軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-29.薬師として

「それで、クレイン。クロウ。例のものはできたの?」

「なんとか?」

「効能はあるだろうなぁ。ただ、作れたのは3日分だ。症状にもよるが、完治には最低でも1週間分、症状が重い場合は1か月分は必要だろうがなぁ」

ラズ様の視線に頷きを返す。

完治するだけの量は作れていない。

完治はしないけど、効果があることは見える。完治させたければ、必要となる素材の分量も書いてある。

「これって完治しない場合、徐々に悪くなっていく?」

「それはないと思います。半年間、症状が変わらなかったと聞いてるので、基本的には症状は固定されていると仮定してます。ただ、同じ呪いを受けている人が亡くなったら強まったらしいので……呪われてる人が死亡すれば悪化はししそうですけど。これも、呪った相手が同一の場合、なのかな?」

「実際、患者は診てないからなぁ……わからん」

ここがネックだよね。

クヴェレ家みたいに、薬ができて治ることがわかったからこそ、処分を選択した場合……他の患者が悪化する。

治療した場合には、他の人に移ることも無い気がするので、処分しないように互いに連携取ればいいだけだと思うけど。多分、出来ないだろう。

「あとは父上と宰相が場を用意した上で、その薬の効果を確認することになるかな。レシピは?」

「これです。ラズ様にお渡しするので、任せても?」

「本当に、面倒事はこっちに回すよね」

でも、仕方ない。

私がラズ様を飛び越えて、宰相や王に渡すと嫌な前例を作ってしまう。

「これ、公表していいの? 他の薬師に作らせるとか、秘密裏の治療を選ぶ可能性作るけど」

「レシピの公表は構わないだろ。俺らが巻き込まれにくくなる。だが、俺やツルギでも、失敗する難易度だからなぁ。作れる者は限られる」

「そこまで? クレインは?」

「一応、製作できたからそれがあるので、作れますよ。ただ……ユニコーンの角、扱い方を間違うと全ての薬効も無力化しちゃうから、材料がね……」

「たしかに、ユニコーンの角にドラゴンの血。それ以外も、貴重な素材ばっかりだね」

「ああ、そこはすまんな。ゆっくり研究する間もなかったから、確かなものだけを択ばせてもらった」

「ふ~ん?」

材料はクロウに見極めてもらったけど。

失敗してもいいと試すには、高価なものばかりなんだよね。

ただ、ユニコーンの角が癖が強すぎる。それに負けない組み合わせとなると限られるんだよね。

ユニコーンの角って、色々と病や状態異常に効果があるけど、全部の効果をそのままにすると効果が分散されて、弱くなる。

だから、解呪に効果を限定するのは苦労した。

でも、聖魔法を付与した真珠では、効果が薄すぎた。治っているという実感がわかない。何年も飲み続ければ治るのだろうけど……時間がかかり、コストも高いので使えない。

「安くできる可能性は?」

「素材が貴重すぎて、なんとも? 代替素材を考えても、すぐには難しいので」

「患者の人数、労力を考えれば、わざわざやる価値があるのかねぇ? そもそもが、そこまでして救う価値もない」

「わかった。じゃあ、二人とも、余計なことを言う必要はない。これ以上は動く必要はないから」

ラズ様の言葉にクロウは嬉しそうに頷いた。

材料代だけでも天文学的な金額になる可能性がある。それだけでかなりきついんだろうな。

調合する技術料金とか、高額になるけど……絶対に面倒事になるよね。

「いいんですか?」

「いいよ。僕の方で対処する。作ることになったとしても、その代金は適正に払わせる。クロウもよくやってくれたね、ありがとう」

「ああ。ボーナスを貰うことになってる。そっちからも色を付けてくれても構わない」

「そう。用意しておくよ」

う~ん。

ラズ様の褒美って、怖くて受け取りたくないけど。クロウは気にしていないらしい。

「明日にでも謁見するからそのつもりで」

「え?」

「宿の前で、息子を救ってくれって出待ちする貴族を見たい?」

「嫌です」

「そういうこと。父上と宰相が患者の親族を集めた上で、君が薬とそのレシピを献上する。レシピは国がもつ。素材は各家が負担。君に直に交渉は認めないと宣言すれば終わるよ」

