軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十話

鉱山都市ノーバンは、ノーバニア鉱山の採掘拠点がもとになって発達した都市である。

そのため街中には、坑道への入り口がいくつもある。

そして俺たちが今いるのも、その入り口のうちの一つであった。

「うへぇ……これ下りてかないといけないの……?」

サツキは坑道の入り口である縦穴をのぞき込み、その姿に慄いていた。

俺もサツキの横についてのぞいてみる。

人が両手を伸ばしたよりも少し大きいぐらいの直径の穴は、底に向かうにつれ外の光が届かなくなり、少し先は真っ暗闇で何も見えないという様相だった。

その縦穴の上には、小屋の天井のような形状の三角屋根があり、そこに昇降用の滑車とロープが仕掛けられていて、ロープは穴の底へ向かって垂れ下げられていた。

おそらくこのロープの先は、縦穴の底にある吊り篭にでも繋がっていて、採掘した鉱石を滑車式で吊り上げる仕組みになっているのだろう。

一方でこの縦穴、人が上り下りするための仕組みはというと、片側の壁面に仕掛けられた梯子だけのようだった。

慎重に下りれば転落するということはそうそうないのだろうが、これを下りていかなければならないというのは、さすがに多少の恐怖感は煽られる。

「……これ、ここで働く鉱夫たちは、毎日のように上り下りしているのよね? 足を滑らせて転落する人とかいないんですか?」

シリルが俺と同じ感想を抱いたのか、神官衣の胸元を手で握りつつ尋ねる。

尋ねる相手は、ここまで案内してくれたドワーフの鉱夫だ。

ドワーフの鉱夫は、その立派な髭をしごきながら答える。

「数年に一度ぐらい、間抜けが落ちることはあるがの。気を付けておればそうそう落ちはせん」

「つまり、数年に一度ぐらいは落ちる人がいるのですね」

そのミィの質問には、ドワーフの鉱夫は「まぁの」と何でもないことのように答えた。

そしてその上で、

「だが、ロックワームだったか。あの化け物はこの一、二週間の短い間に何人もの仲間を食い殺しておる。この間も、退治に向かったドワーフの自警団のうち一人が、不意打ちを受けて殺されたと聞いた。やつらは何としても、この鉱山から駆逐せねばならん」

と、その瞳に憎しみの炎を燃やしていた。

「しかしワシらには、あの化け物と戦って倒せるだけの力は到底ない。頼む、同胞の仇を打ってくれ」

そう言ってドワーフの鉱夫は俺たちに頭を下げた。

俺はサツキ、ミィ、シリルと互いに顔を見合わせ、うなずき合う。

「ああ、俺たちに出来る限りの仕事をすることを約束しよう。ところでロックワームはいくつかの坑道で発見されたと聞いているが」

「そうだ。別の坑道には今、あんたらと一緒に来たもう一つの冒険者たちを案内しているはずだ」

確認のための質問に、予想していたとおりの答えが返ってくる。

つまりは今、二つの坑道を二組の冒険者パーティで、同時に攻略しようとしている状態なわけだ。

「坑道の化け物が退治されんと、ワシら鉱夫は仕事もできん。市長が全坑道へ一般鉱夫の立ち入りを禁止しておるからの」

「妥当な判断だろうな。この鉱山の複数の坑道でロックワームが発見されているなら、未だそれが発見されていない坑道でも安全と考えるのは不適切だ」

「ああ、市長もそう言っておった。だがそれがいつまでも続けばワシらは干上がってしまう。今は幾分かの休業手当を市長が出してくれとるが、それもいつまでもは持たんという話だ。同胞の仇だけでなく、ワシらの生活もかかっておる。頼むぞ、冒険者たち」

