軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十三話

~一方のウィリアムたち~

ミィとサツキが前衛に立ち、俺とシリルは後衛。

どうにか二人が並んで戦える程度の道幅がある坑道を、俺たちは進んでいく。

坑道はやや扁平な洞窟構造で、道幅と比べて天井までの高さのほうがだいぶ低い。

道幅よりも、どちらかと言うと気になるのはそちらだが──

俺の横を歩くシリルが、ふと俺の頭上へと視線を向けてくる。

「やっぱりウィリアムの背丈だと、ちょっと出っ張っているところがあると頭ぶつけそうね。……大丈夫?」

「ああ、どうにかな。しかし先輩冒険者たちのリーダーらしき男、彼は大男だったから、このぐらい天井が低いと相当窮屈だろうな」

「ああ……いたわねそんな人。でもあんな手合い、少し窮屈な想いをするぐらいでいいわ。ざまぁ見ろよ。女を性欲のはけ口ぐらいにしか思っていないんだから……どうして冒険者の男ってあんなのばかりなのかしらね。ウィリアムの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに」

俺が例のDランク冒険者たちの話を引き合いに出すと、シリルは露骨に眉をひそめて悪口を言い始めた。

彼女にしては口が悪い。

彼らに対しては、相当フラストレーションがたまっていたのだろう。

「ふむ……だが女性というのは案外、気遣いばかりの男よりも豪放な男らしさを好むとも聞くが。そういうものではないのか?」

「んん……? それは私の好みを聞いているのかしら」

「いや、どちらかというと一般的な話を聞きたい」

「あ、そう。でも一般的と言われてもね。私には私のことしか分からないし。……でもそうね、ウィリアム、あなたにならもっと豪放に迫って来られてもいいかなって思えるわ」

そう言って、横合いから俺を見上げてにっこりと笑いかけてくるシリル。

俺はその姿に、少しドキッとしてしまう。

そしてどうしたものか困った俺は、シリルに向かってこんなことを聞いてしまった。

「……あー……ひとつ聞いていいか、シリル?」

「ん、なぁに、ウィリアム?」

「キミのそれは、俺に対する色恋事へのアプローチなのか?」

俺はストレートに聞いてしまった。

迂遠に聞いても仕方がないし、そんな頭が回る状況でもない。

だがシリルは、その俺の質問にも真っすぐに答えてきた。

「ええ、そうよ。そのぐらいは気付いてくれるのね」

なおもにこにこと笑顔でそんなことを言ってくる。

その様子には気圧されてしまうのだが……しかしそうなると、もう一つ疑問が出てくる。

「……俺はキミたちに、すでに俺のスタンスに関しては説明したつもりなのだが。その……キミたちのそのアプローチに対して、俺はどういう反応を期待されているのかがまったく分からん」

そう。

俺はサツキ、ミィ、シリルの三人には、男女の関係になるつもりはないと明言したし、その理由もきちんと説明したつもりだ。

深い考えがなさそうなサツキはともかくとしても、シリルまでがこのような行動を取ってくるのは理解に苦しむ。

だが──そうするとシリルは、一度虚を突かれたという顔になり、次にはくすくすと笑い始めた。

「ふふっ、真面目ねウィリアムは。あなたのそういうところ好きよ? ……じゃあ、お姉さんが答えを教えてあげます」

そう言ってシリルは──

あろうことか、まるでサツキがそうするように、全身で俺の右腕に抱き着いてきた。

神官衣の下の豊満な胸が、布地越しに俺の腕にぎゅっと押し付けられる。

「お、おい、シリル……!」

「ふふっ、どう、ウィリアム?」

「どうと言われても……」

サツキのものよりも大きい、などと素直な感想を言えるわけもない。

ただひたすらに、戸惑うことしかできなかった。

だがそうしていると、シリルはスッと身を引いた。

よく見ると、耳まで真っ赤になっているようだが……。

彼女は俺を見上げ、再び口を開く。

「それでいいのよ。あなたがあなたらしい反応を見せてくれれば、私はそれで満足。──つまりね、私はあなたをからかって、あなたの心を弄びたいの。あなただって私たちの心を弄んでいるんだから、お互い様でしょう?」

「な……なんだそれは……」

無茶苦茶な理屈だった。

そんな色恋事の仕方は、聞いたことがない。

「ふふっ、私にとっては結構お得なのよ? いつまでもこうして、恋心とドキドキを楽しめるんだから。振り向いてほしくないって言ったら嘘になるけれど、これはこれで私は楽しいの。だからあなたはそれでいいわ」