その効能を確かめるための場にするにしても、それで終わり。

「俺も参加かぁ?」

「むしろ、クロウは兄上から、患者の診断をさせるようにと要請がきてる。病ではなく呪いだと、証明する。君の目じゃないとそこを証明できないからね」

「……アーティファクトでも何でもあるだろう」

「そもそもが病だと思われるほど、巧妙に隠されていた呪いだよ? その呪詛返しとしての呪いを判別できるわけがない。クロウ、君が証明してね」

肩をがっくしと落としたクロウに「ドンマイ」と肩を叩く。

たしかに、奇病って世間で言われてるわけだし、証明は必要か。

「自分を呪ってたって、公共の場でわからせて……大丈夫なんですか?」

「兄上が病から回復したって意味では、信憑性があるからいいんじゃない? 不利益があったとしても、自分で対処できる人だし」

わざわざ、大勢の前でそれをやって、反感買わないかなと思うけど。

「まあ、あんたが反感を買う可能性は減るんじゃないのか?」

クロウの言葉に、なるほどと思う。

薬が高価で反感を買っても、元の原因をばらすことで批判を分散させるのか。

それ、クロウにも矛先が向きそうだけど。

「クロウの身の安全は?」

「その能力が貴重であることは事実だし、父上達もわかってる。大丈夫だよ」

う~ん。多分、危険がないってことくらいしかわからない。

ただ、シマオウを見たら軽く唸ったので、私がいないときはクロウを守ってくれるはず。

翌日。

ラズ様とクロウと共に、王城へと向かった。

場所は謁見の間。開かれた扉の先。

王として座っているのは、ラズ様の父、王弟殿下改めサフィール国王陛下。

宰相とカイア様もそこから近い場所に立っている。他には貴族がこちらをじっと見ている。

しかし、その場は異様な雰囲気だった。

その場にいる20代から30代くらいの男性の体の一部が黒ずんだ肌をしている。その両親や妻と思われる人が連れ添っているけれど、一人で立っていられない人ばかり。

奇病の患者。明らかに精神的に追い詰められている。こちらを恨みがましそうに見ている。

「ラズライト・アズラフィール殿下並びに薬師クレイン・メディシーア、薬師クロウ。御入場」

中からの呼びかけに応じ、ラズ様を先頭に入場する。

王から5メートルくらい離れた位置で立ち止まり、膝をつく。

「さて、此度、薬の試薬品の献上とのことだな」

「はい。宰相閣下より相談を受け、開発いたしました。呪いに対し、解呪するための薬となります」

ざわざわと周囲の声が大きくなる。

「そんな馬鹿な」とか「魔法で治療するのでは」と言っているのが聞き取れた。病ではなく呪いであること。

それを公表し、薬での治療ということに戸惑っている。

「陛下。まず、奇病の患者の状態を〈鑑定〉にて確認してはいかがでしょうか?」

「ああ、そうだな。誰か、希望する者は?」

この場にいる患者は二十数人。

ただ、誰一人として希望する者はいなかった。

「では、従弟殿に頼みましょう」

カイア様が楽しそうにぽんぽんと手を叩くと、豪奢な服を着ているけど、やせこけ、見るからに精神状態がヤバそうな人をネビアさんが連れてきた。

「クロウ、頼める?」

「はい」

ラズの言葉に頷き、クロウが近付き、鑑定する。同時に鑑定書に内容が浮き上がる。

「読みあげるが、構わぬな?」

カイア様の問いに、宰相が頷き、鑑定結果が公開される。

鑑定されたのは元第二王子。未だ、王籍はあるらしいのだけど、扱いが雑。王位継承権もはく奪されていないが、ラズ様より下らしい。

そして、カイア様を呪っていたこと、その期間、効果。

呪詛返しを受け、呪われていることなどが公表された。

「以上だ。さて、クレイン嬢。この状況で、薬が効果があるのか?」

カイア様の問いに対し、頷きを返す。

「奇病の症状は聞いています。呪いに対処するのであれば、聖教国の司祭様達の領分であり、本来関与すべきではないことも承知しております。ですが、呪いは先ほど述べた通り、カイアナイト様が生まれてからずっと、28年にも及ぶ長期間であったことから、その呪詛返しの力は司祭様でも手の打ちようがなかったと」

