軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二話

「キミたちに、ここで確認をしておきたい」

俺は仲間たちを見渡し、そう口を開く。

仲間たちはロープでぐるぐる巻きにされており、彼女たちから俺の姿はオークに見えているはずだ。

締まらないことこの上ないが、致し方ない。

少女たちが皆うなずくのを確認して、俺は続く言葉を紡ぐ。

「この先に広がる光景は、まごう方なき地獄だ。そこに厳然としてあるこの世の地獄だ。エルフたちはその生命と尊厳と肉体を、無惨に蹂躙され陵辱されている。この先に進めば、俺たちもその仲間入りをしないとは、完全には断言できない。──俺たちはまだ、いまならば引き返すことができる。それでもこの先に進みたいと、キミたちはそう思うか?」

俺は仲間たちに、そう問うた。

冒険者をしていればいつだって、命の危険は付き物だ。

だが一方で、冒険者として立ち向かうべきでないリスクも存在する。

俺はサツキ、ミィ、シリルの三人を見渡して、報酬状況の確認をする。

「成功報酬は金貨二百枚だ。一人当たり金貨五十枚の報酬は、一般的なEランクのクエストを五度クリアするのに匹敵する報酬であり、日雇い労働者の三ヶ月分の賃金に相当する額だが、『その程度』と言うこともできる」

だが「一般的なEランクのクエスト」にだって、当然ながら命の危険は存在する。

それはどんな冒険にも皆無ではない。

ちなみにアイリーンに関しては、報酬すらも関係ない。

彼女が動いているのは完全に情であり、己の正義のためだ。

俺は彼女に向かっても語りかける。

「アイリーンも、いま一度よく考えてほしい。それが自分の命を賭して守るに値する信念なのか」

「……それは僕に、エルフたちを見捨てろってこと? お互いに助け合う良き隣人であろうって、さっき約束したばかりだよ僕は」

アイリーンは少しカチンときた様子で、俺のほうを睨みつけてきた。

さすがに頑固だ。アイリーンらしいと言えばらしいが──

「ああ、その選択肢も視野に入れるべきだと言っている。所詮は『大して親しくもないエルフの命』だ」

「……ねぇウィル、それ本気で言ってるの」

アイリーンの怒気が増す。

ほとんど殺気と言っていいほどの威圧。

だが俺も、ここで退くわけにはいかない。

「ああ、本気だ。先に言っておくが、この中の誰か一人でもこの先に進むと決めた場合、俺はそれについていく。つまりアイリーン──キミが先に進むと決めたなら、俺はキミ一人をあそこに向かわせるつもりはないから、キミをサポートするために俺もキミと一緒に行く」

「……はあっ?」

俺の言葉を聞いたアイリーンは、素っ頓狂な声を上げる。

「だ、だって、ウィルはあのとき、僕の想いに自分の命はベットできないって言ってたじゃない」

アイリーンが言う「あのとき」とは、俺が鷲の姿で偵察から帰る際に、アイリーンと出会ったときのことだ。

そして確かに俺も、そのようなことを言ったと記憶している。

だが──

「いや、それに関しては気が変わった。冷静に考えれば、アイリーンを見捨てるという選択肢は俺の中であり得ない。俺にとってキミは、とても大切で、絶対に失いたくはないかけがえのない──親友だ」

「ですよねっ!」

アイリーンは何故かズッコケた。

サツキ、ミィ、シリルの三人がそれを見て失笑し、肩をすくめている。

よく分からんが、さておき。

「重要なのはここから先だ、アイリーン。キミが進み、俺がそれについていくとなれば、サツキやミィやシリルだってついてくると言うかもしれない」

「……うん」

「つまりキミの決断が、サツキたちの命を脅かすかもしれないわけだ。俺がエルフの命を『所詮』と言っているのはそういう意味だ。──俺にとって、さほど親しくないエルフたちの命よりも、サツキやミィやシリルやアイリーンの命のほうが何万倍も大切なんだ」