「…………」

正直、未だ理解に苦しむというのが本音だった。

だが彼女がそれでいいと言っているなら、それでいいということにしておいても大きな問題はないのだろうか。

「はあ……シリルまでビッチ化ですか? ミィはもっと常識人とパーティを組んだつもりだったですけど」

前を歩いていたミィが、視線だけを後ろに向けつつそう突っ込みを入れてくる。

その目はこれ以上ないというほどのジト目になっていた。

「そうだよ。あたしのこと遊女とか言っといて、シリルのがずっとヤラシイ感じじゃん。ってかシリルそんなキャラだっけ? 神官(ホーリーオーダー) ──ってか、神様的にはそういうのアリなの?」

サツキも釈然としないという様子で文句を言ってくる。

だが対するシリルはと言えば、そんな批判はどこ吹く風だ。

「光と正義の女神アハトナは寛大よ。恋心も、好きな人にアプローチをかけることも悪ではないわ。……でもそうね、そのせいでときどき知性がどこかに吹き飛びそうになることは、教義に反していると言えば反しているかしら。ふふふっ」

「ったく、適当なもんだな 神官(ホーリーオーダー) ってのも」

「ですです」

珍しくミィとサツキが声を合わせて、非難の矛先がシリルに向かうという事態になっていた。

俺としては、どこに肩入れしたものか分からず頭をかくばかりだった。

──が、そのとき。

俺の脳裏に、一つの反応があった。

「むっ──来たか」

俺のその一言に、少し前まで談笑をしていた少女たちが、さっと緊張した様子を見せた。

このあたり、冒険者としてのメリハリはきちんとできている彼女たちだ。

なお、何が来たかと言えば、それはもちろん──

「来たって、ロックワーム?」

「ああ。おそらくそうだ。かなり大型の生物が、 警戒(アラート) の感知膜を抜けた」

シリルと俺がそんな言葉を交わす間にも、ミィは身を伏せ、その猫耳を地面に当てていた。

「……かすかに音がするです。だんだん近づいてくるです」

「どっちから来る?」

刀の柄に手を添えたサツキがミィに聞くが、ミィは首を横に振る。

「そこまではミィには分からないです。──ウィリアム、 警戒(アラート) の呪文は、方向は分からないですか?」

「いや、分かる。前方右下方──だがその後の進路までは 警戒(アラート) だけでは分からん。 透視(シースルー) を使う」

俺はそう宣言して、呪文を詠唱。

伝えた通り、 透視(シースルー) の呪文を発動する。

それから全周囲の壁を視界から除外した。

透視(シースルー) の効果範囲は、術者からおよそ三十メートルだ。

その俺を中心とした圏内が球状に透過され、俺は地面も何もない場所に立っているかのような不思議な感覚を得る。

そして、その前方右下。

岩のような灰色の肌を持った巨大ミミズのような生き物が、ずずずっと俺の 透視(シースルー) 圏内に侵入してきた。

ただ、ミミズと呼ぶには少々寸詰まり──というより、正面から見たときの直径が大きすぎるのだが。

大枠の形状としては、イモ虫のようなもののほうが近いかもしれない。

その生き物──ロックワームは、口から酸のようなものを吐き出しては目前の岩盤をボロボロにし、それを大口を開けてバリバリとかみ砕き呑み込みながら地中を進んでいるようだった。

その速度は決して速くはなく、人間が歩く程度のスピードと同等か、それより遅いぐらい。

居場所を捕捉している現在、坑道を走って逃げようと思えば簡単に逃げられる速度だが、当然ながら逃げてしまってはロックワーム退治にならない。

俺は仲間たちに、自分が得た情報を伝える。

「やはり前方右下だ。まっすぐ近付いてくる」

「こっちに気付いているですか? ロックワームの知覚器官はどうなっているです?」

「解明されていない。ミミズと同等であれば視覚に頼ったものではないとは思うが……魔法的な知覚能力を持っている可能性も否定できない」

「まあとにかく、こっちにまっすぐ向かってくるなら、こっちに気付いてるって思ったほうがいいだろ」

サツキのその言葉に、俺はうなずく。

「同感だ。──支援魔法をかける。それから少しでも迎撃しやすい場所に陣取ろう」

「「「了解!」」」

そうして俺たちは、ロックワーム迎撃のための準備を始めた。