「……その通りだ」

「人の力では不可能であると判断し、素材を厳選し、解呪の効果をもつ薬を……幻獣ユニコーンの角により、作成しました」

ざわざわと周囲が騒がしくなる。

ユニコーンの角を使った薬なんて、貴重すぎて、存在しないからね。

「出来たのは、その盆にのせている3回分です」

「量産はできないのか?」

「材料さえ、揃うのであれば……ですが、持ち合わせておりません」

し~んと静まり返った謁見の間にて、私に視線が集中しているのが分かる。

「ユニコーンの角は万病に効くというのはご承知の通りでしょう。ですが、強すぎて他の素材と組み合わせることが難しく……結果、どれも貴重な素材となりました」

「わかった。では、試してみなさい」

「お待ちください、陛下。おそらく、一度で治るような簡単な呪いではありません。その3回分を使っても、完治は厳しいかと……症状が軽い方なら別ですが」

カイア様が元第二王子に試そうとしたので、一応止めておく。一回で治るわけじゃないからとラズ様から伝えてもらってるとは思うのだけどね。

「それでも構わない。呪いに対する薬なのだから、呪いだと確定した者に使用しないと効果はわからない」

ああ、確かに。

周囲の肌が黒ずんだ人達も見た目は、同じ。だけど、診断受けた訳じゃない。そもそも、診断受けることを拒否したんだから、治療は受けさせないのか。

カイア様が服を剥いで、右手、上腕二頭筋のあたりに薬を塗る。最初は触れるだけで痛がる様子だったが、塗っていくうちに何も言わなくなる。しばらくすると肌の色がその部分だけ肌色に戻ったように見える。

全身ではないけど、右側が明らかに黒ずんでいる中で、力こぶができるあたりだけ、普通の色。変な状態になっている。

「効果はありそうだ」

「はい。薬師としては、良い出来だと考えております。ただ、今はわかりやすく色が変わっておりますが、時間経過で、周囲に広がり、色は均一化されるかと……」

さすがに、薬を塗ったところだけ治る形ではなく、周囲に溶け込むはず。多分だけど。

しっかりとこの呪いに対して治験をしているわけじゃないから、絶対じゃないけどね。

「だが、私でもわかるほどに高額な薬だね?」

「その通りです。ユニコーンの角は、私では手に入れることはできません。師匠が病に罹ったことを知った方より、善意で譲られた物を何とか形にしたのがその薬です。薬師としてできる事は致しました。奇病という名の病に対処するために……これ以上は、私では対応できません」

言い切ると、王も頷きを返す。これで、私の仕事は終わりだろう。

カイア様がうんうんと頷いていて、宰相の顔は若干だけど強張っている。

予想通りの展開ではないのだろう。

「ご苦労だった。クレイン嬢。それに、クロウ卿も、協力に感謝する。ラズ、きちんと労うように」

「はい」

「はっ」

王の言葉とともに、さっさと謁見の間を退出した。

「お疲れ様」

「結構、奇病患者がいたのは意外でした」

「だって、あっちはその場で聖魔法で治してくれると思ってたよ。薬が出て来るとは思ってない」

「魔法で治せるって、知れ渡ってるんですね」

「それなりに情報網を持ってないと、あの場にいないからね。君が昨日到着し、今日、謁見することを知って、あの場に集まった連中だよ。君が聖魔法を使えるなんて情報は当然持ってるよ」

それでも異議が出なかった。薬でなら何とかできると思ったのかもだけど。

金銭的には大変だけどね。

「で、この部屋は?」

「待機してろってことだよ。多分、このあと話があるんじゃない?」

「国王陛下から?」

「父上は忙しいから無理だよ。宰相と兄上が来るんじゃない?」

あっさりと控室の部屋に通されて、飲み物と茶菓子が出てきた。

ここでゆっくり待ってろってことだよね。

「実際、どこまで打合せしていたんだ?」

「兄上には伝えて、宰相には一切報告なしだよ。でも、この場を用意したのは宰相だけどね」

「……怒られます?」

「君の手綱を握れないってわからせるにはあれでいいけどね」

「だなぁ……ある程度、予想外の動きした方がいいだろう」

二人が若干ジト目でこちらを見てくる。

とりあえず、あんまりいい話にはならなそうだから、お菓子でも食べておこう。