軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-26.クヴェレの事情

朝起きて、朝食の準備する前に、美味しい匂いに誘われた。

師匠の家。今はレオニスさんが住んでいる家の方からだった。

「おはよう、飯できてるぞ?」

「うん、ありがと……なんでいるの?」

「クレイン嬢。おはよう、先にいただいている」

「あ、はい、シュトルツ様。おはようございます。ツルギさんも」

ツルギさんとレオニスさんとシュトルツ様がいて、食事していた。

さっさとツルギさんの隣の席に私の食事も置かれたので、席に座る。

「夜遅い時間についたから、挨拶しなくてすまなかったな。あと、クロウも帰ってるぞ、今は寝てるようだが」

「ああ、そうなんだ」

「たくっ、夜遅いというより明け方だったろうが……じゃあ、俺は仕事に行く」

レオニスさんにぽんっと肩を叩かれて、家を出ていった。

多分、中に入れたのはレオニスさんかな。レオニスさんはマーレに通っているので、毎日だと結構大変なんだよね。本人はあんまり気にしてないけど。

「こちら側に入る人は制限しているのはご存知だと思うのですが?」

「うっ、だが、シュトルツだって昨日入ってたんだろう? 夜は宿のようだが。そこまで他人行儀はやめてくれ」

「外で見られたら特訓の意味ないし、カイア様の騎士が中に入り浸るのは困ります」

ただでさえ、10日くらい前にも私に説明に来ていた。ちょっとこちらに接触し過ぎだと思う。

「ちゃんと休みをもらってきている。それに、シュトルツが教えるなら俺も気になる」

どうやら、カイア様の下を訪ねていたシュトルツ様が急に帰ったため、調べたらしい。

ここに来ていることを知って、仕事を無理やり終わらせ、クロウの護衛としてここに来た。

「休みなら、ゆっくり家で寝てなよ」

「疲れた職場から離れ、癒されにくるだろう」

話が通じない。

まあ、いいや。さっさと食事をして、特訓をしよう。

「やはり、カイア殿の騎士は君か」

「ん? ああ、よろしくな。優勝候補殿?」

「いや、優勝候補は俺ではないぞ?」

「え? シュトルツ様が優勝だと思いますよ?」

ツルギさんも武闘大会出るのか。

いや、そもそもがカイア様の騎士って正式にはツルギさんかネビアさんのみ。二択なら、ツルギさんが出るか。ネビアさん、嫌がりそうだしね。

もしかしなくても、ツルギさんはシュトルツ様を探りに来たのだろうか。

「君は俺を応援するんじゃないのか?」

「いや、応援するのとは違くない? だいたい、ツルギさんは騎士なの?」

いや、カイア様の騎士ではあるんだろうけど。

ただ、騎士らしく振る舞えても騎士ではないと思う。

逆に、シュトルツ様は本質が騎士なんだなと感じた。

お家騒動で家を離れ、冒険者としてS級となったとしても騎士としての誇りがあるのだろう。

昨日、訓練しながらも、色々と細かい騎士道との考え方とかを聞いた。

馬を攻撃して、もし馬が骨折したら、殉死させるしかないとかも初めて知ったよ。

ただ、優遇は酷いと思うけど。

騎士の考え方とか、裏ルールとかはかなり参考になった。

「役職上はな。元々が騎士なんて縁がないからな」

「俺は幼い頃から兄君の騎士となると決めていたからな。だが、ツルギが来てくれたのはこちらも助かる。もう一つの用件をすませることができるからな」

ぎらっとツルギさんの瞳に剣呑さが増した。

もう一つの目的。それがカイア様がわざわざツルギさんがここに来ることを許した理由か。

シュトルツ様が危害を加えるとは思わないけど、それでも貴族のごたごたはあるらしい。

「用件、ですか」

「ラズに立ち会ってもらうよりは、彼の方がいいだろうからな」

「それなんだが、君もこの子の性格は多少なりとも理解しているだろう? 聞かずに持ち帰ってくれないか?」

「過保護過ぎだ。いや、そもそも関係がない立場のはずだ。違うか?」

確かに。

ツルギさんが口を出すことではないか。

それでも、私のためにわざわざ来て、止めているということは何かあるのだろうけど。

「……用件をどうぞ」

「君!」

「シュトルツ様の言う通り、関係のない方に甘えることは出来ないのは事実ですから」

がたっと立ち上がって、止めようとするツルギさんに首を振る。

心配してくれることは、嬉しい。でも、私に用があるのなら、対応はしなくてはいけない。

「……わかった」

ツルギさんはぼそりと呟いて、席に座った。

「では、すまないな。クレイン嬢。宰相の頼みに君は答えるつもりか?」

じっとこちらを見てくるシュトルツ様は真剣な瞳をしている。

宰相閣下との会話は密室で行われて、ラズ様とフォルさんしか知らない。

だから、頼み事の内容を知っているはずがない。

頼みごとの内容は憶測が含まれるのだろうけど……武闘大会に出ることは、すでに知っていて、確認をするまでもない。

じゃあ、貴族にならない件? それも、スペル様もシュトルツ様も知っているだろう。

そうなると……奇病の件。宰相閣下に頼まれたため、対処をするのかどうか。

それを確認したいということかな。

「受けるつもりです。立場としても間違ってもいないのでしょうから……個人的には怖いのでお近づきにはなりたくありませんが」

「そうか。すまないな、感謝する」

質問はこれだけらしい。

曖昧な問いだった。何をとはっきり聞いていない。

そして、そのことにツルギさんも安堵している。

これだけの質問を止めに来る? 何かある?