「…………何だよそれ。卑怯だよそんなの」

俺の言葉を聞き、アイリーンは思いつめた顔でうつむいてしまう。

だがこれは必要なことだ。

今回ばかりは、彼女に短慮で動かれては困る。

そして彼女に短慮をさせないためには、社会常識よりも情に訴えかけるほうが的確だ。

だが短慮でなく、しっかり悩んだ末に出した結論ならば、それを否定するつもりはない。

俺だってエルフたちを見捨てたくはない。

はっきりと言うならば、俺もまだ迷っているのだ。

本当に手遅れなのか、と問えば本当の手遅れではないのだと思う。

死んだ者たちは救えないとしても、生きている者たち。

例えばサツキたちがあのような目に遭っていたら、もう手遅れと思って見捨てるのかと問えば、そうはならない。

「──ねぇ、ウィリアム。私の意見を言ってもいい?」

そのときシリルがそう聞いてきた。

俺を見つめる眼差しは、真剣な、力強いものだった。

俺がシリルに続く発言をうながすと、彼女はうなずいて続く言葉を述べる。

「勘違いされると困るのだけど、想いで動くのはアイリーン様だけじゃないわ。報酬に関係なく、私にだって正義がある。私はオークどもを許せないし、救えるエルフの命があるなら救いたい──私はこの自分の信念を曲げて生きたくはないわ。たとえそれが、目の前にあるものだけしか見ていない、偽善に似た信念だとしても」

シリルは純白ローブに包まれた立派な胸に手をあてて、そう訴えかけてきた。

そしてさらに、もう一人。

猫耳をぴょこぴょこと動かしながら、獣人の少女が口を開く。

「ミィもオークどもは許せないです。片っ端から喉元を掻き切ってやらないと気がすまないです。──それにウィリアムがここまで来たからには、十分な勝算があるのですよね?」

「ああ。百ではないが」

「だったらいつも通り、ミィはそれに乗るです。ミィたちは冒険者をやっているです。命の危険なんて考えすぎていたら何もできないです」

そしてそのミィに続き、着物姿の少女も口を開く。

「あのさ、なんかときどき思うんだけど、ウィルってあたしらの保護者か何かのつもりでいるんじゃねぇ?」

「いや、それは……」

……ないとは、言い切れないか。

これに関してはサツキの言う通りかもしれない。

「頼りないかもしんないけど、あたしらウィルの『仲間』だよ。だから、なんて言うかさ──まああれよ、大船に乗ったつもりで任せとけってこと! オークの親玉だろうが何だろうが、あたしが全部まとめてぶった切ってやるからさ!」

そう言ってサツキはニッと笑う。

俺はそれを聞いて、つい口元が緩んでしまった。

無茶苦茶だ。

サツキにかかると、計算も何もあったものではない。

そしてそのサツキには、アイリーンが横から茶々入れをする。

「えー、サツキちゃんには無理じゃないかなぁ? 虚勢張らないで僕に任せておけば?」

「う、うるせぇな! こういうのは気分の問題だ! バーンッとやってドカーンってぶっ飛ばしゃいいんだよ!」

「あはは、これじゃサツキちゃんには任せられないよね~。ね、ウィル?」

「ふふっ、そうだな」

「えーっ!? ウィルまで! ひどい!」

サツキにそうして泣きが入ると、その場の皆に笑いが広がる。

不思議なことに、いつの間にか場が温まっていた。

そして何より、皆の意志は固まっていた。

俺は総括として、少女たちを見渡して言う。

「では満場一致で『進む』でいいか? 先にも言ったが、この先に広がっているのは地獄のような光景だぞ?」

そう問うと、アイリーンが分かってないなぁという顔をして言った。

「だから、その地獄に僕たちが殴り込んで、ぶち壊してやるんでしょ?」

その自信たっぷりのアイリーンの顔を見て、俺は一本取られたなと感じる。

「ああ、そうだな。──では行くか、地獄をぶち壊しに」

「「おーっ!」」

俺の掛け声に、少女たちは思い思いの賛同の返事をしたのだった。