「了解した。最善を尽くそう」

俺がそう返事をすると、ドワーフの鉱夫は再び俺たちへと頭を下げてから立ち去って行った。

案内が終わったことを市長に報告しに行ったのだろう。

「さて──では行くか」

俺がそう号令すると、サツキ、ミィ、シリルの三人がうなずく。

そしてミィが、こう提案してくる。

「下りる順番はミィ、サツキ、ウィリアム、シリルの順番でいいですか?」

「ああ、いいんじゃね? 危険察知能力とか戦闘力とか考えたらその順番だろ」

そう答えるサツキと同意見だったため、俺もうなずいて同意する。

だが──

「ちょ、ちょっと待ってくれる? その……私、ウィリアムより先に下りてもいいかしら……?」

おずおずとそんなことを言い出したのはシリルだった。

彼女は神官衣姿をもじもじとさせながら、何やら頬を染め、俺のほうをちらりとのぞき見ては、俺と目が合うと恥ずかしそうに視線を外したりしていた。

「……? 何故だ、シリル。別にそこの順列は入れ替えても大きな問題はないと思うので構わないが、理由がよく分からない」

「いえ、その……ウィリアムのことを信用していないわけじゃないの。ただ、その……私のほうが、気になっちゃって……それが梯子で足を踏み外す原因にでもなったら最悪だから……」

「何の話だ……? ──っと、ああ、あの件か」

そこでようやく俺は思い出した。

あれは確か、このパーティで冒険をし始めて、三度目のクエストでのことだ。

ゴルダート伯爵の宮廷魔術師、アリスが行なっていたアンデッド研究──その実験場に俺たちは攻め入った。

そして、山の中腹にぽつりとあった山小屋の中の縦穴から、地下の実験場へと下りようとしたときのことだ。

あのときも俺たちは、今言ったような順番で縦穴を下りようとした。

だがそのときに、俺は後続で下りてくるシリルのローブの内側を、下から見てしまうという愚を犯してしまったのだ。

「……すまない、あのときの失態を忘却していた。被害者は覚えているのに、加害者は忘れてしまうというのは本当なのだな。申し訳ない」

俺はシリルに頭を下げる。

だがそうすると、シリルはわたわたと慌てた様子でそれを否定してきた。

「ち、違うの。あれは私が悪かったのだけど、下りる順番は私の気持ちの問題というか……さっきも言った通り、私が落ち着かないだけで、ウィリアムは悪くないし、信用しているのよ」

シリルは何故か必死に言い訳をしてくる。

そしてそこに、サツキが横から口を挟んできた。

「あー、何の話かと思ったらアレか。シリルが前にウィリアムにパンツ見られたっていうアレか」

「──ちょっと! パンツとか言わないでくれる!? せっかくオブラートに包んで話していたのに!」

「え……あ、そう? でもいいんじゃね? シリルもウィリアムのこと好きなんだろ。だったらパンツぐらい見られたって」

「いいわけないでしょ! だったらサツキ、あなた今ここでたくし上げて彼に見せてみなさいよ! できるの!?」

「あー……そりゃ、確かにねぇな。そっか、よくねぇな。でもそんな怒んなくても」

「……ていうか二人とも、何を大声で話しているですか。ここ一応街中ですよ」

あきれた様子のミィのツッコミに、シリルがハッと我に返る。

きょろきょろと辺りを見渡し、近くに人がいないことを確認してホッと胸をなでおろす。

そして彼女はこほんと咳ばらいをすると、頬を赤く染めたまま言った。

「……ま、まあ、そういうわけだから、私が先に下りてもいいかしら?」

だがそこに、再びサツキがニヤニヤ顔で茶々を入れる。

「でもさ、そしたらシリル、逆にウィリアムのパンツ見れるんじゃ──痛いっ! シリルが殴った!?」

「するわけないでしょうが! バカなの!? ねぇサツキあなたバカなの!?」

「な、何だよ、ちょっとした冗談だろ。そんな怒らなくたって……でもそう怒るの見てると、図星なんじゃないかって思っ──痛いっ! また殴った!?」

「あなたもう口を開かないで!」

「ひ、ひでぇ……」

……シリルが何故か壊れていた。軽いながらサツキに暴力まで振るっている。

普段が物静かな彼女なだけに、俺にはその姿が少し新鮮なものに思えた。