「考えなくていい。いや、考えるな」

「ツルギさん?」

「君は君がやるべきことをすると決めただけだ」

何かあるとしたら……私の性格を熟知しているツルギさんが、心配になるほどの何かが、今の質問に隠れてる? 何だろ?

「あっ……いるんですか、クヴェレにも」

「はぁ……君なぁ、考えるなと言っただろう!」

いや、だって、気になる。

考えると思うのだけど、普通。

「俺達が跡取り候補から外され、クヴェレの跡取りを目されていた異母弟。カイア殿の呪いではないが、他の方を呪っていたことが発覚した。早々に動くしかないだろうな」

うん?

動くって、なに?

「なあ、俺は止めたよな? なんで詳細まで説明するんだ!?」

「ここまできたら説明するべきだろう。隠す必要もない」

「別に、カイアを呪詛していないなら、目溢しされるだろう?」

「奇病に罹っているならいいが、治るようなら別だ」

「おいっ!」

「ああ、すまない。クレイン嬢、忘れてくれ。君が成すべきことと我が家の事情は関係ない」

いや、関係あるよね。

明らかに、私が奇病のために動くなら――異母弟を殺すってことだ。

「関係はありますよね? ……それでも……親のエゴの犠牲になるのは、私としては納得できない部分もありまして……」

救う選択をして、逆に命を奪う。

それが仕方ないことだろうと納得できるようなメンタルではない。

だけど、クヴェレ家としては、私がなにを言っても無駄なのだろう。

スペルビア様が爵位を継ぐことは決定したと聞いた。

王弟殿下が即位して、最初に爵位の授与をするのがスペル様と内々決まっている。

功績もあるし、派閥の変更とか色々な事情も加味されるのだろうけど。

呪いに関しては、身内にいたことを私が証明してしまうと、後々の禍根にもなるのだろう。

だから……そういう動きをする家もある。

「はぁ……知りたくなかったです」

「だから、止めたんだ。君は気にするだろう」

「クレイン嬢、申し訳ない。だが、家のことだ」

はい。これ以上立ち入る気もない。

爵位が高い貴族ほど、他家に弱みを見せる訳にはいかない。

私が治したら、奇病……誰かを呪うことをするような家だと認めることにもなる。宰相がさっさと嫡男を始末したように、クヴェレのお二人も同じことをする。

他にもそういう家も出てくるのかもしれない。

そうでなくても、救うと決めたことが、逆に恨まれることもあるのだろうけど。

「すまない。俺が言うことではないが、友として願うのは薬師としての仕事に誇りをもってほしい。正しいことなのだと……だが」

「シュトルツ様?」

少し迷ったように、視線をずらした後、真剣な瞳でこちらを見た。

「クレイン嬢。自覚は持つべきだ。状況に流され、説得に応じるということ。君を利用しようとする者は多い。君は出来ることが多いだけにな。もう、それを止める人間はいないのだからな」

シュトルツ様がちらっとツルギさんに視線を送った。

確かに。それでも、無理して、この状況を止めに来ていたのかもしれないけど。

「別に、無理に考えなくていい。君が宰相の指示に従ってもいいと思うくらいには、説得力があったんだろう。それくらいの話術があるとも聞いてる……危険もないなら、人が助かった方がいい」

ツルギさんに肩を軽く叩かれ、力を抜く。無意識に力がはいっていた。

助かった方がいい。確かに、それはそう。だけど……利用するか。確かにそうかもしれない。

「カイアの方で準備をしている」

「え?」

「被害をずっと受けていたカイアが許すかは別だろう? 君が奇病を治療するとしても、許す気はないみたいだからな」

治したから無かったことにはしない。

ただ、深く考えずに利用されるままでは駄目なのだろう。

自分の選択が揺らがないように……私がやるべきことを考えないといけない。

薬師としての仕事か……。

「そちらは口を出しすぎではないのか?」

「あ? 何が言いたい?」

「迂闊なまま、利用しやすい状態なのは、君が悪いのでは? ラズはそこまで庇護はできないことが分からなかったのか」

私が考え込んでいる間に、ツルギさんとシュトルツ様がじゃれ始めてしまったのはどうしよう。

「えっと」

「君はゆっくり食べていていいからな」

「あ、うん」

立ち上がって止めようと思ったら、先に座るように牽制された。

私にはにこっと笑いかけてきたけど、なんとなく雰囲気がわるい。

ただ、どうしようもないので用意されている食事を口に運ぶ。

二人は食べ終わっているので、私が食べたら終わるだろう、多分。

「食べ終わったようだな。いきなり運動も厳しいだろう。俺と彼が戦うので、見学してくれ」

「あ、はい」

シュトルツ様の提案にこくこくと頷く。

ツルギさんが馬相手にどう戦うか、勉強させてもらえるかなと思ったけど。

昨日と違い、馬での戦いはしなかった。完全に互いに物理で、歩兵として剣を交えている。

それでも、十分強いし勉強になるのだけどね。

シュトルツ様も流石に、ツルギさんには見せたくないらしい。

残念。攻略の仕方は自分でどうにかするしかないかな。