自失としていた俺はさらに、水を入れて飲もうとした陶器のコップをも、取り落として割ってしまったのだ。

俺はそれでついに頭が真っ白になり、気持ちがぐちゃぐちゃになった。

結果、俺はわんわんと泣きじゃくり、さすがの母親もどうすることもできなかったようだった。

それから俺は、帰宅した父親からこっぴどく叱られたが、その説教の内容はよく覚えていない。

ただ自分を否定され言葉で心を滅多打ちにされる時間だけが、何十分も、何時間も続いたように感じていたのを覚えているばかりだ。

そして説教の時間が終わっても、その日はもう寝るまでずっと、悲しくて辛くて苦しくて、この世から消えてなくなってしまいたいという気持ちばかりが胸の内側をぐるぐるとしていた。

どうしたらその悲しみや苦しみから逃れられるのか、そればかりをずっと思って、ベッドでうずくまって、泣いて、泣いて。

でも──

その気持ちは一晩寝て、翌朝になれば概ね消え去っていた。

そしてそこに至ってやっと、考えの整理もできるようになった。

俺は前日には言い訳ばかりしていて言えなかった謝罪の言葉を、父親に言った。

父親──まだ今よりも幾分か若かった頃のジェームズ・グレンフォードは、「よし」と言って俺の頭をなでた。

あの男は、父親としては必ずしも不出来なばかりではなかったのだと思う。

いずれにせよ──

どうしようもなく滅多打ちに傷ついた心というのは、時間によってしか修復できないという側面はあるのだと思う。

そして、今のサツキはおそらくそういった状態で。

失敗に失敗を重ねてしまって、どうしたらいいかも分からなくて、ただ悲しくて辛くて苦しい、そんな精神状態で。

それを即席でどうにかしたいと思うのは、俺のある種のエゴなのであろう。

だから俺は──

「──サツキ」

俺が呼ぶと、対面でうつむいて食事をしていたサツキが、ビクッと震えた。

その目は俺を見ようとしない。

何かに怯えた小動物のようだった。

俺は彼女に向けて、特になんてことのない言葉をかける。

「大丈夫だ。明日になったらでいいから、またキミの笑顔を見せてほしい。俺は存外、キミが笑顔でいる姿が好きらしい。あとこのスープ、なかなかいけるぞ」

「えっ……は……? ……う、うん。……あ、ほんとだ、うまい」

頬を真っ赤に染めて驚いた顔をしたサツキは、それから俺の勧めのままにスープをすすり、少しだけポジティブな感想を述べたのだった。